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恐怖の谷|ネタバレ徹底解説・あらすじ・感想【シャーロック・ホームズ】

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恐怖の谷(The Valley of Fear)』はアーサー・コナン・ドイルによる長編小説で、シャーロック・ホームズシリーズのひとつです。ホームズシリーズの長編の中では、最後の作品となります。1914年9月から1915年5月まで『ストランド・マガジン』に連載され、1915年に単行本として出版されました。なお、この作品は1870年代にアメリカで実際に起きた「モリー・マグワイア事件」をモデルにしていると言われています。この記事では、小説のあらすじや登場人物、ネタバレ、感想などをまとめています。

項目 評価
【読みやすさ】
スラスラ読める!?
【万人受け】
誰が読んでも面白い!?
【キャラの魅力】
登場人物にひかれる!?
【テーマ】
社会問題などのテーマは?
【飽きさせない工夫】
一気読みできる!?
【ミステリーの面白さ】
トリックとか意外性は!?
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あらすじ

シャーロック・ホームズのもとに、数字の羅列された暗号文が届く。差出人は宿敵モリアーティ教授の配下であるポーロックだと名乗っていた。ホームズとワトソンは暗号を解読。どうやらバールストン館に住むダグラスという男に危険が迫っているようだった。しかし、その直後、スコットランドヤードのマクドナルド警部から、ダグラスが惨殺されたという知らせが入ってしまう。

ダグラスはバールストン館書斎で殺された。ダグラスは顔を散弾銃で撃ち抜かれ、みるも無残な姿だった。館は堀に囲まれ、夜間は橋が上げられており、犯人の侵入経路や逃走方法は不明。現場には凶器の散弾銃、金槌、そして「V・V 341」と書かれた紙切れ、片方しかない鉄亜鈴、さらには結婚指輪は抜き取られているのに金の指輪だけは残された遺体など、多くの謎が残されていた。
バールストン館へ向かい、事件の捜査を開始したホームズたちは、第一発見者である友人のセシル・バーカーとダグラス夫人の言動から、二人が共謀して何かを隠しているのではないかと疑うことになる。

20年前――アメリカ・ペンシルベニア州の荒廃した炭鉱町ヴァーミッサ渓谷。ジョン・マクマードーと名乗る見慣れぬ男がシカゴからこの地にやってきていた。ジョンは労働者の秘密結社「自由民団」の団員を名乗るが、ヴァーミッサ渓谷の自由民団は「スコウラーズ」と呼ばれる悪名高いマフィア組織と化しており、暴力と恐怖で地域を支配していた。マクマードーは、持ち前の機知と大胆さでスコウラーズに入団し、その中で頭角を現していく。非道な活動に加担しながらも、次第にその実態を暴こうと暗躍する。

登場人物

  • シャーロック・ホームズ
    英国の著名な諮問探偵。卓越した推理力と観察力で難事件を解決に導く。その冷静沈着な分析力と洞察力、そして時には「実生活における劇作家」と自称するほどの演出へのこだわりもみせる。事件を単なる謎としてではなく、芸術的な挑戦として捉え、その解決を誇りとしている
  • ジョン・H・ワトスン
    ホームズの親友であり同居人、医師。事件の記録者でもあり、物語の語り手。ホームズの推理に素直に驚き、時には困惑しながらも深く信頼している
  • アレック・マクドナルド警部
    ロンドン警視庁の警部。ホームズを信頼し、捜査協力を依頼する
  • ホワイト・メイスン警部
    現地警察の警部
  • ジョン・ダグラス
    被害者。バールストン館の主人。過去に「恐怖の谷」にいたとされる
  • アイヴィー・ダグラス
    ジョンの妻。若くて美人
  • セシル・ジェイムズ・パーカー
    ダグラスの友人。事件の第一発見者
  • モリアーティ教授
    ホームズの宿敵。「犯罪界のナポレオン」と称される天才的な悪の首領
  • フレッド・ポーロック
    モリアーティ教授の部下。ホームズに暗号文を送る
  • ジョン・マクマードー
    第二部の主人公。ヴァーミッサ谷にやってきた謎の男。勇敢で機知に富み、身体能力にも優れた男の中の男
  • ブラック・ジャック・マギンティー
    スコウラーズの支団長。ヴァーミッサ谷を暴力で支配する
  • テッド・ボールドウィン
    スコウラーズの団員。エティーの元婚約者
  • エティー・シャフター
    マクマードーの恋人となる下宿屋の娘
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小説の特徴

本作は「緋色の研究」と同様に、完全な二部構成になっています。第一部でイギリスで発生した殺人事件の謎解きが描かれ、第二部では事件の背景となるアメリカの炭鉱町「ヴァーミッサ渓谷」での出来事が語られます。この第二部は、ホームズがほとんど登場せず、冒険小説やハードボイルド小説のような内容になっています。
二つの異なる物語がどのように結びつくのかという楽しみのある作品で、展開は早く、スリリングな作風です。また、ホームズの宿敵であるモリアーティ教授の影が見え隠れする点も大きな特徴です。

第一部の舞台はイギリスのサセックス州にある古いマナーハウス、バールストン館です。堀に囲まれ、跳ね橋が上げられると孤立する古城という設定がミステリーらしさを演出しています。第二部は、一転してアメリカのペンシルベニア州にあるヴァーミッサ渓谷という炭鉱町が舞台となり、暴力的な秘密結社「スコウラーズ」が支配する無法地帯が描かれます。一部と二部は対照的な舞台設定といえます。

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感想

古典でありながら夢中にさせる内容でした。読むタイミングにもよりますが、「やられた!」と唸るようなミステリーになっていると思います。一部のイギリスの探偵と二部のアメリカの探偵という対比が、両国のイメージを反映しているように思えます(偏見めいていますが…)。

第二部はホームズとワトソンがほとんど登場しないので、評価が分かれそうではあります。やはり、ホームズシリーズはホームズの活躍をみたい人が多そうだからです。二部も面白とは思いますが、受け入れられるかどうかは微妙なところかもしれません。いずれにしても、第一部と第二部の物語が最後に美しく切なく結びつく構成は見事だと思います。また、モリアーティ教授の暗躍が、見えない巨悪の存在を強調し、ホームズの戦いのスケールを大きく広げています。

物語の中心には、復讐というテーマがあるように思えました。過去の因縁が現在の殺人事件を引き起こすという構造が人間ドラマを生み出しています。潜入捜査による組織犯罪の壊滅や、正義と悪の境界線、労働運動の草創期の闇といった社会派的な要素も感じとれます。

高評価なポイント

  • 巧みな二部構成
    第一部と第二部がそれぞれ独立した物語として面白く、最後に繋がる点が秀逸。二度美味しい。中編が二つ楽しめるような感覚
  • どんでん返し
    第二部で明かされる主人公(マクマードー/ダグラス)の正体や、事件の背景に隠されたトリックに驚きと興奮を感じる
  • スリリングな展開と臨場感
    第二部のアメリカの炭鉱町での暴力的な描写や、潜入捜査にスリルがある。ギャング映画を観ているような気分にもなれそう
  • 魅力的なキャラクター
    ホームズとワトソンはもちろんのこと、特に第二部のマクマードーの勇敢さ、機知、そしてカッコよさが印象に残る
  • モリアーティ教授の存在感
    直接的な登場は少ないものの、その影が常に物語に不穏な雰囲気を与えている
  • 古典ながら色褪せない面白さ
    100年以上前の作品にもかかわらず、現代のミステリ作品にも通じるトリックや人間ドラマが楽しめ、広大なスケールでの冒険物語としての魅力もある。第二部のモデルとなった実話が、物語にリアリティと重厚感を与えている

低評価なポイント

  • 第二部の長さやホームズの不在
    ホームズとワトソンがほとんど登場しない第二部が長く感じられる
  • モリアーティ教授の出番の少なさ
    宿敵と銘打たれている割に、直接的な対決や出番は少ない
  • 時系列の矛盾
    作品内の時系列設定に矛盾点があるため、熱心なシャーロキアンの中には混乱や不満 を覚える人もいます。
  • 結末の悲劇性
    頑張った登場人物が報われない後味の悪い結末に残念さを感じる
  • 一部のトリックの予測可能性
    現代のミステリ読者にとっては、第一部のトリック(顔のない死体など)は気付きやすい
  • 人間描写の偏見
    第二部におけるアメリカ社会や一部の登場人物の描写に、当時のドイルの偏見が感じられる
  • 登場人物名の多さ
    特に第二部で多くの人物名が登場するため、誰が誰だか混乱する

ネタバレ

散弾銃で顔を撃たれて殺されたと思われていたジョン・ダグラスですが、実は生きています。館でみつかった死体はボールドウィンという人物であり、ダグラスではありません。ボールドウィンはダグラスを狙って館に侵入し、もみ合いの末、ダグラスに誤って撃たれ、死んでいました。ダグラスと友人のバーカー、そしてダグラス夫人は共謀し、ダグラスが死んだようにみせることで、追手から逃れようとしていました。

ジョン・ダグラスの本名はジョン・マクマードーであり、実はピンカートン探偵社の潜入捜査官、バーディ・エドワーズです。バーディは、アメリカのヴァーミッサ渓谷を牛耳る悪名高い秘密結社「スコウラーズ」に潜入し、その壊滅に貢献していました。しかし、その功績によってスコウラーズの残党から命を狙われる身となり、身を隠すために名前を変え、世界中を転々することになります。最終的にイギリスのバールストン館に落ち着いたものの、スコウラーズが居場所を突き止め、殺害のために忍び込んで…事件が起きました。

結末

ホームズは殺されたのがボールドウィンであることやダグラスの過去、そして「スコウラーズ」の存在をすべて暴きます。しかしながら、ダグラスは正当防衛が認められ釈放されることになります。そんなダグラスにホームズは、モリアーティ教授の組織が関与しているため、今後も命を狙われる危険があることを警告します。

その後、ダグラス夫婦は南アフリカへ旅立ちます。しかし、船が嵐に遭い、ダグラスが海に転落死したという電報がホームズに届きます。ホームズはこの事件が単なる事故ではなく、モリアーティ教授の仕業であると確信して、苦い結末を迎えます。その後の展開は……「最後の事件」へと繋がります。

次にオススメの推理小説

  • 『ポップ1280』
    ジム・トンプスン著。『恐怖の谷』と同じモリー・マグワイアズ事件を題材にしたとされる作品
  • 『緋色の研究』
    本作と同じ二部構成のコナン・ドイルデビュー作
  • 『四つの署名』
    複雑な過去の因縁が絡む長編
  • 『バスカヴィル家の犬』
    陰鬱な雰囲気の傑作長編
  • 『最後の事件』(短編)
    モリアーティ教授が直接登場し、ホームズと対決する有名な作品
  • 『シャーロック・ホームズの帰還』(短編集)
    ホームズが復活し、モリアーティ教授との因縁が語られる
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