no murder, yes life
森博嗣

彼女は一人で歩くのか?【あらすじ・ネタバレ解説・感想・考察】

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 森博嗣著「彼女は一人で歩くのか?」は2015年10月に刊行された作品で、Wシリーズの一作目です。この記事では、あらすじやみんなの感想などをまとめ、作品について考察します。

項目 説明
タイトル 彼女は一人で歩くのか?
著者 森博嗣
出版社 講談社
シリーズ Wシリーズ
順番 1
発行日 2015年10月20日
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あらすじ

ウォーカロン(walk-alone)。「単独歩行者」と呼ばれる人工細胞で作られた生命体。人間との差はほとんどなく、容易に違いは識別できない。研究者のハギリは、何者かに命を狙われた。心当たりはなかった。彼を保護しに来たウグイによると、ウォーカロンと人間を識別するためのハギリの研究成果が襲撃理由ではないかとのことだが。
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 この物語はS&Mなどのシリーズと同じ世界の異なる時代を描いており、2150年から2199年に起きた出来事と推測されます。「女王の百年密室」が2113年ですので、それよりも半世紀ほど後ということになります。

 22世紀後半、主人公のハギリ達が暮らす世界は子供が生まれないという社会問題を抱えていました。しかし、人工細胞等の技術によって人間はほぼ不老不死となり、かろうじて人口を維持していました。この世界には人だけではなく、人工細胞によって作られたウォーカロンも暮らしていました。主人公のハギリは人とウォーカロンを識別する装置の研究者で、その装置が完成間際となり、何者かに命を狙われます。

 命を狙われたハギリは護衛のウグイという人物に連れていかれ、ニュークリアという施設で研究を続けます。そして、人とウォーカロンを識別する装置を完成させます。途中、ハギリはアリチという生物学者から子供が生まれない理由に関する一つの仮説を教えられます。また、チカサカという動物学者から熊の本を受け取り、その本に仕込まれた「じゃあ、赤い魔法を知っている」という謎の文章をみつけます。その後、ニュークリアを抜け出したハギリの前に「黒い魔法をご存知ですか?」と尋ねる女性が現れます。その女性は整った顔立ちで、瞳の色はブルー、長い黒髪が特徴でした。

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タイムライン

 作中の出来事をタイムラインで簡単にまとめます。

ネタバレ注意
ハイライト
  • prologue
    プロローグ
    ウグイがハギリの研究室に登場
    アカマくんの部屋で爆発
  • 第1章
    絶望の機関
    同じく襲撃されたアリチをピックアップする
    ハギリ、アリチ、ウグイは旅館へ
    アリチがハギリに温泉で子供が生まれない現象に関する仮説を話す
    毒を盛られたアリチが重症を負う
    航空機で移動するがまたしても襲撃される
    ハギリとウグイはパラシュートで逃亡
  • 第2章
    希望の機関
    ニュークリアに到着
    局長のシモダと助手のマナミ登場
    アリチからの伝言「チカサカに会え」
    ハギリがウグイと共にチカサカの下へ
    チカサカがウォーカロン業界から脱走した者達からなる集団について語る
    ハギリがチカサカから“熊の生態”という本を受け取る
    ハギリが襲われるがウグイが襲撃者を始末する
    “熊の生態”に魔法の文章が現れる
  • 第3章
    願望の機関
    ウォーカロン・ニーヤの人生相談
    低年齢の対象において装置の精度が低いという課題が発覚する
    十歳のミチル登場
    ハギリ脱走
    ハギリ飲食店へ
    ミチルのおばあちゃんと名乗る女性が登場
    その女性が様々な内容を語る(※後述)
  • 第4章
    展望の機関
    ハギリが生物学者のリョウと会う
    ハギリとリョウがウォーカロンの研究施設を見学する
    研究施設の帰路で襲撃
    ウグイが銃弾を受ける
    ハギリの「赤い魔法を知っているか?」
    ハギリが銃を奪って襲撃者を撃つ
    飲食店に現れた女性はマガタ博士のウォーカロンだった
  • epilogue
    エピローグ
    ハギリがカウンセリングを受ける
    ウグイが顔をかえて復活
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ネタバレ

 ハギリの研究室を爆破した人物として、ハギリのアパートの管理人・スイミが逮捕されます。ハギリの認識では、彼女は人間だったようです。ウォーカロンのスイミが人間のスイミと入れ替わったという内容も書かれていますが、これは非現実的であるとして否定されています。また、アリチの家を爆破したのはアリチの妻でした。遅効性の毒をアリチに服用させたのもアリチの妻だったようです。アリチの妻はウォーカロンであり、彼女は爆破によって死亡しています。

謎の女

 飲食店に現れた謎の女性はマガタ博士のウォーカロンでした。マガタ博士は子供が生まれない理由について、微小なパラサイトが原因であると話しています。この物語に登場する科学者達は未知の存在によって子供が生まれなくなったと考えていましたが、実は、その未知の存在が不在であるために、子供が生まれなくなっていました。その未知の存在をマガタ博士はパラサイトと呼び、生物学者のリョウはそのパラサイトを特定しマウスで実験していました。どうやら、パラサイトは一種類ではなく少なくとも6種類はいるようです。

 マガタ博士(ウォーカロン)はハギリを狙っている組織についても語っています。動物学者のチカサカ(ハギリに熊の生態を渡した人物)はウォーカロン業界から脱走した者達の集団と話していましたが、それは、日本のウォーカロン・メーカーであるイシカワから脱走した集団だったようです。そして、そこからさらに分裂した集団がハギリを襲っていたとマガタ博士は伝えています。なお、シモダによって、マガタ博士がウォーカロンの生みの親であるということも語られています。

ハギリが狙われる理由

 ハギリは人間とウォーカロンを判別する仕組みを研究し、それを実用化しました。この実用化を阻止するというのが狙われた理由の一つです。実はもう一つ理由があり、それが暗号通信に関するハギリの研究成果でした。最後、ハギリが誘拐されそうになったのは、シモダが統括する情報局でハギリの暗号が使われることになったためです。その暗号を破るため敵勢力がハギリを狙ったということでした。ハギリ自身は、35年ほど前の研究ということもあり、暗号のことを忘れていたようです。

みんなの感想

 口コミを調べてみると、タイトルやSFという言葉がよく書き込まれていました。

タイトル

 タイトルに関して触れている方が多いです。「彼女は一人で歩くのか?」以降の作品もタイトルが素敵です。

ウォーカロンという呼称がとにかく的確すぎて、タイトルにも唸ってしまう。

このWシリーズ、表紙もタイトルもすごく好き。

そして何よりもタイトルが好き。

SF

 S&MやVシリーズなどなどは殺人を扱った推理小説でしたが、WシリーズはミステリーというよりもSFである、という意見が多いようです。

著者の作品はすべてがFになるしか読んでなかったので、ミステリーではないオーソドックスなSF小説でびっくり。

個人的にはSFの面白さはこういった作品にあると思っている。

SFはあまり得意じゃないんだけど、すんなり読めました。

SFというよりは人道というか人間とはどこまで人間なのかという哲学がベースなのでSF初心者にもだいぶ入りやすい。

もともと森博嗣氏のファンで作品はほぼ全て網羅していますが、この作品の影響で過去の有名SFを読むようになりました。

個人の感想

 S&MやV、G、Xと来て、次はWかと思い読んでみると、雰囲気というか、そもそもジャンルが違っていて、ある意味だまされます。とはいえ、謎がないかというとそうでもないため、ミステリー要素はあります。森博嗣先生は叙述系のトリック(他作品のネタバレになってしまうため具体的には書けませんが、外科医と言われると男性を想像してしまうが実は女性でした、という感じのトリックです)が素晴らしいと私は感じておるわけですが、それは、殺人など犯罪がテーマの作品でなくても、仕掛けることができるような気がしています。そんなトリックを期待して、読み進める方も多い、はずです。

考察

 時代は69ページの“その兆候は既に二百年まえ、二十世紀後半からあった。”から判断しています。未来へ進む方向に計算すると、20世紀後半の200年後なので、22世紀後半となります。250ページには、“マガタ博士は、二世紀も昔の歴史上の人物である。”という文章もあります。「すべてがFになるが」1994年、つまり、20世紀後半なので、真賀田四季博士が活躍した頃と一致しています。22世紀後半というのは、いくつかの文章から推測できますが、「彼女は一人で歩くのか?」では詳しい年月日が語られていません。

 結局のところ、赤い魔法はなんだったのか、ミチルは何者だったのか、ハギリを狙った集団とはなにか、などなどの謎は残されたままです。

子供が生まれない理由

 子供が生まれなくなったのは、パラサイトがいないクリーンな環境だからということでした。パラサイトが生殖を阻害しているのではなく、パラサイトの存在が生殖を可能にしているという内容が登場します。おそらく、パラサイトは新しい宿主を手に入れるために、人間の繁殖を可能にしていたということだと思います。この物語には、人が不老不死のような状態になるにつれてパラサイトの生きる環境が失われ、人の生殖機能も失われたという経緯があるのかもしれません(シリーズを読み進めればより詳細が語られるかもしれません)。余談ですが、現実世界では、パラサイトに寄生する小さなパラサイトがいるかもしれないということが語られています[出典:寄生蟲図鑑]。そういった未知の存在があるとなると、Wシリーズにおける生殖とパラサイトの関係も、否定はできないと思ったりします。

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