『ダベンハイム失踪事件』はタイトルの通り、郵便を出すために外出したマシュー・ダベンハイムが失踪するエピソードです。この記事では、あらすじとネタバレ、登場人物、トリック解説、感想・考察などをまとめています。
項目 | 内容 |
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シーズン | 2 |
エピソード | 5 |
放送日(英国) | 1990年2月4日(日) |
放送日(日本) | 1991年1月29日(火) |
出演者 | キャスト一覧 |
あらすじ
郵便を出しに行くといって外出したきり、ダベンハイムは帰宅しなかった。身代金の要求はなく、死体も見つからない。警察は、氏が失踪した日にダベンハイムの自宅を訪れたローウェンを疑う。彼はダベンハイムの商売敵であり、十分な動機があった。
後日、ダベンハイムの自宅の金庫が破壊され、中に入っていた宝石類が盗まれていたことが判明する。ローウェンが宝石を盗んだという見立てが強まる中、ある浮浪者がダベンハイムの指輪を持っていることも明らかになる。その浮浪者はローウェンが指輪を捨てた人物であると証言するが…。
事件概要
ダベンハイムが家を出たのは金曜日の午後4時40分頃です。この後にローウェンが屋敷にやってきます。このとき、屋敷にはダベンハイムの妻であるシャーロッテ・ダベンハイムがおり「1812年」というクラッシク音楽を聴いていました。ダベンハイムとローウェンは入れ違いとなっていますが、ローウェンは途中、ダベンハイムとは遭遇していないと証言します。一本道なので、別の道を通ったということもなさそうです。
ダベンハイムが通ったと思われる道の途中に、ボート小屋の見張りがいました。しかし、その見張りはダベンハイムらしき人物を目撃していないようです。目撃したのは女性1人と浮浪者2人だったようです。浮浪者のうち一人が、ダベンハイムの指輪を持っていました。この浮浪者は髭の男が指輪を捨てたと話し、面通しで、その髭の人物がローウェンに違いないと証言します。
登場人物
登場人物名 | 説明 |
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エルキュール・ポワロ | 主人公 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポワロの友人、探偵事務所のパートナー (ドラマ版) |
ジェームス・ジャップ | 刑事 スコットランドヤード主任警部 |
フェリシティ・レモン | ポワロの秘書 (ドラマ版) |
ミスタ・ダヴンハイム (ダベンハイム) |
失踪人 銀行頭取 |
ミスタ・ロウエン (ローウェン) |
容疑者。相場師 ダヴンハイムとの約束があった |
シャーロッテ・ダヴンハイム | ダヴンハイムの妻 (ダベンハイム夫人) |
ミラー | 警部 (原作) |
マーサ | ダベンハイム邸のメイド (ドラマ版) |
メリット | ボート小屋の番人 (ドラマ版) |
ネタバレ
失踪はダベンハイムの狂言です。ダベンハイムは生きており、指輪を拾ったという浮浪者こそがダベンハイムです。浮浪者に変装して自分が死んだようにみせていた理由は、横領の罪から逃れるためでした。実はダベンハイムは銀行の金を使い込んでいました。失踪後、彼の銀行は破綻します。なお、ダベンハイム氏の計画を簡単にまとめると、下記のようになります(原作小説の内容を含んでいます)。
- 別人(ビリー・ケレット)になりすまし、軽微な罪で逮捕され刑務所に短期間服役
- 変装(かつらや付け髭)がばれないよう、妻とは別の部屋で寝る
- ローウェンと会う約束をする
- 自ら書斎の金庫を破り、宝石などを持ち出す
- ローウェンが到着する直前に外出する
- 浮浪者のような格好に変装し、着ていた服を池に捨てる
- 質に入れた指輪を証拠として残し、警察に捕まることで「ビリー・ケレット」として刑務所に入る
- 刑期を終え、隠しておいた宝石を換金する
トリック
狂言失踪でした。本人は浮浪者に成りすまして、何食わぬ顔で暮らしていたようです。失踪したということを確からしくするために、池に衣服を捨てています。そして、商売上の敵であるオーウェンを殺人の容疑者に仕立て上げます。しかしながら、ダベンハイムが失踪した日、オーウェンの履いていたズボンは特に汚れていませんでした。これは、オーウェンが誰とも争っていないことを示す状況証拠*1でした。
*1:オーウェンが路上でダベンハイムを殺したのならば、土などの汚れがズボンに付着するはずである、という前提に基づきます
金庫破り
金庫を破壊し宝石を盗んだのもダベンハイムです。彼は、外出する振りをして、自宅に戻り、金庫をこじ開けました。金庫破壊時に生じる大きな音は「1812年」という曲の大砲の音に合わせて作業することで隠していました。
変装
立派な髭を生やしたダベンハイムは、髭のない浮浪者に変装していました。ポワロはバスルームにカミソリなどがあることを大尉に調べさせ、変装を見抜いています。髭の男性であればカミソリは不要なはずで、妻のシャーロッテが使用していたとも思えません。実は、ダベンハイムはつけ髭でした。
変装したダベンハイムは事件に関わるためジャップ警部の財布を盗んで、捕まっています。過去に捕まった経歴があり、檻の中という安全な場所に身を隠していました。
ロケ地
ダベンハイム邸は実在の邸宅「ジョルドウィンズ」が使用されました。ブルックランズ自動車レース場も実在の場所です。マ ジックショーの会場はリッチモンド劇場が使われています。映像上には、トランプタワーの糸や新聞復元のタネが見えたり、現代的な設備や映り込みがあったりする箇所も指摘されています
原作との主な相違点
- ヘイスティングスがポワロの指示を受けて現場での聞き込みや調査を行います
- ミスタ・ロウエンは、原作の小物の相場師から、ダベンハイムに恨みを持つレーサーに変更されています
- 事件解決の場がポワロの事務所から警察署に変更され、ダベンハイム夫人を立ち会わせる形で真相が明かされます
- 部屋から出られないポワロが、退屈しのぎにマジックの練習に熱中する描写が追加されています
- ポワロがオウムを預かることになり、物語にユーモラスな要素が加わっています
- 一部の場面や台詞がカットまたは変更されています(例:ヘイスティングスがローウェンに案内される場面の一部、台詞のニュアンスなど)
感想
この作品を初めて知った時、大砲のトリックに感動しました。最近は「そんな馬鹿な」とちょっと笑ってしまいそうにもなりますが、すごいトリックです。犯人はクラッシク音楽の大砲に耳を澄ませながら、自分の金庫を破壊していたわけです。優雅さと狂気が同居しているような作業内容だったでしょう。まさに、芸術的金庫破りです。
刑務所を安全な隠れ場所にするという発想はユニークで面白い点です。ダヴンハイムの計画の巧妙さや実行力は評価できますが、その能力を銀行経営に活かせなかったのかという疑問も残ります。原作でポワロが説明する「蒸発」のカテゴリー分けは興味深く、現実の行方不明者の大半が発見される一方で、一部が見つからないという現実もあるようです。ヘイスティングスの推理能力に対するポワロの辛辣な評価や、ドラマ版で追加されたポワロのマジックやペットとのやり取り は、キャラクターの魅力を引き立て、物語にユーモアを加えていますね。
余談
ネタバレになってしまいますが、シャーロック・ホームズにも、浮浪者に変装する作品があります。ホームズの作品は「もう一つの顔」*1というタイトルなので、タイトルを見たその瞬間に、そもそもネタバレになっています。この作品を私は知っていましたが、ダベンハイムの失踪は見抜けず、作中で、浮浪者の正体が明かされたとき、思わず、あー、と叫んでしまいました。驚きのあーではなく、ホームズと同じトリックなのに気付かなったではないかという意味のあーです。
*1:「唇のねじれた男」というのが原題の正確な翻訳のようです
ダベンハイムの妻シャーロッテを演じられた俳優はメル・マーティンさんという方のようです。美人だなと思いました。それだけなのですが、取り急ぎ、グーグル画像検索の結果を貼らさせて頂きます。
Mel Martin(グーグル画像検索の結果)
考察
自分が死んだようにみせるというのは、やや珍しいシナリオではないかと思います。特に現代であれば、結局、死体がないと、そもそも事件として扱われず、ただの家出と考えられてしまう恐れがあります。自分の代わりに何某かの死体を用意する場合も、お墓や葬儀屋から盗んだ白骨*1などを用意しておかなければ、死んだと思わせることは難しいように思います。この作品では、とても怪しい容疑者がいたため、殺人事件であるという一種の固定観念のようなものが関係者に刷り込まれたように思います。池の服などは状況証拠ですが、浮浪者の証言は決定的で、これらは殺人事件をもっともらしくするという効果があったように思います。
*1:骨の盗難という行動が、むしろ、言い逃れできない証拠を増やすことになってしまいます
1812年
序曲「1812年」のウィキペディアを調べると、推理小説「ダベンハイム失踪事件」のトリックに使われた、という内容が記載されています。英語版のウィキペディアにも同じような内容が記載されており、世界的にとても有名なトリックになっているようです。
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