『100万ドル債券盗難事件』は客船で運ぶことになった100万ドルの債権をポワロが護衛するエピソードです。この記事では、あらすじと登場人物、ネタバレ、トリック解説、感想・考察などをまとめています。
項目 | 内容 |
---|---|
シーズン | 3 |
エピソード | 3 |
放送日(英国) | 1991年1月13日(日) |
放送日(日本) | 1991年9月15日(日) |
出演者 | キャスト一覧 |
あらすじ
ある日、ロンドン・スコティッシュ銀行の幹部が車でひかれそうになる。狙われた幹部は100万ドルの価値がある債券をアメリカへ運ぶことになっていた。命を狙われた幹部行員は、さらに、ストリキニーネという毒を盛られる。命に別状はなかったものの、別の行員に輸送を託すこととなる。事態を重くみた幹部社員は名探偵ポワロに債権のお守りを依頼。ところが海上で手提げ金庫に入れた債権の紛失が判明する。
事件概要
轢かれそうになり、毒まで盛られたのは、ショーという幹部社員です。このショーの代わりに、リッジウェイという男が債権の運搬役になります。このリッジウェイにはギャンブルで作った借金がありました。そして、ショーを轢き殺そうとした車と同じ型の車を所持していたことも判明します。さらに金庫の鍵を持っていたのは、銀行員のババソア、ショー、リッジウェイの三人のみでした。これらの事実から、リッジウェイが犯人であると疑われます。
ポワロと一緒に乗船していたヘイスティングス大尉は、盗難が発覚する前に、不審な音を耳にしています。それは、何かを海へ投げ捨てるような音でした。その音を聞いた後、ミランダという女性が現れます。ミランダが債権を盗み、それを海に捨てて後で回収する、という推理が展開されます。
登場人物
登場人物名 | 説明 |
---|---|
エルキュール・ポワロ | 主人公 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポワロの友人 事件の記録係 |
フェリシティ・レモン | ポワロの秘書 |
ショー | ロンドン・スコティッシュ銀行の部長 債券輸送の責任者 |
ババソア | ロンドン・スコティッシュ銀行の 共同総支配人 |
フィリップ・リッジウェイ | ショー部長の部下で債券輸送の代理を務める ギャンブル癖がある |
エズミー・ダルリーシュ | ババソア部長の秘書 フィリップ・リッジウェイの婚約者 |
P・マクニール | ロンドン・スコティッシュ銀行の警備責任者 ポワロの能力に懐疑的 |
ミランダ・ブルックス | 女性 クイーン・メリー号の船客 |
ネタバレ
債権を盗んだのはショーです。リッジウェイやポワロ達が船に乗り込んだ時、すでに金庫の中身はすり替えられていました。金庫の中には偽物の債権が入っており、金庫を開けて債権を捨てたのがミランダです。大尉が耳にした音は偽の債権を海に捨てる音だったということになります。このミランダはショーの共犯者で、実は、ショーの看護師でした。
トリック
犯人は海上を航行中の客船で債権が盗まれたようにみせることで、完璧なアリバイを作りました。その方法は共犯者を使うというものですが、犯人と共犯者は看護師と患者という関係にしかみえず、盲点となります。犯人はアリバイ工作に加え、債権を運ぶ人物に罪をなりすつけようとします。犯人自身が運搬役だったこと、身近に金に困っている銀行員がいてその人物が運搬役の候補であること、などの状況を利用し、金目当てで銀行員が犯人を襲い、運搬役となって船上で金を盗んだ、というシナリオを用意します。
盗難の方法
銀行の金庫から債権を取り出したババソアの視力が低かったため、債権が偽物であることに気付きませんでした。金庫の鍵はショーが持っていたものをミランダが使っています。なお、ババソアの鍵を盗んだのはリッジウェイの婚約者でありババソアの秘書でもあるエズミーです。彼女はリッジウェイを救うため、債権盗難の疑いをババソアへ向けようとしていました。
原作とドラマの違い
原作はアガサ・クリスティの短編小説「百万ドル債券盗難事件」で、『ポアロ登場』に収録されています。ドラマの脚本はアンソニー・ホロウィッツが手掛けています。
- 事件への関わり方
原作では事件発生後にエスメー・ファーカーがポワロに調査を依頼します。ドラマではババソア部長の依頼で、事件が起こる前からポワロが関わり、債券輸送に同行しています - 登場人物の変更
- エスメー・ファーカーはババソアの秘書「エズミー・ダルリーシュ」に変更されています
- 原作ではフィリップ・リッジウェイはババソアの甥です。ドラマでは血縁関係がなくなり、ギャンブル好きという設定が追加され、犯人のスケープゴートとして利用されます
- 原作で警察のマクニール警部だった人物は、銀行の警備責任者「P・マクニール」に変更されています
- 原作でリッジウェイの隣室の船客だったヴェントナー氏は、ドラマでは「ミランダ・ブルックス」という女性に変更され、ショーの協力者として重要な役割を担います
- トリックの複雑化
原作ではショーが単独で偽の債券を海に捨てています。ドラマではミランダが変装してその役割を果たします。また、ショーが毒を盛られたり車に轢かれそうになったりする場面もドラマオリジナルです - ポワロの船酔い
ドラマではポワロが船酔い対策を完璧にして船旅を満喫している様子が描かれますが、他のエピソードでは船酔いや乗り物嫌いの設定が出たり引っ込んだりしています - 債券の確認
ドラマでは、視力の悪いババソアが偽の債券に気づかなかったという設定が追加され、トリックに説得力を持たせています
感想と考察
私は船の上の事件が結構好きです。クローズド・サークルの中の「客船もの」と呼ばれる作品群です。今回のエピソードは50分ほどのドラマなのに船が登場していて、ちょっと驚きました。客船が舞台というのは、自分の中で、どこかスペシャルな雰囲気を感じています。とはいえ、客船のシーンはあっさり終わってしまったようで、大尉が牡蠣にあたったのが個人的ハイライトだったかなと思います。前エピソード「100万ドル債券盗難事件」に引き続き牡蠣が登場しています。余談ですが、私もカキフライは好きです。が、生牡蠣は食中毒が怖いので、滅多に食べません。以前、鶏刺し(鳥の刺身)を食べ具合が悪くなり、医者に行って正直に『鶏刺しを食べました』と話したことろ、大爆笑されました。『このあたりやすい時期にそんなもの食べたら駄目だよ』とのことでした。
トリックについて
アリバイを作るために共犯者を利用し、共犯者が疑われないようにするために、偽の犯人を仕立てたという偽装工作でした。自身が被害者になるというのは、容疑者から外れるために使われることが多く、盗難発覚前はショーが犯人ではないことを強調するようになっていました。発覚後、ショーには完璧なアリバイがあるため、少なくとも実行犯ではないことが明確になります。そのため、被害者になるという自作自演は、リッジウェイに疑いを向け、その証拠を捏造するようにしてトリックが働いています。アガサ・クリスティーの作品は、このように、既存のトリックを複雑に組み上げたエピソードが多いように思います。
まぬけな容疑者
真犯人の筋書き通りの場合、リッジウェイは自分が犯人であると言っているに等しいほど、無計画です。船の上で鍵を持っていた人物がリッジウェイしかいないとすれば、鍵で金庫を開けたら、犯人はリッジウェイです。こじ開けようとする痕跡が残っていたのは、リッジウェイが自分の鍵を使うとまずいことに気付いていたので鍵を使わずに開けようとした、というあえて犯人が残した証拠だと考えられます。しかし、鍵を使ったことが現場の調査でバレると、リッジウェイはまぬけな容疑者になります。
鍵
鍵を使って金庫を開けられた場合でも、鍵を施錠の状態にしておけば、鍵を使ったかどうかはわからないはずです。逆に、無理矢理こじ開けたのならば、鍵は施錠状態でないとおかしいです。鍵を使って金庫を開け、そのままにしておいたならば、それは犯人のミスといえます。
コメント