『ぶな屋敷・ぶなの木屋敷の怪』は、ある女性が奇妙な家庭教師の仕事を引き受けるというお話です。原作は1892年に発表され、短編集「シャーロック・ホームズの冒険」に収録されました。なお、この短編集が発行されたのも、同じ1892年です。
項目 | 内容 |
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発表 | 1892年6月発表(ストランド) |
発表順 | 14作品目(60作中) |
発生時期 | 1889年4月5日~同年4月20日 |
発生順 | 21件目(60作中) |
あらすじ
バイオレット・ハンターが、奇妙な家庭教師の仕事について相談するため、ベイカー街を訪れる。雇用主となるジェフロ・ルーキャッスルは非常に高い賃金を払うと約束したが、仕事には、髪を切って、指定のドレスを着るという条件が付いていた。ミス・バイオレットが仕事を断ると、ルーキャッスル氏はさらに高い金額を提示したという。相談を受けたホームズは必要が生じた場合に支援すると約束し、ミス・バイオレットは仕事を引き受けることに決めるのだった。
数日後、ホームズはミス・バイオレットから電報を受け取る。内容は、早急に職場のあるウィンチェスターに来て欲しいというものだった。ミス・バイオレットによると、どうやら、ルーキャッスル氏には娘のアリスがいるのだが、継母のルーキャッスル夫人を嫌い、フィラデルフィアへ旅に出ているという。
仕事を引き受けたミス・バイオレットは髪を切り、青いドレスを着て、窓の前に座らされたという。そして、窓越しに、遠くに佇む男に立ち去るよう合図をするよう命じられたのだった。また、別の日、彼女は秘密の部屋に誰かが監禁されていることに気付いたという。バイオレットの話を聞いたホームズは、彼女がアリス・ルーキャッスルを演じるために雇われ、外に佇んでいた男はアリスの婚約者ファウラー氏であると推理する。
ネタバレ
ホームズとワトソンはルーキャッスル氏が不在のときを狙って屋敷に忍び込む。しかし、秘密の部屋には誰もいなかった。すると、ルーキャスル氏が帰宅し、腹ペコの猛犬を放つが、不幸にも、ルーキャッスルは自分が放った犬に襲われてしまう。駆けつけたワトソンがルーキャッスルを助けるため、犬を始末するのだった。その後、ホームズ達は、婚約者のファウラー氏が屋敷に忍び込み、先にアリスを助け出していたことを知る。
タイトルについて
原題は「The Copper Beeches」なので、屋敷という単語は含まれていません(theにその意味が込められているのかもしれません)。copeerは銅という意味で、beechは植物のブナです。copper beechでムラサキブナという意味になるらしく、ムラサキブナの別名は銅葉山毛欅;どうようぶなと言われています。ムラサキブナはその名の通り葉っぱが紫っぽい色です。
後日譚
小説のラストで、登場人物の後日譚が語られます。原作でルーカッスルは一命を取り留めますが、妻の介護が必要な状況となります。使用人のトーラー夫妻はルーカッスル負債と暮らしているようです。閉じ込められていたルーカッスル嬢と婚約者のファウラーは、事件が解決した翌日にサウサンプトン(イギリス南部の都市、タイタニック号が出港した港町)という場所で結婚し、その後、モーリシャス島(インド洋に浮かぶ島、マダガスカル島の近く)で暮らしている様子です。最後に、家庭教師となったバイオレット・ハンターですが、彼女は私立学校の校長になります。
ドラマ
グラナダ版ドラマは、1985年8月25日に放送されました。シーズン2の第1話(51分)となります。ドラマの日本語タイトルは「ぶなの木屋敷の怪」となっています。
項目 | 内容 |
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シーズン | 2 |
話数 | 1 |
放送順 | 8 |
放送日(英) | 1985年8月25日(日) |
出演者 | キャスト一覧 |
ストーリー
バイオレット・ハンターはルーカッスル氏による家庭教師の仕事について、ホームズにアドバイスを求めるのだった。その仕事は給料が高くバイオレットにとっては魅力的だった。しかし、仕事の最中は決められたドレスを着て、雇用主が望む場所に座る必要があった。そして、バイオレットの美しい髪を短くするという条件も付けられていた。躊躇するバイオレットだったが、最終的に家庭教師の仕事を引き受けることに決める。
家庭教師となったバイオレットは、ルーカッスルの不気味な邸宅・コッパービーチ(ぶな屋敷)に定住する。ある日、引き出しの中から、自分の髪にとてもよく似た金髪を見つける。不安になった彼女は、すぐにホームズとワトソンに助けを求める。駆けつけたホームズ達にバイオレットは、一部始終を語り始める。
まず、バイオレットは、青いドレスを着て窓に背を向けて座るよう命じられ、手を振る仕草を要求された。窓外をみることは許されなかったが、隙をついて、外を見ると、ファウラーという若い男がそこに立っていた。その直後、バイオレットはシャッター付きの窓がある部屋になんとか忍び込み、誰かがそこにいることに気付く。このことにルーカッスルは激怒し、飢えた猛犬をけしかけると彼女を脅したという。
ホームズとワトソンはルーカッスルが不在のうちに、誰かが閉じ込められているという部屋に忍び込もうとする。バイオレットに案内されるホームズ達は、突然、女性の叫び声を耳にする。急いで部屋に入ったホームズ達だったが、中には誰もいなかった。そこへ帰ってきたルーカッスルは、ホームズ達をみつけ猛犬を放つが、犬はルーカッスルを襲うのだった。
ネタバレ
その後、ホームズはぶな屋敷の家政婦・トラー夫人から真相を聞く。ルーカッスルには、先妻との間に生まれたアリスという娘がいた。アリスは先妻の遺産を引き継いでいたが、ファウラーと婚約し監禁されていた。ルーカッスルはアリスが結婚する前に、財産をすべて譲らせようとしていたのだ。しかし、アリスはそれに応じなかった。そこでルーカッスルは、アリスにそっくりなバイオレットを雇い、ファウラーに結婚を諦めさせようとしていた。ところが、ファウラーは偽者に騙されることはなかった。そして、家政婦の協力を得てルーカッスル不在の最中へと屋敷に忍び込み、アリスを解放したのだった。このあと、アリスとファウラーは無事に結婚した。バイオレットも幸せに暮らしているようだったが、犬に襲われたルーカッスルは体が不自由になってしまった。
原作とドラマの違い
ドラマと原作のストーリーや結末(奇妙な依頼、監禁された人物)などは同じです。ただ、アリスの存在が明かされるタイミングが大きく異なります。原作では、序盤から中盤で明らかになりますが、ドラマでは最後までアリスは登場しません。そのため、ドラマではトラー夫人という家政婦がアリスの存在とともに真相を語ります。
感想
奇妙な依頼というのが知的好奇心をそそります。破格の待遇、決められた服を着て髪も切る、そして、指示通り座っていなければならない。とても不思議です。そのねらいは、男に結婚を諦めさせるというものでした。本人であるアリスを使ったとしたら激しく抵抗していたはずで、むしろ危ういです。
バイオレットが髪を切り、その切った髪とは違う金髪がタンスらしきところから出てくるというのは、まったくもってホラーでした。しかも、その髪の主が監禁されているので、何やら物音まで聞こえてくるという感じです。怖いです。
考察
奇妙な依頼が発端となる物語です。その奇妙な依頼の裏には、遺産相続で監禁された依頼人の娘が隠れていました。動機は金で、娘を探す人物(婚約者)を追い払うため替え玉を用意するというトリックでした。
コナン
名探偵コナンにぶな屋敷が登場します。「赤白黄色と探偵団」というエピソードで単行本は第60巻、テレビアニメは509話と510話になります。このエピソードの特徴は沖矢昴初登場作品という部分にあります。ホームズファンの昴は、コナンのセリフが、ぶな屋敷を元ネタにしていることを見抜き声を掛けます。
まとめ
シャーロック・ホームズの「ぶな屋敷」について、原作とドラマのあらすじとネタバレ、感想などをご紹介しました。
- 発端バイオレットが221Bを訪ねる
家庭教師の仕事について相談する - 展開家庭教師となったバイオレットから手紙が届く
バイオレットが体験した奇妙な出来事が語られる - 結末ホームズとワトスンが“ぶな屋敷”へと向かい…
登場人物
登場人物をネタバレありで簡単にまとめます。原作およびドラマに共通する内容で一覧にしています。なお、主人公であるシャーロック・ホームズとワトスン博士は除いています。
名前 | 説明 |
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バイオレット・ハンター Violet Hunter |
依頼人 アリスにみせかけるために雇われた |
ジェフロ・ルーカッスル Jephro Rucastle |
バイオレットの雇い主 遺産を手に入れるため娘を監禁している |
アリス・ルーカッスル Alice Rucastle |
ジェフロの娘 母の遺産を相続する |
ファウラー Fowler |
アリスの婚約者 窓の外に立っていた人物 |
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