『二重の罪』はある若い女性が運んでいた細密画が何者かに盗まれてしまうエピソードです。この記事では、あらすじとネタバレ、登場人物、トリック解説、原作とドラマの違い、感想・考察などをまとめています。
項目 | 内容 |
---|---|
シーズン | 2 |
エピソード | 6 |
放送日(英国) | 1990年2月11日(日) |
放送日(日本) | 1991年1月22日(火) |
出演者 | キャスト一覧 |
あらすじ
ポワロとヘイスティングス大尉はバスで若い女性と顔見知りになる。メアリ・ダラントというその女性はクライアントに売るため、1500ポンドもの価値がある細密画をトランクにいれていた。そして、一行が目的地に到着すると、細密画の盗難が発覚する。盗まれた細密画はクライアントが代金を払って受け取っていた。細密画が盗まれたのは昼食休憩中だと考えられ、ある男が容疑者となります。大尉と警察はノートン・ケインというその男を見つけ捕まえますが、彼は犯人ではなかった。
事件概要
細密画を運んでいたメアリ・ダラントは古美術商の見習いで、おばのミス・ペンという女性と仕事をしています。ミス・ペンは足が悪く、車いすのため、移動は容易ではなさそうです。クライアントはベッカー・ウッドというアメリカ人で、年配の女性から細密画を手に入れています。つまり、犯人は金を手に入れて逃亡したということになります。なお、ウッドが所持していた細密画は盗難品かもしれないという理由で警察に没収されます。
ヘイスティングス大尉が追っていたノートン・ケインという男性は犯人ではありません。彼は作家で、ある女性と駆け落ちの真っ最中でした。不審な行動の理由も、この駆け落ちです。
登場人物
- エルキュール・ポワロ
言わずと知れた名探偵。事件に乗り気ではありません - アーサー・ヘイスティングス
ポワロの友人であり相棒。ポワロに代わって積極的に捜査を行います - ジェームス・ジャップ
スコットランドヤードの主任警部。ドラマ版に登場 - フェリシティ・レモン
ポワロの秘書。ドラマ版に登場 - メアリ・デュラント
細密画を盗まれた若い女性 - ミス・ペン
メアリの叔母で古美術商 - J・ベイカー・ウッド
細密画のアメリカ人収集家 - ノートン・ケイン
バスに同乗していた怪しい若い男
ネタバレ
盗難はメアリの狂言です。本当は盗まれておらず、メアリは嘘をついていました。ウッドに細密画を渡したのはミス・ペンです。車いすで生活していますが、足は不自由ではありません。立って歩くことが、普通にできます。盗まれたようにみせた理由は細密画も手に入れるためです。盗難品は持ち主のもとに戻る可能性が高いため、成功すれば、販売代金だけではなく細密画も手元に残すことができます。
トリック
狂言盗難でした。メアリがバスの車内で「高価な細密画を運んでいる」と大きな声で話したのは、容疑者を増やすための発言で、細密画を運んでいることがそもそも周知でなければ、容疑者はかなり狭くなっていたはずです。
車いすに乗っている人物を見たら、おおくは、その人は歩けないと判断するはずです。犯人はこのような人の認識を利用し、容疑者から外れました。車いすで移動できたとしても、取引の相手がその特徴に気付かないはずがありません。
ミス・ペンとウッドは会ったことがないはずです。しかし、ポワロに集められた時、ペンはウッドの名前を呼んでいます。これがミスとなり、ペンとウッドは初対面ではないことが証明されます。
原作とドラマの違い
短編をテレビドラマの枠に収めるための脚色や、レギュラーキャラクターを活かすための変更があります。ドラマ版は、原作の核となるトリックを維持しつつ、キャラクターの魅力を引き出し、よりエンターテインメント性の高い作品になっています。
登場人物
- 原作
ポワロとヘイスティングスが中心です。ジャップ警部やミス・レモンは登場しません - ドラマ
原作には登場しないジャップ警部とミス・レモンがレギュラーとして登場します
ポワロの事件への関わり方
- 原作
ポワロは保養に来ており、当初は事件捜査に乗り気ではありません。主にヘイスティングスが積極的に調査を行います - ドラマ
ポワロは退屈しており、引退を口にするほどです。ドラマオリジナルの要素として、ジャップ警部との間で「部屋から一歩も出ずに事件を解決できるか」という賭けをします。また、ジャップ警部がポワロを称賛する講演を聞いて機嫌を直し、事件解決に本腰を入れるという描写が追加されています。これにより、ポワロが事件に関わる動機がより明確に描かれています
事件の導入
- 原作
ポワロとヘイスティングスが保養先のバス旅行でメアリ・デュラントと出会い、事件が発生します - ドラマ
ポワロ、ヘイスティングス、ジャップ警部が一緒にマジックショーを見に行った帰り、ポワロの自宅で事件の話になり、ジャップ警部との賭けから捜査が始まります
捜査の描写
- 原作
ヘイスティングスが中心となって聞き込みや情報収集を行います - ドラマ
ポワロは自宅に居ながら、ヘイスティングスに具体的な指示を出して現場での調査を行わせます。ヘイスティングスがポワロの指示に従って奔走する様子や、その過程でのコミカルな失敗(ペンキの椅子に座る、鳥の餌をつまむ、金庫破りの実験など)が詳しく描かれています。ジャップ警部も捜査チームの一員として登場します
サイドストーリーとユーモア
- 原作
事件の謎解きに比較的ストレートに焦点を当てています。/li> - ドラマ
ポワロのマジックの練習、ジャップ警部との賭け、ヘイスティングスの受難、ポワロがオウムを預かるなど、原作にはないユーモラスな場面やキャラクター間のやり取りが豊富に追加されており、ドラマ全体の雰囲気を明るくしています
感想
犯人は最後走って逃げようとしました。面白いです。立ち上がれない、歩けない、もちろん走ることなんて不可能、という主張を貫けば、犯行を完全に立証することはできなかったかもしれないです。しかし、走って逃げてしまったら、もう言い逃れはできません。
ポワロが一時的に引退を考えるという珍しい設定から始まります。ドラマ版では、退屈しているポワロの様子や、ヘイスティングスやミス・レモンとのやり取りがコミカルに描かれており、キャラクターの魅力が際立っています。特に、ジャップ警部が講演でポワロを称賛するシーンは、二人の長年の友情と信頼関係が感じられ、感動的でした。ミステリーとしては、登場人物が比較的少なく、熱心なファンであれば犯人に目星をつけることも可能かもしれません。しかし、細部に散りばめられた伏線や、ポワロの鮮やかな推理過程は見応えがあります。また、海辺の美しい風景や、当時のバス旅行の様子など、時代背景を感じさせる描写も魅力の一つです。全体として、大規模な事件ではありませんが、キャラクター描写とユーモア、そして確かな推理が楽しめる作品と言えるでしょう。
二重とは
結局、何が二重だったのか、と悩んだりしています。車いすを使って人を騙したことと、細密画の盗難事件ことだと思いますが、細密画が盗まれたという嘘をついたことと、盗品になることを知りながら取引し金をだまし取ったことかもしれません。罪ということで考えるならば、詐欺(盗品となる…以下略)と虚構申告(盗難という嘘)になるのかなと思ったりもします。
sin
原題は「double sin」で二重の罪と訳せるようです。sinをサインと読むかシンと読むかで、文系か理系かを調べることが出来そうな気がします。しかしながら、私は理系なのにシンと読んだのであまりあてにはなりません(英語の「罪」という意味でシンと読んだのではなく、ローマ字読みで、日本語らしく、シンと読みました)。
考察
犯人はわざと高価な品物を運んでいると話していました。もしも、この嘘がなければ、大尉や警察はノートンを追わなかったかもしれません。とても怪しい人物(ノートン)がいたので、捜査は攪乱されましたが、彼は盗難には何も関係ありませんでした。おそらく、ノートンがいない場合でも、他のバスの乗客が疑われていたのだろうと思います。
固定観念
ミス・ペンのように障がい者を装って人をだますというのは、現代でもあるようです。障がい者を装うという部分が特に卑劣ではないかと思います。このような詐欺に引っ掛かってしまうのは、車いすに乗っている人は歩けない、という思い込みが影響しています。車いすの人が歩ける、というのは「シャーロック・ホームズの冒険」などにもありますが、このほかにも、ミステリー作品では、思い込みが登場することが多いです。
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