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medium霊媒探偵城塚翡翠【あらすじ・ネタバレ解説・感想・考察】

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 推理小説「medium 霊媒探偵 城塚翡翠(じょうづか・ひすい)」のあらすじ、トリック、結末、みんなの感想や考察をご紹介しています。最驚と称された小説ですので、未読の方やドラマを楽しみたい方は、城塚翡翠に関する情報をシャトアウトした方がいいと思います。なお、原作は続編「invert城塚翡翠倒叙集」も出ていますが、そちらを先に読むと、mediumのネタバレになります。

この小説を原作にしたドラマ「霊媒探偵・城塚翡翠」が2022年10月に放送されました。
項目 説明
タイトル medium 霊媒探偵城塚翡翠
メディウム
評価
著者 相沢沙呼
(あいざわ・さこ)
出版社 講談社
シリーズ順番 1
発行日 2019年9月10日
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あらすじ

推理作家として難事件を解決してきた香月史郎(こうげつ・しろう)は、心に傷を負った女性、城塚翡翠(じょうづか・ひすい)と出逢う。彼女は霊媒であり、死者の言葉を伝えることができる。しかし、そこに証拠能力はなく、香月は霊視と論理の力を組み合わせながら、事件に立ち向かわなくてはならない。一方、巷では姿なき連続殺人鬼が人々を脅かしていた。一切の証拠を残さない殺人鬼を追い詰めることができるとすれば、それは翡翠の力のみ。だが、殺人鬼の魔の手は密かに彼女へと迫っていた――。
medium霊媒探偵城塚翡翠

 主人公は香月史郎(ドラマ;瀬戸康史さん)で香月の視点で物語は進みます。不思議な力をもった城塚翡翠(ドラマ;清原果耶さん)はヒロインともいえる立場です。小説は四話で構成されており、第一話「なき女の殺人」、第二話「水鏡荘の殺人」、第三話「女子高生連続絞殺事件」、最終話「VSエリミネーター」というタイトルがついています。あらすじに登場した姿なき連続殺人鬼の事件は、最終話で真相が語られます。

なき女の殺人

 香月の後輩・倉持結花(くらもちゆいか)が殺害される事件です。自宅で殺された彼女のそばには、水滴が落ちており、これが泣き女――という幽霊みたいなもの――の仕業ではないかという話になります。犯人を突き止めるために、翡翠が倉持の霊を降霊します。

水鏡荘の殺人

 水鏡(みかがみ)荘といういわくつきのお屋敷で、大御所推理小説家・黒越が殺害されます。黒越は屋敷でバーベキューパーティーを開催し、そこに香月が誘われます。これに翡翠も同行します。翡翠は霊視によって犯人が別所であると気付きます。

女子高生連続絞殺事件

 同じ学校に通う女子高生が二人、殺害される事件です。ある女子高生が香月に捜査を依頼しますが、その依頼人の女子高生も殺害され、三人目の被害者となってしまいます。

VSエリミネーター

 連続殺人鬼*1の捜査に、香月と城塚が乗り出します。しかし、殺害場所と死体発見場所が一致しないなどの理由で、城塚の霊能力をもってしても手掛かりを掴むことができません。

*1幕間の物語によって、犯人の名前は鶴岡文樹であることが視聴者にはわかります

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ネタバレ

ネタバレ注意

連続殺人鬼は香月史郎です。香月史郎はいわゆるペンネームで本名は鶴岡文樹でした。そして、城塚翡翠はインチキ霊媒師でした。つまり、捜査の過程でみせた降霊や霊視はすべてお芝居でした。実は翡翠は名探偵で、事件発覚直後に、たぐいまれなる推理力で論理的に犯人を導き出していました。

翡翠は香月に初めて会った時から、違和感を覚え、香月に注目していました。そして、倉持の死体と出くわした時の香月の様子が、普通ではなかった*1ので、翡翠は香月を疑います。疑惑が深まったのは、連続殺人鬼が死体を漂白剤などで洗い始めたためです。香月は倉持の事件で警察にDNAを提出しており、これを境に、殺人鬼は漂白剤を使うという手口に変えます。翡翠は香月のDNA提出と殺人鬼の手口の変化に違和感を覚えていました。香月は水鏡荘で自分とは全く異なる殺人鬼の犯人像を語っていますが、これについても翡翠は違和感を抱いていました。

*1香月は倉持を殺害しようとしていたため、先を越されたという感情が表情に現れていました

いずれにしても、決定的な証拠ではないため、翡翠は香月を捕まえることはできません。そこで、自分の美貌を巧みにつかって香月を誘惑し、翡翠自身が被害者になるよう仕組みました。罠に見事に引っ掛かった香月は翡翠を殺害しようとします。香月は翡翠の能力が本物だと信じていたため、翡翠がどうやって真相にたどり着いたのかという話に長々と耳を傾けます。この間、翡翠はマジックのスキルを駆使して警部に電話し、ずっと通話状態にしていました。この結果、香月が翡翠を連れ込んだ別荘は警察官に囲まれており、香月は翡翠の合図で突入してきた警官達によって捕まります。

動機

 香月は幼い頃、血のつながりのない姉が強盗に殺害されるという事件に遭遇していました。ナイフで刺された姉に近づき、香月はそのナイフを抜きました。以降、ナイフを抜くというその行為が姉を死に至らしめたのかもしれないという悩みを抱えることになり、これが香月を殺人鬼へと変貌させます。

なき女の殺人の真相

 なき女事件で香月の後輩・倉持を殺したのは、倉持の友人・小林舞衣です。小林は倉持に言い寄っていた西村のことが好きでした。その西村を倉持がけなしたため、小林は激怒しました。そして口論となり、小林は倉持を突き飛ばして殺してしまいます。決定的な証拠になったのは、グラスの破片に混ざったメガネのレンズです。犯人は被害者と口論になった際、メガネを落としました。このとき、どちらかがレンズを踏んだため粉々になってしまいました。粉々になった上、割れたグラスと混ざったため、犯人は回収できませんでした。

翡翠の推理

翡翠は死体を発見した直後に、犯人に辿り着いています。「なにを探しているの――」や「犯人は、女の人です」という発言は、霊能力ではなく、推理力で辿り着いた結論でした。犯人は小林に間違いありませんが、コップは偶然割れたのではなく、レンズの破片を隠すために小林が意図的に割ったものでした。

水鏡荘の殺人の真相

 翡翠が話していた通り別所が犯人です。動機は盗作です。翡翠の不思議な夢は洗面所のミラーキャビネットから見た映像を意味していました。この話と、キャビネットについた指紋から、別所以外に犯人はありえないという結論が導かれます。

翡翠の推理

この事件も翡翠は、死体を発見した直後に犯人に辿り着きます。犯人は別所ですが、実は、別所は現場から被害者が書いた「黒書館殺人事件」の見本を持ち去っていました。理由は、別所がその本をつかって盗作を訴えたためです。机の上にあった変な文字は、指紋を消すためではなく、本を持ち去ったことを隠すためです。本は机の上に置かれており、被害者の血飛沫が付着していました。持ち去ってそのままにすると、血飛沫が途切れて不自然になってしまいます。

女子高生連続絞殺事件の真相

 犯人は図書委員長の藁科琴音(わらしなことね)です。藁科は人が首を絞められて殺された時にどのような顔をするのか見たい、という理由で女子高生を殺しました。香月達は被害者全員と接点のある人物を探し、蓮見という女子高生を疑います。しかし、藁科が写真屋の娘だったことが明らかになり、被害者全員との接点が判明します。香月や刑事が藁科に話を聞いた直後、彼女はすぐに第四の犯行に及びますが、翡翠の霊視によって居場所が明らかになり、藁科は捕まります。四人目の犠牲者になりかけた女子高生も助かります。

翡翠の推理

翡翠は第二の死体発見現場に辿り着いた時、犯人がどのような人物であるか気付いています。殺害方法はスカーフの交換を口実に正面から首に巻き付けるという手口で、翡翠はこれにも気づいています。「犯人は、女の子です」と話していますが、この段階では、誰が犯人であるかはわかっていません。翡翠は藁科を訪ねたとき、藁科に疑いを抱いていました。そして、密かに彼女のスマホを抜き取り、追跡アプリを仕込みました。このアプリのおかげで、翡翠には藁科の居場所がわかりました。なお、襲われた女子高生が助かったのは、翡翠の千和崎真(ちわさきまこと)が、公園で藁科の犯行を抑止していたためです。

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みんなの感想

 口コミを調べてみると「すべてが伏線」に対する書き込みなどがありました。

すべてが伏線

 本の帯に「すべてが、伏線」という宣伝文句が書かれていました。ほんとうに全てが伏線なので、がっかりした人はほとんどいないようです。

初版の帯に『全てが、伏線』と書かれていたようですが、偽りなしです! 寧ろ帯によって誘導された感がありますね……全ての文章を伏線と見なして読み込むと、却って騙されます。

全てが伏線、この謳い文句ほど本書を正確に表現することは出来ないだろう……。

最終話を読み終えた瞬間は「わぁー、帯コメすっごいわかるー」って言うくらい3回くらい騙され、まさかの真実に驚きすべての伏線を見事に回収していてすごーい!!一冊でした。

気持ち悪い

 香月のことを気持ち悪いと感じていた方も多いようです。実はこれは、翡翠のハニートラップに引っ掛かっていたわけです。

オジサンの下心の気持ち悪さに途中で離脱するところだった。

セーラー服コスプレとかほんと勘弁してくれよ気持ち悪いって思ってゴメンナサイ。

主人公と女性描写の気持ち悪さに「生理的に無理すぎて読了できないかもー」と思ってましたが、最後まで読んでよかったです。

どんでん返し

 最後のどんでん返しが凄いです。このことに触れている読者の方が多いようです。

これはどんでん返しすぎました。

ネタバレ無しで語るのは無理だけど、最後のどんでん返しは予測を2周ぐらい上回ってきたことは間違いないです。

特殊な霊能力を持ちながら無防備で少女のような美人霊媒師というアニメに出てきそうなキャラの主人公がその能力を使って解決するミステリーものだと思いきや、最終章でその設定自体が裏切られる大どんでん返し。

個人の感想

 数々の賞を受賞していることを知っていたので、かなり期待していました。ところが、序盤から中盤にかけては、霊能力という捜査手法が加わった普通の倒叙ミステリーだったので、受賞の理由が理解できませんでした。そうなのです。この時点で私は翡翠ちゃんの霊媒能力を完全に信じていました。そのため、翡翠がインチキ霊媒師かつ魔性の女だったことが明らかになり、地球果てまでぶっ飛びました。すべてが伏線という前情報があったので、これでもう、主人公とかが犯人だと予感してしまい、案の定、香月が犯人で、予想通りの展開に私はそっと本を閉じたのです(これはちょうど翡翠ちゃんが本性を現す直前でした)。ふふふ、受賞といっても大したことはないな、と思ってからの、インチキ霊媒師宣言でした。ぶっ飛びました。ぶっ飛んで着地したあとに土下座したい気分でした。面白かったです。

翡翠かわいい

私は可愛い翡翠にしっかり騙されました。ハニートラップというやつですね。

考察

 主人公が犯人でした。犯人の視点や心理が描かれていたにも関わらず、犯人であることは描写されていませんでした。聞かれなかったから答えなかった、みたいなことだと思います。この主人公が犯人というのはミステリーのタブーをまとめた『ノックスの十戒』で禁じられています。いささか古いルールであり、厳密に守っているミステリー作品の方が、むしろ珍しいかもしれません。

解決トリック

 それぞれの事件は翡翠の霊媒と香月の推理によって解決されます。しかし、どの事件にも、若干の謎が残っていました。わかりやすいのは絞殺事件で、これは犯人の手口が明らかにされていませんでした。これらは、翡翠が推理を披露する余地だったといえます。翡翠は一度解決されると細かい部分は気にされないと話していますが、これは一種のトリックであるように思います。特に、一度最も疑わしい容疑者となって無実を獲得することで、完全に容疑者から外れるという嫌疑回避のトリックに似ているように思います。

 翡翠は名探偵で、その正体を隠して犯人に近づいていました。簡単に言うならば変装トリックです。そして翡翠は決定的な証拠を掴むために罠をはりました。その罠が色仕掛けというものでした。変装して容疑者に近づくことや、罠で証拠を掴むというとことは、ミステリーにはよくある話だと思います。しかし、この作品には、強烈な衝撃がありました。その正体はやはり、霊媒という超常現象を信じてしまったことにあると思います。霊媒が香月の姉の降霊につながっているとすると、霊媒自体も罠だったといえます。これに関しては叙述トリックといえそうですが、香月自身もこのトリックに引っ掛かっていました。

表紙

 表紙に描かれている翡翠は、本編で彼女が本性を現したあとの姿です。ちょうど、香月に謎解きを披露しているシーンのようです。翡翠のポーズは、尖塔のポーズとよばれ、シャーロック・ホームズの仕草*1として有名です。この関連性から、表紙の絵は、翡翠がシャーロック・ホームズであることを暗示しているようにもみえます。霊媒探偵というタイトルが、固定観念を与えているかもしれませんが、実は真相も描かれているのだと思います。

*1ドラマなどに登場するホームズの尖塔のポーズは指を開いていおらず、翡翠のポーズとは若干異なります。

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