『エッジウェア卿の死』は、美人の女性がポワロに離婚の相談をするところから始まるエピソードです。依頼者の女性によれば、離婚できないとのことでしたが夫であるエッジウェア卿は既に離婚を承諾しているとのこと……。そんな状況の中、夫が謎の死を遂げてしまいます。この記事では、あらすじと登場人物、ネタバレ、感想などをまとめています。
項目 | 内容 |
---|---|
No. | 47 |
シーズン | 7 |
エピソード | 2 |
長さ | 1時間39分 |
放送日(英) | 2000年2月19日(土) |
放送日(日) | 2000年12月31日(日) |
出演者 | キャスト一覧 |
原作者 | アガサ・クリスティー |
あらすじ
“アクロイド殺人事件”で探偵業に復帰したエルキュール・ポワロは、旧友のヘイスティングス大尉、ジャップ警部、そしてミス・レモンと再会する。そんな折に、元女優のエッジウェア卿夫人がポワロに離婚の相談を持ち掛ける。
依頼を受けたポワロは離婚を拒否しているというエッジウェア卿と話し合うが、卿は既に離婚に同意していると話すのだった。夫と妻の話がちぐはぐな状況で、エッジウェア卿が何者かによって殺害される。犯行推定時刻、妻のジェーンにはパーティに参加していたというアリバイがあったが、その後、女性ものまね芸人カーロッタ・アダムスの死体が発見され、アダムスによる変装が疑われることになる。ところが、変装を依頼した人物は正体不明の“彼”らしかった。
事件概要
エッジウェア卿とアダムスが死亡し、その後、何かに気付いた様子の劇作家ドナルド・ロスも何者かに殺害されます。そして、殺人以外に、被害者が取り寄せたフラン(紙幣)が消えるという事件も発生します。殺人犯と盗っ人は誰なのかというのがそもそもの謎なわけですが、この事件に限っては、ポワロが“五つの謎”を挙げています。
- エッジウェア卿は離婚に関する手紙をジェーンに送ったが、それをジェーンが受け取れなかったのはなぜか?
- パーティーでジェーンに電話をかけたのは誰だったのか?
- 死んだカーロッタ・アダムスのハンドバッグに入っていた鼻眼鏡は何か?
- カーロッタ・アダムスが書いた手紙では、変装の依頼主がロナルド(he)になっているのは何故か?
- カーロッタ・アダムスのケースに刻まれたPとは誰か?
この5つの謎は殺人の真相につながる内容となっています。ジャップ警部がしきりにジェーン犯人説を唱えておりますが、彼女にはアリバイがあります。たとえアダムスを利用したとしても、変装を依頼したらしき人物は“he”、つまり男性のはずです。さらにカーロッタは睡眠薬の過剰摂取が死亡原因であるため、そもそも殺人かどうかも定かではありません。
登場人物
- エルキュール・ポアロ
- 灰色の脳細胞を誇るベルギー人の名探偵。ジェーンの依頼がきっかけで事件に巻き込まれる
- アーサー・ヘイスティングズ大尉
- ポアロの忠実な友人
- ジャップ警部
- スコットランド・ヤードの警部。ポアロとは旧知の仲
- ジェーン・ウィルキンソン
- 美貌と才能で人気の女優。夫エッジウェア卿との離婚を望んでいる
- エッジウェア卿
- ジェーンの夫である貴族。冷酷な性格で知られる美術収集家。被害者
- カーロッタ・アダムス
- 物真似を得意とする女優。第二の被害者
- ドナルド・ロス
- 若い劇作家。晩餐会での会話から事件の核心に迫り、第三の被害者となる
- ロナルド・マーシュ
- エッジウェア卿の甥。叔父から勘当されており、金に困っている
- ブライアン・マーティン
- 俳優。かつてジェーンと交際していた
ネタバレ
犯人はジェーン・ウィルキンスンです。彼女はマートン公爵と結婚するために夫を殺害し、そして、口封じのためにドナルド・ロスと共犯者だったカーロッタ・アダムスを殺しました。実は、ジェーンとエッジウェア卿の離婚は成立していました。しかしカトリック教徒である公爵は離婚した人物と結婚することができなかったため、ジェーンはエッジウェア卿と死別したようにみせる必要がありました。離婚に関して、エッジウェア卿は真実を話していたということになります。ジェーンがポワロに依頼したのは、離婚が成立していないようにみせるという意図があったようです。
ポワロが語った“五つの謎”の真相は以下の通りで、1は動機、2は替え玉の真相、3はジェーンがヴァン・ドューゼンに変装していたことを示す証拠、4はロナルドに嫌疑がかかった理由、5はカーロッタ・アダムスが睡眠薬を常用していたようにみせるための偽りの証拠でした。替え玉作戦の後、アダムスに睡眠薬を盛って殺害したのはジェーンで、アダムスは殺人を関知していなかったようです。
- ジェーンは手紙を受け取ったが離婚歴を作りたくなかったのでもみ消した
- パーティーに出席したのがカーロッタで、電話をかけたのはジェーン本人
- 鼻眼鏡はジェーンのメイド(エリス)のものだった
- ジェーンが手紙の一部を破ってsheをheにかえていた
- ケースはジェーンが準備したものでPには特に意味がない
ドナルド・ロスはパーティーで、ジェーンの前に座っていたため、パーティーに参加したジェーンが偽者であることに気付きました。これは昼食会での会話がきっかけです。ジェーンはロスがパーティーで話したパリスの意味を勘違いしたため、ロスは違和感を抱きました。なお、紙幣を盗んだのは秘書のオルトンで、彼は途中で転落死します。
名前 | 説明 | 解説 |
---|---|---|
エッジウェア卿 Lord Edgware |
最初の被害者 | 依頼人ジェーンの夫 書斎で殺害される |
ジェーン・ウィルキンスン Jane Wilkinson |
被害者の妻 犯人 |
ポワロに離婚の相談した女性、依頼人 公爵と結婚するために夫を殺し、他二名も殺害した |
カーロッタ・アダムス Carlotta Adams |
ものまね芸人 二人目の被害者 |
ジェーンに変装してパーティに参加した女性 口封じのため犯人のジェーンに殺害される |
ドナルド・ロス Donald Ross |
劇作家 三人目の被害者 |
パーティでジェーンの前に座った男性 昼食会でジェーンの犯行に気付くが殺されてしまう |
ブライアン・マーチン Bryan Martin |
俳優 ジェーンの元彼 |
ポワロにジェーンの調査を依頼した男 振られた腹いせにジェーンを貶めようとする |
ペニー・ドライバー Penny Driver |
帽子屋 ブライアンの恋人 |
ブライアンと共にジェーンを貶めようとする |
オルトン Alton |
秘書 | 雇われてまだ間もない男性秘書 フランを盗み出した犯人で、最期は転落死 |
ロナルド・マーシュ Geraldine Marsh |
卿の甥 | 貧乏な演劇プロデューサー ものまね芸人を雇ったという濡れ衣を着せられる |
ジェラルディン・マーシュ Caroline Sheppard |
卿の娘 | エッジウェア卿と先妻の間の子供 真珠を持ち出すため屋敷へと戻る |
トリック
替え玉を用意するというトリックで、具体的には“ものまね芸人”が替え玉になりました。ものまね芸人ではなく、双子やそっくりさんでも代用ができそうなトリックです。証拠などを集めなくても、直感的にわかってしまうトリックでしたが、大勢の人の前に登場した方が実は偽者だったという叙述的なトリックが仕込まれていました。
犯人は共犯者といえるものまね芸人を口封じのため始末しています。芸人が残した手紙に細工することで、共犯関係が明るみにでないようにもしています。
動機について
犯人は公爵と結婚するために夫を殺害します。公爵は宗教上の理由により離婚した人物とは結婚できず、これが犯人にとっての障害となっていました。それでも死別ならば問題ないので、犯人は完全犯罪を目論んだということのようです。公爵はカトリック教徒ですが、犯人(ジェーン)はカトリック教徒ではないようなので、すなわち、カトリック教徒と教徒ではないけど離婚歴のある人物の結婚ということになります。この場合も、結婚は認められないようで、どうやら架空の話ではなさそうでした。宗教上という意味であって、法律上は結婚できるわけですが、信仰のある方にとっては法律上結婚できる問題ないということにはならないようです。
Can a Catholic Ever Marry a Divorced Non-Catholic?(※日本語サイトで出典を探しましたが、明確に書かれているサイトが見つかりませんでしたので、英語サイトになっています)
ドラマと原作小説の違い
デヴィッド・スーシェ主演のドラマ版は原作の核となるプロットやトリックを忠実に再現しつつも、多くの脚色が加えられています。主な違いは以下の通りです。
- ヘイスティングスの帰国理由
- 【原作】ヘイスティングスは特に理由なくアルゼンチンから一時帰国します
- 【ドラマ】「パンパス・フェルナンデス間公共鉄道」という架空の会社への投資に失敗し、全財産を失って失意のうちに帰国したという具体的な設定が追加されています。また、物語の最後でポワロがマートン公爵からの報酬をヘイスティングスに譲り、「もう投資はこりごり」と堅実に貯金を選ぶというオチもついています
- ミス・レモンとジャップ警部の役割
- 【原作】ミス・レモンやジャップ警部の登場シーンは比較的限られています
- 【ドラマ】ポワロ、ヘイスティングス、ジャップ、レモンという「おなじみの4人組」の再集結が強調されています。ミス ・レモンは自ら宝石店を巡って金のピルケースの購入者を突き止め、ジャップ警部はポワロの助言なしにロナルド・マーシュのアリバイを崩すなど、それぞれがより積極的に捜査に関与し、有能さが際立つ場面が追加されました
- マートン侯爵夫人の不在
- 【原作】息子の結婚に厳格な態度を見せるマートン侯爵夫人(カトリック教徒)が登場し、ジェーンの動機を補強する役割を担います
- 【ドラマ】登場しません
- ペニー・ドライバーへの改名
- 【原作】カーロッタの友人はジェニー・ドライバーという名前です
- 【ドラマ】ドラマでは「ペニー・ドライバー」に名前が変更されています。これは、犯行に使われた金のピルケースのイニシャルを原作の「D」から「P」に変更したことに伴うもので、ペニー(Penny)への疑いを強めるための脚色です
- 過去の因縁の追加
- 【原作】特になし
- 【ドラマ】「ジェーンが友人ペニーから恋人のブライアンを奪った」という過去の三角関係が追加されています
- オープニング
- 【原作】カーロッタのショーの場面から始まります
- 【ドラマ】エッジウェア卿がジェーンの出演する舞台に乗り込み、上演を妨害するというシーンから始まります
- 執事オルトンの最期
- 【原作】オルトンは逮捕されます
- 【ドラマ】警察との追跡劇の末に、空港の建物の吹き抜けから転落死します
- ポワロが挙げる「5つの疑問」
- 【原作】「なぜエッジウェア卿は離婚に同意したか?」「なぜエッジウェア卿は恐ろしい顔を見せたか?」といった、登場人物の心理に踏み込む疑問が含まれています
- 【ドラマ】上記の心理的な疑問が削られ、代わりに「カーロッタが妹に書いた手紙(の謎)」や「金のピルケースを送った『P』とは誰か」といった物的証拠に差し替えられています
- カーロッタの妹ルシー
- 【原作】ロンドンへはやってこない
- 【ドラマ】カーロッタの死を知った妹のルシーがアメリカからロンドンにやってきます
感想
現代社会に実在する“ものまね芸人”さんにご協力頂き、芸能人のスキャンダルを防ぐトリックが、現実的に行われているかもしれません(たぶんない)。きっと、そんな感じの小説やドラマなどが既にあると思いますが(これはたぶんある)、例えば、とある芸能人のスキャンダラスな写真が公表されたとします。しかしながら、その写真が撮影された時、その芸能人さんはテレビの生放送もしくは動画配信サイトの生配信に出演していたため、完璧なアリバイがありました。このような状況で芸能人側が、公表された写真は写真を公表した企業なり組織による悪意ある捏造であると表明し、その組織を失脚させるというストーリーなどが思い付きます。真実がどうであれ、組織側は仕込みであることを否定するわけですが、どちらが支持されるかといえば、やはり芸能人側ではないかと思われます。ところが実は、スキャンダラスな写真は事実で、写真を撮られたのは“ものまね芸人”、つまり、芸能人側が組織を貶めるための罠だったというわけです。そしてさらにもう一つ隠れた事実があり、それが、テレビもしくは動画に出ていたのは“ものまね芸人”だったという真相です。何年も前から、実はお茶の間に登場していたのは偽者でした。本物はスキャンダラスを気にせず楽しく遊んでいまーす、みたいな結末です。