「ノックスの十戒」は推理小説の一般的な書き方や使い古されたトリックなどを記載した十のルールです。このルールを全て破った場合と、全て守る場合について紹介します。
すべて破る場合に関する考察
すべて破る場合の十戒は以下のようになります。
- 犯人は最後にだけ登場する
- 心霊、オカルト、SF、精霊などが登場しなければならない
- 秘密の通路がなければならない
- 毒物は未知のものでなければならない。装置の類は非常に簡潔でなければならない
- 絶対に中国人を登場させなければならない
- すべてが直感で進行し偶然解決する
- 探偵が犯人でなければならない
- すべての手掛かりは極めてわかりにくく書いておく
- 相棒は嘘つきで非常に賢い
- 双子が突然登場しなければならない
探偵が犯人で、その探偵がラストにだけ登場することが決まっています。そして、偶然と直感だけで捜査が進むので、とりあえず事件を起こしておけば解決できます。手掛かりや伏線の類は、わかりにくいこじつけで大丈夫です。登場人物に双子の中国人の霊媒師を登場させれば(もちろん犯人ではない)、いろいろクリアできます。とりあえず、未知の毒物とトランジスターを死体発見現場に置いておきます。探偵が犯人ですので、相棒の方が探偵っぽいというのは、なかなか理にかなっています。
小説の例
破る場合の十戒を課して、ChatGPTにコナン・ドイル風の推理小説を書いてもらいました。犯人は最後にだけ登場することや、相棒に関する項目が守られていなかったりしますが、だいたいこんな感じになるのではないかと思われます。
シャーロック・ホームズとワトソン博士は、ベーカー街221Bの部屋でくつろいでいました。その夜、突然、インスペクター・レストレードが彼らを訪ねてきました。彼の表情は深刻で、不可解な事件を報告しました。
「ホームズ、ワトソン、あなたたちにお力添えいただきたく参りました。ベーカー街の近くにある古い屋敷で、謎の殺人事件が発生したのです。被害者は名前不明の男性で、彼の死は不可解なもので、まさにオカルトのようなものです」
ホームズは興奮しました。彼はオカルト的な謎を愛し、即座に出発することを決定しました。彼とワトソンは屋敷に向かいました。屋敷に到着すると、双子の中国人姉妹、リンとリーが歓迎しました。彼らは屋敷の主である名も知らぬ男性の従兄弟であり、彼の死について詳細を提供しました。死体は密室の中で見つかり、どの窓やドアも閉まっており、絶対に誰かが入り込んだ形跡はありませんでした。
ホームズとワトソンは屋敷を調査し、秘密の通路を見つけました。通路は屋敷の奥深くに伸びており、機械によって制御されていました。通路の中で、彼らは未知の毒物についての手がかりを見つけました。その毒物は非常に稀少で、専門的な知識が必要でした。
時間が経つにつれ、ホームズは直感に従い、手がかりをつなげていきました。彼はリンとリーが何かを隠していることを感じ、その中に事件の鍵があると考えました。双子は賢く、嘘をつくことに長けており、彼らはしばしば虚言をまじえて話しました。ホームズは彼らの言葉を糸口に、事件の真相を解明しました。
最後に、ホームズは驚くべき真相を明らかにしました。彼自身が事件の背後にいたのです。彼は完璧な犯罪を計画し、自分が解決することで名声を高めようとしていたのでした。双子の姉妹と秘密の通路、未知の毒物は、彼の巧妙な計画の一部でした。
事件はすべてが直感に従い、偶然に解決したのでした。ホームズとワトソンは自身の秘密を守りつつ、事件を解決し、レストレードに報告しました。そして、彼らは再びベーカー街の平和な日常に戻りました。
解説
シャーロックホームズシリーズでお馴染みのレストレード警部が依頼人です。依頼を受けたホームズとワトソン博士は現場に向かいます。秘密の通路など、様々な証拠が発見され怪しい双子も登場します。いろいろ登場した後、結局、ホームズは突然、真相に気付きます。犯人はホームズ自身でした。
納得できるかどうかはさておき、すべての証拠はホームズが仕組んだ計画の一部だった、ということで一応手掛かりについて説明がされています。
ホームズが犯人だったので、犯人は最後に登場するという十戒が守られていません。またホームズの視点で物語が進んでいる様子なので、相棒役であるワトソン博士についての記述もありません。これらの点を除き、概ね『全て破る十戒』は守られています。
すべて守る場合に関する考察
十戒を全て守るのは、それほど難しくはないように思えてしまいますが、6の項目がだいぶ難しいです。十戒はミステリーの一般的な書き方やよく使われるトリックなどがまとめられていますが、理想的な本格推理小説の条件についても述べられています。
簡単に守れそうなのは、具体的な内容について言及している2の<超自然的な力>、3の<隠し部屋>、4の<毒と科学装置>、5の<中国人>、10の<双子>です。これらを用いた展開や結末が登場するとガッカリすること間違いなしのため、そもそも登場させるには勇気がいるはずです。7の<探偵が犯人>ではないというのも具体的なトリックですので、守りやすいです。
9の<相棒>や助手に関する内容を守るとミステリーの王道パターンになりがちですが、多くの有名なミステリー作品はこのパターンといえます。作者にとっては書きやすく、読者にとっては親しみやすいのかもしれません。1の<犯人の性質>や8の<手掛かりの性質>はミステリーの一般的なルールといえます。
6の<偶然や直感>に関する記述は、守らない場合、手掛かりや推理なしに捜査が進んでいる状況ですので、本格推理小説とはいえません。しかしながら、ミステリー作品がこれらを完全に満たしていることはまずありません。
コメント