『七番目の仮説(La Septième hypothèse)』は1991年に発表された長編推理小説で、ツイスト博士シリーズの一作です。密室ミステリーベスト10の3位にランクインしています。
あらすじ
ペストだ! その一言に、下宿屋の老夫婦は戦慄した。病に苦しむ下宿人の青年を囲んでいるのは、中世風の異様な衣裳に身を包んだ三人の医師。担架で患者を搬出すべく一行が狭い廊下に入ったとたん、肝心の患者が煙のように担架の上から消え失せた! 数刻後、巡回中の巡査が、またしても異様な姿の人物に遭遇する。言われるままに、路地に置かれたゴミ缶の蓋を取ると、そこにはなんと……だが奇怪きわまる一夜の事件も、実はさらなる怪事件の序章に過ぎなかったのだ。それはさすがのツイスト博士も苦汁を舐めさせられる難事件中の難事件だった
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下宿で暮らす青年がペストに罹患したらしく、ペスト医者の恰好をした怪しい姿の男が三人下宿にやってきます。部屋で青年を担架に乗せたと思ったら、不思議なことに青年が消えてしまいます。誰にもみられずに部屋から出ることはできないので、部屋は密室状態でした…。
さらに、そのすぐ後、とある巡査がゴミ箱を覗いている怪しい人物をみかけ職質します。ゴミ箱を一度確認し、ちょっとそのゴミ箱から目を離して再びゴミ箱の中身を確認すると、そこにはなんと青年の死体が入っていました。
なんとも奇怪な事件です。2ヶ月後にゴードン・ミラー卿という男の秘書が殺される事件が発生し、同時にコスミンスキーという芸人が襲撃される事件も起きます。コスミンスキーというのは、ペスト青年消失出現事件でペスト医者の一人が口走った人名でした…。
ネタバレ
まず、衆人環視による密室ですが、下宿に現れた三人のうち一体は人形でした。なんじゃそりゃ!という感じかもしれませんが、精巧に作られた人形で、なおかつ、下宿は暗かったので見分けがつかなかったということです。消えた青年は、つまり、人形の中に隠れていました。
青年はペストに罹ったふりをしていただけで、ペスト医者たちと協力してケチな下宿者の夫妻を懲らしめようとしていました。ちょっとした悪戯だったわけですが、人形に入った青年はゴードン・ミラー卿によって殺されてしまいます。すなわち真犯人はミラー卿です。
動機
ゴードン・ミラー卿にはシーラ・フォレストという義理の娘がいます。シーラにはお付き合いしていた男性がおり、その男性というのがペストのふりをしていたコーエンでした。ミラー卿は娘を独占するためにコーエンを殺害しています。
ミラー卿はシーラを妊娠させて堕胎させています。しかも、ミラー卿とシーラは義理の親子だと思われていましたが、実は血のつながった親子でした。
トリック
- ゴミ箱の中から青年の死体が突然現れたのは死体入りのゴミ箱と死体が入っていないゴミ箱をすり替えたから。犯人はゴミ箱を確認した巡査が背を向けている隙に、ゴミ箱ごと交換した
- 犯人は泥棒と間違えたといって秘書のピーターを殺害。同じタイミングでコスミンスキーも襲っている。秘書の殺害を自白している犯人には秘書を撃ったというアリバイがあるので、コスミンスキーの件で疑われることはない
感想
あらすじが奇妙で謎めいているので手に取ってみると、そのトリックは結構残念かもしれません…。人が消えたり登場したりというのはマジックっぽいです。そのタネは知らない方がいいのかもしれないと思ったり思わなかったり。
中世のペスト医者がロンドンに現れて、患者を搬出しようとしたが、その患者が消失し、後にゴミ箱から死体として発見されるという発端や、個性的な登場人物も面白いです。劇作家、俳優、奇術師など、さまざまなバックグラウンドを持つキャラクターが登場しています。途中、複雑な部分もあったりして、頭を使う感じがミステリーっぽいです。
それでもやはり、真相が…少しがっかりした部分もあります。『七番目の仮説』が真相なんですが、そこまでに六つの仮説が提示されれるわけで、それぞれに説得力があった気がします。多重解決みたいな感じでしょうか。とはいえ、ラストの謎解きを重視すると楽しめないと思います。そして、サスペンスの要素が強いというわけでもないような気がします。
密室ミステリーベスト10にランクインするほどの作品なので、生身の人間だと思われていた人物が実は人形だったというのは驚きかもしれません(いやまあ、被害者が共犯者だったということと、秘密の隠れ場所があったということなんですが)。
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