『エジプト墳墓のなぞ』は王家の谷でメンハーラ王の墓を暴いた調査隊員のリーダーが墓の中で急死し、発掘に関わった隊員も次々に死んでいってしまうエピソードです。この記事ではあらすじと登場人物、ネタバレ、感想・考察などをまとめています。
項目 | 内容 |
---|---|
シーズン | 5 |
エピソード | 1 |
放送日(英国) | 1993年1月17日(水) |
放送日(日本) | 1993年7月3日(土) |
出演者 | キャスト一覧 |
あらすじ
王家の谷でメンハーラ王の墓を発見した調査隊だったが、墓に入ると突然リーダーのウィラード卿が心臓発作で死亡してしまう。ウィラード卿の妻レディー・ウィラードは調査を引き継ぐ息子ガイ・ウィラードを案じ名探偵ポワロに相談する。ウィラード卿の死が病死であることは明らかだった。しかし、隊員の一人がニューヨークで自死し、もう一人が敗血症で命を落としてしまう…。
ポワロとヘイスティングス大尉が調査のために、王家の谷に到着すると、今度は調査隊員の一人が破傷風によって死亡する。メンハーラ王の呪いとも思える連続死亡事件。ポワロが毒を盛られ、そしてまた、食事中にロバート・エイムズ医師が体調不良を訴える。
事件概要
最初に亡くなったのはジョン・ウィラードで調査隊のリーダーでした。死因は心臓発作です。二人目が資産家のフェリックス・ブライブナーで、王家の谷で敗血症を発症し死亡しました。三人目はルパート・ブライブナーでNYで拳銃自殺しています。四人目はメトロポリタン美術館の研究者ヘンリー・シュナイダーで死因は破傷風です。破傷風の血清を使用したにも関わらず、死亡してしまったようです。ルパートを除き全員が病死といえます。食事中に具合が悪くなった医師のロバート・エイムズですが、彼は大事には至っていません。なお、王家の谷でポワロも毒を盛られ、殺されそうになります。
自殺したルパートは遺書を残していました。遺書には不治の病を患ったためと書いてありました。自殺する前に、大尉がルパートと話していますが、このとき彼は白い絹の手袋をしていたようです。さらに、王家の谷にいたとき、手に発疹があったことも判明します。
登場人物
役名 | 俳優 (日本語吹替) |
説明 |
---|---|---|
エルキュール・ポワロ | デビッド・スーシェ (熊倉 一雄) |
ベルギー人の名探偵 |
ヘイスティングス大尉 | ヒュー・フレイザー (富山 敬、安原 義人) |
ポワロの友人 探偵事務所のパートナー |
ミス・レモン | ポーリン・モラン (翠 準子) |
ポワロの秘書 |
ジョン・ウィラード卿 | ピーター・リーヴス (依田 英助) |
考古学者 メンハーラ王の墓を発見するが急死 |
レディー・ウィラード | アンナ・クロッパー (瀬能 礼子) |
ジョン・ウィラード卿の妻 ポワロに調査を依頼する |
ガイ・ウィラード卿 | グラント・サッチャー(江原 正士) | ウィラード卿夫妻の息子 父の跡を継ぎ発掘チームに参加 |
エイムズ医師 | ロルフ・サクソン (堀 勝之祐) |
発掘チームの医師 |
ヘンリー・シュナイダー | オリヴィエ・ピエール (福田 信昭) |
メトロポリタン美術館の研究員 |
フォスウェル博士 | ジョン・ストリックランド (矢田 稔) |
大英博物館の研究員 |
フェリックス・ブライブナー | ビル・ベイリー (藤本 譲) |
発掘の資金を提供したアメリカ人 |
ルパート・ブライブナー | ポール・バーチャード (千田 光男) |
フェリックス・ブライブナーの甥 |
ナイジェル・ハーパー | サイモン・カウェル=パーカー (大滝 進矢) |
ブライブナーの秘書 |
ハッサン | モザファー・シャフェイー (大友 龍三郎) |
現地人の召使い |
ネタバレ
犯人はロバート・エイムズです。医師という立場を利用して、病死にみせかけて次々の隊員を殺害していました。動機は金です。エイムズ医師は、敗血症で死んだフェリックス・ブライブナーの遺産を相続する立場にありました。それは、フェリックスの甥であるルパートが、酔った勢いで、エイムズに全ての財産を渡すという遺言状を残したためです。つまり、フェリックスが死に、ルパートも死ねば、遺産はエイムズのものになります。
ウィラード卿の死は、偶然起きた、突然死でした。犯人はこれを利用して、呪いで人が病死しているようにみせるため、次々に隊員を殺していました。エイムズは、敗血症と破傷風を意図的に発症させ、二人殺害しています。自殺したルパートは、当時、不治の病だったハンセン病であると診断し、自殺に追い込みました。自ら被害者になることで容疑者から外れようともしています。ポワロに毒をもったのも、アヌビスをみせたのも、エイムズです。これらはポワロと大尉を追い払うことが目的でした。
トリック
医者が犯人でした。治療する振りをして、破傷風などの感染症をうつし、患者を次々に殺していました。経緯はどうであれ、死因は敗血症(感染症が原因で生じる臓器不全)や破傷風となります。犯人は呪いで死んだという偽装も用意しています。
医者が嘘の診断を下して、患者を自殺に追い込むという殺害方法が登場します。自殺した患者は遺書にハンセン病と書いていたようですが、ポワロ達は読み間違えたようです。ハンセン病患者は英語でleperですが、この英単語には、のけ者、という意味もあるようです。吹き替えではトリックがわかりにくくなっています(トリックというか誤解ですが)。遺書を読んだポワロはのけ者になったから自殺したと勘違いしていました。
ドラマと原作の違い
原作はアガサ・ クリスティの短編集『ポアロ登場』に収録されています。ドラマ版は原作に比較的忠実ですが、いくつかの変更点があります。
- ヘイスティングスの役割
原作ではポワロと行動を共にしていますが、ドラマでは序盤にニューヨークに滞在しており、ルパート・ブライブナーの調査を任されます。 - ルパート・ブライブナーの背景
原作にあったルパートが放蕩者で伯父との折り合いが悪く、金の無心に来たという伏線はドラマでは描かれていません - ミス・レモンの登場
原作には登場しないミス・レモンが、ドラマでは飼い猫を亡くして占いに傾倒する姿が描かれ、ポワロから猫の置物をお土産にもらうエピソードが追加されています - ポワロの移動手段
原作ではポワロがラクダに乗ることを余儀なくされ、その苦行がコミカルに描かれていますが、ドラマでは車で移動します - 時代設定の不整合
劇中の新聞の日付やクイーン・メリー号の就航時期、エジプト国旗のデザインなど、1936年という設定と合わない描写がいくつか見られます - ロケ地
エジプトが舞台ですが、実際の撮影はスペイン南部のアルメリア近郊で行われました - 青酸カリの描写
青酸カリの臭気に関する描写が、実際の化学反応とは異なる部分があります - ルパートの病気
原作の「ハンセン病」という表現が、ドラマでは「不治の病」に変更されています。これは、ハンセン病に対する誤解や偏見を避けるための制作側の配慮と考えられます
感想と考察
アヌビスが登場したあたりで、これは呪いではないと確信した気がします。影とはいえ、実体があり過ぎだったような……。とはいえ、呪いが似合うエジプトで、墓を暴いたリーダーが突然、死亡したら、呪詛を信じたくなってしまいそうです。真相は医者が犯人だったわけですが、これは、むしろ、呪いよりも恐ろしい結末でした。
医師が死亡診断書に偽りを書くというのではなく、実際に感染させて死亡させていました。ナイフで刺し殺して、診断書を偽装しても同じことのように思えますが、もしも土葬の場合、後々に証拠が残ってしまうかもしれません。
人が次々に死んでも怪しまれないようにするため、墓の呪いを利用したようです。標的は遺産相続に関連する二人だけでしたが、隊員をもう一人殺害することで、呪いに信憑性を持たせようとしていたのかもしれません。
余談
王家の呪い(ファラオの呪い、ツタンカーメンの呪い)、という都市伝説があるようです。王家の谷でツタンカーメンの墓を発掘し、ミイラを取り出したカーナヴォン卿や関係者、そして、家族が次々に死亡したという伝説です。ほんとうのところ、亡くなったのはカーナヴォン卿だけだったようです。カーナヴォン卿もはっきりと病死であることがわかり、発掘が関係していたわけではありませんでした。呪いが捏造されたのは、新聞会社がライバルに対抗するため、呪いで死んだように報じていたためだったようです。アガサ・クリスティーのこのエピソードはこの王家の呪いをモチーフにしており、病死したウィラード卿がカーナヴォン卿のようにみえます。推理小説なので、ミイラの呪いが犯人だったら、ある意味、ぶっ飛びますが、激怒する人もかなり現れる気がします。
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