「オリエント急行の殺人」のあらすじとネタバレ、トリック考察、感想です。ポワロが乗り込んだオリエント急行で、ポワロはある乗客から護衛を依頼されます。依頼を断るポワロでしたが、その乗客がコンパートメントで死体となってみつかってしまいます。
項目 | 内容 |
---|---|
シーズン | 12 |
エピソード | 3 |
長さ | 1時間29分 |
放送日(英国) | 2010年12月25日(土) |
放送日(日本) | 2012年2月9日(木) |
出演者 | キャスト一覧(imdb) キャスト一覧(allcinema) |
原作者 | アガサ・クリスティー |
あらすじ
ポワロはある事件の謎解きをしていた。一つの曇りもなく真実をつまびらかにし、犯人を追い詰めていた。黙って問い詰められていた犯人は、近くにいた人物から拳銃を奪い、その銃で頭を撃ち抜いて自殺してしまった…。仕事を終えたポワロは、次の仕事のため、急遽、イギリスに帰国することになる。そして、鉄道会社の重役であるブークによって、その日のうちに、オリエント急行へと乗り込む。
ポワロのコンパートメントがある車両には、他にも幾人かの乗客がいた。サミュエル・ラチェットも乗客の一人だった。何かに怯えている様子のラチェットは、探偵であるポワロに護衛を依頼する。ポワロは依頼を断るのだが、翌朝、ラチェットの死体が彼の客室で発見されてしまう。
相関図
被害者を含め14人の登場人物がいます。夫婦や、主人と使用人といった関係を除き、ほとんどが、偶然同じ車両になった人達らしく、互いに面識はなさそうです。
被害者はサミュエル・ラチェットという男で、実業家でした。彼には執事と秘書がおり、同じ車両に乗っています。執事はエドワード・マスターマンという男性で、ポワロの事情聴取において、二番目に登場するおじさんです。秘書はヘクター・マックイーンという青年で、最初、ポワロと相部屋だった人物です。
ポワロがオリエント急行に乗る前、女を助けようとする若い女性とそれを止める男性を目撃していますが、この二人も列車に乗っています。女性はメアリー・デブナムという名前で、客室はポワロの隣です。男性の方はアーバスノット大佐という名前です。
アンドレニ伯爵と伯爵夫人は夫婦です。伯爵夫人は食堂車で優雅にお茶を飲んでいましたが、その後、客室で発作を起こしていたようです。シュミットはドラゴミロフ公爵夫人の使用人で中年の女性。グレタ・オールソンはメアリーと相部屋の若い女性。イタリア人のフォスカレリは車のセールスマンで、マフィアの犯行を訴えている男性です。
ハバード夫人は高年の女性で、客室は被害者の隣でした。しかも、ハバード夫人の客室と被害者の客室は扉一枚で繋がっています。被害者の検死をした医師はコンスタンティンで、ポワロと行動を共にしています。その他、車掌のミッシェルも重要な登場人物です。
解説
冒頭の自殺とオリエント急行の殺人は、事件自体につながりがあるわけではありません。ただ、冒頭の事件が、物語ラストのポワロの決断に影響していると考えられます。
ラチェットは、彼の客室だった2号室で、死体となって発見されました。ベッドに仰向けの状態で死んでおり、12の刺し傷がありました。死体発見現場となったラチェットの客室には、手紙の燃えカスが残されており、ポワロの捜査テクニックによって、AISY ARMSと書かれていたことがわかります。また、客室にはイニシャルHのハンカチも落ちており、このハンカチはラチェットの所有物ではなさそうでした。
のちに、ラチェットの秘書の証言などから、AISY ARMSがデイジー・アームストロングを意味していることがわかります。デイジー・アームストロングは、ランフランコ・カセッティという男に誘拐され殺された幼い女の子で、このカセッティこそが、死んだラチェットでした。どうやらラチェットはデイジー誘拐殺人の一件で何者かに脅されていたらしく、金を要求されていました。その金をトランクに入れて運んでいたようですが、殺人が発覚したとき、トランクの中は空っぽでした。
ラチェット(=カセッティ)の客室には鍵がかけられていました。列車は雪で立ち往生してちたため、窓から逃亡することも容易ですが、雪の上に足跡はなく、誰かが窓から逃げた痕跡はありませんでした。また、車掌のミシェルがいたことや、連結部分は施錠されていたことなどの理由により、犯人はラチェットの客室がある車両の乗客に絞り込まれます。
怪しいのは、ラチェットと部屋が繋がっているハバート夫人ですが、この夫人が犯人をみたと話します。それは、ベッドで寝ていたら横に男が立っていたという内容で、その怪しい男はラチェットの部屋に入っていったようです。時刻は、夜中の2時15分頃でした。何者かがいたという証拠として、ハバート夫人の客室の床から、車掌の服のボタンも発見されます。
動機に関して、ハバート夫人はデイジー・アームストロングの事件を知っているようですが、痛ましい事件として憶えているだけのようです。夫人自身はそもそも身分が違うと話しています(アームストロング家は上流階級)。
その他の人物ですが、だいたいの人物に明確なアリバイがあります。まとめると次のようになります。
- 執事のマスターマンは4-5号室で読書をしていた。同室のフォスカレリは寝ていた
- グレタ・オールソンとメアリー・デブナムは10-11号室にいた
- 秘書のヘクター・マックイーンとアーバスノット大佐は一緒に過ごしていた
- ドラゴミロフ公爵夫人と使用人のシュミットは14号室にいた
- 伯爵夫人は睡眠薬で眠っていた
ほとんどの人物がアームストロング家との関係を否定していますが、ドラゴミロフ公爵夫人とマックイーンは、一家との関係が明確になっています。また、シュミットとアーバスノット大佐も、一家との関係が仄めかされています。
- ドラゴミロフ公爵夫人はデイジー・アームストロングの母親であるソニアの名づけ親
- マックイーンはアームストロング事件の裁判を担当した検事の息子
- シュミットはメイドではなくコックで、アームストロング家に出入りしていたかもしれない
- アーバスノット大佐はデイジーの父親と知り合いだったかもしれない
ドラゴミロフ公爵夫人の証言により、ソニアの母親、すなわち、デイジーの祖母がリンダ・アーデンという女優であることもわかります。なお、リンダ・アーデンは芸名で、本名はウォーターストンでした。
デイジー・アームストロング事件
デイジー・アームストロング誘拐殺人の犯人としてカセッティ(=ラチェット)は一度逮捕されていますが、マフィアの関与によって証拠不十分で無罪になっています。
この事件でアームストロング家は崩壊します。まず、犯人に渡した身代金は奪われ、人質だったデイジーは殺されてしまいます。デイジーが誘拐されたとき、その場にいた家庭教師は腕に傷を負います。そして、カセッティが捕まる前に犯人として逮捕されたメイドは自殺しています。
事件の後、デイジーの母親であるソニアは早産で身ごもっていた子供ともに亡くなってしまいます。そして最後に、デイジーの父親が自殺してしまいます。
ネタバレ
犯人は全員です。ポワロと同じ車両に乗っていた人物は、ほぼ全員がアームストロング家と関係があり、一家の無念を晴らすため、一人一人が交代でラチェットを刺しました。犯行時、ラチェットは薬で体の動きを奪われており、意識のある状態で次々に刺されました。
犯人達の計画は、他人のふりをしてオリエント急行に乗り込み、犯行後、素知らぬ顔で列車から立ち去る予定でしたが、運悪く列車が立ち往生してしまい、さらに最悪なことに、同じ車両に名探偵が乗っていました。
なお、乗客の12人と車掌のミシェルを含む合計13人全員が、殺害計画を知っていたわけですが、アンドレニ伯爵夫人だけは、ラチェットを刺していません。病弱なところのある伯爵夫人は周囲のはからいによって実行犯とはならず、本当に睡眠薬で眠っていました。
犯人の正体
13名の正体は次の通りです。なお、アンドレニ伯爵は直接アームストロング事件とは関係がありません。
名前 | 肩書 | 正体 |
---|---|---|
フォスカレリ | 車のセールスマン | アームストロング家の運転手 |
マスターマン | ラチェットの執事 | アームストロング家の使用人 |
ヘクター・マックイーン | ラチェットの秘書 | 裁判を担当した検事の息子 |
シュミット | 公爵夫人の使用人 | アームストロング家のコック |
グレタ・オールソン | 信心深い女性 | アームストロング家の乳母 |
メアリー・デブナム | イギリス人 | アームストロング家の家庭教師 |
ハバード夫人 | アメリカ人 | ソニア・アームストロングの母親(リンダ・アーデン) |
アンドレニ夫人 | 伯爵夫人 | ソニア・アームストロングの妹 |
アンドレニ | 伯爵 | アンドレニ伯爵夫人に同行 |
ドラゴミロフ | 公爵夫人 | ソニア・アームストロングの名付け親でハバート夫人の友人 |
アーバスノット | 大佐 | アームストロング大佐の友人 |
コンスタンティン | 医師 | アームストロング事件で自殺したメイドの父 |
ミシェル | 車掌 | アームストロング事件で自殺したメイドの恋人 |
偽装
イニシャルHのハンカチはナタリア・ドラゴミロフ公爵夫人のもので、Hではなくロシア語のNでした。ハバート夫人が犯人を目撃したというのは、もちろん嘘で、車掌のボタンも、犯人達が仕込んだものです。赤い着物の女性も、犯人達が仕込んだトリックでした。いずれも、捜査をかく乱することが目的だったと考えられます。
被害者が運んでいた金ですが、これは公爵夫人がスカートの中に隠していました。
結末
ポワロは犯人達を告発せず、見逃します。ポワロが地元警察に語ったのは、車掌に変装した何者かが列車に侵入し犯行に及んだという内容でした。
トリック考察
事件のトリックは、共犯というありふれたものですが、登場人物のほぼ全員が犯人であるという点で、叙述的なトリックも仕掛けられていると思います(共犯という可能性はあっても、犯人はせいぜい2~3名であるという読者や視聴者の思い込みを利用したトリック)。
犯人達が共犯となったのは、凶悪事件を起こしたにも関わらず無罪で野放しとなった人物(カセッティ)がいたからでした。共犯であることが活かされたのは、互いのアリバイを偽証することで、これにより、それぞれに鉄壁のアリバイが作り出されています。
犯人達が仕込んだ偽の証拠、例えば車掌のボタンや赤い着物の女性などは、探偵に偽のシナリオを掴ませるという意図が薄く、行き当たりばったりな印象です。
原作
原作は第14作目の長編小説「オリエント急行殺人事件」で、原作小説とドラマのストーリーは概ね同じです。ただし、ドラマ版は、登場人物の変更や省略があります。大きな違いは、16号室のサイラス・ハードマンがドラマには登場しないことです。ドラマでは、原作におけるハードマンの設定がコンスタンティン医師に統合されていました。
みんなの感想
原作小説のレビューをご紹介します。
密室ものでトリックも秀逸。セレブが集う車内は絢爛豪華で旅情感も素晴らしい。名作と呼ばれるのも納得。
トリックはもちろん、登場人物の書き分けや構成の見事さも流石というほかない。トリックや物語の結末は自分としては納得のいくものだった。
古典名作のネタを知らずに読めたら、それはかなり幸運だと思う。何の予備知識もなく読むことが極めて重要。私は「アクロイド殺し」で失敗したので、そのことに気を付けながらこの作品を読んだ。
ミステリーファンを自称するなら、古典作品は教養として読んでおくべきという言説は強い。が、この作品は教養とか関係なく、極めて読みやすいミステリーの入門作として、今後も君臨し続けるだろう。
犯人は知っていたけど、読んでみると細かい謎が多くて面白かった。
感想
ポワロが真犯人達を見逃したことにより、この事件はきっと迷宮入りになったのだと思います。別の誰かが捕まっていたら、それはそれで問題ですが、あの雪の中を逃げて行った犯人というのも、なかなか見つからないというか、そもそも偶然その場にいたという人物がいなさそうです。
まとめ
名探偵ポワロ「オリエント急行の殺人」について、あらすじ、真相、トリック考察および解説、感想・雑談をご紹介しました。最後に、登場人物とロケ地についてご紹介します。
登場人物
事件関係者は以下の通りです。
名前 | 説明 | 解説 |
---|---|---|
サミュエル・ラチェット Samuel Ratchett |
大富豪 被害者 |
本名はカセッティでデイジー・アームストロング誘拐殺人の犯人 アームストロング事件の関係者達に刺し殺される |
ロケ地
ドラマ序盤に登場したイスタンブール駅の改札口やポワロが宿泊していたホテルはFreemasons Hall(フリーメイソン・ホール)で撮影されています。
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