『海軍条約事件(海軍条約文書事件)』は、機密文書が盗まれてしまい、その後しばらくして、ホームズが調査するというエピソードです。原作は1893年に発表されました。短編集として発行されたのも同じ年の1893年です。
項目 | 内容 |
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発表 | 1893年10月・11月発表 (ストランド) |
発表順 | 25作品目 (60作中) |
発生時期 | 1889年7月30日~ 同年8月1日 |
発生順 | 24件目 (60作中) |
あらすじ
ワトスンにパーシー・フェルプスから手紙が届く。家柄の良いフェルプスは外務省の高官を務めていた。そんなフェルプスは、きわめて重大な事件が起きたと手紙に書いていた。ホームズとワトソンは、フェルプス邸へ向かい、そこで、やつれ果てたフェルプスと婚約者アニーから、海軍条約文書の原本盗難事件を知る。
事件が起きたのは10週間前だった。フェルプスは外務大臣の伯父から海軍条約文書の書き写しを指示された。内密に作業を進めるため、フェルプスは同僚が事務所を引き上げたあと、作業に取り掛かった。しかし、ほんの少し席を外した間に、机の上においていた条約文書の原本が紛失してしまった。原本を失くしたことで錯乱状態となったフェルプスは、婚約者アニーの兄であるジョセフが使っていた部屋で、9週間、寝たきりだった。そんな彼も、1週間ほど前にようやく回復し、事件の捜査状況を問い合わせた。が、特に進展はなく、ついに、旧友のワトスンへ手紙を書いたのだった。
調査依頼を引き受けたホームズは関係者から話を聞き、条約文書はまだ犯人の手元に残っていると推理する。その矢先、翌日にフェルプスの部屋に泥棒が侵入を試みるという事件が起きる。ホームズはフェルプス邸に残り、ワトスンとフェルプスだけをロンドンへと返した。そしてまた次の日の朝、ホームズは手に包帯を巻いて221Bへと帰ってくる。ホームズはなんと、条約文章を取り返してた。
ネタバレ
ホームズはワトスンたちと別れたのち、夜を待って、フェルプス邸の庭に忍び込んだ。そして、フェルプスの部屋が見える場所で張り込みを始めた。やがて、アニーの兄であるジョセフ・ハリソンが現れた。彼は、どうやら、部屋の床にある鉛管工事用の板に条約文書を隠していたようである。ホームズは現れたジョセフとの格闘の末、文書を取り返したのだが、手に怪我を負ってしまった。これが手に巻いた包帯の理由らしかった。
ジョセフの動機は金だった。株で大損したジョセフは金に困っていた。盗難事件の日、ジョセフはフェルプスの職場へ行き、偶然、机の上に条約文書を見つけた。金になると思ったジョセフは、文書を盗み、自分の部屋の床下に隠した。しかし、錯乱状態になったフェルプスが帰宅し、文書を隠した部屋を病室として使われることになってしまった。そのため、せっかく盗んだ文書を回収できなくなってしまったのだった。
ドラマ
グラナダ版ドラマは、1984年5月8日に放送されました。シーズン1の第3話(52分)です。
項目 | 内容 |
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シーズン | 1 |
話数 | 3 |
放送順 | 3 |
放送日(英) | 1984年5月8日(火) |
出演者 | キャスト一覧 |
ストーリー
ワトソンは旧友のパーシー・フェルプスから助けを求める連絡を受け取る。フェルプスはひどく打ちのめされ、婚約者のアニー・ハリソンと彼女の弟のジョセフに看病されていた。数か月前、外務大臣のホールドハースト卿は、フェルプスに極秘で長期にわたる海軍条約の書き写しを任せた。作業を進めていたフェルプスは休憩のため、用務員にコーヒーを求めた。しかし、コーヒーが届かず、席を外して用務員のもとへ行くと、自分のオフィスのベルが鳴っていることに気付く。パニックに陥ったフェルプスが自席に戻ると、条約文書はなくなっていた。
ホームズとワトソンはフェルプスのオフィスを調べ、さらに、ホールドハースト卿にも事情を聴いた。ホールドハースト卿によれば条約文章は、まだ外国の手に渡っていないようだった。その後、フェルプスの自宅に戻り、誰かが窓を無理やり開けようとしていたことを知る。ホームズはアニーにフェルプスの寝室で一日中過ごし、夜はドアに鍵をかけるように頼む。ホームズはフェルプスの自宅に残り、フェルプスとワトソンはロンドンへと向かわせる。
翌朝、ホームズが戻ってきた。フェルプスが朝食の皿のふたを持ち上げると、そこには条約文章があった。ホームズはジョセフが犯人だったと伝え、ジョセフはフェルプスが寝込んでいた部屋に条約文章を隠していたのだった。
原作とドラマの違い
原作とドラマに大きな違いはありません。原作では、用務員・タンジー夫妻の行動が細かく記されています。この二人は、とても怪しいわけですが犯人ではありません。また、原作には、パーシー・フェルプスが、事件のあらましを語っている最中に、発作を起こすという描写がありましたが、ドラマにこのようなシーンはありません。原作では、この間に、ホームズがジョセフ・ハリソンと会話しています。
感想
コーヒーがなかなか届かなかったので席を外すと、機密書類が盗まれてしまいました。コーヒーをわざと遅らせて、被害者が席を外した隙に、共犯者が書類を盗んだ、というストーリーかと思いきや、被害者の義理の弟が犯人でした。すごく怪しい人物が犯人じゃなかったというパターンだった気がします。
盗んだものを隠した場所に人が居座ってしまって取り出せなくなったということなのですが、ちょっと、この犯人は運がなかったように思います。運よく文書を手に入れたわけですが、運悪く文書を取り出せなくなってしまいました。因果応報というやつかもしれません。
考察
ラストシーンで、ホームズは朝食の中に機密文章を隠しておくというサプライズを仕込んでいました。なかなかのサプライズ好きなのかもしれません。なお、「ボヘミアの醜聞」で紹介したエドガー・アラン・ポーの「盗まれた手紙」に、このドラマのラストシーンような場面が登場します。
盗難ということもあり「ボヘミアの醜聞」と似ているような気がします。ボヘミアは犯人が誰なのかわかっていましたが、この事件は最後まで犯人がわかりませんでした。盗難という点で確かに似ていますが、なぜベルが鳴ったのか、なぜ機密文書は行使されていないのか、といったわかりやすい謎があり、その真相には意外性もあったと思います。
バラ
ホームズがバラについて語るシーンの抜粋です。盗難事件という大事な話をしている時に、ホームズがいきなりバラについて語り始めるので、依頼人が怒ってしまいます。
「警察は事実関係の収集に関して素晴らしい能力を発揮するわけですが、それが常に有効活用できるとは限りませんが。薔薇とは素晴らしいものですね!」
ホームズは長椅子を通り過ぎて開いた窓に近づき、深紅と深緑の優雅な調和を見下ろしながら、垂れ下がった薔薇の枝を持ち上げた。私(ワトスン)はホームズの性格について、新たな一面を垣間見たような気分だった。
まとめ
シャーロック・ホームズの「海軍条約事件」について、原作とドラマのあらすじとネタバレ、感想などをご紹介しました。依頼人による事件調査の依頼が、事件発生からだいぶ経過したあとであるというのが特徴といえます。
- 発端フェルプスからワトスンに手紙が届く
ホームズとワトスンが依頼人のフェルプスから事情を聴く
- 展開フェルプス部屋に泥棒が侵入
ホームズだけがフェルプスの屋敷に残る
- 結末221Bにホームズが帰ってくる
登場人物
登場人物をネタバレありで簡単にまとめます。原作およびドラマに共通する内容で一覧にしています。なお、主人公であるシャーロック・ホームズとワトスン博士は除いています。
名前 | 説明 |
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パーシー・フェルプス Percy Phelps |
依頼人 海軍の機密文書を盗まれてしまう |
アニー・ハリソン Annie Harrison |
パーシーの婚約者 盗難事件後パーシーを看病していた |
ジョセフ・ハリソン Joseph Harrison |
アニーの兄 金に困り機密文書を盗んだ |
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