『TOKAGE(トカゲ)』は今野敏さんによる警察小説のシリーズ第1作目です。大手都市銀行の行員誘拐事件を巡り、警視庁捜査一課特殊犯捜査係(SIT)のバイク部隊「TOKAGE」が活躍します。警察組織の内部事情、犯人との心理戦、そして報道のあり方まで多角的に描かれる作品です。この記事ではあらすじや主な登場人物、ネタバレ、感想などをまとめています。
項目 | 評価 |
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【読みやすさ】 スラスラ読める!? |
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【万人受け】 誰が読んでも面白い!? |
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【キャラの魅力】 登場人物にひかれる!? |
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【テーマ】 社会問題などのテーマは? |
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【飽きさせない工夫】 一気読みできる!? |
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【ミステリーの面白さ】 トリックとか意外性は!? |
あらすじ
ある朝、大手都市銀行の行員3名が誘拐されるという前代未聞の事件が発生する。犯人からの身代金要求額は10億円。警視庁捜査一課の若手、上野数馬は、覆面捜査専門のバイクチーム「TOKAGE」の一員として、初めての誘拐事件の初動捜査に挑む。事件は、犯人と警察の緊迫した交渉、そして報道協定の中での新聞記者の独自の取材が交錯しながら進んでいき――事件の裏には、銀行の知られざる内幕が隠されていることが示唆され、捜査は予想外の方向へと展開していく。
特徴
- 警察(SIT、TOKAGE)、銀行、新聞記者の3つの視点から物語が描かれ、多角的に事件の全貌が明らかになる。一見単純な誘拐事件が、意外な真相へと繋がる構成
- 警視庁捜査一課特殊犯捜査係(SIT)の中でも、バイクを駆使して隠密捜査を行う特殊遊撃捜査隊「TOKAGE」という ユニークな部署が舞台。大手都市銀行という、現代社会の光と影を象徴する場所が事件の中心となる
- 警察組織の縦割りや縄張り意識、内部の人間関係のリアルな描写
- 誘拐事件における犯人と交渉役の心理戦
- 報道の自由と事件捜査における報道協定の葛藤
- バブル経済の負の遺産や、企業倫理の問題
- 「正義とは何か」「本当に悪いのは誰か」という問いかけ
- 今野敏作品らしい、テンポが良く、読みやすい文体
登場人物
- 上野数馬(うえの かずま)
- 主人公。特殊遊撃捜査隊「TOKAGE」の新人隊員。先輩の白石涼子や上司の高部係長といった魅力的なキャラクターに囲まれながら、自身の役割を見出していく
- 白石 涼子(しらいし りょうこ)
- 「TOKAGE」のメンバー。上野の先輩。上野よりも年下だがキャリアは上で、冷静沈着かつプロフェッショナルな女性捜査員。美人で「カッコイイ」と評されることが多い。上野にとって頼りになる存在
- 高部 係長(たかべ かかりちょう)
- 警視庁捜査一課特殊犯捜査係(SIT)の係長。冷静沈着で、部下からの信頼が厚いベテラン上司。事件の全体像を的確に把握し、交渉や捜査の指揮を執る。そのプロフェッショナルな仕事ぶりが際立つ
- 相馬 管理官(そうま かんりかん)
- 警視庁捜査一課の管理官。上層部には弱く、部下には高圧的な態度を取る典型的な「嫌な上司」として描かれる。捜査の足を引っ張る場面もあり、読者からは辛口な評価を受けることもある
感想
今野敏さんの作品の中でも特に人間ドラマに焦点を当てた一冊だと感じました。タイトルにもなっている「TOKAGE」という特殊部隊の活躍を期待して読み始めたのですが、正直なところ、彼らのバイクアクションは控えめです。むしろ事件の裏側で奮闘する交渉役の警察官や、独自の嗅覚で真相に迫る新聞記者たちのシーンが魅力的でした。
特に印象的だったのは、メタボ体型のベテラン記者・湯浅さんと、その若手後輩・木島さんのコンビです。彼らが報道協定の壁にぶつかりながらも、足で稼ぐ取材とネットを駆使した情報収集で事件の核心に迫っていく姿は、警察小説でありながら、ジャーナリズムの物語としても読み応えがありました。彼らの掛け合いには、世代間の価値観の違いがリアルに描かれていたと思います。
主人公の上野数馬は、まだ新米の「トカゲ」隊員として、先輩の白石涼子や冷静沈着な高部係長のもとで奮闘します。彼 の成長はシリーズを通して描かれるのでしょうが、この1作目では、むしろ周囲のベテランたちのプロフェッショナルな仕事ぶりが際立っていたように感じました。特に高部係長のブレない姿勢は、理想の上司像そのもので、読んでいて清々しかったです。
全体的にスピーディーでサクサク読めるため、厚みのある本ですが、飽きることなく一気読みできました。派手なドンパチを期待すると肩透かしを食らうかもしれませんが、警察組織のリアルな描写や、人間関係の機微、そして社会問題への鋭い視点を楽しみたい方には、ぜひおすすめしたい一冊です。
高評価のポイント
- 警察の組織描写がリアルで、部署間の対立や連携、捜査の難しさがよく描かれている
- 犯人と交渉役(特に高部係長)の心理戦が緊迫感があり、面白い
- 新聞記者の視点からの描写が新鮮で、独自の取材活動が物語に深みを与えている
- 登場人物(高部係長、白石涼子、新聞記者コンビなど)が魅力的で人間味がある
- テンポが良く、文章が読みやすいため、分厚い本でもサクサク読める
- 今野敏作品らしい安定した面白さがあり、シリーズとしての期待感が高い
低評価のポイント
- タイトルが「TOKAGE」であるにもかかわらず、バイク部隊の活躍シーンが少ない、または地味
- 事件の真相が比較的早い段階で読者に予測されてしまい、大どんでん返しのような驚きがない
- 犯行動機や銀行内部の掘り下げが浅く、読後感がすっきりしない、物足りないと感じる人もいそう
- 一部のキャラクター(相馬管理官など)が典型的な嫌な上司として描かれていて不快に思うかもしれない
- 全体的に淡々と話が進み、緊迫感や盛り上がりに欠けると感じる人もいそう…
ネタバレ
大手都市銀行の行員3名が誘拐され、身代金10億円が要求される事件が発生。警察は犯人との交渉を進めますが、犯人が銀行内部の事情に異常に詳しいことから、捜査本部は狂言誘拐の可能性を疑い始めることになります。
最終的に、誘拐された行員3名(篠田和弘、西条順一、東田勝)自身が犯人であることが判明します。
彼らの目的は、過去に銀行の貸し渋りによって倒産に追い込まれ、人生を狂わされた人物(臼田康治)の復讐を代行し、銀行に社会的制裁を加えることでした。
結末
身代金は指定された口座に振り込まれますが、犯人たちはその金を奪い、海外へ逃亡しようとします。しかし、TOKAGEのメンバーである上野数馬らがバイクを駆使して追跡し、逃亡を図る犯人たちを逮捕します。人質は無事解放され、事件は解決となります。
事件の真相については、今野作品を読み慣れている方なら、途中で狂言誘拐だと勘付いてしまうかもしれません。しかし、このことを逆手に取り、事件の動機やその背景にある社会の歪みを深く掘り下げ、「本当に悪いのは誰なのか」という問いを読後に残したのかもしれません。
次にオススメの推理小説
- 今野敏作品(他の警察小説シリーズ)
- 『隠蔽捜査』シリーズ
警察組織の内部を描く代表作 - 『安積班』シリーズ
所轄の刑事たちの活躍を描く - 『ST 警視庁科学特捜班』シリーズ
特殊能力を持つ捜査官たちの活躍 - 『機捜235』シリーズ
機動捜査隊の活躍
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警察官の三代にわたる物語 - 『制服捜査』シリーズ
北海道を舞台にした警察小説
- 『警官の血』
- 横山秀夫作品
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警察組織と個人の葛藤を描く - 『64(ロクヨン)』
昭和と平成の警察組織の闇を描く
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- 『警視庁失踪人捜査課』シリーズ
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