no murder, yes life
森博嗣

オメガ城の惨劇【あらすじ・ネタバレ解説・感想・考察】

この記事は約9分で読めます。
記事内に広告が表示されます

 森博嗣著「オメガ城の惨劇」は2022年10月に刊行された作品で、分類はシリーズ外作品(Non-series)となっています。しかし、サイカワ・ソウヘイが登場する作品でもあります。この記事では、あらすじや真相、名言、みんなの感想などをまとめ、作品について考察します。

項目 説明
タイトル オメガ城の惨劇
著者 森博嗣
出版社 講談社
シリーズ シリーズ外
順番
刊行日 2022年10月14日
スポンサーリンク

あらすじ

孤島に聳えるオメガ城への招待に応じた六人の天才と一人の雑誌記者。そこには、サイカワ・ソウヘイも含まれていた。彼らが城へやってきた理由は、ただ一つ。招待状に記された「マガタ・シキ」の名前だった。島へ渡るには、一日一便の連絡船を使用。帰りは、あらかじめ船を呼ぶ必要がある閉じた空間。執事すら主催者の顔を知らず、招待の意図は誰にもわからない。謎が多い中の晩餐をしかし七人は大いに楽しんだ。そして、深夜。高い叫び声のような音が響き、城は惨劇の場と化した。
講談社BOOK倶楽部

 オメガ城にやって来たのは、サイカワ・ソウヘイを除き、シリーズ作品において全員初登場の人物です。主人公はミヤチ・ノエミという雑誌記者で、その他の5名は学者、そして残り1名は画家です。学者達の専門は物理学、数学、医学、工学、心理学で、画家を含め、いずれも、その分野において著名な人物です。このうち、物理学者のグリーン、医者のゾンネフェルト、画家のウヅキがほぼ同時に死亡し、さらに、数学者のレーヌも行方不明になります。死亡した人物はすべてオメガ城の自室・客室で死んでおり、なぜか、レーヌの部屋には、正体不明の女性の死体がありました。

スポンサーリンク

タイムライン

 作中の出来事をタイムラインで簡単にまとめます。

ネタバレ注意
ハイライト
  • prologue
    プロローグ
    ミヤチとサイカワの会話
    (招待客が港近くのホテルで知り合う)
  • 第1章
    七人の招待客
    オメガ城へ向かうため港へ
    出港
    オメガ城に到着
    オメガ城散策
    ウヅキが遅れてやってくる
    七人で夕食
    マガタ・シキ登場
    娯楽室で歓談ののち解散
    深夜にサイカワとミヤチが悲鳴を聞く
  • 第2章
    四人の生存者
    四人の死体発見
    オメガ城のスタッフ消失が発覚
    電話やネットの不通が発覚
    オメガ城を捜索するが誰もいない
    サイカワがネットの復旧を試みる
    ミヤチが襲われる
  • 第3章
    二人の拘束者
    ミヤチが目を覚ます
    隣に数学者レーヌ
    二人は手錠をかけられ監禁される
    ワゴンのロボット登場
    停電
    脱出
    二人が監禁されていたのはマガタ研究所だった
    (オメガ城があったのは妃真加島)
    サイカワが装置を修理しネット復旧
    オメガ城に警察到着
    ミヤチやサイカワはオメガ城を離れる
    ミヤチとサイカワは同じ飛行機でフランスへ
  • 第4章
    一人の告発者
    ミヤチとサイカワが襲われる
    レーヌ帰国
    レーヌのインタビューでミヤチが罠を仕掛ける
    レーヌが襲われる
    再びミヤチとサイカワが襲われる
    襲撃者は編集長のルベルだった
    オメガ城の犯人はそれぞれの配偶者・パートナーだった
  • epilogue
    エピローグ
    ミヤチとセザイマル・ベニコの会話
    サイカワは本物ではなかった
スポンサーリンク

ネタバレ

 この作品には叙述トリックが仕込まれています。一つ目がオメガ城の場所です。オメガ城は実はマガタ研究所の近くに建てられており、この惨劇は「すべてがFになる」の事件が起きた妃真加島が舞台となっていました。舞台となったオメガ城はマガタ・シキの信者たちが利用する保養施設になっていたようです。

 もう一つは、サイカワ・ソウヘイの正体です。サイカワという名前は偽名で、本当は保呂草潤平でした。保呂草は犀川のふりをしてオメガ城を訪ね、何かを図面の筒に入れて盗み出しています。なお、マガタ・シキの名を語った招待状は、瀬在丸紅子の下に届いています。保呂草はその招待状を譲りうけていました。

殺人の真相

 オメガ城で起きた殺人事件の犯人は、それぞれの被害者のパートナーです。つまり、ゾンネフェルトを殺害したのはゾンネフェルトの妻、ウヅキを殺害したのはウヅキの妻でした。グリーンのパートナーは男性で、その正体はルベル編集長でした。そして、レーヌの部屋で死んでいた女性はレーヌの妻です。彼女は夫を殺害しようとしましたが、返り討ちにあい、逆に夫に殺されてしまいました。レーヌ自身は犯人達に研究所へと連れていかれ、そこで、互いに秘密を漏らさないという取引をします。レーヌは妻殺害を隠すために嘘をついていましたが、サイカワとミヤチの罠にかかり、自供を決意します。

 犯行の動機は相手のもつ財産にありました。金を手にれるため、パートナー達はスタッフとしてオメガ城に潜伏し、犯行後、島を脱出しました。スタッフは10名で、パートナー以外の人間は金で雇われた人物でした。

紅子の招待状

瀬在丸紅子が招待状を受け取ったのは、林との関係が噂になっていたためです。パートナー殺害プロジェクトの主催者は、紅子が元夫の林を殺害すると考えていたようです。しかし、二人の関係はある意味良好なので、紅子には動機がありませんでした。結果、招待状は、めぐりめぐって、保呂草の手元に届きました。

名言

「私はすぐに寝てしまったのですが、サイカワ先生は、連絡をしたり、いろいろ忙しかったのかもしれません」私は説明した。
「真面目な方ね」シモンが言う。「社交性の欠如が垣間見えますが、おそらく子供の頃の環境かな」
ハードカバー版P264

「それは、どういう意味ですか?」
「不定です。わからない。不可能ではありませんが、不定です」
「ありがとうございました」
ハードカバー版P355

「綴りが違う。イニシャルはV・C。どういうわけか」
私はメモを修正した。
ハードカバー版P381

個人の感想

 この本に登場するサイカワは保呂草ではないか、というのは読んでいて頭をよぎったのですが、四季博士との面識があるという点を根拠に、サイカワ保呂草説を否定しておりました。二人は面識がある、という紅子の言葉で思い出しましたが、これがなかったら、二人は接点がないとか言いふらしていたかもしれません。こわやこわや、です。読んだの、だいぶ前なので、もう記憶が精練されてきています(忘れたとはいいたくない)。読み返したくなるとレビューされていた読者の方に、ほんと、共感します。

考察

 この作品の副題は「犀川創平 最後の事件」というような文章になっています。犀川創平本人は登場していないので、最後の事件とは言えないように思いますが、ミヤチ・ノエミが本を書いた場合、そこに登場するのはサイカワ・ソウヘイになるはずです。なので、作品の世界において、犀川の最後の事件として認識されるのは、この事件ということかもしれません。

 死体のそばのwというメッセージが、最後の事件を意味しているとも考えられます。作中ではアルファベットのwだと考えられていたようですが、これはギリシャ文字のω(オメガ)かもしれません。ωは最後のギリシャ文字なので、Gシリーズで描かれていた一連の事件の最後が、このオメガ城の事件であると推測できます。このギリシャ文字の事件について、島田文子は四季信者が暴走して起こした事件だ、というようなことを「χの悲劇」で語っています。暴走していた信者というは、オメガ城の犯人達、もしくは彼らが所属する組織だったのでしょうか。

 レビューを見ていると、wはwife(妻)の頭文字ではないか、などの意見もありました。wがωで、ωだから最後、というのは憶測なので、確かではありません。この憶測が正しいとするならば、確かに事件としては最後かもしれませんが、出版が最後とは言っていないので、今後、ギリシャ文字の事件が描かれるということもある気がします、むしろ刊行して頂きたいです。

 その他、副題の「SAIKAWA Sohei’s Last Case」のCaseには文字という意味が込められており、つまり、犀川創平の平の字を表しているというレビューもありました。しかしながら、Caseという英単語に文字という意味は全くないようです。Caseを文字という意味にするなら、「SAIKAWA Sohei’s Last Letter」にして、Letterは手紙かと思ったら、実は文字だったという方が、トリックとして鮮やかだったと思います。英単語のLetterには文字という広く一般的な意味があります。

ゾンネフェルト

 マガタ・シキがディナーに現れた時、シキ博士はゾンネフェルトに「いつか私たちがお世話になることでしょう」と話しています。ゾンネフェルトの専門は脳外科ということなので、おそらく、「ψの悲劇」で描かれたようなテクノロジーに関連しているのだと思います。

あの方

 あの方こと保呂草潤平は、マガタ研究所で働いていたようです。瀬在丸紅子は「夫婦で」と語っているので、保呂草のパートナーも一緒だったようです。パートナーが各務亜樹良だとすると、各務も一緒に研究所で働いていたということになります。各務は特に不思議ではないですが、保呂草は何をしていたのか、というのが気になるところです。保呂草がマガタ研究所でまともに働けたのかどうかはさておき、各務の子供が海月及介という事実は確かなはずなので、各務の夫が保呂草なら、海月の父親は保呂草ということになります。しかし、海月の父は小山田真一という名前になっています。このことから、小山田が偽名でその正体は保呂草、もしくは、各務が生んだのは保呂草の子供ではない(つまり不倫だった)、などの可能性が思い浮かびます。

みんなの感想

 口コミを調べてみると『懐かしい』や『読み返す』という言葉がよく書き込まれていました。

Fの衝撃、再び。この帯を見たら抗えない。実際本作はS&MおよびVシリーズの関連作品で、S&MとVシリーズの登場人物の人間関係について踏み込んだ情報を提示してくれている。こんなの読まされたらあの膨大なシリーズをもう一回読みたくなってしまう。どうしてくれる。

懐かしい

 懐かしい人物が数多く登場します。犀川創平や真賀田四季だけではなく、保呂草や紅子も登場します。

懐かしい方々に再会できるなんて…本当に嬉しい\(^o^)/

過去作に触れる部分が多々あって懐かしかった。

懐かしいあの方、あの方、そしてあの場所がフッと蘇る。

読み返す

 この作品を読んで、過去のシリーズ作品を読み返したくなった方も多いようです。

Fから読み返さねばと思いつつ、冊数の多さにためらってるんだけど、早くしないとわたしの寿命が先に終わっちゃう。

感服、脱帽、あるいは敬服。過去作を読み返したくなった。

シリーズ追いかけてる勢にとしては、ボーナストラックの様なエピローグで、またシリーズを読み返したくなる様な、そんな読後感でした。

コメント

タイトルとURLをコピーしました