シャーロック・ホームズシリーズの短編『踊る人形』に登場した暗号の解読手順です。ホームズが暗号を解く部分(ホームズの台詞)を抜粋しながらご紹介します。
解読手順
ホームズは人形の絵を見た時点で、人形がアルファベットであることに気付いています。ホームズは“160種類の暗号を分析した小論文”を書いたと自ら語っているので、つまり、ホームズは暗号に関する知識があるということになります。
その後、メッセージをみたホームズは、まずEという文字が頻繁に使われるという統計的な事実をつかってEを見極めています。さらに、旗の有無が単語の区切り(スペース)を意味しているという仮説を立てます。
Eの推定
いったん記号が文字の代用とわかれば、あとは暗号のどんな類型にも通用する規則を当てはめるだけで、容易に解くことができる。最初に見せられたメッセージは短すぎて、言い切ることはできなかったのだが、つまり、この人形はアルファベットのEに違いないと。ご存じの通り、Eというのは短文に限らず、英語のアルファベットで最もよく使われる。最初のメッセージにある十五の文字のうち、同じものが四つあった。であるならば、これをEとするのが合理的というものだ。
スペースの推定
そして、ある場合には旗を持つ記号があり、ある場合には持っていない、ということから、旗には文を単語に区切る役割があると推測できる。この仮説を受け入れるならば、Eを表すのは両手を挙げた人形であるという仮説が立つ。
単語の推定
最初のメッセージだけでは、データが不足しているため、ホームズは次のメッセージを待ちます。そして、二番のメッセージで、Eが2番目と4番目にある単語を見つけ、その単語がNEVERであると仮定し、N、V、Rを示す人形を特定します。
英単語において、Eの次に来るアルファベットというのは、これといった傾向がない。ある文章から見出した頻度も、短い文ならば逆転する可能性もある。概ね、T、A、O、I、N、S、H、R、D、Lというアルファベットの頻度が多いわけだが、T、A、O、Iなどはほとんど差がない。つまり、Eとの組み合わせを考えても埒が明かないということだ。そこで私は新たなデータを待った。
ヒルトン・キュービット氏からのさらなるメッセージから、Eが2番目と4番目にある、五文字の言葉を見出した。それは、切り離すという意味のSEVERか、梯子のLEVER、もしくは、打ち消しのNEVERのいずれかだろうと考えたわけだが、その単語が書かれたメッセージが“返事”であるといことから、NEVERがもっともらしいといえる。となれば、残り3つの記号は、N、V、Rということになる。
続いて、同じくEが最初と5文字目にある文字について推理し、L、S、Iを特定します。さらに、COMEという英単語を仮定して、C、O、Mを特定し、最後は、明らかになったアルファベットから、メッセージの全体を推理します。
もしも、メッセージがあのご婦人(エルシー)と親密にしていた人物からのメッセージだとするならば、両端にEがあり、間に3文字ある英単語はELSIEという名前を意味していると考えられる。この組み合わせがみたび、メッセージの末尾に現れている。この事実も考慮すると、これはエルシー宛の文章に違いない、ということになる。
エルシーという名前の直前にたった四文字の英単語が登場しているが、末尾はEなので、これはCOMEであろう。つまり、“エルシー来い”という意味になる。他にも末尾がEの四文字を考えたが、他に適切なものはないであろう。ならばC、O、Mが特定されたことになる。
文章の推定
ここまでは単語を推定して文字を解読していました。最後は文章から文字を解読します。
これまでに明らかになったアルファベットを用いて、最初のメッセージの暗号を解読すると、次のようになる。“?M ?ERE ??E SL?NE?”。最初の文字はAしかありえない。このAは、この短い文章の中で三度も登場する。さらに2つ目の未知のアルファベットは、明らかにHであろう。“AM HERE A?E SLANE?”。この虫食いに、判明しているある名前を埋めると、“AM HERE ABE SLANEY(エイブ・スレイニー参上)という意味になるわけだ。
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