『牧師館の殺人』のあらすじ、真相、原作小説との違い、感想などをまとめています。ジェラルディン・マクイーワンさん主演のドラマ版ミス・マープルシリーズの第二話です。ミス・マープルが暮らすセント・メリー・ミードの牧師館で判事のプロズロー大佐が殺されます。
あらすじ
セント・メアリー・ミードで最も嫌われている人物といえば、それは、プロズロー大佐に違いなかった。誰もが大佐の厳しい態度に怒り、殺意を覚えていた。そんな大佐が帳簿を確認するため牧師館を訪れた。寄付金の一部が消えた疑いがあったからだった。牧師のレナード・クレメントは外出中だったため、大佐は室内で待つことになった。その後、牧師が帰宅し、拳銃で撃たれて死んだレナードの姿を発見することになる。
もともと嫌われていた人物なので、容疑者は大勢いた。とりわけ、大佐の妻アンは牧師館に寝泊まりしている絵描きのローレンス・レディングと不倫関係にあり、犯行時刻に犯行現場である牧師館近くいたため、容疑者となる。ところが、事件発覚直後、同じく現場付近にいたローレンスが自白し、さらに、アンも自白することになる。しかし、二人の証言には事実と反する部分があり、どうやら、お互いをかばうために自白したようだった。
登場人物とキャスト
主な登場人物とキャストをまとめます。
名前 | キャスト | 説明 |
---|---|---|
ミス・マープル Miss Marple |
ジェラルディン・マクイーワン Geraldine McEwan |
老婦人の名探偵 事件の証人となる |
レナード・クレメント Leonard Clement |
ティム・マッキナリー Tim McInnerny |
牧師 |
グリゼルダ・クレメント Griselda Clement |
レイチェル・スターリング Rachael Stirling |
牧師の妻 |
デニス・クレメント Dennis Clement |
ジュリアン・モリス Julian Morris |
牧師の甥 |
ロナルド・ホーズ Ronald Hawes |
マーク・ゲイティス Mark Gatiss |
牧師補 |
メアリ・ヒル Mary Hill |
ショーハン・ヘイズ Siobhan Hayes |
牧師館のメイド |
プロズロー大佐 Colonel Protheroe |
デレク・ジャコビ Derek Jacobi |
被害者。判事 名前はルシアス |
アン・プロズロー Anne Protheroe |
ジャネット・マクティア Janet McTeer |
プロズロー大佐の後妻 |
レティス・プロズロー Lettice Protheroe |
クリスティーナ・コール Christina Cole |
プロズロー大佐の娘 絵のモデルをしている |
ローレンス・レディング Lawrence Redding |
ジェイソン・フレミング Jason Flemyng |
画家 牧師館の離れで暮らす |
ヘイドック Dr. Haydock |
ロバート・パウエル Robert Powell |
医師 |
プライス・リドリー夫人 Mrs. Price-Ridley |
ミリアム・マーゴリーズ Miriam Margolyes |
村の住人 マープルの友人 |
ハートネル Miss Hartnell |
アンジェラ・プレザンス Angela Pleasence |
村の住人 マープルの友人 |
レスター夫人 Mrs. Lester |
ジェーン・アッシャー Jane Asher |
村に越してきたばかりの婦人 |
若い女性 Young Girl |
ジュリー・コックス Julie Cox |
冒頭に登場した若い女性 兵士と写真撮影をしている |
事件概要
登場人物が多く、いろいろと怪しい人が多いですが、まず、事件について時系列にまとめます。
- 18:15大佐が牧師館に到着
- 18:20メイドが大佐のくしゃみを耳にする
アンが牧師館からアトリエへ移動
ローレンスがアトリエにやってくる
- 18:30銃声
ヘレンが姿を現す
アンとローレンスがアトリエから出てくる
デュフォス教授が姿を現す
- 18:45牧師がローレンスとすれ違う
死体発見
大佐の死体は牧師館の書斎でみつかりました。椅子に座り、机に突っ伏すような姿勢で、背後から撃たれたことは間違いなく、補聴器を利用していた大佐は侵入者に気付かなかったようです。死亡推定時刻は検死により、18時20分から18時40分頃の間と断定されます。
現場には18:20を示したまま壊れた時計が落ちていました。机には書きかけのメモが残されており、そのメモには、6:20という時刻も書き込まれていました。以上のことから、18時20分頃、被害者がメモを書いている最中に殺されたと推理でき、同じ頃牧師館をうろついていたアンがかなり怪しい人物となります。
ところが、事件発覚直後に画家のローレンスが自白します。しかしながら、18時45分に犯行に及んだという証言と死亡推定時刻が食い違うため、ローレンスは嘘をついていると判断されます。その後、アンも自白しますが、拳銃を隠し持つことはできなかったというマープルの証言によって、犯行は不可能であると判断されることになります。
書斎に近づいたのはアン以外にいないように思えますが、牧師館へは玄関から侵入することもできます。牧師館にはメイドがおり、さらに、マープルも牧師館をみていたわけですが、監視していたわけではないため、見落としがあったりします。
殺人以外にもいろいろと起きていますが、おおむね、大佐の殺害とは関係なかったりします。以下、箇条書きでまとめておきます。
- 寄付金の紛失
- 新参者のレスター夫人
- 大佐がバイクにひかれそうになる
- 牧師館のメイドが何やら怪しい
- 教授と孫娘も何やら怪しい
- 牧師が脅迫めいた手紙を受け取る
- 牧師の妻がロンドンへ行ったにも関わらず買い物をしていない
- 現場からアンの宝石がみつかる
ネタバレ
大佐を殺した犯人はアン・プロズローとローレンス・レディングです。不倫関係にあった二人は自白して釈放されることによって容疑者から外れようとしていました。
大佐を撃ち殺したのは妻のアンで、時刻は18時20分でした。拳銃を持っていないはずのアンでしたが、実は書斎に隠してありました。銃を用意したのはローレンスです。書斎の窓は開いていたので、仕込むのは容易でした。そして、銃には消音器がついていたので、銃声らしき銃声は響きませんでした。メイドはくしゃみと勘違いしていたようですが、実は銃声でした。
アンは大佐を銃殺したあと、銃を置いてアトリエへ移動しました。そこで、ローレンスと落ち合い、18時半に銃声を鳴らしました。その後、ローレンスが牧師館を訪れて、銃を回収し、時計を破壊したり、偽の手紙を置いたりして、あえてアンに疑いが向くような偽装工作を行いました。なお、アンに電話をかけて牧師館に呼び出したのも、牧師を外出させた嘘の電話もローレンスで、さらに、バイクの運転手もローレンスでした。
大佐は亡くなる前に手紙を書いており、そこには副牧師であるホーズが過去に横領を働き、牧師館を解雇されていたことが書かれていました。現場で手紙を手に入れたローレンスはホーズに罪をきせることを思い付き、自殺にみせかけて殺そうとしています。
大佐殺害の真相は上記の通りですが、これ以外にも、さまざまな事実が隠されていました。
- 寄付金の紛失
副牧師のホーズが横領していた - 新参者のレスター夫人
レティス・プロズローの実の母親、すなわち、死んだ大佐の元妻だった - 大佐がバイクにひかれそうになる
真犯人の犯行 - 牧師館のメイドが何やら怪しい
メイドには大佐によって刑務所送りになった恋人がいた - 教授と孫娘も何やら怪しい
雑誌うんぬんの話は嘘。大佐の命を狙っていた - 牧師が脅迫めいた手紙を受け取る
中年女性(プライス・リドリー夫人)が寂しさを紛らわせるために、嫌がらせをした - 牧師の妻がロンドンへ行ったにも関わらず買い物をしていない
妻は妊娠を確認するため病院に行っていた - 現場からアンの宝石がみつかる
レティス・プロズローが置いた
殺人にやや影響したのは、デュフォス教授が孫の仇を討つために、大佐を命を狙っていたことです。18時30分頃に教授の姿が目撃されていますが、直前に、教授は大佐を殺そうと忍び込んだため、死体をみていました。
アプリコット・チャツネ
apricot chutney(アプリコット・チャツネ、もしくはチャットニー)はソースの一種です。ドラマの中では詳しく語られていませんが、どうやら、つわりの時に食すため、妊娠を暗に意味していたようです。
原作とドラマの違い
ドラマと原作の犯人や事件の概要などは同じです。大きな違いは、ドラマでマープルの過去が語られていたことです。ドラマでは、若かりしミス・マープルと兵士の恋愛や別れが描かれていましたが、こういった描写は原作小説にはありません。その他の主な違いは下記の通りです。
- ドラマのレスター夫人(レティスの実母)は原作ではレストレンジ夫人という名前
- バイクの襲撃やミス・マープルの怪我はドラマオリジナル
- 原作では、マープルと犯人のアンは特に親しくない
- 原作では、牧師の妻であるグリゼルダがプライス・リドリー夫人に脅迫めいた電話をかけている
- グリゼルダの妊娠や、リドリー夫人による牧師館への手紙はドラマオリジナル
- ドラマのデュフォス教授と孫娘のヘレンは原作には登場しない。原作にはストーン博士とグラディス・クラムという人物が登場し、ストーン博士は泥棒
感想
ミス・マープルも妻帯者に恋をしていたようです。写真立てを持っている点などなどから、一時的なものではなさそうで、ちょっと衝撃的な事実でした。分別のありそうなミス・マープルからは想像できない過去ですが、そういった後ろ暗い部分が魅力に繋がるのかもしれません(不倫を肯定しているわけではないです)。
考察
第一話「書斎の死体」は冒頭から死体でしたが、今回のエピソードは中々殺人が起きないので、ちょっと違った雰囲気です。視点としては、事件の当事者か、それとも、事件発生後に捜査を始める刑事や探偵か違いですが、今回はどちらも半分半分になっているようなエピソードです。マープルは事件の目撃者であり、後半は探偵として活躍したりしますが、事情聴取などで事件の前後を明確にするという過程は控えめになっていました。
まとめ
ミス・マープル「牧師館の殺人」について、あらすじ、真相、ドラマと原作の違い、感想などをご紹介しました。
犯人
- アン・プロズローとローレンス・レディング
Anne Protheroe & Lawrence Redding
アンが一目惚れしてローレンスと不倫に陥ったかと思いきや、ローレンスはアンが戦死したと思っていた恋人だった。大佐の性格を考えると、穏便に離婚するというのは難しそうである。ただ、一度離婚しているので、なんとかなったのではないかと思ったりもする。それではミステリーにならないではないか、というのは言わないお約束なので、殺した方が村の平和のためだったとか、実は大佐が最近宗教に入れ込んでいて離婚できなかったとか、アンが離婚ではなく死別を選びたかったとか、そういったのが理由かもしれない。
犯人が仕掛けたトリックは真っ先に自首して捕まって嘘をつくというものだった。自白の内容に矛盾があれば、犯人とは認められず、容疑者から外れることになる。恋人を守るためという自首の理由もしっかり用意されていたため、より一層、嘘の真実味が増している。
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