『スペイン櫃の秘密』はポワロがオペラ会場で再会した夫人から、友人の女性が夫に殺されるのではないかと相談されるエピソードです。この記事ではあらすじと登場人物、ネタバレ、トリック解説、感想・考察などをまとめています。
項目 | 内容 |
---|---|
シーズン | 3 |
エピソード | 8 |
放送日(英国) | 1991年2月17日(日) |
放送日(日本) | 1992年4月2日(木) |
出演者 | キャスト一覧 |
あらすじ
ポワロはオペラ劇場でチャタートン夫人と再会し、夫人から友人のマーゲリートが夫に殺されるかもしれないと相談される。ポワロは夫のエドワード・クレイトンに会うため、リッチ少佐の開いたパーティーに参加したのだが、当のエドワードはパーティーをキャンセルしていた。
目的を果たせなかったポワロだったが、翌日、パーティー会場のスペイン櫃の中からエドワードの死体が発見される。調査を開始したポワロはチェストの中の切りくずや、死体のポケットに入っていたドリルという証拠を掴む。さらに、自殺未遂を図ったマーゲリートからマーゲリート自身は夫エドワードの死を望んでいたという事実を知らされる。ついにポワロはマーゲリートを逮捕し、大々的に報道するが…。
事件概要
被害者のエドワードはパーティーには出席していませんでしたが、カーチス大佐と会った後、パーティー開始前に会場であるリッチ少佐のもとを訪ねていました。エドワードは櫃のある部屋に入ったようですが、執事によれば彼は帰宅したようです。しかし、執事は帰宅したときのエドワードを目撃したわけではありません。なお、パーティーにはカーチス大佐も出席していました。
パーティー主催者のリッチ少佐には、マーゲリート・クレイトンとの不倫が噂されていました。警察はリッチがマーゲリートを手に入れるために、夫のエドワードを始末したと断定し、リッチを逮捕します。マーゲリートも、リッチとの不倫関係を否定しますが、彼女は日ごろ、リッチに夫の死を望んでいるという内容を話していました。この話を本気にしたリッチが夫を殺してしまったと思い込み、マーゲリートは自殺を図ります。
ポワロは櫃の穴や中に残された切りくず、死体のポケットに入っていたドリルなどを証拠を掴み、真相にたどり着きます。そして、自殺を図ったマーゲリートを逮捕し、このニュースを世間に報道させます。
主要登場人物
- エルキュール・ポワロ
ベルギー出身の世界的名探偵。灰色の脳細胞を駆使して事件を解決する - アーサー・ヘイスティングス大尉
ポワロの友人であり、探偵事務所のパートナー - ジェームス・ジャップ主任警部
スコットランド・ヤードの警部。ポワロとは旧知の仲で、しばしば協力し合う - マーガリータ・クレイトン
事件の中心となる美貌の女性。夫エドワードの嫉妬の対象となる - エドワード・クレイトン
被害者。マーガリータの夫で、嫉妬深い性格 - ジョック・マクラレン(ドラマ版:ジョック・カーティス)
エドワードの親友であり、マーガ リータに密かに想いを寄せる人物 - チャールズ・リッチ少佐(ドラマ版:ジョン・リッチ)
パーティーの主催者。マーガリータと親密な関係にあると疑われる - レディー・チャタートン
ポワロの知人。マーガリータの友人であり、事件のきっかけを作る - バーゴイン
リッチ少佐の執事
ネタバレ
犯人はカーチス大佐です。実はカーチスもマーゲリートを狙っていました。カーチスはエドワードが妻の不倫を疑っていることを利用して、パーティーの最中、櫃の中で妻を見張るように助言していました。つまり、被害者は自ら櫃に入っていました。被害者がもっていたドリルは櫃に穴を開けるための道具で、このドリルを使用したため、櫃には穴と切りくずが残されていました。被害者が開けた穴は殺害にも利用されます。カーチスはパーティーの最中、何気なく櫃に近寄り、杖に仕込んだ剣を穴に突き刺し、エドワードを殺害しました。
ポワロがマーゲリートを逮捕したのはカーチスをおびき出すための罠です。目的だったマーゲリートが逮捕されたと知り、カーチスはポワロを呼び出します。そして、剣で刺し殺そうとしますが、リッチ少佐が現れ、カーチスのポワロ殺害を阻止します。
トリック
犯人の目的は女性を奪うことにありました。この女性の周囲には二人の邪魔な男がおり、この二人を犯人はいっぺんに片付けようとしました。その計画が、一人を殺し、もう一人にその罪を着せるというものでした。犯人は計画を成し遂げるため、殺される方の男が、その妻と罪を着せられる男の不倫を疑っているという状況を利用します。
櫃の中の被害者
犯人は不倫の現場をおさえるという口実をつくって、被害者を櫃の中に閉じ込めました。罪を着せられる男の家を訪れた被害者がその場から消えてしまえば、家の中で何かがあったと思わせることができます。
原作とドラマの違い
アガサ・クリスティの短編小説『スペイン櫃の秘密』は1923年に発表された短編「バグダッドの大櫃の謎」を改稿したもので、短編集『クリスマス・プディングの冒険』に収録されています。
- 原作のベース
原作は短編『スペイン櫃の秘密』ですが、ドラマ版はその元となった中編『バグダッドの大櫃の謎』の要素も多く取り入れています - ポワロの関わり方
原作ではポワロは新聞記事で事件を知り、依頼を受けて捜査を開始しますが、ドラマではポワロ自身がパーティーに出席し、事件の当事者となります - 登場人物名の変更
原作のチャールズ・リッチはジョン・リッチに、アーノルド・クレイトンはエドワード・クレイトンに、ジョック・マクラレンはジョック・カーティスに変更されています - ミス・レモンの不在
原作では登場するミス・レモンが、ドラマ版では休暇で不在という設定になっています。代わりにヘイスティングスとジャップ警部が活躍します - マーガリータの描写
原作のマーガリータは天真爛漫な魔性の女として描かれますが、ドラマ版ではリッチ少佐が逮捕されたと知って自殺を図るなど、より繊細な性格として描かれています - 殺害方法の変更
原作ではエドワードに睡眠薬を飲ませて眠らせてから刺殺しますが、ドラマではスペイン櫃に開けられた覗き穴から、中にいるエドワードの目を剣で突き刺すという、より残酷で視覚的な殺害方法が採用されています - 決闘の描写
ドラマでは、冒頭と解決編で剣による決闘が描かれ、特に解決編ではポワロが犯人に剣を突きつけられ、怯えるコミカルな場面も追加されています - ポワロの性格描写
ドラマでは、ポワロが「世界一謙虚な人間になる」と豪語したり、パーティーでチャールストンを必死に踊ったり、ジャップ警部がタイプライターに悪戦苦闘する様子を面白がるなど、ユーモラスな描写が追加されています
感想と考察
なぜ被害者はスペイン櫃に入っていたのかという疑問に対して、その解答がわかりやすく納得できる内容でした。湧き上がった知的な好奇心を十分満足させることができたように思います。クリスティ自身が「ポアロが最高の腕前を発揮している事件」と評するほどの自信作だそうです。
トリックは巧妙な計画だったと思います。決定的な証拠がなかったので、ポワロはマーゲリートを逮捕するという罠を張ったのだと考えられます。切りくずやドリルから、被害者自ら櫃に入ったということは推理できそうですが、これらの証拠は犯人に直接結びつきません。
殺害しようとする人物を何かに誘い殺すというのは、ミステリーの中で、よくあると思います。狂言自殺に誘って本当に殺害、狂言誘拐に誘って本当に……など、共犯関係にある人物を殺害するというのが多いです。このエピソードは、不倫の証拠を掴む方法に関するアドバイスだったので、少し違います。
余談
スペイン櫃の櫃は「ひつ」と読むのですが、私は櫃とは無縁の人生を送ってきたようで、このポワロの作品に初めて触れたとき、読めませんでした。「はこ」かな、と思いましたが、「ひつ」でした。とはいえ、櫃も箱も実物は似たようなものなので、肉を切らせて骨を切った感じです。(?)
ポワロが満を持して披露した華麗な踊りはチャールストンというステップのようです。キレのある踊りに笑ってしまいました。wikiなどによると、チャールストンは1920年代にアメリカで流行した踊りらしいです。イギリスでも流行ったということなのか、ポワロがアメリカナイズされているだけなのかよくわかりませんが、とにかく面白かったです。なお、下記の「Charleston — Original Al & Leon Style!! – Youtube」という動画で、ポワロが踊っていたと似たダンスが登場しています(白黒動画です)。
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