『第二の汚点(第二の血痕)』は、外交に関する英国の重要な文書(書類)が盗まれてしまう事件です。原作小説は1904年に発表されました。短編集「シャーロック・ホームズの帰還」に収録されたのは1905年です。40作目にあたるエピソードですが、時系列では7件目となっています。
項目 | 内容 |
---|---|
発表 | 1904年12月発表 (ストランド) |
発表順 | 40作品目 (60作中) |
発生時期 | 1886年10月12日~ 同年10月15日 |
発生順 | 7件目 (60作中) |
あらすじ
イギリス首相と欧州担当大臣のトレローニー・ホープが内々に221Bを訪れ、ホームズに紛失した外交文書の奪還を依頼する。その文書は英国の植民地政策に対する感情的な意見文で、もしも文書が公になれば、戦争にもなりかねないという。大臣のトレローニー・ホープは重要なその文書を自宅で厳重に保管しており、前夜までは確かにあったのだが、今朝確認すると、消えてなくなっていたという。
依頼人が221Bを立ち去ってすぐに、ホームズは容疑者3名の名前を挙げた。オーバースタイン、ラ・ロティエール、エドゥアルド・ルーカス…。ホームズは聞き込みへと向かおうとするのだが、ルーカスは何者かによって自宅で殺害されたことを知る。するとそこに、トレローニー・ホープの妻であるヒルダ夫人が現れる。そして、ヒルダ夫人は依頼の内容や、依頼が解決されない場合、夫はどのような状況に陥るのかなどを聞き出そうとするのだった。しかしホームズは守秘義務を掲げ、一切何も伝えることはなかった。
その後、死んだルーカスが二重生活を送っていたことが判明する。ロンドンで生活していたルーカスだが、彼はパリでアンリ・フルネーという非常に嫉妬深い女性と結婚していた。アンリ・フルネー、すなわちルーカス夫人はパリにはおらず、実は、ルーカス殺害の夜に、ルーカスの家の周りで目撃されていた。当然のように、ルーカス夫人に殺人の容疑がかかるのだった。その頃、ルーカス殺人事件の捜査を進めるレストレード警部はルーカスの自宅で、カーペットと床の血痕が一致しないことに疑問を抱いていた。さらに、事件発覚後、ある女性がルーカスの自宅を訪れたという。このことを知ったホームズはレストレードが目を離している隙に、現場の床を調べ、秘密の隠し場所を見つけるのだった。
ネタバレ
ホームズはヒルダ夫人と話すため、欧州担当大臣の屋敷へと向かう。そして、ヒルダ夫人と対面したホームズは盗まれた文書を渡すように命じる。ホームズの言葉を耳にしたヒルダ夫人は突然涙を流し、ルーカスに脅迫されていたことを告白する。ヒルダ夫人は若い頃に書いたラブレターをルーカスに握られていた。そのラブレターを取り返すために、夫人は機密文書を盗んだという。その直後、ヒルダ夫人はルーカスの自宅へ向かい、盗んだ文書とラブレターを交換した。そこに短剣を持ったフランス語を話す女性が、もの凄い剣幕で乱入したので、ヒルダ夫人はその場から逃げたという。その女性はルーカス夫人らしく、ヒルダ夫人を不倫相手と見間違えたらしかった。
翌日、文書の詳しい内容を知らなかったヒルダ夫人はホームズから依頼内容を聞き出そうとしたのだが、失敗してしまう。そんな折、ルーカスが死んだことを知り、急いで自宅へ向かった。そして文書を回収するため、警官がいない間に急いで絨毯を動かしたので、元の位置に戻すことができなかったのだった。全てを把握したホームズはヒルダ夫人をとがめるようなことはせず、文がをもともと置かれていた金庫に戻すのだった。
ドラマ
グラナダ版ドラマは1986年7月23日に放送されました。シーズン3の第3話(52分)です。日本語のタイトルは「第二の血痕」となっています。
項目 | 内容 |
---|---|
シーズン | 3 |
話数 | 3 |
放送順 | 16 |
放送日(英) | 1986年7月23日(水) |
出演者 | キャスト一覧 |
ストーリー
英国首相と大臣のトレローニー・ホープがホームズを非公式に訪問し、ある重要文書の捜索を依頼する。その文書は大臣が鍵付きの文書箱に保管していたのだが、今朝、紛失が確認されたという。依頼を引き受けたホームズはルーカスという要注意人物を思い浮かべていたのだが、既に、ルーカスは自宅で殺されていた。ルーカス殺害の事実を知った直後、大臣の妻であるヒルダ夫人が221Bに現れ、あれこれと聞き出そうとするのだった。
ルーカス殺害の犯人はルーカス夫人で間違いなさそうであり、殺人と文書の紛失は関連しているようだが、どのような接点があるかは不明だった。そして、盗まれた文書が行使されていないということも疑問に挙がる。その後、ホームズ達はルーカス殺害の現場へ訪れ、秘密の隠し場所を発見するのだが、中身は空っぽだった。現場を見張っていた巡査によればある女性がやって来たという。その女性というのは、どうやら、ヒルダ夫人だった。
ネタバレ
ホームズはヒルダ夫人が紛失した手紙を持っていると確信し、夫人に文書を返却するよう伝える。ヒルダ夫人はルーカスに恋文をネタに脅されており、その恋文を取り返すために、文書を文書箱から盗み出したのだった。盗んだ文書はルーカスに渡したのだが、ルーカス死亡を知り、文書を取り戻したのだという。ヒルダ夫人から文書を受け取ったホームズは、その場に現れたトレローニー・ホープに文書箱を調べさせ、そっと文書を返却する。そうして事件は、大臣の単なる見落としだったことになるのだった。
原作とドラマの違い
原作とドラマの発端や展開、そして結末などはほとんど同じ内容です。やや異なるのは、ラストシーンで、ドラマでは大臣が文書箱を探している最中にホームズが紛失した文書を戻しています。原作のラストシーンに大臣は登場しないので、ドラマオリジナルの演出といえます。なお、新聞が燃えるシーンや、最後にホームズが飛び跳ねるような描写も原作には登場しません。
原作の冒頭にはホームズが探偵業を引退したという文章が登場します。しかしながらドラマには、このような場面が一切登場しません。
感想
貴族のラブレターが問題になる物語です。初恋の人(だったかどうかはわかりませんが)と交わした手紙が脅迫のネタになってしまうという。何が問題なのか、現代庶民である私には全くわからないのですが、この時代のミステリーにはよく登場するような気がします。
突然221Bに現れた妻が怪しいとは思いつつも、殺人との関係が全く予想できません。殺人はルーカスの妻が逮捕されていますが、真犯人がいるのではないかと想像してしまいます。不倫と勘違いした、というのはやはり思い付きません。ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では絨毯をめくった瞬間に床を探すホームズが面白いです。
考察
夫人が脅されて盗難文書を盗んだ、というだけではなく、ここに殺人事件も絡んできます。夫人は芝居に行っていた、と嘘をついてアリバイを作っています。劇場には大勢の人が集まるはずなので、夫人を見かけなかったという証言は得られても、絶対にいなかったということを証明するのは難しいかもしれません。
汚点と血痕
原作の日本語タイトルは“汚点”(“しみ”と訳されることもあるようです)で、ドラマは“血痕”です。英単語のStainには両方の意味があるので、どちらが正しいということでもなさそうですが、英語のタイトルには、“汚点”と“血痕”の二つの意味が込められているようです。人の評判などを表現する際に使われる“汚点”は、ヒルダ夫人の汚点を示しており、“血痕”は絨毯と床に残された二つの血痕を意味していると考えられます。ヒルダ夫人の第一の汚点は恋文(これを汚点というのかどうかはさておき)、第二の汚点は文書の盗難です。血痕の場合、第一は絨毯、そして第二は床に付着した血の跡ということになるはずです。結局これは絨毯がずれたために、別々の血痕であると認識されているだけでした。
まとめ
シャーロック・ホームズの「第二の汚点」について、原作とドラマのあらすじとネタバレ、感想などをご紹介しました。この作品が発表された1904年、首相はアーサー・バルフォアという人物でしたが、作品の年代設定は明確になっておらず、物語に登場する首相が誰なのかというのは、正確には、明らかになっていません。
- 発端首相と大臣が紛失した文書の捜索を依頼する
- 展開容疑者ルーカスの死亡が判明する
大臣の妻がホームズのもとにやってくる
ルーカス殺害現場の調査 - 結末文書の行方を掴んだホームズが大臣の屋敷へと向かう
登場人物
登場人物をネタバレありで簡単にまとめます。主人公であるシャーロック・ホームズとワトスン博士は除いています。
名前 | 説明 |
---|---|
トレローニー・ホープ閣下 Rt. Honourable Trelawney Hope |
欧州担当大臣で依頼人 重要な外交文書を保管していたが紛失してしまう |
ヒルダ夫人 Lady Hilda Trelawney Hope |
トレローニー・ホープの妻 過去の恋文が原因で夫の外交文書を盗み出してしまう |
ベリンジャー卿 Lord Bellinger |
首相。依頼人 |
エドワード・ルーカス Eduardo Lucas |
ヒルダ夫人の脅していた男 恋文と交換で外交文書を手にするが妻に殺害されてしまう |
アンリ・フルネー Madame Henri Fournaye |
ルーカスの妻 ヒルダ夫人が不倫相手だと思い込み夫を殺害する |
コメント