「バスカヴィル家の犬」は、シャーロック・ホームズシリーズの名作長編です。原作は1901年に発表されました(正確には、1901年8月から1902年4月にかけて発表)。1983年12月に発表された「最後の事件」から約8年後に発表された長編作品です。原作小説はビとヴィの違いがありますが、ほとんど「バスカビル家の犬」という日本語タイトルで統一されています。
項目 | 内容 |
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作者 | コナン・ドイル |
発表 | 1901年8月発表 (ストランド) |
発表順 | 27作品目 (60作中) |
発生時期 | 1888年9月25日~ 10月20日 |
発生順 | 20件目 (60作中) |
あらすじ
バスカヴィル家のかつての当主であるヒューゴー・バスカヴィル卿は、ある女性を拉致しようとして、どこからともなく現れた魔犬に襲われ命を落とした。そんな伝説のあるバスカヴィル家で、チャールズ・バスカヴィルという準男爵が変死する。チャールズの死は心臓発作だと考えられるのだが、死体のそばには犬の大きな足跡が残されていた…。
チャールズ卿にはヘンリー・バスカヴィルという甥がおり、ヘンリーがチャールズの後を継ぐことになるのだが、ヘンリーがロンドンに帰国した矢先、バスカヴィルの屋敷への訪問を止めさせるような手紙が届く。不審に思ったチャールズ卿の主治医モーティマー医師は、シャーロック・ホームズに調査を依頼する。しかしホームズは別件で動きが取れず、代わりにワトスン博士がモーティマー医師と共に、バスカヴィル家へと赴くことになる。
屋敷に到着したワトスンは、そこで起きた様々な出来事をホームズに手紙で報せていく。どうやら、近くに脱獄囚セルデンが潜んでいらしい。バスカビル家の執事とその妻といえば、夜遅くになるとろうそくに火をつけ、それを円を描くようにして回している。そして、隣人である昆虫学者のステープルトンの妹であるベリル嬢は、ワトスンにここから立ち去るよう忠告してくる。さらに、湿地帯からは魔犬の咆哮らしきものが聞こえてくるではないか。
しばらくして、執事と妻の不審な行動の理由が明らかになる。実は、妻の実弟が脱獄者セルデンだった。蝋燭はセルデンへの合図だったのだ。さらに、近くにある遺跡には脱獄囚とは別の怪しい人物が潜んでいるということも明らかになる。その怪しい人物には、少年が毎日食料を届けているという。
ワトスンはその人物の正体を確かめるため、遺跡へと向かう。怪しい人物が隠れていると思しき石室には、毛布や台所用品などの日用品があり、缶詰などの食料もみつかった。人が生活しているのは間違いなかった。驚いたことに、ワトスンの行動を記したメモまでもが置いてあった。自分が見張られていたことに気付いたワトスン。すると、背後から足音が聞こえてくる。誰かが石室にやってきた。ワトスンはピストル片手に、物陰に隠れるのだった。
ネタバレ
「夕焼けが綺麗だよ、ワトスン。出ておいで」。聞き覚えのあるその声はシャーロック・ホームズのそれに違いなかった。どうやらホームズは旅人に変装して、この地に潜んでいたらしい。
ロンドンに残ったホームズだったが、ベイカー街遊撃隊の協力を得て、実はバスカヴィルの一件の調査を進めていた。ワトスンがロンドンへ送った手紙は、すべて、ホームズのもとに転送されていたのだった。
ホームズの調査の結果、昆虫学者のステープルトンとベリル嬢は夫婦であることが判明する。つまり、妹というのは嘘だった。ホームズとワトスン博士が話しているちょうどその時、男の叫び声と犬の唸り声が響き渡る。ホームズとワトスンが駆けつけると、そこには、ヘンリー卿の死体があった。
真相解説
ヘンリー卿が魔犬に殺されてしまったようにみえましたが、死んでいたのはヘンリー卿の服を着たセルデンでした。魔犬は、服の匂いでセルデンとヘンリー卿を間違えてしまったようです。
そして、この魔犬の飼い主こそが黒幕で、その正体はステープルトンでした。セルデンの死体をみつけた後、ホームズとワトスン博士はバスカヴィルの屋敷へと向かい、ワトスンは壁に飾られた肖像画を観察することになります。そして、ヒューゴー・バスカヴィルの肖像画と、ステープルトンがそっくりであることに気付きます。すなわち、ステープルトンもバスカヴィル家の血を引く人物でした。そんなステープルトンは、ヘンリー卿を亡き者にして、バスカヴィル家を乗っ取ろうとしていたというわけです。
ホームズは、ヘンリー卿がおとりになるように仕向け、ステープルトンに魔犬を使わせます。魔犬の速さにまかれてしまい、あやうくヘンリー卿が餌食になってしまうところでしたが、間一髪のところで魔犬を退治します。“火を吐く魔犬”の正体はリンで、リンが犬の口に塗られていたため不気味に発光していたのでした。
魔犬をやっつけた後、一行はステープルトンの屋敷で、縛られていたベリル嬢を解放します。ベリル嬢はヘンリー卿襲撃を阻止しようとしたため、スティーブンに拘束されていました。
肝心のステープルトンですが、底なし沼のある湿地帯に逃げ込んだらしく、ホームズ達が後を追っても、その姿はついに発見されませんでした。おそらく、沼の底に沈んでしまったと考えられます。
名言
The world is full of obvious things which nobody by any chance ever observes.
世の中は誰にでもわかることで満ちているのに、誰も十分眼がとどかないだけのことさ。
Arthur Conan Doyle , The Hound of the Baskervilles
I am afraid, my dear Watson, that most of your conclusions were erroneous.
ワトスン君、気の毒だが、君の下した結論は大部分間違っているよ。
Arthur Conan Doyle , A Scandal in Bohemia
ドラマ
グラナダ版ドラマは1988年8月31日に放送されました。テレビ映画第2弾として放送されたこのエピソードは、ほぼ2時間のスペシャルドラマとなっています。
項目 | 内容 |
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シーズン | – |
話数 | – |
放送順 | 26 |
長さ | 1時間45分 |
放送日(英) | 1988年8月31日(水) |
キャスト | キャスト一覧 |
原作とドラマの違い
原作とドラマはほぼ同じストーリーといえます。ただ、原作で語られた詳細が、ドラマでは省かれている場合が多いです。やや大きな違いといえるのは、ドラマにレストレード警部が登場しない点です。原作小説では、最後、魔犬の正体を突き止める前あたりで、レストレード警部がホームズ達と合流します。
その他、原作とドラマの違いをまとめると、次のようになります。
- 原作では、最初に新品の茶色い靴、次に古い黒靴が盗まれ、しばらくして、茶色い靴だけが戻ってくる
- 原作では、ベイカー街遊撃隊が脅迫状に使われた新聞を探している
- 原作では、脅迫状のホワイト・ジャスミンの香りから送り主が女性であることに気付く
- 原作には、ステープルトンは道しるべの棒が濃霧でみえなかったため死亡したという記述がある
ロケ地
ワトスン博士とヘンリー卿がバスカヴィルの屋敷へと向かうシーンなどに使われたロケはBrimham Rocks(ブリムハム・ロックス)という場所です。奇岩がある場所として、観光地になっているようです。
バスカヴィルの屋敷はThe Heath House(ヒースハウス)というお屋敷がロケ地になっています。
感想
ホームズがなかなか登場しないので、焦らされているような気分になります。ワトスン博士だけがバスカビル家の屋敷に向かい、怪しい人物が現れます。ドラマでは、この人物の正体が、すぐにホームズだとわかってしまいました。シルエットが登場した時、その姿がまさにホームズだったので、そもそも、隠す意図はなかったのかもしれません。
犬が光っていました。今でも、光る犬が現れたら、悪魔の犬と噂されるのでしょうか……。さすがに、ないような気がします。UMAやUFOのように、まずはトリックを疑ってしまうのではないかと思います。
考察
犬に襲わせて殺す、という殺害方法です。闘犬などであれば、ほんとうに人を襲い殺してしまうかもしれません。実際、現代でも、闘犬に襲われて亡くなる方がいます。
まとめ
シャーロック・ホームズの「バスカヴィル家の犬」について、原作とドラマのあらすじとネタバレ、感想などをご紹介しました。依頼人が訪ねてきて事件を調査するという王道の流れですが、ホームズ不在という展開になるエピソードです。
- 発端モーティマー医師がホームズを訪ねる
モーティマーがチャールズ・バスカヴィルの死について相談する - 展開ワトスン博士のみがバスカヴィル家へと向かう
バスカヴィル家周辺でワトスンが様々な出来事を目撃する - 結末ワトスン博士が怪しい人物の潜んでいる遺跡へ向かう…
登場人物
登場人物をネタバレありで簡単にまとめます。シャーロック・ホームズとワトソン博士は除いています。
名前 | 説明 |
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ステープルトン Stapleton |
昆虫学者。魔犬の飼い主であり黒幕 バスカヴィル家を乗っ取るためにヘンリー卿を狙う |
ヘンリー・バスカヴィル Sir Henry Baskerville |
バスカヴィル家の爵位や財産を引き継いだ人物 脅迫状を受け取り、医師を通じてホームズに調査を依頼する |
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