『夏のレプリカ』はS&Mシリーズの7作目です。西之園萌絵の友人・簑沢杜萌(みのさわ・ともえ)が誘拐事件に巻き込まれます…。
項目 | 説明 |
---|---|
タイトル | 夏のレプリカ |
著者 | 森博嗣 |
出版社 | 講談社 |
シリーズ | S&M |
順番 | 7 |
発行日 | 1998/1/7 |
Audible版 | あり |
あらすじ
事件は「偶数章」だけで語られる。豪邸に忍び寄る仮面の誘拐者!冷徹なる論理は夏の狂気を裁けるのか。
那古野市の実家に帰省したT大大学院生の前に現れた仮面の誘拐者。そこには血のつながらない詩人の兄が住んでいた。誘拐が奇妙な結末を迎えたとき、詩人は外から施錠されていたはずの部屋から消え去っていた。朦朧とするような夏の日に起きた事件の裏に隠された過去とは!?事件は前作と表裏をなし進展する!
講談社BOOK倶楽部
事件概要
これまでと違い簑沢杜萌が主に登場します。杜萌は萌絵の友人で、もちろん萌絵や犀川も登場しますが、出番は少なめです。偶数章だけで構成されているのが特徴で、『幻惑の死と使途』と同時期に起こった事件を描いています。そういった事情もあって、必然的に萌絵や犀川の出番は少なくなっています。
西之園萌絵と会った後、杜萌は実家のある愛知に帰省し、盲目で詩人の兄と二人きりになります。兄は幽閉されていて、ちょっと怖い感じの存在です。翌朝、杜萌は謎の男に襲われます。杜萌の両親と姉は誘拐され長野の別荘に監禁されていました。杜萌は金の運び役となり、長野の別荘を訪れますが、そこには誘拐犯と思しき人物が死んでいました…。
ネタバレ
誘拐事件で杜萌の父(政治家)に身代金が要求されていましたが、誘拐は殺人を隠すための偽装でした。犯人は杜萌と赤松で、二人は交換殺人のために、誘拐を起こしていました。つまり、真犯人は簑沢杜萌だったわけです。
名前が逆
「名前が逆なのはわかった?」という謎めいた台詞が登場します。この意味は前作『幻惑の死と使途』に登場した有里匠幻と原沼利裕の名前が繋がっているというものです。『有里匠幻』の漢字をうしろから並べると『幻匠里有』になり、これを音読みすると『ゲンショウリユウ』になります。『原沼利裕』を音読みにするとゲンショウリユウですので、名前が逆になっています。
簑沢素生
杜萌の義兄・素生(もとき)は屋敷にいなかったのかな?素生は家出中なのか、放浪中なのか(積極的家出なのか)、結局わからなかった気がします。杜萌との問題で素生は出て行ったけれど、杜萌はその記憶を封印しているということなのかもしれないです。
余談ですが簑沢素生は『ゾラ・一撃・さようなら』に登場したりします。
感想
森博嗣の『夏のレプリカ』は、静かだけど深みのあるミステリーだった気がします。ストーリーは杜萌が夏休みに帰省した実家で誘拐されるというのが発端です。萌絵達はあまり登場しないので、長野県警の西畑刑事が重要な役割を果たしていたと思います。偶数章構成は面白い仕掛けだと思います。チェスのシーンも印象的。あと世津子の妊娠発覚も。
トリックや謎解きについては賛否が分かれるところです…。個人的には結構楽しめたと思っていますが、犯人や動機に関しては少し疑問が残り、杜萌の動機は浅い気もします。また、犀川と萌絵があまり登場しないので、いつものキャラを気に入って読んでいる場合はちょっと面白くないかもしれないです。
『夏のレプリカ』は、前作と独立して楽しめる一方で、前作との関連性を楽しむこともできる作品でした。森博嗣先生の作品を読んでいると毎回驚きがあります。
コメント