『ボヘミアの醜聞』は、ボヘミア国王が愛人と交わした手紙の奪還を依頼するエピソードです。原作は1891年に発表されました。長編「緋色の研究」と「四つの署名」に続く短編集「シャーロック・ホームズの冒険」に収録された作品です。
項目 | 内容 |
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作者 | コナン・ドイル |
発表 | 1891年7月発表 (ストランド) |
発表順 | 3作品目 (60作中) |
発生時期 | 1887年5月20日~ 同年5月22日 |
発生順 | 9件目 (60作中) |
あらすじ
ボヘミアの王は諮問探偵のシャーロック・ホームズに、かつての愛人であるアイリーン・アドラーとの写真を取り戻すよう依頼する。問題の写真には国王の結婚を取り消すほどのスキャンダルだった。新郎に変装したホームズはアイリーンを追跡し、ゴッドフリー・ノートンとの結婚を知る。
その夜、聖職者に姿を変えたホームズは、ブリオニー・ロッジ前での市街戦で負傷したふりをして、アイリーンの自宅に潜入する。そして、ワトソンと協力して火事の誤報を流し、アイリーンを写真の隠し場所である秘密のパネルへと導く。
ネタバレ
写真の在り処を知ったホームズだったが、御者が部屋にいたため、写真を取り返すことはできなかった。翌朝、ボヘミア王とともにブライオニー・ロッジに戻ったとき、既にアイリーンは夫と国外へ逃げていた。アイリーンはシャーロック・ホームズの策略に気付いていたのである。彼女は探偵に手紙を残していた。そこには、写真は公表しない、ただ自己防衛のために使用すると書かれていた。そして手紙にはアイリーン自身の写真が添えられていた。事件が収束し、ホームズは国王からの王室の報酬を拒否する。代わりにアイリーン・アドラーの写真を要求したのだった。
名言
To Sherlock Holmes she is always the woman.
シャーロック・ホームズにとって、彼女はいつも「あの女」である。
Arthur Conan Doyle , A Scandal in Bohemia
You see, but you do not observe. The distinction is clear.
君は見ているだけで、観察していない。その違いは明らかだ。
Arthur Conan Doyle , A Scandal in Bohemia
ドラマ
グラナダ版ドラマは、1984年(昭和59年)4月24日に放送されました。シーズン1の第1話(52分)です。ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」は、第一話の放送から約10年後の1994年4月11日に最終回を迎えます。エピソード数は全部で41話で、そのうち、5話が2時間のスペシャルドラマとなっています。なお、「ボヘミアの醜聞」はシーズン1の第1話となっていますが、製作されたのは4番目です。
項目 | 内容 |
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シーズン | 1 |
話数 | 1 |
放送順 | 1 |
放送日(英) | 1984年4月24日(火) |
出演者 | キャスト一覧 |
ストーリー
ワトソンはいつもの居間で、ホームズが麻薬を服用したのではないかと疑い説教するが、諮問探偵は、別の覚せい剤を与えられたことを明らかにする。それは、ボヘミアの王から受け取ったばかりの手紙だった。王はホームズに、エレーナ・アドラーと一緒の写真を取り戻すため、助けを求めていた。
ボヘミアの王は、スカンジナビアの王女と結婚しようとしていた。王は幾度か写真を取り返そうとしたが、元オペラ歌手のアドラーは、すべてをうまく退けていた。捜査に着手したホームズは馬丁に変装し聞き込みを始める。そのうちに、エレーナがジェフリー・ノートンという弁護士と過ごしていることを知り、彼は急いで結婚式に出席する。王の子分に追われたエレーナとその夫は、できるだけ早く海外へ逃げるつもりでした。
ホームズは、負傷した聖職者に変装し、エレーナの家へともぐりこむ。偽の火事に驚いたエレーナは写真の隠し場所をホームズの目の前でさらします。ホームズは勝利を確信しますが、翌日、エレーナの家を訪れると、すでに国外へ逃亡した後でした。しかし、彼女は国王に対して例の写真を決して使わないことを約束する手紙を残していました。
この事件以降、ホームズが女性を馬鹿にすることはなくなる。ホームズにとって、エレーナ・アドラーは常に「あの女性」である。
原作とドラマの違い
内容に大きな違いはありません。ただ細かな違いはあります。例えば、ホームズがワトソンと既に同居している点やハドソン夫人が登場する点などです。原作にハドソン夫人という表記はなく、なぜか、ターナー夫人となっています。ハドソン夫人とターナー夫人は同一人物だと考えられているようですが、ターナーとなっている理由は不明のようです。ドラマではエレーナが手元に置いておくと書いていた写真を海に捨てていますが、原作にそのような描写はありません。なお、ドラマでは、アイリーン・アドラーがエレーナ・アドラーと表記されていますが、これは読み方が異なるだけで、綴りは同じです。
感想
シャーロック・ホームズvs.アイリーン・アドラーというストーリーでした。ホームズは女性を侮っていたので、敗北したようです。だいたい、相手をみくびると罠にはまって大失敗する気がします。そう考えると、ホームズも完璧ではなく、普通の人間と同じような失敗をしているように思えます。もちろん、尋常ではない推理力の持ち主ですが、親しみやすい部分も垣間見えます。
このエピソードでは殺人が起きず、誰が犯人かわかっていない状況というわけでもないので、推理小説ではないような気もします。なにか犯罪が起きたかというとそうではなく、むしろ、犯罪を犯したのは国王の側でした。また、火事という嘘で写真の在り処を明らかにするトリックが登場しますが、仕掛けたのはホームズでした。そんなわけで、このエピソードは、探偵が難事件をどうやって解決するかが、一つのみどころだったように思います。
シャーロック・ホームズといえば、やはりジェレミー・ブレット氏ではないかと思います。カンバーバッチ氏も有名ですが、ホームズっぽいのはやはりジェレミーさんです。すでに他界されているので、もう新作は見れないのですが…。ホームズのイメージが原作にぴったりというだけではなく、1984年(昭和59年)のドラマなのに古臭くないのも魅力だと思います。
考察
手紙の在り処はからくり仕掛けの秘密の場所だったため、トリックという感じではないと思います。そして、煙で火事にみせて秘密の場所を探るというのも、それほど珍しくないかもしれません。とはいえ、ホームズの変装など見どころはたくさんあります。なお、手紙の奪還というストーリーはエドガー・アラン・ポーの「盗まれた手紙」とよく似ています。ただ、ポーの作品の方が評価は高いようです。
まとめ
シャーロック・ホームズの「ボヘミアの醜聞」について、原作とドラマのあらすじとネタバレ、感想などをご紹介しました。依頼人がやって来てホームズに相談し、調査が始まるという典型的な展開ですが、アイリーン・アドラーという有名なヴィランが登場します。
- 発端依頼人が221Bを訪れる
依頼人はボヘミアの国王
かつて愛人と撮った写真の奪還を依頼する - 展開ホームズが変装して調査を開始する
愛人アイリーン・アドラーの屋敷へ - 結末写真の隠し場所をある方法で見つけ出す
在り処を突き止めたホームズが写真を取り返そうとするが…
登場人物
登場人物をネタバレありで簡単にまとめます。原作およびドラマに共通する内容で一覧にしています。なお、主人公であるシャーロック・ホームズとワトスン博士は除いています。アイリーン・アドラーのアイリーンは、Ireneと綴るようで、これは日本語に訳すと、アイリーンやエレーナ、イレーネとなるようです。ドラマではエレーナと呼ばれていましたが、エレーナというのが欧米でよくある愛称・ニックネームかと思いきや、これは日本語の問題のようです。
名前 | 説明 |
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ボヘミア国王 The King of Bohemia |
依頼人 ホームズに依頼し無事解決する |
アイリーン・アドラー Irene Adler |
国王の元恋人 隠し棚に写真を保管していた |
ゴッドフリー・ノートン Godfrey Norton |
アイリーンの婚約者 結婚後アイリーンとともに国外へ |
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