『金縁の鼻眼鏡』は、被害者が犯人の眼鏡を握り締めて亡くなるエピソードです。原作は1904年に発表されました。タイトルは「金縁の鼻眼鏡」で統一されているようですが、眼鏡をひらがなにしている場合もあります。
項目 | 内容 |
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作者 | コナン・ドイル |
発表 | 1904年7月発表 (ストランド) |
発表順 | 37作品目 (60作中) |
発生時期 | 1894年11月14日~ 11月15日 |
発生順 | 33件目 (60作中) |
あらすじ
1894年11月、ロンドン警視庁のホプキンス警部がコーラム教授の屋敷で起きた殺人事件について相談するため、シャーロック・ホームズを訪ねてくる。被害者はコーラム教授の秘書であるウィロビー・スミスで、首をナイフで刺されて殺されていた。学生の頃からスミスの評判は悪くなかったようで、警部は犯人の犯行動機が掴めずにいた。
警部によれば、コーラム教授が今の屋敷を購入したのは数年前だったという。病弱な教授は一日の半分をベッドで過ごし、残り半分は杖や車椅子を使って散歩をしていた。住み込みの使用人であるマーカー夫人とスーザンはどちらも信頼できる人物で、離れで暮らす庭師のモーティマーも真面目な人間だった。教授自身が恨みをかっているということもなく、殺人につながりそうな話はまるで見当たらなかった。
メイドのスーザンは死体の第一発見者だった。事件が起きたとき、彼女は午前11時から屋敷の2階で作業をしていた。教授はベッドに、マーカー夫人は家の裏におり、スミスは書斎へと向かったようだった。しばらくしてから叫び声が響き、スーザンは重い物が転倒する音を耳にした。急いで書斎へ向かうと、そこにスミスが血を流して倒れていた。そして、スミスは「先生、あの女です……」と呟き息を引き取った。教授も叫び声を聞いたというが、それ以上のことは何もなかったと話す。
凶器は小型のナイフで、普段それは教授の机に置かれていた。書斎から盗まれたものは特になく、物取りの犯行ではなさそうだった。唯一手掛かりになりそうなのは、スミスが右手に握っていた金縁の鼻眼鏡で、それは犯人のものと考えられた。金縁の鼻眼鏡を観察したホームズは、すぐさま犯人の特徴を推理してみせるのだった。
警部から事情を聴いたホームズ達は、翌朝、現場へと向かった。そして、犯人が通ったと思われる小道を調べた。小道の脇には草地があり、その外側には花壇があった。足跡が残っていたのは草地のみで、小道と花壇には何も残されていなかった。
その後、コーラム教授の部屋へと向かい、そこで、ホームズは教授にたばこを勧められた。そのたばこがやけに気に入ったらしいホームズは、何本もたばこをふかした。そして、使用人にも話を聞き、教授が食欲旺盛であることを知る。どうやら、事件の前よりも、食事の量は増えているらしかった。
登場人物とキャスト
登場人物とキャストをまとめます。ホームズ、ワトスン博士、ハドスン夫人は省いています。なお、アビゲイル・クロスビーはドラマのみの登場人物となっています。
名前 | キャスト |
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コーラム教授 Professor Coram |
フランク・フィンレー Frank Finlay |
ウィロビー・スミス Willoughby Smith |
クリストファー・ガード Christopher Guard |
スーザン・タールトン Susan Tarlton |
ナタリー・モース Natalie Morse |
マーカー夫人 Mrs Marker |
キャスリーン・バイロン Kathleen Byron |
モーティマー Mortimer |
ハリー・カーカム Harry Kirkham |
スタンリー・ホプキンズ警部 Inspector Hopkins |
ナイジェル・プレイナー Nigel Planer |
アビゲイル・クロスビー Abigail Crosby |
パトリシア・ケリガン Patricia Kerrigan |
アンナ Anna |
アンナ・カーテレット Anna Carteret |
ネタバレ
ホームズは再びコーラム教授の部屋を訪れた。すると、らしくないことに、たばこの缶を手から滑らせて、床にたばこをばら撒いてしまう。全員でたばこを拾い集めていると、真相に辿り着いた様子のホームズが犯人を告発した。ホームズいわく、犯人は教授の知り合いで本棚の裏に隠れているという。すると、一人の女性が本棚から姿を現すのだった。
その女性はコーラム教授の妻で、アンナという名前だった。アンナと教授はロシアで改革派の一員だったのだが、コーラム教授の密告によって改革派の仲間達は捕まり、幾人かは処刑されてしまった。アンナは裏切り者のコーラム教授を追って、屋敷にやって来たのだが、運悪くスミスにみつかってしまい殺してしまった。その後、コーラム教授の部屋へ入り隠れていた。
真相解説
殺人犯はコーラム教授の妻であるアンナです。アンナは教授が保管していた日記や手紙を探しており、それを手に入れるために屋敷にやってきました。手紙や日記はアンナが書いたもので、改革派の仲間を釈放するために必要なものでした。
スミスが「先生、あの女性です…」とつぶやいたのは、実は面識があったからです。アンナは屋敷への道を尋ねるために、スミスに声を掛けていました。つまり、スミスが伝えたかったのは「先生、あの道を尋ねてきた女性です」ということでした。
草地の足跡は誰かが屋敷へ向かったのにもかかわらず、帰りの足跡はないことを示唆していました。このことからホームズは屋敷の中に誰かがいると推理します。そして、煙草の灰で人の移動がないか確認できるようにし、たばこをばら撒いてそれを確かめました。
アンナが教授の部屋へ向かったのは、鼻眼鏡がなくなってしまったからです。犯行後、アンナは屋敷から逃げ出そうとしますが、目が悪かったアンナは眼鏡を失ったため、屋敷の出入口を間違えてしまいます。その結果、コーラム教授の部屋に入ることになります。そして教授は、裏切者であることを公けにされると困るため、突然現れたアンナをかばいます。食事が増えたのは、アンナの分を用意するためでした。
警察が調べても動機が見当たらなかったのは、物取りの犯行であるのに、盗まれたものがなかったからです。そもそもの原因はコーラム教授の過去にあるため、それを警察が調べ上げる前だったからともいえます。
名言
“The Professor,” he murmured — “it was she.”
「教授、」彼はつぶやいた――「あの女です」
Arthur Conan Doyle , The Adventure of the Golden Pince-Nez
ドラマ
グラナダ版ドラマは1994年3月21日に放送されました。シーズン6の第3話(51分)となります。
項目 | 内容 |
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シーズン | 6 |
話数 | 3 |
放送順 | 38 |
長さ | 51分 |
放送日(英) | 1994年3月21日(月) |
キャスト | キャスト一覧 |
原作とドラマの違い
原作小説と原作のストーリーは概ね同じです。ただ、ドラマにはワトスン博士が登場せず、代わりにマイクロフト・ホームズが登場します。原作小説にマイクロフトは一切登場しません。また、ドラマに登場したアビゲール・クロスビーも原作には登場せず、婦人参政権に関する内容もドラマオリジナルです。最後にコーラム教授が何者かに殺害されるのも、ドラマだけの結末です。
ドラマではマイクロフトが推理を披露しており、結果的に、原作におけるホームズの役割がやや縮小しています。例えば、原作ではホームズがたばこをばら撒いたりしていましたが、ドラマではマイクロフトが鍵たばこを撒いています。
感想
私は視力がそれほどよくないのですが、矯正していないと道を間違えることもあります。いやそれは、視力だけが原因ではないのかもしれないですが、きっと、犯人も意図しない殺人のあとだったという状況などが加わり、迷子になったのだと思います。車などを運転していると思いますが、暗い中で視力が悪いというのは、めまいが起きたみたいになります。
考察
ダイイング・メッセージが登場します。秘書は教授と犯人が夫婦だったという事実を知らないはずですので、「あの女」には、あなたを追ってきたあの女、という意味は含まれていません。しかし、このダイイング・メッセージを教授が耳にしたら、『あの女は妻のことかもしれない、いやしかし、スミスは私の秘密をしらないはずだ』というような葛藤が起きていたはずです。ところが、犯人が廊下を間違えてしまったので、教授はダイイング・メッセージを知るよりも前に、犯人の正体に嫌でも気付き、最終的には、道を尋ねたという事実も判明します。
結局のところ、被害者にとっては『盗みに入った女は見たことがある顔だった、ああそうか、「教授!あの女です!!」』ということでした。おそらく被害者は泥棒が誰であるかを伝えようとして、力尽きてしまったのだと思います。
まとめ
シャーロック・ホームズの「金縁の鼻眼鏡」について、原作とドラマのあらすじとネタバレ、感想などをご紹介しました。今回のエピソードは警部が依頼人でした。
- 発端警部がホームズに殺人事件について相談する
事件はコーラム教授の屋敷で秘書が殺されたというものだった - 展開捜査のためホームズ達が現場へと向かう
- 結末ホームズがコーラム教授の部屋で異変に気付く
- コーラム教授
Professor Coram
犯人を匿っていた。実はロシア人で、仲間裏切ってイギリスへとやって来た。手紙や日記を取り戻しにやって来た妻が突然現れ、本棚の裏に隠す。もちろん、妻を守るためではなく、裏切り者であることが発覚しないようにするためである。
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