『ボール箱』は切り取られた耳が小包からみつかるエピソードです。原作は1893年に発表されました。「ボール箱」というタイトルで概ね統一されています。
項目 | 内容 |
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作者 | コナン・ドイル |
発表 | 1893年1月発表 (ストランド) |
発表順 | 16作品目 (60作中) |
発生時期 | 1889年7月30日~ 8月1日 |
発生順 | 25件目 (60作中) |
あらすじ
ある日の朝、新聞を読んでいたホームズはある記事に目を奪われる。その記事は、スーザン・クッシングという独身女性の自宅に人間の耳が届けられたという事件を報じていた。耳は二つあった。ボール箱に収められ、小包として配達された。消印はベルファスト。しかし、差出人は不明だった。
スーザンには心当たりがあった。以前、彼女は三人の医学生に部屋を貸していた。しかし、医学生たちの素行が悪いので、部屋から追い払っていた。おそらく、医学生の誰かが復讐のために耳を送ったのだろう。耳は解剖で手に入れたに違いない。少なくともスーザンはそう考えていた。警察は医学生の復讐だと断定できるほどの証拠を掴んでおらず、差出人は不明のままだった。
レストレード警部から依頼を受けたホームズは調査のため、スーザンの家を訪れ、まず、問題の小包を手に取った。宛先は「S・クッシング様」で、箱は麻紐でしっかりと縛られている。紐はハサミで切られていたため、特殊な結び目が残っていた。黄色いボール箱に変わったところはなく、箱の中にはタバコと、二つの耳が塩に包まれて入れられていた。同じ人物の耳ではなく、男性のものと、女性のものであると考えられる。防腐処理がされていないことから、解剖用の死体から切り取られたものではなさそうだった。
小包を調べ終えたホームズは、スーザン・クッシングの部屋に掛かっていた写真に目を止める。スーザンには二人の妹がいた。スーザンは長女で、次女がセアラ、末妹はメアリという名前だった。八ヶ月ほど前、セアラはスーザンの家にやってきた。しかし、セアラの気難しい性格に嫌気が差し、二カ月ほど前にスーザンはセアラを追い出していた。末っ子のメアリは姉妹の中で唯一既婚者で、リバプールに住んでいた。夫の名前はブラウナーで船乗りだという。そう話すスーザンの顔をホームズはじっとみつめ、何かに気付いたようだった。
その後、ホームズはセアラの家へと向かった。しかし、診察に来ていた医者に、重度の脳炎のため面会は不可能と言われてしまう。一方メアリの夫婦はというと、数日前から旅行で不在だった。一通り調査を終えたホームズは、どうやら犯人がわかったらしく、レストレード警部に犯人逮捕を要求する電報を送るのだった。
登場人物とキャスト
登場人物とキャストをまとめます。ホームズ、ワトスン博士、ハドスン夫人は省いています。原作にはレストレード警部が登場しますが、ドラマに登場するのはホーキンス警部となっています。
名前 | キャスト |
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スーザン・クッシング Susan Cushing |
ジョアンナ・デヴィッド Joanna David |
セーラ・クッシング Sarah Cushing |
デボラ・フィンドレイ Deborah Findlay |
メアリ・ブラウナー Mary Browner |
ルーシー・ウィブロフ Lucy Whybrow |
ジム・ブラウナー Jim Browner |
キアラン・ハインズ Ciarán Hinds |
ホーキンス警部 Inspector Hawkins |
トム・シャドボン Tom Chadbon |
レストレード警部 Inspector Lestrade |
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ネタバレ
犯人はメアリの夫であるブラウナーだった。船乗りであるブラウナーは精神に異常をきたし、数日前から船長によって船室に閉じ込められていた。逮捕され、観念したブラウナーは正直に事件の真相を語り始める。
結婚後、夫婦は幸せな生活を送っていた。そこに、メアリの姉であるセアラが訪ねてくるようになり、成り行きで、一緒に住むようになった。やがて、セアラの友達であるアレックも頻繁に訪ねるようになり、マリやブラウナーとも仲良くなった。最初は親しい友人だと思っていたのだが、次第に、メアリとアレックは恋愛関係になっていた。このことに気付いたブラウナーは激怒し、アレックを出禁にした。セアラには、同じようなことがあれば、耳を切り落とすと脅した。この言葉を聞いたセアラはすぐに夫婦の家を出て行った。
ある日、ブラウナーに急な空き時間ができた。いつもなら仕事中なのだが、船の修理のために、半日ほどの自由時間ができてしまった。ブラウナーは妻のメアリに会おうとした。自宅へ向かい、その途中で、馬車をみかけた。乗っていたのはメアリとアレックだった。
ブラウナーは二人の後を追った。ブラウナーが辿り着いたのはボート乗り場だった。ブラウナーはメアリとアレックが乗るボートを追い、アレックを殴り殺した。メアリも殺した。二人の耳をそぎ、死体はボートと一緒に沈めた。そして、脅迫のとおり、耳はセアラに送りつけてやった。
真相解説
宛先がS・クッシングとなっていたため、スーザン達は自分に届いたと勘違いしていました。しかし、実はセアラに届けられた耳でした。犯人が宛先を間違えたということですが、このことに気付いたのはホームズだけだったようです。
小包に使われた麻紐や特殊な結び方は送り主が船に関係する人物であることを示唆していました。また、ホームズは耳のかたちから被害者がスーザンの妹であると推理していました。ホームズがスーザンをみつめていたのは、耳の形を確認するためです。
名言
We approached the case, you remember, with an absolutely blank mind, which is always an advantage. We had formed no theories.
我々はこの事件に白紙の状態で手をそめた。このことがいつでも有利なんだ。先入観というものがないからね。
Arthur Conan Doyle , The Cardboard Box
ドラマ
グラナダ版ドラマは1994年4月11日に放送されました。シーズン6の第5話(51分)で最終話となります。
項目 | 内容 |
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シーズン | 6 |
話数 | 6(最終話) |
放送順 | 41 |
長さ | 51分 |
放送日(英) | 1994年4月11日(月) |
キャスト | キャスト一覧 |
ストーリー
冬のある日、ホームズのもとにスーザン・クッシングという女性が相談にやってくる。スーザンによれば、毎週金曜日のお茶会に顔を出していた妹のメアリーが姿を現さなかったという。話を聞いたホームズは、さして関心を示さず、尋ね人欄に広告を出すよう助言する。
その後、クリスマス・イブのパーティーでスーザンが、耳の入ったクリスマス・プレゼントをみつける。この事件について、ホームズは警察から捜査を依頼され、調査のためスーザンの自宅へと向かう。
原作とドラマの違い
原作小説とドラマの耳に関する事件の犯人や動機は同じですが、発端がやや異なります。原作ではレストレード警部がホームズに調査を依頼していますが、ドラマは最初にスーザンが依頼人としてホームズを訪ねてきます。スーザンの依頼はメアリの失踪に関するもので、この依頼にホームズは関心を示しません。その後、クリスマスのパーティーで耳の入ったプレゼントがみつかり、警察の依頼を受けて、ホームズが捜査に乗り出します。
ドラマには墓あばきの事件などが追加されています。また、原作は夏の出来事になっていますが、ドラマは冬です。そのため、クリスマスに関する内容はドラマオリジナルといえます。
感想
耳が送られてくるという残酷なお話になっています。ドラマは、クリスマスプレゼントで妹と不倫相手の耳が届くという、頭がおかしくなりそうな展開に加え、最後には氷が張った池に浮かぶ青ざめた死体が登場します。時季が冬ということもあり、全体的に陰鬱な印象です。そもそも犯罪を扱った物語ですので、底抜けに明るいというのもおかしな話ですが、苦手な方もいるのではないかと思ったりもします。
このエピソードでドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」は最終話となります(英国と日本では放送順が異なる場合があります)。主演のジェレミー・ブレッド氏が1995年9月12日に亡くなったということもあり、続編はありません。別の俳優さんで続きをというのは、受け入れがたいと思います。
考察
ドラマは失踪人の捜査が絡んでいます。なぜ失踪したのか、生きているのか、それとも死んでいるのか、などが謎になります。余談ですが、現代日本の場合、1年間に失踪する人物の数は8万から9万人で、自殺者は2万~3万人となっています。つまり、発生件数としては失踪の方が多いことになります。なお失踪の原因は、認知症などの病気が1/4を占めています。
まとめ
シャーロック・ホームズの「ボール箱」について、原作とドラマのあらすじとネタバレ、感想などをご紹介しました。原作とドラマでは発端の部分が異なります。
- 発端[小説]レストレード警部が事件の調査をホームズに依頼する
[ドラマ]スーザン・クッシングが妹の失踪を心配してホームズを訪ねるが取り合ってもらえない - 展開[ドラマ]スーザンがクリスマス・パーティーで耳の入った小包をみつける
調査のためホームズがスーザンの家へ向かう - 結末スーザンの妹であるセーラのもとへいき…
犯人
- ジム・ブラウナー
Jim Browner
犯人。妻の不倫現場を目撃し、あとをつけて妻と不倫相手を殺害。耳を切り取り、不倫の原因をつくった女に送りつけるが、その女というのが追い出されていたため、あまり関係のない人物が耳を受け取ってしまう。ドラマでは、クリスマスプレゼントに紛れていたので、おそらく、一生忘れられないクリスマスになったであろう。
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