『誘拐された総理大臣』はイギリス首相がならず者に襲われ、その後、フランスで誘拐されるというエピソードです。この記事では、あらすじと登場人物、ネタバレ、トリック解説、感想・考察などをまとめています。
項目 | 内容 |
---|---|
シーズン | 2 |
エピソード | 8 |
放送日(英国) | 1990年2月25日(日) |
放送日(日本) | 1991年2月26日(火) |
出演者 | キャスト一覧 |
あらすじ
ある日、英国の総理大臣が、何者かに銃撃され、結果、顔に包帯を巻くこととなる。その後、総理は国際会議出席のためフランスへ向かい、到着後、誘拐されてしまう。総理は偽の大使館の車に乗ったために、さらわれたようであった。後にその車が発見されるが、車の中にいたのは縛られた秘書のダニエルズ中佐だけであった…。事務次官から調査を依頼された名探偵ポワロは、時間が限られているのにも関わらず、イギリス国内にとどまり調査を進める。
事件概要
総理大臣は誘拐前、車で移動している最中に銃撃されます。この時、運転手のイーガンと秘書のダイエルズが一緒でした。襲撃された総理は傷を負い、顔に包帯を巻くことになります。この包帯が事件の謎を解く鍵となっています。誘拐後の調査の結果、運転手が行方不明になっていることが明らかになり、その部屋にはアイルランドを意味する装飾が置かれていました。また、ダイエルズ大佐には離婚裁判で揉めた妻がおり、その妻が事件に関わっている様子です。
登場人物
ドラマ版では、運転手の名前がイーガンに、ダニエルズの叔母の代わりにダニエルズの妻イモジャン・ドナヒューが登場します。
- エルキュール・ポアロ
私立探偵 - アーサー・ヘイスティングス
ポワロの友人 - ミス・レモン
ポワロの秘書 - ジェームス・ジャップ
スコットランドヤードの主任警部 - デイヴィッド・マカダム
イギリスの首相。連合国会議に出席するためフランスへ向かう途中で誘拐される(史実のデビッド・ロイド・ジョージがモデルとされています) - エステア卿
下院議員。首相誘拐事件の解決をポワロに依頼 - バーナード・ダッジ
閣僚。首相誘拐事件の解決をポワロに依頼した人物の一人 - ダニエルズ
首相の秘書。ドラマ版ではダニエルズ中佐として登場 - ミセス・エヴァラード
ダニエルズの叔母。ドラマ版では登場せず、代わりにダニエルズの元妻イモジャン・ドナヒューがその役割を担います - オマーフィ
首相の車の運転手で、スコットランドヤードの刑事でもある。ドラマ版ではイーガンという名前で登場 - ノーマン少佐
事件に関わる軍関係者
ネタバレ
フランスで誘拐された総理大臣は偽物です。総理はフランスへ飛び立つ前に、既に誘拐されています。誘拐前の銃撃の理由は総理大臣に包帯を巻き、顔をわかりにくくするためです。包帯を巻いた総理であれば、別人が総理のふりをしていても、バレにくくなります。犯人はダニエルズ中佐とその妻、そして、運転手のイーガンです。彼らはアイルランドの独立を巡って、首相を誘拐するという過激な行動を起こしました。
最後、ダニエルズ夫人(元)は拳銃自殺します。夫人は共犯者を逃がすために自らおとりとなり、命を絶ったといえます。夫人にはアイルランド独立に命以上の価値があったということかもしれません。
トリック
犯人らは誘拐場所をフランスであるようにみせることで、イギリス内の警備を手薄にしようとしていました。誘拐場所を偽装するために使われたのが、首相の替え玉を用意するという変装トリックです。この変装トリックを成功させるために、総理を銃撃し、包帯を巻きつけるように仕向けていました。
あいまいな証言
首相と行動を共にしていた秘書のダニエルズ中佐は銃撃時のことや、フランスでの誘拐について、曖昧な証言をしています。ショッキングな出来事に直面したため、思い出すことができないということかもしれません*1。
*1:強烈な事件を目の当たりにしたのならば、逆に、よく憶えているような気もします。そのため、憶えていないのではなく、話したくないや思い出したくないという心理かもしれません。
犯人らの共通点
運転手の自宅にあった装飾品はアイルランドを示しています。中佐の父は、アイルランド問題がきっかけで当時の首相と決別しており、妻の方は出身地がアイルランドを意味していました。
離婚した妻
犯人のダニエルズ中佐は離婚裁判で激しく争った妻がいました。離婚後も付き合いのある男女もいると思いますが、ダニエルズ夫妻は裁判で敵対していました。その妻が共犯者だとは誰も思いません。共犯者を隠蔽するトリックといえます。
原作とドラマの相違点
デヴィッド・スーシェ主演の海外ドラマ『誘拐された総理大臣』は、原作の短編小説『首相誘拐事件』といくつか異なる点があります。
- タイムリミット
原作では首相を会議に間に合わせるためのタイムリミットが24時間(と15分)でしたが、ドラマ版では32時間(と15分)に延長されています。これは、依頼が原作では夕食後だったのに対し、ドラマでは昼間にあったためです - 犯行動機
原作の犯人はドイツのスパイです。ドラマ版ではアイルランド独立問題が犯行動機となっています(時代設定を第一次世界大戦後に変更したための変更と考えられます) - 結末
ドラマでは、ダニエルズ夫人が「エリン・ゴブラー(アイルランドよ永遠に)」と叫び、自らを撃って自殺するという衝撃的な結末になっています - 登場人物の変更
原作の運転手オマーフィはドラマではイーガンという名前に変更され、犯行グループの一員となります。また、原作の女スパイであるベルタ・エベンタルは、ドラマではダニエルズ夫人イモジャン・ドナヒューとして登場し、事件に深く関わります - ポワロの捜査範囲
ドラマではポワロが様々な場所(脇道、車、イーガンの家、ダニエルズの家、ドナヒューの家など)を訪れて調査する様子が詳細に描かれています - ジャップ警部の役割
ドラマではジャップ警部が病院のリストを用意するなど、捜査に協力する場面が追加されています - ダニエルズの背景
ドラマではダニエルズの父親がアイルランド問題で首相に政治生命を絶たれたという設定が追加されています - 仕立屋の登場
ドラマでは、ポワロと仕立屋フィングラーとのユーモラスなやり取りが描かれています - ヘイスティングスのポンコツ車
ドラマではヘイスティングスの車が子供にいたずらされる場面が追加されています
感想と考察
総理大臣が何者かに襲われるなんて、今どきありえないと思っていた私ですが、そうでもないような気がしている2022年夏です。事件に大きい小さいなんてない、と青島刑事(「踊る大捜査線」の主人公)が言っていたように思いますが、総理とか大統領が関わっていると、組織的な犯罪や陰謀を意識してしまいます(単独犯というのもあり得ます、あり得ましたが)。犯罪組織が絡んでくると、何でもありになってくる気がして、ちょっとミステリー要素は薄れてしまうのかなというのが、私の感想です。しかし、このエピソードはトリックが面白く、その動機も非常に現実的でした。私は、アイルランド問題なんて初めて聞いたかもしれんレベルですが、もっと世界史を勉強していたら、楽しみ方が違っていたのかもしれないと思います。
実は誘拐された場所が違っていたというエピソードで、変装を隠すために銃撃が行われたというひねりのあるトリックでした。銃撃などせず、替え玉が包帯を巻いて登場するだけでも、誘拐場所を誤認させることができたかもしれません。ただし、銃撃なしの場合、突然、首相が包帯を巻いて登場するため、変装などを疑わせる余地を警察や探偵に与えてしまうという欠点があります。包帯を巻いた理由は、ちょっと転んでしまった*1、などが考えられますが、周囲がこんな感じの理由で納得するようなわかりやすい人達であれば、うまくいくかもしれません。作中、首相がどうのように誘拐されたのかは描かれていませんでしたが、渡仏前に誘拐されたということが明らかになっていない以上、首相が誘拐された時、周囲にいたのは、犯人一味のメンバーだったように思います。そうであるならば、銃撃なしでも誘拐場所の偽装工作は成り立ちます。とはいえ、殺せたはずなのに殺さなかった謎の銃撃か、それとも、突然包帯を巻いて現れた首相であるなら、確かに前者の方が、変装トリックに気付かれにくいかもしれません。
*1:声でバレる可能性もあるので、犯人一味の秘書などが代わりに話す必要があります
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