「アクロイド殺人事件」はある小さな村で女性の自殺事件が発生し、その後、ロジャー・アクロイドが何者かによって殺害されるエピソードです。この記事では、あらすじと登場人物、ネタバレ、感想などをまとめています。
項目 | 内容 |
---|---|
シーズン | 7 |
エピソード | 1 |
長さ | 1時間39分 |
放送日(英国) | 2000年1月2日(日) |
放送日(日本) | 2000年12月30日(土) |
出演者 | キャスト一覧 |
あらすじ
探偵業を引退したポワロはキングズ・アボット村で暮らしていた。静かなその村で、ドロシー・ファラーズという女性が自殺する。ドロシーと男女関係にあった地元の実業家ロジャー・アクロイドは、ドロシーが昔亡くなった夫の件で恐喝されていたと確信し、恐喝者を探し出そうとしていた。しかし、そのロジャーが何者かによって殺害されてしまう。
死体が見つかったのはロジャーの書斎で、発見したのはシェパード医師と執事のパーカーだった。書斎の窓枠にはロジャーの養子であるラルフ・ペイトンのものと思しき足跡が残されていたが、肝心のラルフは姿を消してしまい行方不明になっていた。ラルフがロジャーと口論していたことに加え、ラルフには遺産という動機もあった。ラルフによる犯行が疑われる中、書斎の違和感や紛失した手紙に気付いた執事が殺されてしまう。
事件概要
ロジャーの死体が発見されるまでの経緯は以下の通りです。フローラの証言が確かであれば、22時10分頃まで被害者のロジャーは生きていたことになります。もし、フローラの話に嘘があったとしても、被害者は21時30分頃までは生きていたと考えられます。
- 21:00シェパードがアクロイドの屋敷を辞去
- 21:30秘書がアクロイドの声を耳にする
(姿を見たわけではない)
- 22:10フローラが書斎でロジャーに挨拶する
執事が書斎の前でフローラを見かける
- 22:20電話で呼び出されたシェパードが執事と共に死体を発見する
最後に被害者をみた人物がフローラであれば、フローラが疑わしいのは間違いありませんが、もっと怪しい人物がいます。それがラルフで、遺産という動機はもちろん、窓枠の足跡や被害者との口論という証拠もあり、その上、行方不明にもなっています。ラルフはフローラとの婚約を発表するはずだったので、村で盗み聞きされた内容(医師の妹が耳にした会話で、ラルフと女性が話していた内容)と相まって、二人の共犯も疑われます。そんなわけで、非常に怪しいラルフですが、ラルフの生死や行方は最後まで明かされません。
死体発見時から少し変わった椅子の位置や消えた手紙など、真犯人を突き止める証拠らしきものが登場していますが、ロジャー殺害の犯人とは直接結びつかない証拠もいくつかあります。一つ目がアクロイドの自室から消えたお金、二つ目がポワロが拾った指輪、三つ目が東屋で目撃された女性です。解雇されたメイドも真犯人とはあまり関係のない事柄です。これらの証拠は真犯人とは異なる二つの真相を示唆するものです。
登場人物
- エルキュール・ポアロ
探偵業を引退し、キングズ・アボット村で隠居生活を送っていた名探偵。小柄で卵型の顔、跳ね上がった口ひげが特徴で、几帳面な性格 - ジェイムズ・シェパード医師
村の診療所の医師で、ロジャー・アクロイドの友人。原作小説では「私」として登場し、物語を語る語り手となる - キャロライン・シェパード
ジェイムズ・シェパード医師の姉。噂好きで情報収集に長けている - ロジャー・アクロイド
キングズ・アボット村の富豪。被害者 - フェラーズ夫人
アクロイド氏との再婚が噂されていたが、物語冒頭で死亡する - ラルフ・ペイトン
ロジャー・アクロイドの養子。事件の第一容疑者となる - セシル・アクロイド
ロジャー・アクロイドの義妹 - フローラ・アクロイド
セシル・アクロイドの娘 - パーカー
アクロイド氏の執事 - アーシュラ・ボーン
アクロイド氏の秘書/メイド - ラグラン警部
担当警部 - ヘクター・ブラント
事件当日、屋敷を訪ねてきた正体不明の男(原作のみ) - エリザベス・ラッセル
アクロイド氏の家政婦(原作のみ)
ネタバレ
犯人はジェイムズ・シェパードです。シェパード医師がドロシー・ファラーズを脅しており、このことを突き止めたロジャーは口封じのためシェパードに殺されました。紛失した手紙はドロシーが送ったもので、そこにはシェパードこそが恐喝者であることが記されていました。しかし犯行後、シェパードがこれを持ち去ったため、手紙が消えていました。
シェパードがロジャーを殺害したのは21:00頃で、シェパードが屋敷を後にした時、既にロジャー・アクロイドは死んでいました。21:30の声は録音されたものであり、シェパードはタイマーを使って再生装置を動かしていました。なお、この装置はシェパードが死体を発見した時に回収しています。一緒に死体を発見した執事にみられないようにするため、椅子を使って装置を隠していましたが、装置回収後に椅子を元の位置へと戻したことで執事に違和感を与えることになります。これが執事殺害の動機へと繋がります。
22:10頃にフローラが挨拶したというのは嘘です。フローラは書斎には入っておらず、入ったふりをしていました。その理由はお金を盗んだことを隠すためです。フローラは2階にあるロジャーの部屋から金を盗み、階段を降りてきたところで人の気配に気付きました。階段から降りてきたことが知られると金を盗んだことがバレるかもしれないので、咄嗟に、階段のすぐそばにある書斎から出てきたようにみせました。
最後にラルフの行方ですが、彼は療養所に入院しています。特にどこかが悪いというわけではなく、容疑から逃れるために入院しています。ラルフをかくまうという口実で入院を斡旋したのは犯人のシェパードで、その狙いは、ラルフに罪をきせることにあったようです。事実、ラルフの靴の足跡を死体発見現場の窓枠に残したのは、シェパードでした。
ラルフには秘密があり、実は彼はメイドのアーシュラ・ボーンと結婚していました。被害者のロジャーはラルフとフローラを結婚させようとしていたわけですが、ラルフとメイドの結婚を知ってラルフと口論になり、そして、結婚相手のメイドを解雇しました。東屋で目撃されたのはアーシュラで、医師の妹が耳にしたのもアーシュラとラルフの会話でした。
名前 | 説明 | 解説 |
---|---|---|
ロジャー・アクロイド Roger Ackroyd |
化学会社社長 被害者 |
ドロシーが恐喝されていたことを知っていた 書斎で殺害される |
ジェイムズ・シェパード Dr. Sheppard |
医者 犯人 |
ドロシーを恐喝していた人物 恐喝がロジャーにバレたため犯行に及ぶ |
ドロシー・ファラーズ Mrs. Ferrars |
自殺した女性 | ロジャーの恋人だった シェパード医師に脅され自殺する |
ラルフ・ペイトン Ralph Paton |
ロジャーの養子 | ロジャー殺害発覚後行方不明になる シェパード医師の手引きにより療養所に入っていた |
フローラ・アクロイド Flora Ackroyd |
ロジャーの姪 | 金を盗んだことを隠すため書斎に入ったふりをする |
ヴェラ・アクロイド Mrs. Ackroyd |
ロジャーの義妹 | ロジャーの弟の妻でフローラの母親 |
アーシュラ・ボーン Ursula Bourne |
メイド | 東屋で目撃された女性 実はラルフと結婚していた |
パーカー Parker |
執事 | 椅子の配置や手紙の紛失に気付き殺される |
キャロライン・シェパード Caroline Sheppard |
医師の妹 | ラルフとアーシュラの話を耳にする |
トリック
録音した被害者の声を再生して、被害者が生きているようにみせるというトリックが登場します。声を誰かが耳にし、被害者が生きているということが証明されれば、犯行時刻をずらすことができます。そのうえで、完璧なアリバイを用意しておけば、容疑者から外れることになります。同時に、罪をなすりつける人物が明確に決まっている場合は、その人物にアリバイがないという状況を作り出す必要があります。また、現場に残すことになる仕掛け(再生装置)を素早く回収する必要もあります。
この事件の犯人は自宅で過ごし、妹という証人がいたように思います。なお、自宅の電話を鳴らすため昔の患者という共犯者も使っており、これは、妹に電話がかかってきたことを証言させるという効果がありました。犯人が用意した装置は比較的大型のものであり、野次馬になってこっそり回収するというのは難しそうな代物でした。そこで犯人は第一発見者となって装置を回収します。第一発見者になるにあたって、最初はもう一人の人物(執事)と一緒に死体を発見し、人払いをして一人になるという段取りを踏んでいます。
登場人物の中に秘密を持った人物が混じっており、この人物が嘘をついたため、被害者が死体発見直前まで生きているようにみえました。秘密というのは金の盗難で、金を盗んだ人物は何も知らず嘘をつき、その結果、被害者の犯行時刻に影響を与えました。
原作小説とドラマの違い
原作はアガサ・クリスティの長編推理小説『アクロイド殺し』です。叙述トリックが特徴の作品で、よく映像化は困難といわれます。デヴィッド・スーシェさん主演のドラマ版では、叙述トリックが省略されるだけではなく、そのほかにも違いがあります。
- 叙述トリック
【原作小説】物語の語り手であるジェイムズ・シェパード医師自身が犯人であるという叙述トリックが最大の特徴です。読者はシェパード医師の視点を通して物語を読み進めるため、彼が犯人であるという事実に気づきにくい構造になっています。
【ドラマ】ポワロがシェパード医師の日記を読み上げるという体裁でストーリーが進行し、原作のような叙述トリックはありません。ポワロがシェパード医師の秘密の日記を車の中に置き忘れたり、ポワロが推理を披露する前に犯人が自白したりするなど、結末が原作とは異なります。 - 助手役
【原作小説】ジェイムズ・シェパード医師はヘイスティングスのような役割も果たします
【ドラマ】ポワロの助手をジャップ警部が務めています - 動機
【原作小説】シェパード医師の動機は、フェラーズ夫人を脅迫していた事実がアクロイド氏に露見するのを恐れたこと、そして金銭への欲望が絡んでいます
【ドラマ】動機が多少変更されており、「悪人の金持ちを罰する」といった言い訳のような動機も含まれています
- アクロイド氏の設定
ドラマ版では、アクロイド氏は原作より年長であり化学工場の経営者になっています - ポワロの趣味
原作ではポワロがカボチャ作りをしていますが、ドラマ版ではトウガン作りになっています - 第二の殺人
ドラマ版では、原作にはない第二の殺人が行われます - ポワロの引退
ドラマ版では、ポワロが探偵業を引退し、隠居生活を送っている設定が強調されています - 登場人物の省略と変更
原作に登場するアクロイド家の家政婦ミス・ラッセルや、客人のブラント少佐はカットされています。一部の役割はジェフリー・レイモンドが代わりを務めています。また、シェパード医師の姉キャロラインは、ドラマ版では「妹」に変更されています
感想
「アクロイド殺し」といえば叙述トリックで有名だと思いますが、このドラマはあまりそのトリックを感じられない作りになっていると思います。原作の結末を知っていた私は、原作の犯人がドラマでは犯人らしくなく、なぜかジャップ警部が登場したので、警部を疑ってしまいました。犯人が原作とは違うのかもしれない、という感じで視聴していたので、原作とは違う楽しみ方ができた気がします。
このドラマを初めてみたとき、叙述トリックは映像化が難しいのかと思いましたが、日本で制作・放送された「黒井戸殺し」は叙述トリックが全面に押し出されるような内容でした。ということは、この「アクロイド殺人事件」は狙った通りの仕上がりになっているのかもしれません。