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一次元の挿し木|あらすじ・感想・ネタバレ【松下龍之介】

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松下龍之介さんのデビュー作『一次元の挿し木』は、2025年の第23回『このミステリーがすごい!』大賞において文庫グランプリを受賞した作品です。この記事では、あらすじ、特徴、感想、ネタバレなどをまとめています。

項目 評価
【読みやすさ】
スラスラ読める!?
【万人受け】
誰が読んでも面白い!?
【キャラの魅力】
登場人物にひかれる!?
【テーマ】
社会問題などのテーマは?
【飽きさせない工夫】
一気読みできる!?
【ミステリーの面白さ】
トリックとか意外性は!?
スクロールできます
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あらすじ

大学院で遺伝人類学を学ぶ主人公・七瀬悠は、四年前の豪雨災害で行方不明になった義理の妹・紫陽(しはる)の生存を信じ続けていた。ある日、悠は指導教授である石見崎から、ヒマラヤ山中のループクンド湖で発掘された二百年前の人骨のDNA鑑定を依頼される。鑑定の結果、その人骨のDNAは、失踪した紫陽のものと完全に一致していた。

不可解な鑑定結果について石見崎教授に相談しようとした矢先、教授は何者かによって殺害されてしまう。さらに、人骨の発掘に関わった調査員も次々と襲われ、研究室からは問題の人骨が盗まれてしまう。悠は、妹の生死の謎と人骨のDNAが一致する真相を突き止めるため、石見崎教授の姪を名乗る唯(ゆい)と共に調査を開始するが…その過程で巨大な宗教団体「樹木の会」や製薬会社が関わる、想像を絶する大きな陰謀に巻き込まれていく。

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小説の特徴

「二百年前の人骨のDNAが、四年前に失踪した妹のものと一致した」という衝撃的なあらすじや、ミステリー、SF、ホラー、 サスペンスといった多様な要素を織り交ぜたエンターテイメント性などが特徴です。

物語の構成

複数の登場人物の視点と、過去と現在の時間軸が頻繁に切り替わる構成で物語は進行します。短い章立てでテンポ良く場面が転換していくため、スピード感があります

舞台設定

重要な舞台のひとつは、インドのヒマラヤ山中にあるループクンド湖です。この湖は、異なる時代や人種のものと思われる約800体もの人骨が発見された実在の場所であり、「骸骨の湖」「呪われた湖」とも呼ばれています。その他、紫陽花の迷宮や廃れた美術館など、幻想的で印象的な場面が多く登場します。

テーマ

物語の中心には、遺伝子工学、特にDNA鑑定やクローン技術といった科学的なテーマが存在します。二百年前の人骨と現代の失踪者がDNAで結びつくという謎、新興宗教団体「樹木の会」の暗躍や製薬会社の存在など、現代社会にも通じる組織的な陰謀や人間のエゴ、タブーといったテーマを感じとることもできます。

作風

ミステリーを基盤としながらも、SF、ホラー、サスペンス、アクション、ロマンス、ヒューマンドラマといった多様なジャンルの要素が融合したエンターテイメント作品といえます。文章は読みやすく、専門的な科学知識も分かりやすく説明されていて、なおかつ、疾走感のある展開、ハラハラドキドキさせるサスペンス描写、衝撃的な殺人描写などが、魅力です。

主人公

主人公の七瀬悠は、大学院で遺伝人類学を学ぶ美青年です。暗い過去を抱える悠は、精神的な不安定さから抗うつ剤を服用しているという設定になっています。

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感想

書店でみかけ、あらすじとか帯とかにひきつけられて、なおかつ『このミステリーがすごい!』大賞の文庫グランプリ受賞作ということだったので、読んでみました。大昔の人と妹のDNA鑑定の結果が一致した!?というのが、かなり謎めいていますね。新人作家さんのデビュー作ということで、一部にご都合主義的に感じられる展開や、キャラクターの心理描写にもう少し深みが欲しかったと思う部分もありましたし、設定がやや安易に感じられたり、ラストの展開が少し駆け足に感じられたりもしました。誉めまくっても仕方ないので、いちおう気になった点を紹介しておきましたが、全体的に面白かったです。

高評価のポイント

  • エンタメ性が高い!!後半の怒涛の展開や伏線回収は見事!謎が解き明かされる爽快感がある
  • 「二百年前の人骨と失踪した妹のDNAが一致する」という設定とあらすじが非常に魅力的!
  • 物語の展開にスピード感があり、テンポが良く、飽きない!
  • 牛尾と〈ちゃぽん〉が印象的
  • 新人作家のデビュー作とは思えない文章力や構成力で科学的内容も分かりやすく説明されている
  • タイトルの『一次元の挿し木』が秀逸
  • 読後感は切ないながらもスッキリするし、感動するし、満足できる

低評価のポイント

  • ミステリーとしての深みやトリックの意外性に欠けるかも…
  • 主人公などのの心理描写が浅くて行動原理に共感できない/感情移入しにくいと感じるかもしれません
  • 視点や時間軸の切り替えが多いので、読みにくい・混乱すると感じる場合もあるかも…
  • 殺人描写など、残酷すぎる部分もあるかもしれないです
  • 結末の展開に納得がいかない、一部の伏線が回収されていないと感じる方もいそうです

ネタバレ

失踪した妹・紫陽は、実は二百年前の少女の遺骨から作られたクローン人間でした。彼女は、新興宗教団体「樹木の会」の創設者であり教祖であった真鍋の後継者、あるいは神聖な存在として生み出されていました。
タイトルの「一次元の挿し木」は、遺伝子(一次元の塩基配列)とクローン(挿し木)を意味していたようです。

物語を通して悠たちを執拗に追い詰める謎の大男・牛尾もまた、教祖・真鍋のクローンでした。しかし、彼は遺伝子上の欠陥から異常な凶暴性をもっていました。
牛尾は研究の秘密を知る者や、紫陽の存在を脅かす者を口封じのために殺害していたわけですが、彼が現れる際の〈ちゃぽん〉という音は、彼が犠牲者を薬品で溶かして骨だけにするときの音でした。

また、悠に協力していた石見崎教授の姪・唯の正体は、教授の実の娘・真理でした。悠が知っていた車椅子姿の真理は、実はクローンであるが故の副作用で衰弱し、その姿を悠に見られたくないと願った紫陽本人でした。

結末

クライマックスで、悠と真理(唯)は牛尾と戦い、最終的に牛尾を倒すことになります。その後、紫陽は再び姿を消します。そして、彼女は「樹木の会」の新たな教祖として祭り上げられることになります。悠と真理は、紫陽の意思を尊重し、彼女を探すことを諦めます。

次にオススメの推理小説

『このミステリーがすごい!』大賞の他の受賞作、例えば『ファラオの密室』などもオススメですが、下記の3作品もオススメさせていただきます。

  • 山口未桜『禁忌の子』
  • 東野圭吾『分身』
  • 高野和明『ジェノサイド』

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