『ソア橋の謎』は、あるトリックが使われた作品で有名なエピソードです。原作は1922年に発表されました(正確には、1922年の2月と3月)。原作小説は「トール橋」と訳される場合もあります。単に「ソア橋」とするタイトルだけではなく、「ソア橋の謎」「ソア橋の難問」「ソア橋事件」などと訳されることがあり、バリエーションが豊富です。なお、原題は“The Problem of Thor Bridge”となっています。
項目 | 内容 |
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作者 | コナン・ドイル |
発表 | 1922年2月発表 (ストランド) |
発表順 | 50作品目 (60作中) |
発生時期 | 1900年10月4日~ 10月5日 |
発生順 | 48件目 (60作中) |
あらすじ
ベーカー街221Bを訪れた金鉱王のニール・ギブスンがホームズに妻マリアの殺害について調査を依頼する。マリア殺害の容疑で捕まったのは、家庭教師のグレイス・ダンバー嬢で、ギブスンはダンバー嬢の無実を晴らして欲しいようだった。
マリアの遺体はソア橋で発見された。マリアは頭を撃ち抜かれて死んでおり、現場付近から、凶器の拳銃は見つからなかったのだが、ソア橋の近くにあるギブスン屋敷で凶器と思しき拳銃がみつかる。その拳銃は、グレイス・ダンバーの衣装棚に置かれていた。
死んだマリアは手にグレイスから送られた手紙を握り締めていた。手紙には、グレイスがソア橋にマリアを呼び寄せたような内容が書かれていた。さらに、夫のギブスンが、妻ではなく、若いダンバー嬢に関心を示していたことも判明する。マリア亡き後、グレイスが後妻になるとも考えられ、その上、アリバイのないグレイス嬢は、当然のごとく、逮捕されてしまったわけである。
ギブスンによれば、妻マリアへの愛情は心底冷めており、つらく当たることもあったという。一方、妻マリアは、冷めることなく夫を愛し続けていたという。そんな折に、家庭教師のグレイス嬢が現れる。若くて美しいグレイスに惚れてしまったギブスンは、彼女に告白する。しかし、グレイスはそれを拒否し、屋敷を立ち去ろうとする。それをギブスンが引き止め二度と言い寄らないことを約束し、グレイスは屋敷に残る運びとなった。
どうやらギブスンは、ギブスンの告白などを知ってしまったマリアが嫉妬にかられ、グレイスと争いになり、そのとき、銃が暴発したのではないかと考えているようだった。
ギブスンから事情を聞いたホームズとワトスンは、さらなる調査のため、ソア橋のあるハンプシャーを訪れる。そして、凶器の拳銃は屋敷に置かれていたこと、もともとは二丁セットだったということ、拳銃一丁が行方不明になっていることなどを知る。
遺体がみつかったソア橋は石造りの橋で、石の欄干には、真新しい欠けた傷があった。ただし、死体からは、やや離れており、どういう経緯でついた傷なのかはわからなかった。
その後、ホームズとワトスンは独房でグレイスと面会する。グレイスはマリアの手紙でソア橋へと呼び出されたと話し、手紙に従ってソア橋へと向かったという。そして、ソア橋でマリアに罵倒されたため、その場から立ち去り、自室に閉じこもった。
グレイスの話が本当であるならば、グレイス嬢は犯人ではない。そして、ソア橋の欄干に付いた傷の話題があがったとき、ホームズが、なにかにひらめく。
ネタバレ
ホームズはワトスンを連れてソア橋に戻った。そこで、重い石とワトスンが持っていた拳銃をそれぞれ紐の両端に結び、石の方を欄干の外側、すなわち、水面側にぶら下げた。そして、ホームズ自身は、拳銃を持って死体が倒れていた場所に立った。
ホームズが拳銃を頭の位置まで持ち上げ、その手を離すと、石は水中へ落下し、石と紐で結ばれた拳銃も、欄干を乗り越えて、池へと落ちた。欄干には、切り欠いたような傷がのこっており、それは、拳銃が欄干を乗り越える時できた傷だった。水中を探せば、ワトスンの拳銃はもちろん、犯行に使われた拳銃、すなわち、二丁一対の消えた片方が、石に結ばれた状態で見つかに違いなかった。
真相解説
ホームズが見抜いたトリックは、拳銃を放すと自動的に池へと落ちる仕組みでした。このトリックを使ったのは死んだマリア自身で、つまり、マリアは他殺ではなく自殺でした。
マリアは、夫だけではなく、子供達も、家庭教師のグレイス・ダンバーに奪われたと感じていました。そんなマリアは、グレイスをひどく憎み、自殺を他殺に偽装し、犯人をグレイスに仕立て上げようとします。マリアが握っていた手紙やグレイス嬢の部屋でみつかった拳銃などなどは、マリアが仕込んだ偽の証拠だったというわけです。
名言
We must look for consistency. Where there is a want of it we must suspect deception.
一貫性を探さなければならない。欠落していたら、欺瞞を疑わなければならない。
Arthur Conan Doyle , Thor Bridge
ドラマ
グラナダ版ドラマは1991年2月28日に放送されました。シーズン5の第2話(48分)となります。
項目 | 内容 |
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シーズン | 5 |
話数 | 2 |
放送順 | 28 |
長さ | 48分 |
放送日(英) | 1991年2月28日(木) |
キャスト | キャスト一覧 |
原作とドラマの違い
原作とドラマのストーリーは、概ね同じです。大きな違いといえるのは、221Bでのギブスンの行動です。原作ではギブスンがホームズに怒って221Bを去ったあと、戻ってきますが、ドラマでギブスンは戻ってきません。そのため、ドラマでは、ホームズが独自に調査することになり、詳しい事情をギブスンの屋敷で知ることになります。
その他、アーチェリーのシーンや、ギブスンが自動車に乗っているシーンなどは、ドラマのオリジナルです。
ロケ地
ギブスンの屋敷やソア橋はCapesthorne Hall(ケープスソーン・ホール)という場所が撮影に使われています。ホームページを見る限り、現在は結婚式場として使われているようです。
感想
自殺を他殺にみせるトリックが初めて登場した作品といわれています。逆に、他殺を自殺、もしくは、他殺を事故死や病死にみせるというのは、完全犯罪を成し遂げようとするときや罪から逃れようとするときによく登場します。なので、このエピソードのように、自殺を他殺にみせたために犯人・主謀者は死んでいるというのは、驚きの結末といえそうです(初めてこのトリックに出会った時に限りますが)。
犯人は、罪をきせるという方法を選んだわけですが、どうせ死ぬのであれば、相手も殺してしまったほうが、いい気もします。死んでしまったら、相手が苦しんでいるか、そもそも計画通りに殺人の容疑をかけられているかがわからなくなります。しかし、実は、同じようなことをした人物が実在したりします(なんて説得力のある反証だろう。悪いことをしたのは間違いないが、歴史に名を刻んでいます)。
アンナチュラル
とはいえ、トリックの初出は、この短編が公開された1922年ということなので、100周年を既に迎えているということになります。アンナチュラルという石原さとみさん主演の法医学ドラマでは、この“ソア橋”自体が登場しており、そのトリックも明かされたりしています。そして、他にも、自殺を他殺にみせるという作品はあります。
トリック考察
当時は線状痕や硝煙反応というのがなかったので、拳銃を凶器に使うことが容易でした。ただこれは、対の刃物などに変えればいいだけなので、たいした指摘ではありません。実際、現代という設定においてソア橋トリックが使われるときは、凶器がナイフや剣の類になっています。拳銃の利点は、やはり、一思いに死ねそうな部分にあるのかもしれませんが、多少息があった方が事後処理はしやすくなります(文字通り、死ぬほど苦しいので、現実的ではないかもしれませんが)。
まとめ
シャーロック・ホームズの「ソア橋の謎」について、原作とドラマのあらすじとネタバレ、感想などをご紹介しました。このエピソードは、依頼人が捜査を依頼して、ホームズが調査するという流れでした。
- 発端ギブソンがギブソン夫人殺害の調査を依頼する
疑われているのは家庭教師のダンバー嬢 - 展開ホームズとワトスンが現場のソア橋へと向かう
逮捕されたダンバー嬢に話を聞く - 結末ソア橋の欄干についた傷の謎が明かされる
登場人物
登場人物をネタバレありで簡単にまとめます。シャーロック・ホームズとワトソン博士は除いています。
- マリア・ギブスン
Maria Gibson
犯人。ソア橋で死体となってみつかった女性で、実は自殺。自殺を他殺に偽装することで、恨んでいた家庭教師に濡れ衣を着せようとした。 - グレイス・ダンバー
Grace Dunbar
犯人にされそうになった人物。若くて美人な家庭教師として、子供達に親しまれや父親からは恋心を抱かれていまう。美しくて聡明なのは、なんて罪なことでしょう。 - ニール・ギブスン
Neil Gibson
そもそもの原因をつくった人物。妻のマリアに飽き、若い家庭教師に手を出そうとする。マリアは夫を愛していたので、その愛に応えていれば、事件は防げたかもしれない。
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