道尾秀介さんの体験型ミステリー『いけない』は各章の最後に仕掛けられた驚愕のトリックや緻密に構成されたストーリーなどが楽しめる作品です。この記事では、あらすじ、感想、ネタバレなどをまとめています。
項目 | 評価 |
---|---|
【読みやすさ】 スラスラ読める!? |
|
【万人受け】 誰が読んでも面白い!? |
|
【キャラの魅力】 登場人物にひかれる!? |
|
【テーマ】 社会問題などのテーマは? |
|
【飽きさせない工夫】 一気読みできる!? |
|
【ミステリーの面白さ】 トリックとか意外性は!? |
あらすじ
白蝦蟇シーライン沿いにある自殺の名所・弓投げの崖。保育士の安見邦夫は、運転中、不注意からトンネルの出口で事故を起こしてしまう。相手は地元の不良グループで、彼らは保身のため、邦夫を助けるどころか、事故を隠蔽しようとする。
数日後、事故に関わった不良の一人が殺され、警察は捜査を開始する。刑事の隈島は、事故の被害者である邦夫に疑いの目を向けるが…。
中華料理屋の息子である小学生の馬珂(マー・カー)は、日本語がうまく話せず、 名前をからかわれ、学校でいじめを受けていた。そんなある日、珂は文房具店で、店のおばあさんが若い男に刺されるという衝撃的な事件を目撃する。このことを誰にも打ち明けられずにいた珂は、ある日、同級生の山内という少年と出会い、彼にだけ真実を打ち明ける。しかし、その日から、珂の周りで不可解な出来事が起こり始める――。
弓投げの崖がある街で、刑事の水元と竹梨は、新興宗教団体「十王還命会」の幹部である宮下志穂が自宅マンションで死亡しているのを発見する。自殺として処理されかけるが、水元は事件に不審な点を感じ、捜査を進める。そんな中、水元は、宮下のマンションの管理会社の社長である中川が、数日前に弓投げの崖で自殺していたことを知る。そして、中川が残した手帳には、ある奇妙な絵が描かれていた。
小説の特徴
連作短編ミステリーです。4つの章で構成されており、それぞれが独立した短編のようでありながら、登場人物や舞台設定が絡み合って、全体として一つの大きな物語を形成しています。各章の最後には、物語の真相を暗示する写真が掲載されており、読者はその写真を手がかりに、隠された真実を推理していくことになります。
舞台設定
自殺の名所である「弓投げの崖」のある街が舞台です。どこか閉鎖的で、よそ者を寄せ付けないような雰囲気のある街で、新興宗教団体「十王還命会」が存在したりします。
テーマ
罪と罰、日常に潜む狂気などを感じとれます。人間のくら~い部分を抉り出すような描写や、登場人物たちが抱える孤独や絶望、そしてそれでも生きようとする姿などが印象的です。
作風
ミスリードする仕掛けが満載です。一見すると何気ない描写が、後になって重要な伏線として回収され、第一章で提示された謎が、最終章で思わぬ形で回収されたりします。
筆者の感想
読了後に感じたのは…何とも言えないモヤモヤ感でした。各章の最後にある写真を見ても、すぐに真相が理解できるわけではなく、何度も読み返したり、他の読者の考察を参考にしたりすることで、ようやく物語の全貌が見えてくるような感じです。読者に積極的に謎解きをさせるという仕掛けが、本作の大きな特徴だと思います。
物語としては、全体を覆う不穏な空気や、登場人物たちの心を描き出す筆力などが印象に残っています。
高評価のポイント
- 各章の最後に写真があることで物語の真相がガラッと変わるという斬新な構成
- それぞれの短編が繋がり、最後に伏線が回収されるという、見事なストーリー展開
- 読者に多くの解釈の余地を残し、読後も真相について考えさせられる
低評価のポイント
- 写真を見てもすぐに真相は理解できない…ステリー慣れしていないと難解?
- 明確な答えが提示されないためスッキリしない読後感
- 登場人物の心情や行動の動機が十分に描かれていないかも…
ネタバレ
各章の事件は、最終的に一つの大きな事件へと収束していきます。しかし、事件の真相は完全に解明されることはなく、多くの 謎が残されたまま物語は幕を閉じます。また、各章の犯人たちは、罪を償うことなく、日常へと帰っていくという、後味の悪い結末も特徴的です。特に、最終章で珂と山内が「この街は平和だ」と語り合うシーンは、もはや絶望的です。
第一章:弓投げの崖を見てはいけない
- 事件の真相
事故を起こした車に乗っていたのは、森野雅也、森野浩之(弟)、梶原尚人の3人。運転していたのは浩之。事故で死亡したのは、当初思われていた安見邦夫ではなく、隈島刑事。安見邦夫は事故で失明したものの生きており、妻の弓子に支えられながら復讐の機会を伺っていた - 犯人
安見邦夫が事故を起こした若者たちへの復讐を実行。梶原尚人をまず殺害し、次に森野浩之を殺害 - 動機
事故を起こした若者たちが、救護措置をせずに自分を見捨て、さらに暴行を加えたことへの復讐。最愛の息子を失ったことへの悲しみと怒り - トリック
物語の語り口から、事故で死亡したのは安見邦夫であると思い込まされる。しかし、注意深く読むと、死亡したのが誰であるかは明記されていない。地図が示す位置関係から、最後に車に撥ねられたのが隈島刑事であることがわかる - 結末
邦夫は殺人を竹梨に告白する手紙を妻に代筆してもらう。しかし、弓子は手紙を白紙のまま夫に渡し、邦夫は自首するものと信じて弓投げの崖から身を投げる
第二章:その話を聞かせてはいけない
- 事件の真相
中国人少年・珂は、文房具店で老婆が甥に殺される場面を目撃したと証言する。しかし、警察は事件性はないと判断。その後、老婆と甥は珂を誘拐し、口封じのために崖から突き落とそうとする - 犯人
珂を助けたのは、同じアパートに住む少年・山内。山内は老婆と甥を崖から突き落とした - 動機
山内は、過去に珂に助けられたことがあり、その恩返しとして珂を救った - トリック
珂の視点を通して、現実と妄想が入り混じったような描写がなされる。老婆と甥が本当に珂を殺そうとしたのか、山内が本当に2人を突き落としたのかは明確に語られない - 結末
珂は助けられ、山内との友情を深める。しかし、山内が殺人を犯した可能性が示唆され、2人の関係の行く末に不穏な影が落とされる
第三章:絵の謎に気づいてはいけない
- 事件の真相
宗教団体「十王還命会」の幹部である宮下志穂が自宅マンションで死亡。当初は自殺と判断されるが、水元刑事は他殺を疑う。水元は捜査を進めるうちに、宮下が殺害されたこと、そして先輩刑事である竹梨が事件に関与していることに気づく - 犯人
竹梨刑事が、宮下殺害の真相を知った水元刑事を殺害。宮下を殺害したのは支部長の守谷 - 動機
竹梨は十王還命会の信者であり、教団の秘密を守るために犯行に及んだ - トリック
中川の手帳に描かれた絵が、事件の真相を暗示している。しかし、その絵は竹梨によって改竄されており、 読者はミスリードされる - 結末
水元は殺され、事件の真相は闇に葬られる。竹梨は刑事として生き続けるが、罪の意識に苛まれることになる
第四章:街の平和を信じてはいけない
- 事件の真相
事故で視力を失った安見邦夫は、妻の弓子に代筆させた告白文を、竹梨刑事に渡そうとする。しかし、弓子は実際には何も書いておらず、便箋は白紙だった - 犯人
明確な犯人はいない。しかし、弓子は夫の罪を隠蔽し、竹梨は過去の罪を告白しないことを選択する - 動機
弓子は、夫を愛するがゆえに、夫の罪をなかったことにしようとした。竹梨は、自身の保身のために、過去の罪を隠し続けた - トリック
読者は、邦夫が自首するものと思い込むが、実際には何も変わらない - 結末
罪を犯した者たちは誰一人として裁かれることなく、街の平和は保たれる。しかし、それは真実が隠された、偽りの平和に過ぎない…
コメント