『入院患者』は、医師の同居人の様子がおかしくなるエピソードです。原作小説は1893年に発表されました。短編集「シャーロック・ホームズの思い出」に収録され、発行されたのは1893年です。
項目 | 内容 |
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発表 | 1893年8月発表 (ストランド) |
発表順 | 23作品目 (60作中) |
発生時期 | 1886年10月6日~ 同年10月7日 |
発生順 | 5件目 (60作中) |
あらすじ
トレヴェリアンという優秀な医師がホームズのもとを訪れ、ある出来事について話し始める。数年前、トレヴェリアンは資金不足に悩んでいた。そんな彼のもとに、ブレシントンという男が現れ、トレヴェリアンに開業資金などの出資を持ち掛ける。条件は、ブレシントンがトレヴェリアンの病院に患者として同居すること、病院の収入の1/4をブレシントンが受け取ることというものだった。この条件に応じたトレヴェリアンは開業医として成功し、ブレシントンとの関係も良好で、何もかもが上手くいっていた。
ところが、数週間ほど前、ブレシントンが近くで起きた強盗事件を知り、ひどく怯え始める。そして2日前。その日は、かねてから診察を依頼していた患者と付き添いの息子が病院に来ていた。診断中、その患者が発作を起こしたため、トレヴェリアンは診察室を離れ薬を取りに向かった。数分後、戻ってみると、患者と待合室にいたはずの息子は姿を消していた。翌日、いなくなった患者とその息子は、再び病院にやってきて診察の続きを受けたのだが、その夜のこと、ブレシントンが自分の寝室に誰かが侵入したと喚き始める。寝室にはブレシントンでもトレヴェリアンのものでもない足跡が残されていた。疑わしいのは、二日続けて病院を訪れた患者と付き添いの息子である。詳しく調べるため、トレヴェリアンはホームズに調査を依頼するのだった。
依頼を受けたホームズは調査のため、病院へと向かう。ホームズはブレシントンに足跡の心当たりを訪ねるが、ブレシントンは正直に話さない。これに対してホームズは捜査を打ち切り、病院を去ってしまう。翌朝、ブレシントンの死体が発見される。警察は自殺と考えるが、ホームズは計画殺人だと推理する。ホームズは、死体がみつかったブレシントンの寝室を調べ、3種類の足跡、銘柄や吸い口の違う煙草の吸殻などを見つける。これらの証拠からホームズは、ブレシントン以外に、3人の男が寝室にいたことを明らかにする。
このとき、ホームズはある事件を思い出してた。それは強盗事件で、五人組の強盗が捕まり、そのうちの一人が仲間を裏切って自白していた。自白した者は罪を逃れたが、残る四名のうち主犯格は絞首刑となり、他の三人は刑務所へと送られた。
ネタバレ
強盗事件で自白し、仲間を裏切ったのはブレシントンだった。数週間前、ブレシントンは新聞で仲間の出所を知り怯えていたのだった。かつての仲間はブレシントンの居場所をつきとめ、患者と付き添いのふりをして病院を訪れていた。その目的はブレシントンへの復讐だったが、初日もその次の日もブレシントンは不在だった。そこで出所した仲間達は夜中に寝室に忍び込み、ついにはブレシントンを縛り首にした。三人の復讐者は、その後、姿をくらました。だが、アメリカ行きの客船で沈没事故に遭い、全員死亡したのではなかと考えられていた。
ドラマ
グラナダ版ドラマは、1985年9月15日に放送されました。シーズン2の第4話(51分)となります。
項目 | 内容 |
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シーズン | 2 |
話数 | 4 |
放送順 | 11 |
放送日(英) | 1985年9月15日(日) |
出演者 | キャスト一覧 |
ストーリー
ホームズとワトソンがベーカー街に戻ると、居間で、パーシー・トレヴェリアン医師が待っていた。トレヴェリアンは同居人について、奇妙な出来事を話し始める。
2年前、トレヴェリアンは医師としての働き始めようとしていたが、その頃、深刻な資金不足に悩んでいた。そんなある日、ブレシントンという金持ちが彼の前に現れ、ある取引を提案した。その取引は、ブレシントンが開業費用などを出資する代わりに、ブレシントン自身を患者として病院に入院させ、さらに、トレヴェリアンの収入の1/4をブレシントンが受け取るという内容だった。トレヴェリアンはこの取引に応じ、二人の奇妙な関係は2年間続いた。
特に問題のない日々を送っていた二人だったが、強盗のニュースを知ったブレシントンが突然何かに怯え始める。そして、ブレシントンは、診察に来た二人のロシア人が自分の寝室に忍び込んだと気付き、トレヴェリアンに最後の希望であるシャーロック・ホームズを迎えに行くよう懇願する。そうして、トレヴェリアンはホームズのもとを訪ねたのだった。
トレヴェリアンの話を聞いたホームズはワトソンを連れて、ブレシントンのもとへ向かい、話を聞こうとします。ホームズを呼びつけたブレシントンですが、ホームズの質問に明確には答えません。ホームズは、ブレシントンの態度に腹を立て、その場を立ち去るのだった。
翌朝、ホームズに電報が届く。それは、ブレシントンの死亡を報せていた。ブレシントンは寝室で首を吊っており、警察は自殺と考えていた。しかし、現場に駆け付けたホームズは、寝室を綿密に調べ、自殺ではないと断定する。寝室には三人の男がおり、彼らはブレシントンを首吊りのようにして殺害した。その動機は、ホームズが見つけた古い新聞の切り抜きに書かれていた。約15年前、ブレシントン、本名サットンは他の四名の泥棒達と共謀して、銀行強盗をはたらいた。そして、ブレシントンは他の仲間を警察に売った。ブレシントンに裏切られて捕まった四人のうち、一人は殺人罪で絞首刑となり、残りは15年の禁固刑を言い渡され、牢屋に入れられた。刑期を終え、出所した彼らは、裏切り者であるブレシントンへの復讐を果たした。ホームズは、ブレシントンを殺害した三人を逮捕できなかったが、その後、船の沈没事故で全員が溺死するのだった。
原作とドラマの違い
原作とドラマはほぼ同じ内容です。原作では、患者が二回病院にやってきますが、ドラマでは一回だけです。その目的も、原作の方は復讐を実行するためとなっていますが、ドラマは確認のために病院に来ています。
なお、ドラマではハドソン夫人が活躍(?)していたり、ワトソンが推理を披露したりしますが、このような描写は原作にはありません。
感想
入院患者になりすまして正体を隠そうとしていたようですが、割とあっさり見つかっている気がします。そしてこれまたあっさり殺されています。
なんだか怪しいスポンサーは実は強盗で、しかも、仲間を裏切って自分だけ罪から逃れた人物でした。この人物;ブレシントンが本当のことを話さなかったため、強盗事件が隠され、謎を呼びました。また、ホームズのもとにやってきた医者が同居人は強盗事件を知って怯え始めたと勘違いしたため、真相がわかりにくくなっていました。本当は、昔の仲間達の出所に怯えていたので、医師はちょっと早とちりしたようです。ホームズシリーズには、怪しい人や怪しい広告などなどが度々登場するわけですが(赤毛の人しか入れない組合などが最たる例だと思っています)、ブレシントンはスポンサーとして常軌を逸していない普通な人物だったように思います。
考察
医者に出資を申し出る男、というのは特に謎めいていないように思います。売上のいくらかを頂戴するというのも不自然ではない、むしろ出資者として当然の主張だと思いますが、ただ、患者として住むというのは奇妙な条件です。結局、出資者は犯罪者で、姿を隠すために出資を持ち掛けていました。被害者は命を狙われていることに気付いていたため、もしかしたら、殺人を未然に防ぐこともできたかもしれません。
まとめ
シャーロック・ホームズの「入院患者」について、原作とドラマのあらすじとネタバレ、感想などをご紹介しました。221Bにやってきたのが依頼人の使いであるというのが、ややいつもと違います。
- 発端医師のトレヴェリアンがホームズのもとにやってくる
医師の奇妙な同居人であるブレシントンが本当の依頼人 - 展開ホームズがブレシントンのもとへ向かう
ブレシントンが何かを隠している - 結末翌日、ブレシントンが…
ホームズが真相を掴み後日談が語られる
登場人物
登場人物をネタバレありで簡単にまとめます。原作およびドラマに共通する内容で一覧にしています。なお、主人公であるシャーロック・ホームズとワトスン博士は除いています。
名前 | 説明 |
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パーシー・トレベリアン Dr. Percy Trevelyan |
221Bを訪れた開業医 ブレシントンを患者として住まわせている |
ブレシントン Blessington |
トレベリアンに開業資金を提供 強盗犯の一人で裏切り者 |
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