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十戒|夕木春央【あらすじ・ネタバレ解説・感想】

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 「十戒(じっかい)」は夕木春央(ゆうき・はるお)氏の長編推理小説です。「方舟」の著者である作者が2023年8月に刊行した作品となります。この記事では、物語のあらすじと真相、みんなの感想などをまとめています。

項目 説明
タイトル 十戒
評価 4.2
著者 夕木春央
出版社 講談社
シリーズ
発行日 2023年8月
Audible版 なし
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あらすじ

この島にいる間、決して殺人犯をみつけてはならない。それが、わたしたちに課された戒律だった。
十戒,夕木春央 P7

芸大の入試に二度も落ち、二浪となった大室里英(おおむろ・りえ)は父と共に枝内島(えだうちじま)を訪れることになる。発端は、三週間ほど前に、島を所有していた伯父の大室脩造(おおむろ・しゅうぞう)が交通事故で急逝したことだった。かねてから島に目をつけていたらしい観光開発の沢村(さわむら)が、里英の父に、島内にリゾート施設を開業するという話を持ち掛け視察が決まった。そして、視察のために不動産や施工会社などの9人の関係者たちが集まった。

しばらく放置されていた島は雑草が生い茂り、荒れていた。島の外周には手すりがなく、ひどく危険な状態だったが、使いものにならないほどではなかった。電波が届くので、外部との連絡が遮断されているわけでもない。島にある、別荘、作業小屋、そして5つのバンガローも見た目は問題なさそうだった。

別荘に辿り着いて、里英たちはある異変に気付く。しばらく使われていなかったはずの別荘なのに、真新しい食料などが置かれていたのである。もしかしたら、脩造が誰かに貸していたのかもしれない。そう思えば特に不思議ではなかったのだが、作業小屋から爆弾と起爆装置らしきものがみつかってしまう。一同は島の異常事態を無視できない状態に陥るが、警察へは連絡せず、一晩先延ばしにしようとする。

翌朝。不動産会社の社員である小山内(おさない)の死体が東の崖でみつかる。そして、残る8名に十の戒律が課せられるのだった。

 島内にいるものは、今日これから三日の間、決して島の外に出てはならない。
 島外に、殺人の発生や、それに限らず島の状況を伝えてはならない。当然、警察に通報してはならない。
 迎えの船は三日後の夜明け以降に延期し、各人は、身内や関係者に、帰宅が三日間遅れることを連絡しなければならない。その際には死まで何が起こったかは伝えず、しかし怪しまれることのないよう努めなければならない。
 各人は通信機器を所持してはならない。スマートフォンは全て回収し、容器に納め封印し、必要が生じた場合にのみ、全員の合意の下で使用しなければならない。
 島外との連絡は、互いの監視の下で行われなければならない。メールやSNS等のやりとりは文面を全員で確認し、通話は全員に内容が聞こえるように配慮しなければならない。連絡は、島に留まることを、島外のものに怪しまれないために必要な内容に限らなければならない。
 島内では、複数人が三十分以上同座し続けてはならない。三十分が経過するごとに、最低五分は席を離れ、一人で過ごさなければならない。
 カメラ、レコーダー等を使って、島内で発生したことを記録してはならない。
 各人は、それぞれ寝室に一人のみ起居し、他者の部屋を訪ねる際はノックを欠かしてはならない。
 脱出、もしくは指示の無効化を試みてはならない。
 殺人犯が誰か知ろうとしてはならない。その正体を明かそうとしてはならない。殺人犯の告発をしてはならない。

以上の事項が守られなかった場合、作業小屋の爆弾の起爆装置が作動する。その際は、全員の命が失われることを覚悟しなければならない。この書状は、内容を書き写した上で焼却処分すること。
十戒,夕木春央 P75-76

登場人物

主な登場人物をまとめます。枝内島に集まった9人が主な登場人物です。里英、綾川、野村以外は男性です。

  • 大室里英(おおむろ・りえ)
    主人公。芸大の浪人生。浪人一年目の頃、予備校で合格間違いなしともてはやされ、天狗になっていたが、見事に不合格となる。二浪となり、偉そうにしていた予備校で肩身が狭い思いをしている。息抜きのため島へ向かう。
  • 大室(おおむろ)
    自営業。里英の父親でフリーのWEBデザイナー。時間の融通がきくということで島の視察へ同行する。
  • 矢野口(やのぐち)
    島を所有していた大室脩造の友人。孤島にブランド品を身につけてくる感じの人。
  • 沢村(さらむら)
    日陽観光開発の社員。三十代後半。長身。島のリゾート開発の発起人でもある。
  • 綾川(あやかわ)
    日陽観光開発の研修員。若い人が少ないので同行し、里英の話し相手となる。
  • 草下(くさか)
    草下工務店社長。五十過ぎ。工務店は数十人規模。
  • 野村(のむら)
    日下工務店の設計士。四十代。シングルマザー。
  • 藤原(ふじわら)
    羽瀬蔵(はぜくら)不動産の社員。三十代前半。
  • 小山内(おさない)
    羽瀬蔵(はぜくら)不動産の社員。四十代。最初の被害者。
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解説

島に視察にやって来た9人は“十戒”によって外部から隔離されます(十戒が登場するのは1人死亡した後のなので、正確には8人)。電波が届かないわけではないので携帯さえあれば、警察に通報することもできますし、島にはゴムボートがあるので、島から脱出することもできます。しかし、そういった行為が発覚してしまうと、島の爆弾が爆発してしまいます。爆弾の量はかなりのものらしく、爆発したみんなぶっ飛びます。

爆弾によって全員が人質になっている状況ですので、誰も、十戒を破ろうとはしません。3日間従っていれば、島から脱出できそうな気配も漂っています。そんなわけで、島に残った8人は大人しくしています。十の項目で殺人犯を知ろうとする行為そのものが禁じられていますので、死体を調べることはもちろん、関係者に事情を聴くということもできません。

とはいえ、何もしなければ助かるはずですから、誰もがとりあえず時間を潰します。しかし、二日目の朝に新たな事件が起きてしまいます。

展開

以下の内容にはネタバレが含まれます

その後の展開をまとめると次のようになります。二日目に矢野口、三日目に藤原の死体が発見され、それぞれに犯人からの指示があります。いずれも最初の十戒を無効化、もしくは上書きするものではなく、死体の処理について具体的な内容が書かれたものです。

補足情報ですが、里英達は犯人とやり取りする手段を持っています(つまり島に犯人がいるということにもなります)。それは貝殻と石が入ったクッションカバーと、空のクッションカバーを使った方法で、イエスなら貝殻、ノーなら石を移動させます。空だったクッションカバーに入れられたのが全て貝殻なら、犯人はイエスと言っていることになりますが、石が入っていたら、犯人はノーと言っていることになります。里英達はこの方法で犯人にお伺いを立てていくことになります。

矢野口の死体処理に関して、いくつか奇妙なことが起こります。まず、矢野口の死体はブルーシートに包むという指示でしたが、作業を終えた後に、犯人からノーが出ます。どうやら、特殊な紐の結び方が気にくわなかったらしく、何の変哲もない固結びにすると問題は解消されたようでした。

また、足跡について奇妙な点がみつかります。犯人はどうやら矢野口の足跡を消したようですが、自分の足跡は消していませんでした。結局、二日目の指示によって、里英達が犯人の足跡も消すことになりますが、犯人が自分ではなく、被害者の足跡を優先して消したという疑問は残ります。

矢野口の死体がみつかった二日目には、死んだ小山内と矢野口の不穏なやり取りも発見されます。これは、綾川がこっそり死んだ矢野口のスマホをくすねたからわかったことです。二人のメールのやり取りを確認すると、直接的な言葉は使われていないものの、二人が爆弾犯であることがほのめかされていました。

三日目には藤原の死体が発見されます。藤原はバラバラにされていました。里英達は犯人が死体の海に捨てたり焼いたりするため、別荘の自室に閉じ込められることになります。犯人の死体処理は無事に終わり、生き残った6人は解放されることになります。そして、綾川が犯人を指摘しても爆破されないと全員に伝え、謎解きを始めます。

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ネタバレ

綾川の推理により犯人は藤原ということになります。小山内、矢野口、藤原は島に爆弾を隠しており、それが視察で見つかってしまったため、最初の日の夜に逃げようとしていました。しかしこの時、小山内が転落してしまうという事故が起きます。

小山内は逃亡先を用意していたようですが、彼が死んだことで、矢野口と藤原はどこへ逃げればいいのかわからなくなってしまいます。そしてこのとき、藤原が、矢野口を殺した上で自分も死んだことにし、行方を暗ますという計画を立てます。

藤原の死体だと思われていたバラバラ死体は矢野口の体でした。矢野口の死体をブルーシートで包むとき、結び方にいちゃもんがついたのは、特殊な結び方だと犯人が真似できないからでした。犯人には矢野口の死体を藤原にみせるひつようがあり、同時に、矢野口の死体が残っているようにみせる必要もありました。しかし、結び方が特殊だと、誰かが矢野口の死体をいじったように見えてしまうというわけです。

その後、藤原は死んだふりをして、小山内や矢野口の死体を処理し、ゴムボートで逃亡します。綾川が犯人を指摘しても問題ないと考えたのは、藤原が逃げた可能性が高いと思っていたからでした。犯人はその場にいないので、十戒を守る必要はなく、爆破の恐れもありません。

そもそも綾川が藤原の犯行に気付いたのは、消された被害者の足跡がきっかけでした。被害者の足跡だけが消されていた理由は、被害者の矢野口が犯人の靴を誤って履いてしまったからです。そしてここから、藤原に絞りこまれます。まず、男性である矢野口が女性ものの靴を履き間違えるはずがありません。草下は地下足袋、沢村は靴が大きいので、これも間違えたまま履き続けることはありません。そして、大室はスリッパに履き替え靴は玄関に置きっぱなしだったので、間違えられても、問題はありません。しかし、土足で過ごしていた藤原だけは、脱ぐはずのない靴を間違えられるということ自体がおかしいということになります。つまり、犯行を計画した藤原が長靴に履き替え、この後、矢野口が靴を間違えたという状況が浮かびあがります。

真相

……というのは綾川の嘘です。真犯人は綾川です。小山内、矢野口、藤原が爆弾犯だったらしいというのは、ほんとうに島が爆発するため、確からしいですが、藤原が犯人というのは、綾川の作り話です。

初日の夜、綾川は矢野口の外出に気付き、直後に、三人が証拠隠滅のために島を爆破し、逃亡しようとしていることを知ります。用心のため、別荘にあったクロスボウを携帯していた綾川は隙をみて小山内を殺害し、起爆装置を回収。逃亡のために使われようとしていたゴムボートも隠しました。その後、綾川は藤原を犯人に仕立てるように犯行を重ねていくことになります。

里英は、初日の夜に綾川がクロスボウをもってどこかへ行く姿を目撃しており、小山内を殺したのが綾川であることに気付いていまいした。里英が綾川のアリバイを証言していましたが、これは偽証です。嘘をついた理由は、十戒を守るためで、それは、爆破を防ぐことでもありました。

感想と考察

みなさんの感想などをみていると、犯人がなんとなくわかってしまったのは私だけではないようです。綾川さんは、ほんとうにかなり怪しかったです。寒そうな感じなのに朝起きて汗かいたジャージを着替えているし、犯人との連絡とかいろいろ提案しているし、スマホ盗むし…。この人が真犯人なんだろうなと思っていたら、里英がアリバイを証言するので、混乱し、アリバイトリックかとあれこれ考えたりもしました。

つまり、そうやって十戒を破っていたわけですね。――殺人犯が誰か知ろうとしてはならない。その正体を明かそうとしてはならない――考えていただけだから、バレなきゃいいと言ってしまえばそうですが、たぶん俺、爆死してた。被害者三人が爆弾ブラザーズ(別に兄弟ではない)だというのもかなり疑っていたけれど、ラストに大爆発して、ほんとに爆発したよー、と心の中で呟いていました。登場人物の帰りの船に同乗している気分で、そして、花火を見ているような感じで、そんなことを呟いたわけです。読者という立場だったので他人事のような感想ですが、当事者だったら爆死してました。

公式ネタバレ解説に、これは犯人探しではないと書かれていたので、犯人はわかりやすく書いてあるのだろうなと思います。あえて真犯人がわかりやすく書かれていたのだとしたら、読者が十戒を守るかどうかが試されていたように思えてきます。

里英が犯人を知っていながら、何も語らなかった(むしろ嘘をついていた)のは、十戒がなければ、納得できない点になっていました。物語は里英の一人称で進んでいたので、里英の思考や感情が描かれているはずです。その中で、犯人に関する記述が一切ないというのは、作者都合ではなく、十戒を守っていたからということになります。里英が十戒を守って事件について何も考えていなかったとして、それが読者の視点と一致するような一人称で書かれていたら、読者も同じように、やっぱり十戒を守らないといけなかったわけです。つまり、私は爆死したということです。

みんなの感想

 本の口コミをAIで1枚の画像にまとめました。島、リゾート開発など物語のあらすじを表す言葉や、衝撃のラストなどの作品の特徴を表す言葉も現れています。方舟を読んで、というのは読者の特徴で、読んだ方々は、面白い、とてもよい、という感想を書き込んでいるようです。

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十戒(夕木春央)のレビューをまとめた図

方舟

 夕木春央の作品である「方舟」を書き込んでいる方が多いです。方舟を読んでから十戒を読むことをオススメします

方舟を読んですぐに十戒を読んで欲しい。方舟の記憶が曖昧だと最大限に楽しむことはできないのかもしれない。QRコードの解説を最後まで読んで欲しい。

方舟に続くクローズドサスペンス作品であり、聖書由来のタイトル。前作超えはしてないと思うが、この作品自体はレベル高い作品だと思います。

今まで読んだ本の中で一番衝撃を受けたのが方舟でした。その次に出版された本ということで、サイン本を購入させていただいた。ストーリー展開、「殺人犯を見つけてはならない」という設定、とてもおもしろい。方舟ほどの衝撃はない、と思っていたら最後の2ページ、そしてラスト1文で一気に寒気がした。方舟読んだ人は絶対にこれを読んで欲しい。

…方舟よりもインパクトは控えめに感じたけど、個人的にはかなり好き。

どうしても前作の方舟との比較で語られると思うけど、こちらはこちらで本格ミステリの流儀に沿って書かれており、面白く拝読しました。

まとめ

3.0
 夕木春央著「十戒」について、あらすじ、みんなの感想、真相などをまとめました。話題になった(らしい)「方舟」の著者が書いた推理小説です。“犯人探しをしてはならない”という戒律が舞台をクローズドサークルにします。設定が面白く、作品への期待感が高まります。内容は、細かな話が多いので読み飛ばしたくなる人もいるかもしれませんが、「方舟」を読んだ方にはおすすめの一冊です。

犯人

綾川(あやかわ)
枝内島で起きた事件の犯人は、世間的には藤原ということになっているはずで、絶賛逃亡中。爆弾を所持していたのは確かに藤原、小山内、矢野口なのだが、殺人を犯したのは綾川である。彼女の最後の言葉は“じゃあ、さよなら”――どうやら綾川は前作「方舟」に登場した麻衣らしい、ということが本家ネタバレ解説に書かれている。
死んだ藤原達が爆弾を所持していた理由は、まったく明かされていない。この部分が原因で評価を下げている読者の方もいるようだが、シリーズものなので、今後、真相が明らかにされるかもしれない。そう思うと、このシリーズを読み続けなければならなくなって…という商業出版の罠に、はまったりするのだが、これは仕方がない。

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