「もの言えぬ証人」は犬の悪戯で階段から転落した女性が、その後、毒殺されるエピソードです。この記事では、あらすじと登場人物、ネタバレ、トリック解説、感想考察などをまとめています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| シーズン | 6 |
| エピソード | 4 |
| 長さ | 1時間43分 |
| 放送日(英国) | 1996年3月16日(土) |
| 放送日(日本) | 1997年12月30日(水) |
| 出演者 | キャスト一覧 |
あらすじ
ウィンダミアを訪ねたポワロとヘイスティングス大尉は水上ボートの最速記録挑戦を見学します。ボートに乗るのは大尉の友人・チャールズだった。出だしは順調と思えたが、機器トラブルに見舞われ、挑戦は失敗する。
その夜、チャールズの叔母・エミリーが、愛犬のボブが置いたボールに足をとられ、階段から転落してしまう。命に別状のなかったエミリーだが、本人は殺人未遂を疑っていた。エミリーから相談を受けたポワロは遺言の書き換えを提案する。そのエミリーが突然、死亡する。エミリーはジェイコブ医師の調合薬を飲んだ直後に倒れ死亡したが、警察は事件性を認めず、解剖は実施しなかった。その後、エミリーの遺言が公開される。遺産は全て親族に分配される、そんな内容のはずだったが、遺言は書き換えられており、エミリーのコンパニオンだったウィルミーナ・ローソンという女性に相続されることになる。
事件概要
裕福なエミリー・アランデルが死亡し、病死と判断されます。お金持ちが突然死したので、遺産が絡んでいるように思えます。相続人の中で特にお金に困っているのは、ボートのチャレンジに失敗したチャールズで、彼の妹であるテリーザもお金を欲しがっています。もともと遺産は親族に遺贈されるはずでしたが、ウィルミーナに全財産が相続されることになります。ウィルミーナは死んだエミリー、つまり被相続人のコンパニオンでした。コンパニオンは上流階級の人物の話し相手になる女性で、メイドなどの使用人とは区別される存在です。
エミリーはジェイコブ医師の調合薬を飲んだ後に死亡しています。そのため、調合薬が非常に疑わしいです。医師の妻であるベラ・タニオスは死んだエミリーの姪で、ベラは夫のジェイコブに怯えています。ジェイコブが暴力を振るっているなどと証言しています。
トリップ姉妹という霊媒が登場しておりますが、彼女達は無害です。霊媒のイザベル・トリップはポワロの親族にMのイニシャルの人物がいると話し、見事的中させています。これは、Mがイニシャルの人物が多いことを利用していたようです。そんな彼女達ですが、二人はエミリーが倒れる瞬間を目撃しており、そのときの様子を魂が抜けたと表現します。これがヒントとなってジョン医師が毒殺方法に気付きますが、ジョンも殺されてしまいます。
登場人物
- エルキュール・ポアロ
ベルギー人探偵 - アーサー・ヘイスティングス
ポアロの友人 - エミリイ・アランデル
小緑荘の主人。裕福な独身女性で、事件の被害者 - ウイルヘルミナ(ミニー)・ロウスン
エミリイの家政婦(コンパニオン) - チャールズ・アランデル
エミリイの甥。ヘイスティングスの友人 - テリーザ・アランデル
エミリイの姪で、チャールズの妹 - ベラ・タニオス
エミリイの姪 - ジュイコブ・タニオス
ベラの夫で医師。ギリシャ人 - ボブ
エミリイの愛犬であるテリア - グレインジャー
エミリイの主治医 - イザベル・トリップ、ジュリア・トリップ
霊媒師の姉妹
ネタバレ
犯人はベラ・タニオスです。ベラはうだつの上がらない夫に苛立っていました。そんな夫を懲らしめるために、夫が猟奇的な人物であるかのようにふれまわり、エミリー殺害の濡れ衣を着せようとしました。毒を盛ってエミリーを殺害したのも、ジョン医師をガスで殺したのも、犬の悪戯にみせて階段から転落させようとしたのも、すべてベラ・タニオスの犯行です。屋敷でT.Aというイニシャルが入ったガウンを着た女性が目撃されていますが、鏡越しだったため、T.AではなくA.Tでした。ベラの名前はアラベラ・タニオスであり、A.Tはベラを意味していました。ガウンを着ていたのもベラです。
ベラはエミリーが服用していた肝臓薬にリンを仕込み毒殺しました。薬はカプセルだったため、毒の効果が遅れて生じていました。エミリーは遺産も手に入れるつもりだったようですが、遺言書き換え前に毒を仕込んだ肝臓薬を回収することができず、エミリーに死なれてしまいます。なお、ジェイコブ医師の調合薬には毒が入っていませんでした。
屋敷に何者かが侵入していますが、これはチャールズです。彼らは遺産を手に入れるために、遺言を無効にしようとしていました。
| 名前 | 説明 | 解説 |
|---|---|---|
| エミリー・アランデル Emily Arundel |
お金持ち 被害者 |
階段から転落したあと遺言を書き換える リンを飲まされて死亡する |
| ベラ・タニオス Bella |
被害者の姪 犯人 |
肝臓薬に毒を仕込む 夫のジェイコブに罪を着せようとする |
| ジェイコブ・タニオス Jacob |
ベラの夫 | 調合薬をエミリーに飲ませる エミリーの嘘によって極悪人にされていた |
| チャールズ・アランデル Charles |
被害者の甥 | ヘイスティングス大尉の友人 ボートの最速記録に挑戦する |
| テリーザ・アランデル Theresa |
被害者の姪 | チャールズの弟で遺産が手に入らず辛酸をなめる |
| ウィルミーナ・ローソン Wilhemina |
コンパニオン | エミリーの遺産を全て相続することになる ジョン医師と交際している |
| ジョン・グレンジャー Dr Grainger |
主治医 | リンによる毒殺に気付き犯人に殺されてしまう |
| イザベル・トリップ Isabel Tripp |
霊媒 | 死んだエミリーを降霊し愛犬が犯人だと話す |
| ジュリア・トリップ Julia Tripp |
イザベルの妹 | 姉のイザバルと行動を共にしている |
| ボブ Bob |
エミリーの愛犬 | 罪をなすりつけられてしまう ワイヤー・フォックス・テリア |
トリック
ペットの犬に罪をなすりつけるというトリックが登場しています。犯人は犬が階段で遊ぶという習慣を利用し、現場に犬のボールを置くことで、被害者がボールで転んだようにみせています。実際は暗がりの中にロープを張るという手口で、被害者を階段上から転落させています。
犯人は被害者が日ごろ服用している薬に毒を仕込みました。数あるうちの一つを毒入りにしたため、相手がいつ毒を飲むかはわからない状況だったと考えられます。なお、毒物としてはリンが使われています。
ドラマと原作小説の違い
原作はアガサ・クリスティの長編小説『もの言えぬ証人』です。ドラマと小説にはいくつかの違いがあります。これは、時間の制約や視覚的な効果、視聴者の興味を引くための演出などが考慮された結果と考えられます。
- 原作
犯人は自殺します - ドラマ
犯人は最後まで生きており、ポワロの謎解きまで登場します(映像作品としてラストに犯人不在では盛り上がりに欠けるため、変更されたと考えられます)
- 医者の運命
原作では死なない医者が、ドラマ版では殺害されます - テリーザ・アランデル
ドラマ版では、原作よりも性格がマイルドに描かれており、悪女的な要素が薄れています - ベラ・タニオス
ドラマ版では、原作と比べて人物像が大きく変更されています - ウィルミーナ・ロウスン
原作ではボブの面倒をちゃんとみるものの、ボブからは馬鹿にされているという描写がありますが、ドラマ版ではボブを邪魔者扱いし、押し付け合うような描写があります - トリップ姉妹
ドラマ版では、霊媒師のトリップ姉妹や愛犬ボブの役どころが増強されています - その他の登場人物
テリーザの恋人であるドクター・ドナルドソンや、エミリーの友人のミス・ピーボディはドラマ版には登場しません。また、リトルグリーン・ハウスのメイドの名前がエレンからセーラに変更されています - 遺言書の書き換え
原作ではエミリイ本人の意思で遺言書が書き換えられますが、ドラマ版ではポワロの助言によって書き換えられます - ボブとポワロの関係
原作ではボブはヘイスティングスに懐いていましたが、ドラマ版ではポワロと良いコンビになり、原作よりもさらに事件解決に貢献します。デビッド・スーシェ(ポワロ役)は、ドラマ版のボブ(スナッビー) を大変気に入っていたとされています - 事件発生前の描写
ドラマ版では、ヘイスティングスとチャールズが知人であり、事件が起こる前から関わっているなど、設定が変更されています。また、モーターボートのシーンなどが追加されています - 容疑者について
原作では、エミリイ・アランデルが遺言書を書き換えることで、甥のチャールズや姪のテリーザ、ベラへの遺産がなくなることになります。この遺言書の書き換えについて、チャールズは事前に叔母から聞いていたと証言しますが、これが真実かどうかは読者には明かされず、彼も容疑者の一人として扱われます。ドラマ版では、チャールズとテリーザが遺言書の書き換えについて聞いているシーンが明確に描かれています。これにより、彼らが遺言によって不利になることを知っていたため、犯人候補から外れるという展開になっています
感想と考察
ドラマ版は原作とは結構別の話っぽい印象を受けることもあるかもしれません。チャールズが挑戦していたのは水上速度記録のようです。wikipediaに現在の最速は511km/hであると記載されています。この事件の時代設定が1930年代とすると、当時の速度は150km/hから200km/hだったようです。富士急ハイランドにあるドドンパが180km/hということなので、当時のボートはドドンパくらいの速度だったと考えられます。ドドンパは一瞬で加速しますが、ボートはもっとゆっくり加速していたはずです。それでも、水上で200km/hに近い乗り物に乗るのは、本当に挑戦的だと思います。
霊媒が登場して、物語が面白くなっています。霊媒姉妹は本物ではなかったようですが(本物ってなんだろう、と思わなくもないですが)、捜査を進展させたというか、どちらかというと、妨害していた気がしないでもないです。しかし、ボブを引きとったのは霊媒姉妹なので、大いに貢献しています。
動物を使って犯行に及んだり、証拠隠滅を図ったりというトリックがある中で、動物に罪をなすりつけるというトリックが登場します。転倒の原因になったボールを置いたのが、愛犬だったとしても、それは結局、飼い主の不注意だったということになりそうです。この事件は命に係わる事故になってしまいましたが、ちょっと転んだ程度であれば、憤ることなく、「ダメでしょ」と叱って終わるかもしれません。

