『チョコレートの箱』はブリュッセルを訪れたポワロがジャップ警部に昔の事件を語り始めるというエピソードで、その事件はポワロの未解決事件でした。この記事では、あらすじと登場人物、ネタバレ、感想考察などをまとめています。
項目 | 内容 |
---|---|
シーズン | 5 |
エピソード | 6 |
長さ | 50分 |
放送日(英国) | 1993年2月21日(日) |
放送日(日本) | 1994年7月10日(日) |
出演者 | キャスト一覧 |
あらすじ
ポール「わからないのか?僕達の未来とベルギーの未来について考えているんだ!カトリック教会が君の心を狭くしているんだよ!」
マリアンヌ「でも、わからないの、ポール。あなたは私に、あなたと私の信仰のどちらかを選べと言い続けているのよ」
ポール「君の言っていることが僕には信じられない。君の心には斬新な考えがないってことかい?僕達は新世代を迎えているのに、君は全く抜け出せていない。あの忌まわしい聖職者達と同じようにね」
マリアンヌ「教会を攻撃してもベルギーの役には立たないわ。民衆を敵に回すことになる」
ポール「僕は攻撃などしていない!目を覚ましてくれ。私の妻として、政府の大臣の妻として、君は僕をサポートする必要がある」
マリアンヌ「あなたと結婚したのは愛のためよ、ポール、あなたの政治的な地位を高めるためじゃない!」
(マリアンヌが逃げ出す)
ポール「マリアンヌ、戻ってこい!マリアンヌ!!」
名探偵ポワロ チョコレートの箱 冒頭
故郷のブリュッセルを訪れたポワロは旧友と再会し、ベルギー警察時代に関わったある事件を思い出す。その事件はポール・デルラールという大臣の死亡事件だった。二年前にはポールの妻・マリアンヌも階段から転落死していた。マリアンヌのいとこであるビルジニー・メナールはポールの死に疑問を抱き、ベルギー警察の中で『爆ぜる火花』の異名をとるエルキュール・ポワロに相談する。
捜査を開始することになったポワロは死んだポールの自宅を訪れ、蓋はピンク色だが、箱は緑色というおかしな組み合わせのチョコレートの箱を見つける。チョコレートに毒物が入っていたことを突き止めたポワロはサン・アラール伯爵を疑う。伯爵はポールが死ぬ直前、夕食を共にしていた人物だった。
事件概要
ポワロはチョコレートからトリニトリンという毒物を見つけています(トリニトリンは心臓病の治療に使われる薬で、血管を拡張して血流を改善するという効果があります。しかし、過剰に摂取するとショック死を起こす危険性があります)。このトリニトリンはガストン・ボージュというポールの友人が処方されており、マダム・デルラールの目薬を受け取りに薬局へ行った際に、受け取っています。薬を受け取ったのはガストンですが、その薬瓶はアラール伯爵のポケットから見つかりました。伯爵を疑うポワロはビルジニーと協力し、罠を仕掛けようとしますが、この罠は失敗に終わります。
登場人物
- エルキュール・ポワロ
私立探偵(過去の話においてはベルギー警察官) - ジェームス・ジャップ警部
スコットランド・ヤード主任警部。ベルギーで叙勲される - ポール・デルラール
ベルギーの大臣。心臓発作で死亡したとされる - マダム・デルラール
ポールの母親。事件の真犯人 - マリアンヌ・デルラール
ポールの妻。2年前に転落死 - ビルジニー・メナール
マリアンヌの従妹。ポールの死に疑問を抱き、ポワロに再捜査を依頼する。若き ポワロが淡い恋心を抱く相手 - ガストン・ボージュ
デルラール家の友人。実は情報局員 - クロード・シャンタリエ
ポワロの旧友で、元同僚の警察官。現在は警視総監 - ジャン・ルイ・フェロー
ポワロの友人である薬剤師。後にビルジニーと結婚する - ザビエール・サン・タラール伯爵
ポールの友人。当初、ポワロに疑われる - フランソワ
デルラール家の執事 - ブシェール警視
ポワロの当時の上司
ネタバレ
ポール殺害の犯人はマダム・デルラールです。二年前、マリアンヌ・メナールが死んだのは事故ではなく、ポールに絨毯をすくわれて転落死していました。この時、マダム・デルラールはポールの犯行を目撃していました。ポールはマダム・デルラールの息子ですが、マダムは殺人という大罪を犯した息子の事を許すことができませんでした。
死期が近かったマダムは、ガストンのトリニトリンを盗み、ポールのチョコに仕込みました。しかし、目薬を処方されているほどに視力が悪かったため、箱の色の違いに気付くことができませんでした。その結果、蓋はピンクで箱は緑という組み合わせになっていました。真犯人はマダムですが、ポワロは真相を公にすることはありませんでした。
名前 | 説明 | 解説 |
---|---|---|
ポール・デルラール Paul Deroulard |
大臣 被害者 |
妻を殺害していた |
マリアンヌ・デルラール Marianne Deroulard |
ポールの妻 被害者 |
事故死ではなく夫に殺されていた |
ビルジニー・メナール Virginie Mesnard |
依頼人 マリアンヌのいとこ |
ポールの死に疑問を抱く |
デルラール夫人 Madame Deroulard |
ポールの母 犯人 |
マリアンヌ殺害を知っていた |
サン・アラール St. Alard |
ポールの友人 | 伯爵、容疑者の一人 |
ガストン・ボージュ Gaston Beaujeu |
ポールの友人 | トリニトロンを処方されている |
トリック
犯人は被害者のチョコを食べるという習慣を利用し、このチョコに毒を盛りました。毒はトリニトリンで、犯人にとっては入手しやすい薬品だったといえます。トリニトリンが入った瓶は、罪をきせるため、被害者と仲の悪かった人物の服に隠しています。トリニトリンを処方されていた人物と事件後に薬を持っていた人物が異なるため、容疑者が増えています。しかし、真犯人はどちらでもありません。
犯人は蓋と箱の組み合わせが異なるというミスを犯しています。犯人は視力が弱かったためにこのようなミスを犯していますが、犯人はこのことを隠していたようです。ところが、薬局で犯人に目薬が用意されていたという事実から、視力が悪いということが明らかになります。
原作小説とドラマの違い
- 語り手と舞台設定
- 原作
ポワロがロンドンの自室でヘイスティングスに過去の失敗談として語り聞かせる回想形式です - ドラマ
ジャップ警部がベルギーで勲章を授与されるのにポワロが同行し、ブリュッセルを舞台に、ポワロがジャップ警部と旧友のシャンタリエに過去の事件を語る形で進行します
- 原作
- ヘイスティングスの登場
- 原作
ヘイスティングスがポワロの語り相手として登場します - ドラマ
ヘイスティングスは登場せず、ジャップ警部がその役割を担います。これは、ヘイスティングスが原作に登場するにもかかわらず、ドラマで出番が完全に削られた唯一の例です
- 原作
- ポワロの同僚・上司
- 原作
薬剤師は登場しますが、シャンタリエやブシェール警視は登場しません - ドラマ
シャンタリエ(ポワロの旧友で警察官)、ブシェール警視(ポワロの上司)、ジャン・ルイ ・フェロー(薬剤師)といったドラマオリジナルの人物が登場し、物語に深く関わります
- 原作
- ポールの役職と対立の背景
- 原作
ポール・デルラールはフランスの代議士で、政教分離を巡ってカトリック教会と対立していました - ドラマ
ポール・デルラールはベルギーの大臣であり、ベルギー国内の民族間対立(フラマン語圏とフランス語圏)が彼の政治的立場と絡んでいます
- 原作
- ポワロが事件に関わるきっかけ
- 原作
詳細な記述はありません。ポワロがベルギー警察時代に事件を担当します - ドラマ
ビルジニーが法廷でポールの死に異議を唱えたことでポワロが関心を持ち、上司に再捜査を進言するも却下されます。その後、ビルジニーから直接依頼を受け、休暇を取って捜査に乗り出します
- 原作
- チョコレートの箱の色
- 原作
チョコレートの箱の蓋と本体の色が異なっていたことが鍵となります - ドラマ
チョコレートの箱の色が具体的に「ピンクと緑」と描写されています
- 原作
- ポワロの「失敗」の結末
- 原作
ポワロが事件の真相に気づかず、完全な失敗談として語られます - ドラマ
ポワロは物語の終盤で自ら誤りに気づき、真相を解明します
- 原作
- ポワロの容姿
- 原作
卵型の顔に大きな口ひげが特徴とされています - ドラマ
若き日のポワロは、いつもの太った体型ではなく、髪も豊かで、警察官の制服姿で活動的な一面を見せます
- 原作
- ポワロの人間関係
- 原作
ビルジニーがデルラールに想いを寄せていたという設定はありません - ドラマ
若きポワロとビルジニーの間に淡いロマンスが描かれ、ポワロが常に襟元につけているブローチがビルジニーからの贈り物であることが明かされます。また、ビルジニーが後にポワロの友人である薬剤師ジャン・ルイと結婚しているという後日談も描かれます
- 原作
- ジャップ警部のミドルネーム
- 原作
ジャップ警部のミドルネームは明かされていません - ドラマ
ジャップ警部のフルネームが「ジェームス・ハロルド・ジャップ」であることが明かされます
- 原作
- ポワロの妹
- 原作
初出時にはイヴォンヌというポワロの妹への言及がありました - ドラマ
ポワロの妹に関する言及はありません
- 原作
感想と考察
被害者は二年前に殺人を犯しています。その犯行は絨毯を引っ張ることで、相手を階段から転落させるというものでした。この殺人は事故として処理されているため、完全犯罪になったといえます。このような単純な手口は完全犯罪になりやすいのかもしれません。ただ、この事件には目撃者がおり、その目撃者が二年後に犯人を殺害します。
毒殺に関して、習慣を利用する、毒の瓶を罪を着せたい人物の衣服や持ち物に隠す、などの手口はよく登場すると思います。また、犯人の特徴がミスを誘い犯行現場に証拠を残すというのも、ミステリー作品でよく見かけます。
ポールが食べていたのはサン・アラール伯爵が経営しているチョコレート専門店のチョコでした。チョコの箱にはST.ALARD(サン・アラール)と書かれており、細かいところまで作り込まれている印象です。また、このエピソードに登場するのは若い頃のポワロですが、演じているのはデヴィッド・スーシェ氏です。毛の薄い部分がなくなって、気持ち若返っている気がしないでもないです。
コメント