『マザランの宝石(マザリンの宝石)』は、マザリン・ストーンという宝石が盗まれるエピソードです。原作は1921年に発表されました。「マザリンの宝石」というタイトルで概ね統一されています。
項目 | 内容 |
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作者 | コナン・ドイル |
発表 | 1921年10月発表 (ストランド) |
発表順 | 49作品目 (60作中) |
発生時期 | 1903年夏 |
発生順 | 57件目 (60作中) |
あらすじ
ワトスン博士が友人で元ルームメイトのシャーロック・ホームズを訪ね、若い使用人のビリーに部屋へと案内された。ビリーによれば、ホームズは眠っているという。まだ夏の夜の七時だった。ワトスンは不思議に思った。きっとホームズは難しい事件に取り組んでいるに違いない。ビリーによれば、確かにホームズは調査に疲れ眠っているのだという。
ワトスンはマザリン・ストーンの盗難事件を思い出した。ホームズはその事件の調査を首相、内務大臣、そして、カントルミア卿に頼まれた。カントルミア卿はホームズを信頼していなかったようで、ホームズが失敗するのを望んでいる風でもあった。
ワトスンがカーテンで覆われた窓に気付く。どうやら、敵を欺くため、ひじ掛け椅子に蝋人形を置いており、本物にみせるため、ときどき動かしているらしい。そんな話を聞いたワトスンは昔のこと思い出していた。空気銃の事件だった。
寝室からホームズが姿を現し、ワトスンに警告した。ネグレット・シルヴィウス伯爵という男がワトスンの命を狙っている。ワトスンが何故捕まえないのかと尋ねると、ホームズはマザリン・ストーンがどこにあるのかまだ分からないからだと答えた。ホームズは既に、シルヴィウス伯爵とボクサーのサム・マートンがダイヤモンドを盗んだと確信していた。証拠も集めていたし、伯爵が空気銃を手に入れようとしたことも、向かいのアパートからホームズを狙っていることも知っていた。
話し込んでいると、一度ひっこんだビリーが再び姿を現し、噂のシルヴィウス伯爵が221Bの玄関に来ていると伝える。共犯者のマートンも一緒で、マートンは外で待機していた。ホームズはメモをワトスンに渡し、そのメモをヨール警部に届けるよう依頼する。二人は寝室に入り、ワトスンは警部のもとへ、そしてホームズはその場に隠れ様子を窺った。伯爵が誰もいないリビング・ルームに案内され、しばらくして、ホームズの蝋人形を殴ろとした。まさに殴られようとしたそのとき、ホームズが寝室から姿を現し、伯爵に忠告した。
冷静なホームズは伯爵に着席を促した。応じたシルヴィウス伯爵はスパイの一件を避難し始める。ホームズが老人を送り込んだ。しかしそれをホームズは否定する。誰も送り込んではない。老人は変装した私だった。ホームズがそういうと、伯爵はますます怒り始める。
ホームズは、伯爵がマザリン・ストーン盗難の犯人だと告げる。犯行時に伯爵をのせた馭者の証言、マザラン・ストーンが保管されていた博物館の警備員の証言、マザリン・ストーンの加工を断った宝石商の証言…。これらは、伯爵と共犯者のマートンを逮捕するのに十分な証拠に違いなかった。しかし、ホームズの仕事のは犯人探しではなく、盗まれたマザリン・ストーンを探すことだった。ホームズは取り引きを持ち掛けた。マザリン・ストーンを渡せば、懲役を免れる。どうするかは、マートンと話し合って決めて欲しい――。
登場人物とキャスト
登場人物とキャストをまとめます。ホームズ、ワトスン博士、ハドスン夫人は省いています。原作小説とドラマはストーリーが異なっているため、ドラマにサム・マートンなどは登場しません。逆にジョン・ガリデブやガリデブ兄妹はドラマのみの登場となっており、原作には登場しません。
名前 | キャスト |
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ネグレト・シルヴィアス伯爵 Count Negretto Sylvius |
ジョン・フィンチ Jon Finch |
サム・マートン Sam Merton |
– |
カントルミア卿 Lord Cantlemere |
ジェームズ・ヴィリアーズ James Villiers |
ビリー Billy |
– |
ジョン・ガリデブ John Garrideb |
ギャヴァン・オハーリー Gavan O’Herlihy |
アグネス・ガリデブ Agnes Garrideb |
フィリス・カルヴァート Phyllis Calvert |
エミリー・ガリデブ Emily Garrideb |
バーバラ・ヒックス Barbara Hicks |
ネーサン・ガリデブ Nathan Garrideb |
リチャード・カルディコット Richard Caldicot |
ネタバレ
ビリーがサム・マートンを呼んできた。ホームズは二人に話し合うよう伝えた。話し合いの間、ホームズは寝室でヴァイオリンを弾くつもりだと言い、その場から姿を消した。
シルヴィウス伯爵とマートンはヴァイオリンの音が響く中、言われた通り、話し合った。ヴァイオリンは騒々しく、会話は聞こえないはずだった。サムが窓のそばの肘掛け椅子に人影を発見したが、伯爵が人形だと伝えた。部屋には誰もいないはずである。物音も聞こえたが、これは通りからものに違いないと、二人は考えていた。
マートンはホームズの殺害を提案した。対して伯爵はホームズに嘘を話すことを提案した。警察に証拠が渡っているはずであるから、ホームズを殺したところで、状況は変わらない。ならば、マザリン・ストーンの在り処について、適当な嘘をつけばいい。むしろ、それ以外にはよい方法がないように思えた。
結論が出たところで、伯爵がおもむろにマザリン・ストーンをポケットから取り出した。伯爵はずっと肌身離さず持っていたのだった。伯爵はマートンに美しいマザリン・ストーンをみせるため、光を求めて窓へと近づいた。そして次の瞬間には、どこからともなく現れたホームズがマザリン・ストーンを持っていた。
真相解説
シルヴィウス伯爵が取り出したマザリン・ストーンをホームズが手にします。実は、部屋にあった蝋人形は途中で本物のホームズに入れ替わっていました。寝室から聞こえていたヴァイオリンの演奏は蓄音機からの音で、ホームズが弾いていたわけではありません。ホームズは寝室に入ったあと、もう一つの扉を使って部屋からカーテンの裏に移動していました。伯爵たちが耳にした物音というのは、ホームズが蝋人形と入れ替わった時の音です。
ホームズがマザリン・ストーンを取り返した直後に、ワトスンと警部がやってきて、犯人は逮捕されます。
名言
I am a brain, Watson. The rest of me is a mere appendix. Therefore, it is the brain I must consider.
僕は頭脳そのものだ。残りは付属物にすぎない。だから頭だけは大切にしなきゃね。
Arthur Conan Doyle , The Adventure of the Mazarin Stone
ドラマ
グラナダ版ドラマは1994年3月28日に放送されました。シーズン6の第4話(51分)となります。なお、国内放送では「マザランの宝石」が最終話となっていました。
項目 | 内容 |
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シーズン | 6 |
話数 | 5 |
放送順 | 40 |
長さ | 51分 |
放送日(英) | 1994年4月4日(月) |
キャスト | キャスト一覧 |
ストーリー
フランス政府に返還される予定だったマゼラン・ストーンが盗まれてしまう。カントルミア卿は不在のシャーロック・ホームズの代わりに、マイクロフトに調査を依頼する。
ちょうど同じ頃、ワトソン博士はガリデブ姉妹の相手をしていた。姉妹は兄のネーサン・ガリデブについて悩みを抱えていた。ある日、アメリカ人のガリデブがやってきた。そのガリデブ氏によれば、アレクサンダー・H・ガリデブの遺言により、男性の成人したガリデブが三人集まれば、500万ドルもの遺産を受け取れるという。姉妹はネーサンがこの話を信じてしまったため、説得してもらおうと思い、相談に現れたのだった。ワトソンが調べたところ、遺言の話を持ち掛けたアメリカ人のジョン・ガリデブはうさんくさい人物だった。
一方、マイクロフトはマゼラン・ストーンが保管されていた博物館へ足を運び、そこで、博物館の職員に話を聴く。職員は宝石が盗まれた日にシルヴィアス伯爵の姿を目撃したという。その後、マイクロフトはシルヴィアス伯爵を訪ねて問い質し、伯爵がマゼラン・ストーンを持っていることを確信する。調べると、伯爵は宝石商を尋ねマゼラン・ストーンの加工を依頼したのだが、断られていた。他にマゼラン・ストーンを加工できそうなのは、名人と呼ばれたロジャー・プレズベリーだが、数年前に殺されたという。
その後、ワトソンはマイクロフトと合流し、ロジャー・プレズベリーを殺害した犯人がジョン・ガリデブであることに気付く。ジョン・ガリデブの本名はジェームズ・ウィンターで、実は、死んだプレズベリーの弟子だった。そして、ガリデブ家に間借りしていた下宿人が突然姿を消し、部屋はネーサンが占拠していたことも判明する。
ネタバレ
ジョン・ガリデブことジェームズ・ウィンターのねらいはネーサンを外出させることにあった。ガリデブ家の下宿人は死んだロジャー・プレズベリーで、プレズベリーは地下に加工場をつくっていた。その加工場をウィンターが使うため、遺産相続の話をでっち上げたのだった。
マゼラン・ストーンを盗んだのは、間違いなくシルヴィアス伯爵だった。伯爵はウィンターと共謀して、マゼラン・ストーンを加工しようとしていた。しかし、伯爵にはウィンターに加工を依頼するつもりなどなかった。
ワトソン博士とマイクロフトはガリデブ家で張り込みをし、現れたウィンターを捕まえた。そこで、伯爵の裏切りを伝え、逃亡用の船がどこから出帆するか聞き出した。そして、シルヴィアス伯爵を追い詰めることに成功する。伯爵は杖にマゼラン・ストーンを隠していた。
原作とドラマの違い
原作小説とドラマはストーリーがかなり違っています。ドラマのタイトルは「マザランの宝石」となっていますが、原作の内容はあまり登場しません。同じ部分は、マザリン・ストーンが盗まれた点だけで、原作の人形などはドラマには一切登場しません。
ドラマはホームズシリーズの短編「三人ガリデブ」と「マザランの宝石」を組み合わせたような内容になっています。また、主演であるジェレミー・ブレット氏が撮影直前に発作を起こしてしまったため、ホームズはほとんど出演せず、代わりにマイクロフトが登場しています。なお、原作に置いてマイクロフトは、「三人ガリデブ」にも「マザランの宝石」にも登場しません。
感想
ドラマはシャーロック・ホームズがほとんど登場しません。マイクロフトとワトソンの活躍が楽しめるスピンオフ・エピソードになっていました。原作とドラマで、全然違うストーリーになっているため、原作の映像化を期待している方はがっかりするかもしれません。
考察
ドラマは、二つの事件の関連性が謎となるエピソードだったといえるかもしれません。全く関係のなさそうな事件の意外なつながり、というのは、他の作品でもみかけると思います。
まとめ
シャーロック・ホームズの「マザリンの宝石」について、原作とドラマのあらすじとネタバレ、感想などをご紹介しました。小説とドラマの共通点はほとんどありません。
- 発端[小説]ワトスン博士が221Bを訪れ、ホームズが調査していたマザリン・ストーンの盗難事件について話を聞く
[ドラマ]ホームズ不在のため、マイクロフトがマザリン・ストーン盗難事件を調査する
[ドラマ]ワトスン博士がガリデブの奇妙な遺産相続について調査する
- 展開[小説]ホームズが犯人に命を狙われているという
[ドラマ]マイクロフトとワトスンが合流し盗難と遺産相続が繋がっていることに気付く
- 結末[小説]宝石を盗んだ伯爵と共犯者が221にやってきて…
[ドラマ]マイクロフトとワトスンがガリデブの家で張り込みをし…
- ネグレト・シルヴィアス伯爵
Count Negretto Sylvius
貴重な宝石であるマザリン・ストーンを盗んだ犯人。宝石はポケットに入れて持ち歩いていた。なお、ドラマでは杖に持ち手部分に隠している。
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