『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』は東野圭吾先生の推理小説で、〈ブラックショーマン〉シリーズの1作目です。本作では、コロナ禍の日本を舞台に、被害者の娘と元マジシャンの叔父が事件を捜査していきます。2025年9月12日には映画の公開が予定されています!
項目 | 説明 |
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タイトル | ブラック・ショーマンと 名もなき町の殺人 |
著者 | 東野圭吾 |
シリーズ | ブラック・ショーマンシリーズ 1作目 |
発行日 | 2020年11月 |
Audible版 | なし (2025年6月時点) |
出版社 | 光文社 |
総合評価 | |
【読みやすさ】 スラスラ読める!? |
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【万人受け】 誰が読んでも面白い!? |
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【キャラの魅力】 登場人物にひかれる!? |
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【テーマ】 社会問題などのテーマは? |
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【飽きさせない工夫】 一気読みできる!? |
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【ミステリーの面白さ】 トリックとか意外性は!? |
あらすじ
結婚を控えた神尾真世が、父・神尾英一が殺されたという連絡を受け、故郷に戻ります。ふるさとでは、かつての同級生である柏木が、人気漫画『幻脳ラビリンス』を使った町おこし計画を進めていましたが、コロナウイルスの蔓延により計画は頓挫していました。
真世は、犯行現場となった英一の自宅で叔父・神尾武史と再会し、武史と共に、父の死の真相を探ることになります。警察の協力はもちろん得られませんが……、元マジシャンの武史があらゆるテクニックを駆使して情報を手に入れ、鋭い推理を展開していきます。
登場人物
主人公である神尾真世の同級生であり、なおかつ、被害者・英一の教え子でもある人物がたくさん登場します。
- 神尾真世(かみお・まよ)
助手役。結婚を控えた若い女性。父の死をきっかけに帰郷する。当初は叔父の破天荒な行動に振り回されるが、次第に協力し、事件の真相に迫っていく。彼女の視点を通して物語が語られることで、読者は武史の謎めいた行動を共に体験する - 神尾武史(かみお・たけし)
探偵役。真世の叔父。恵比寿でバーを経営中。かつて「サムライ・ゼン」と呼ばれた元マジシャン。卓越した洞察力と巧みな話術で相手の心理を読み解き、ハッタリや誘導尋問を駆使して情報を引き出す。手先が器用で、時には盗撮・盗聴、スマホの盗み見といったグレーな手段も用いる。金にシビアで毒舌だが、姪である真世を気遣う優しい一面も持ち合わせる、ダークヒーロー的だが憎めない個性的なキャラクター - 神尾英一(かみお・えいいち)
被害者。真世の父。元教師。自宅の裏庭で絞殺されてしまう - 【真世の同級生】
- 池永桃子(いけなが・ももこ)
真世の幼馴染。2歳の貢(みつぐ)の母親 - 釘宮克樹(くぎみや・かつき)
「幻脳ラビリンス」略して「幻ラビ」の作者。津久見と仲がよかった - 津久見直也(つくみ・なおや)
故人。白血病のため14歳で早世した。クラスのリーダー格だった - 九重梨々香(ここのえ・りりか)
ココリカ。広告代理店「報通ほおつう」の社員。釘宮の実質的なマネージャー。中学時代は女子のリーダー格 - 柏木広大(かしわぎ・こうだい)
柏木建設の副社長。「幻ラビ・ハウス」という施設の建築工事を予定していたが、コロナのために中止になる - 牧原悟(まきはら・さとる)
地方銀行「三つ葉銀行」の行員。 - 沼川伸介(ぬまかわ・しんすけ)
居酒屋の経営者 - 原口浩平(はらぐち・こうへい)
英一の死体を発見した人物。「原口商店」という酒屋の店主 - 杉下快斗(すぎした・かいと)
エリート杉下。IT企業の社長
- 池永桃子(いけなが・ももこ)
- 中條健太(なかじょう・けんた)
真世の婚約者 - 池永良輔(いけなが・りょうすけ)
桃子の夫。英一の元教え子でもある - 【警察】
- 柿谷(かきたに)
警部補。所轄の刑事。刑事課の係長。英一の元教え子 - 小暮 大介(こぐれ・だいすけ)
警部。県警本部から応援。キツネのように細い目
- 柿谷(かきたに)
小説の特徴
殺人事件の謎解きを主軸に、登場人物たちの過去の人間関係や隠された秘密が並行して描かれる多層的な構成になっています。サイドストーリーとしては、真世の婚約問題や同級生たちの人間模様が織り込まれています。探偵役の武史が、まるでショーのように情報を集め、関係者を翻弄しながら真相を明らかにしていく独特の展開が楽しめます。
- 東野圭吾作品らしい、非常に読みやすい文章とテンポの良い展開が特徴
- エンターテイメント性が高く、コミカルな要素も散りばめられている
- やや重いテーマを扱いながらも、全体的に軽快なトーンで描かれており、読後感は比較的爽やか
舞台設定とテーマ
- コロナ禍で観光客が激減し、活気を失った「名もなき町」が舞台。現代社会のリアルな状況が物語の背景に深く影響を与えている
- 町おこしのために利用された人気漫画「幻脳ラビリンス」が、事件の鍵となる要素として機能する
- 殺人事件の真相究明だけでなく、人間の心理の複雑さ、善意と裏切り、過去との向き合い方、地方の疲弊と再生といった多岐にわたるテーマが描かれている
- 「真実を話すことの難しさ」や「保身が招く悲劇」といった、人間の弱さが浮き彫りにされる
感想
犯人当てのミステリーで、なかなか登場人物が多く、怪しい人物がいろいろと登場します。東野圭吾さんの作品らしく、安定したクオリティのミステリー小説です。読みやすいというのは間違いないです!
探偵役の武史はダーティーな感じですね!人格はさておき、調査能力と推理力は抜群です。こういう人物に魅力を感じてしまいます。映画で探偵役の神尾武史を演じるのは福山雅治さんらしく、その情報を入手してからというもの、武史が登場すると福山さんが思い浮かぶようになりました。
高評価なポイント
- 圧倒的な読みやすさとテンポの良さ
スラスラ読めて一気読みできそう! - 主人公・神尾武史の強烈なキャラ
ガリレオや加賀恭一郎とは違うタイプで面白い!胡散臭いけど憎めない感じの個性と魅力が満載 - 現代社会のリアルな描写
コロナ禍の生活様式(オンライン葬儀、リモート ワーク、観光地の疲弊)が物語に自然に溶け込んでいる - 鮮やかな謎解きと引き込まれる展開
ショータイムのような演出など、武史の推理過程や事件解決の演出がおもしろい!
低評価なポイント
- 捜査方法の強引さ
現実離れした捜査手法に違和感を覚えるかも - 感情描写の希薄さ
真世は父を亡くしたが…遺族という立場を感じにくく、感情移入がしにくい - コロナ禍への疑問
コロナ背景にする必要があったのかな?と、コロナ要素は物語に不要に感じられるかも - 全体的な軽さ
過去の東野圭吾作品のような重厚さはない - ミステリーとしての物足りなさ
トリックや意外性への期待値が高かった読者には不満が残るかもしれない
ネタバレ
英一が殺害されたあと、特に殺人は起きません。ただ、真世の同級生がいろいろと秘密を抱えており、真犯人を告発する過程やその前の段階で、その秘密も暴かれていきます。それぞれの秘密を簡単にまとめると次のようになります。
- 池永桃子は夫の良輔と不仲で別居状態だった
- 柏木と牧原は森脇の消えた預金に関わっていた(森脇が昔稼いだ出所の汚い金を家族に内緒で幻ラビのプロジェクトに寄付していたが、森脇がコロナで死亡し、プロジェクトも中止になってしまった。柏木と牧原は金を返さなければならなかったが、家族には内緒の状態だったため、そのままになっていた)
- 九重梨々香と杉下快斗は不倫の仲
真犯人
真犯人は「幻ラビ」の作者・釘宮克樹です。釘宮が描いた幻ラビのアイデアは、実は白血病で亡くなった同級生・津久見直也のものでした。被害者の神尾英一は幻ラビを考案したのが津久見であることに気付き、このことを英一は美談として津久見の追悼会で披露しようとしていました。英一は釘宮が親友だった津久見の夢を成し遂げたと考えており、一切脅迫などは考えてしませんでした…。しかし、事前に相談を受けた釘宮は重大な問題だと捉え、盗作を暴露されると思い込んでしまいます。
釘宮は証拠隠滅のため、英一が気付くきっかけとなった作文を英一の自宅ごと燃やそうとします。ところが、犯行の最中に英一にみつかってしまい、殺人を犯すことになります。
なお、最後の謎解きに、葬式で遺影を直視できたかどうかという心理的な状況証拠が登場します。釘宮は目をつむっていましたが、実はこれは加工された映像でした。牧原が視線を逸らしたというのも加工です。
結末
最後、真世に届いた不審なメールについて語られます。メールには婚約者である中條健太の誹謗中傷(付き合っていた女性を妊娠させたが堕胎させた、など)が書かれていました。健太は真世の誹謗中傷を同じように受け取っていた様子で、武史が華麗に二人の相談の場を設け、物語は幕を閉じます。
未回収の伏線
- 神尾武史がマジシャンを辞めた理由
アメリカで「サムライ・ゼン」として成功していた武史が、なぜ日本に戻りバーを経営しているのか、その過去は作中で明かされません - 真世の婚約者・健太との関係の行方
真世に送られてきた健太の過去を告発する謎のメールの真偽や、二人の結婚がどうなったのかは、物語の最後に読者の想像に委ねられています
読む順番について
ブラック・ショーマンシリーズの1作目です。2作目は『ブラック・ショーマンと覚醒する女たち』で、こちらは短編集になっています。2作目から読んでも問題ないと思いますが、オススメは刊行順です。
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