『ノーウッドの建築業者』は、見ず知らずの男性の相続人となった若い弁護士が殺人の容疑をかけられるエピソードです。原作は1903年に発表されました。短編集「シャーロック・ホームズの帰還」として発行されたのは1905年です。
項目 | 内容 |
---|---|
発表 | 1903年11月発表 (ストランド) |
発表順 | 29作品目 (60作中) |
発生時期 | 1895年8月20日~ 同年8月21日 |
発生順 | 37件目 (60作中) |
あらすじ
「空き家の冒険」で事件から数ヶ月後、ホームズはワトソンに、興味深い事件がないと愚痴をこぼしていた。そこへ、ジョン・マクファーレンという若い弁護士がやってきた。慌てた様子の彼は、ノーウッドの建築業者であるジョナス・オールデイカー殺害で逮捕されようとしていた。
死んだオールデイカーは52歳の独身男性で、お金持ちだった。ジョンは、オールデイカー氏とほぼ初対面で、面識はなかった。しかし突然、オールデイカーがジョンの法律事務所へやって来て、遺産をジョンに相続したいと申し出た。そして、オールデイカーは契約を結ぶため、その日の夜に、ジョンを屋敷に招待したのだった。ジョンは招待に応じ、契約を済ませ、帰宅した。ところが翌日、オールデイカーの失踪が明らかになり、屋敷の裏にある木の山で焼けた生き物の死体が見つかる。さらに屋敷には、争った跡や散らばった書類などが残されていた。
ホームズに助けを求めたジョンだったが、レストレードによって逮捕されてしまう。ホームズは調査のため、ジョン・マクファーレンの両親が住むブラックヒースへと向かう。そこで彼は、オールデイカーとジョンの母親が、何年も前に婚約していたが、それを母親が破棄したことを知る。ホームズはオールデイカーの屋敷も調べましたが、若き弁護士・ジョンを救うことができそうな証拠は何も発見できなかった。
ネタバレ
翌日、レストレードが、屋敷で新しい証拠を発見する。それはジョンの指紋だった。報せを受けて駆け付けたホームズは、前日、壁を調べたとき、そこに指紋はなかったと確信する。この指紋を根拠に、ホームズはオールデイカーがまだ屋敷にいると推理し、隠れているオールデイカーをおびき出すため、火事を装う。
火事だと勘違いしたオールデイカーは、秘密の部屋から慌てて飛び出し、待機していたホームズや警官達に捕まる。オールデイカーは投資に失敗し借金を抱えていたため、獣の死体を使って自分が死んだようにみせようとしていた。さらにオールデイカーは婚約破棄したジョンの母親への復讐も企て、ジョンに罪を着せようとしていた。ジョンの逮捕を確実にするため、ジョンの封蝋についた指紋を屋敷につけたが、これはホームズにヒントを与える結果となったのだった。
ドラマ
グラナダ版ドラマは、1985年9月8日に放送されました。シーズン2の第3話(52分)となります。
項目 | 内容 |
---|---|
シーズン | 2 |
話数 | 3 |
放送順 | 10 |
放送日(英) | 1985年9月8日(日) |
出演者 | キャスト一覧 |
ストーリー
ジョン・ヘクター・マクファーレンがホームズに助けを求めにやってきた。若い弁護士のジョンには、オールデイカーを杖で殴り、その死体を燃やしたという容疑がかかっていた。焼け死んだと思しきオールデイカーはジョンを相続人に選び、遺言書作成のため、彼をノーウッドの自宅に招いていたのだが、オールデイカー氏の屋敷でジョンの血まみれの杖が発見されたため、ジョンはレストレードに逮捕されたのだった。
ジョン・マクファーレンが犯人であると確信する警察ですが、ホームズはワトソンと共に捜査を始める。そして、ホームズ達は、その昔、オールデイカーと婚約していたジョンの母親が、オールデイカーの厄介な性格に気付き、婚約を破棄していたことを知る。一方、ジョンが犯人だと信じて止まないレストレードは、焼け跡から犠牲者のボタンをみつけて喜んでいた。
捜査を続けたワトソンは、オールデイカーが所有する金の大半を、コーネリアスという人物に送金していたという事実を掴む。そして、ホームズは、とある浮浪者がオールデイカーを二度ほど訪ねた後、行方不明になっていること調べ上げる。その翌日、レストレードは屋敷でジョンの血まみれの指紋を発見。ところが前日、同じ場所をホームズがくまなく調べたが、そこには何もなかったはずだった。
ホームズはオールデイカーの屋敷を調べ、秘密の部屋になりそうな場所を見つけ出す。そして、巡査にわらを持ってこさせ火をつけ、みんなで「火事だ!」と叫ぶよう命じる。煙にいぶり出され、オールデイカーが姿を現す。オールデイカーは債権者から逃れるため、自分の服を与えた浮浪者を殺し、自分が死んだようにみせようとしていた。コーネリアスという偽名で銀行口座を開設したのも、オールデイカー自身だった。さらに、ジョン・マクファーレンの母親に対する復讐のため、遺言書作成時に残されたジョンの拇印を使って、ジョンに罪をなすりつけようともしていた。
原作とドラマの違い
原作とドラマはほぼ同じ内容です。ただし、ドラマでは焼死体が浮浪者の死体に変えられています。そのため、浮浪者に関するストーリーがドラマには追加されています。
原作で見つかった焼死体については明言されていません。ワトスン博士は記録に残す時はウサギにすると話していますが、犯人は正解を語っていません。さすがにウサギの死体とヒトの死体を間違えることはないと思いますが、ヒトだったと告白すると罪が増えるため、犯人のオールデイカーは黙秘しているとも考えられます。
感想
見ず知らずの人に、ある日突然相続人にしてあげると言われたら、怪訝な表情を浮かべるのは間違いないように思います。しかし、私のように貰える物は貰っておく主義の方は、引っ掛かってしまうかもしれません。実は借金でしたなど、何か裏がありそうだというのはなんとなくわかりますが、まさか殺人の濡れ衣を着せられるとは思いもよりません。
突如、知らない人の相続人になるというのが事件の発端でした。話が持ち掛けられてすぐに遺言状を作成し、とんとん拍子で、被相続人(建築業者のオールデイカー)が死亡します。考えるスキを与えない、テンポのよい犯行でした。あれよあれよという間に犯人になった弁護士には同情します。
考察
自分が何者かに殺されたようにみせるという偽装工作が登場し、とても推理小説っぽい作品だと思います。犯人は死体を準備するだけではなく、それが自分自身であるようにみせるため工夫していたようです。そして、無実の罪を着せる人物には、動機捏造のため、遺産を相続するという話を持ち掛けていました。遺産相続が決定すれば(遺言書が整えば)、遺産を得るために犯行に及んだという動機が生じます。凶器の杖は、罪をきせる人物のものを使い、さらに、遺言書作成時の蝋に指紋が残っていることを利用し、偽の証拠も残しました。ただ、指紋という証拠を捏造するタイミングが遅く、ホームズに決定的なヒントを与えてしまいます。
自分が死んだようにみせるため、犯人は替え玉を準備しています。この事件では、死体を焼いていましたが、誰なのか全くわからないと死亡が確定しないため、証拠をあえて残しています(浮浪者に服を渡して殺し、その後焼いたためボタンという遺留品が残りました)。この証拠に飛びついたレストレード警部は事件を見誤っています。
まとめ
シャーロック・ホームズの「ノーウッドの建築業者」について、原作とドラマのあらすじとネタバレ、感想などをご紹介しました。依頼人が現れて捜査し、真相に至るという流れになっています。
- 発端依頼人のジョン・マクファーレンがホームズのもとにやってくる
ジョンはオールデイカー殺害の容疑をかけられていた - 展開レストレードがジョンを逮捕する
ホームズとワトスンがジョンの母親を訪ね、オールデイカーの屋敷へ向かう - 結末翌日、屋敷でジョンの指紋という決定的な証拠がみつかる
ホームズが指紋を疑い真相を見抜く
登場人物
登場人物をネタバレありで簡単にまとめます。原作およびドラマに共通する内容で一覧にしています。なお、主人公であるシャーロック・ホームズとワトスン博士は除いています。
名前 | 説明 |
---|---|
レストレイド警部 Inspector Lestrade |
スコットランドヤードの警部 ジョンをひどく疑う |
ジョン・マクファーレン John Hector McFarlane |
依頼人の弁護士 オールデイカーにはめられる |
ジョナス・オルデイカー Jonas Oldacre |
ノーウッドの建築士 自分がジョンに殺されたようにみせた |
マクファーレン夫人 Mrs. McFarlane |
ジョンの母親 オールデイカーを振ったことがある |
コメント