『コーンワルの毒殺事件』は「毒殺されそう」と訴える歯科医の妻がポワロを訪ね、その後、本当に殺されてしまうエピソードです。この記事ではあらすじとネタバレ、登場人物、トリック解説、感想・考察です。
項目 | 内容 |
---|---|
シーズン | 2 |
エピソード | 4 |
長さ | 50分 |
放送日(英国) | 1990年1月28日(日) |
放送日(日本) | 1990年8月1日(水) |
出演者 | キャスト一覧 |
原作者 | アガサ・クリスティー |
あらすじ
「夫に毒を盛られている」そうポワロに訴えたペンゲリー夫人は、翌日、コーンワルで毒殺される。夫のペンゲリー氏には浮気や遺産という動機があり、のちに、ペンゲリーは逮捕される。そして、亡くなった夫人から相談を受けていたポワロは夫人が言い寄っていたラドナーという男に調査を止めるよう忠告され、ポワロは事件から身を引く。
事件概要
ペンゲリー氏は歯科医師で、若くて美人な助手と浮気をしているという噂が広まっていました。一方、夫人はジェイコブ・ラドナーという男に夢中でした。亡くなった夫人はお金持ちで、その死によって、夫が2万ポンド、フリーダ・スタントンという姪が2000ポンドを受け取りました。姪のフリーダはラドナーと交際していたため、夫人とラドナーの関係によって、夫人とフリーダは仲たがいをしていました。
ラドナーがポワロに忠告した理由は小さい町なので大ごとにしたくないという理由でした。承諾したポワロは町を後にします。このとき、既にペンゲリー氏は捕まっていましたが、帰路でポワロはペンゲリー氏を救うといって、町へ引き返します。
登場人物
事件関係者は以下の通りです。このエピソードにはヘイスティングス大尉、ミス・レモン、ジャップ警部も登場しています。
登場人物名 | 説明 |
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エルキュール・ポアロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポワロの友人、陸軍大尉 |
ジェームス・ジャップ | スコットランド・ヤード主任警部 (ドラマ版に登場) |
フェリシティ・レモン | ポワロの秘書 (ドラマ版に登場) |
ペンジェリー夫人 (アリス・ペンゲリー) |
被害者 ポワロに相談に来た歯科医の妻 |
エドワード・ペンジェリー (ペンゲリー) |
被害者の夫 歯科医 |
フリーダ・スタントン | エドワードの姪 |
ジェイコブ・ラドナー | フリーダの婚約者 |
ジェシー・ダウリッシュ | ペンジェリー家のメイド |
アダムズ | 医師 |
エドウィナ・マークス | エドワードの助手 |
ネタバレ
犯人はジェイコブ・ラドナーです。夫人がラドナーに夢中だったというのは嘘で、本当は、ラドナーが夫人に言い寄っていました。殺害の動機は姪が手にする2000ポンドという金です。ラドナーは姪のフリーダと結婚し、その金を自分のものにしようとしていました。
名前 | 説明 | 解説 |
---|---|---|
ジェイコブ・ラドナー Jacob Radnor |
フリーダの恋人 犯人 |
ペンゲリー夫人を殺害し夫を犯人に仕立て上げた 動機は夫人の姪が相続する遺産 |
ペンゲリー夫人 Mrs Pengelley |
裕福な婦人 被害者 |
毒殺されるかもしれないとポワロに相談する 犯人によってほんとうに毒殺されてしまう |
エドワード・ペンゲリー Edward Pengelley |
歯科医 | ペンゲリー夫人の夫 夫人殺害の罪をなすりつけられる |
トリック
犯人は夫人に近づき、夫のペンゲリー氏が浮気をしているという嘘を吹き込みました。この嘘を信じた夫人は夫を疑います。実際に体調が悪くなった夫人は名探偵のポワロに、夫への疑いを相談します。その後、夫人を毒殺すれば、嫌疑は夫へと向かいます。
ポワロの罠
ラドナーが犯人であるという決定的な証拠が得られなかったポワロは、ラドナーと取り引きします。その内容は、自供を示す書類に署名する代わりに、24時間の猶予を与えるというものでした。ヘイスティングス大尉が近くに見張りがいるという嘘をついたことにより、ラドナーは観念し、署名します。自供を得たポワロは署名付きの書類をすぐに提出します。
考察
犯人は夫人を見事に操っていました。その手口は、まず、夫の浮気をほのめかし、さらに少量の除草剤を盛ることで、毒殺をもっともらしくしました。夫人が医者に相談するなどして疑惑が公けとなり、町に広まれば、夫のペンゲリー氏に疑いの目を向ける町民も多くなるはずです。最終的に、探偵に対してペンゲリーの犯行という嘘を吹き込むという成果も得ています*1。犯人は、ペンゲリーの浮気という嘘だけではなく、夫人に言い寄られているという嘘もついていました。これにより、遺産という動機と合わせて、妻の浮気への制裁も加わる結果となりました。
*1:相手は名探偵ですので、その先入観がむしろ、解決の糸口になってしまうかもしれません
メイドの証言
メイドは、ペンゲリー氏が夫人の食事の近くで除草剤をもっていたと証言しています。ペンゲリーは犯人ではなかったため、メイドの目撃証言は嘘だったかもしれません。もしくは、犯人が食事の近くに置いた除草剤の缶をペンゲリーが手にし、その姿をメイドが目撃したとも考えられます。つまり、ペンゲリーは犯人にはめられたということになります。
ロケ地
撮影はDunster(ダンスター)のHigh Street(ハイ・ストリート)という場所で行われました。タイトルにコーンウォールという地名が入っていますが、撮影がコーンウォールで行われたわけではないようです。
ポワロ達が宿泊したホテルはLuttrell Arms Hotel(ラトレル・アームズ・ホテル)で、ダンスターにある実際のホテルです。
原作
原作は短編「コーンウォールの毒殺事件」で、短編集「教会で死んだ男」に収録されています。原作小説とドラマのストーリーに大きな違いはありませんが、細かな違いはあります。例えば、ラストで犯人に窓の外を見るよう促すのは、ドラマではヘイスティングスでしたが、原作はポアロです。ドラマでは、ペンゲリー夫人が裕福な女性という設定になっており、これに伴って、遺言読み上げのシーンなどが追加されています。
原作との主な相違点
- ドラマはポワロとヘイスティングスがペンジェリー夫人に会う場面が屋外に変更されています
- ペンジェリー夫人が亡くなったタイミングが、ポワロたちが訪ねた直前(1時間前)に変更されています。
- ラドナーの経営するお店が登場します
- ペンジェリー夫人の葬儀のシーンが追加され、遺言状が読み上げられる場面があります
- 解決編でラドナーに窓の外を見るように促す役が、ポワロからヘイスティングスに変更されています
- ヘイスティングスが東洋の思想(瞑想や易経)に傾倒しているという描写が追加され、コミカルな要素となっています
- ジャップ警部が登場し、ポワロとのやり取りが描かれています
- ポワロがジャップ警部を出し抜くお決まりの展開があります
感想
依頼人が死ぬというのは、ちょっと想定外でした。毒殺されそうなんです、と言われても、なかなかその気にはなれないものかもしれません。私は、この依頼人が何かを企んでいるのかと思いました。あえてポワロを町に呼んで証人にするとか、なんか、そんな感じのミステリー作品があった気がします(具体的に思い出せませんが)。しかしながら、夫人は、あっさり、ぽっくり、死んでしまいました。
ラドナーが人の心理、特に女性の好意や世間の噂を利用した巧妙なトリックは恐ろしいです。嘘の中に真実(夫の浮気)を混ぜることで、夫人の疑惑をより強固にした手口は悪質です。また、多くの人が同じ噂を信じ込む大衆心理を利用して夫を陥れようとした点も印象的です。一方で、世間の声に惑わされず、冷静に真相を見抜いたポワロの推理力はさすがでした。人の噂や報道だけを鵜呑みにせず 、自分自身の観察と論理で物事の本質を見極めることの重要性を改めて感じさせられます。ヘイスティングスがメイドや医師を「典型」と評する場面がありますが、ポワロのそばにいると多くの人が平凡に見えてしまうのかもしれません。ヘイスティングスが美人なフリーダを褒める描写は、彼のキャラクターらしさが出ています。
余談
毒殺は防げたか、ということを考えると、ストーカー殺人みたいだなと思います。相談しても、気のせいでしょ、みたいなやり取り容易に想像できます。事件が起きていないのに、それを予期して、捜査するというのは、とても難しそうです。
コーンワル
コーンワルとはイギリス南西の突端に位置する地域のようです。ウィキペディアにはコーンウォールという読み方がタイトルに記載されています。グーグル翻訳で発音させてみたところ、私の耳にはコーンウォルと聞こえました。しかし、何度も聞いていると、コーンワルにも聞こえてくるという不思議体験を味わいました。結局どっちなんでしょう。ウォとワの中間みたいな音ということでしょうか。なにそれ、って感じです。
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