中井英夫さんの『虚無への供物』は日本三大奇書のひとつですが、三大奇書の中では比較的、読みやすい小説です。この記事では、あらすじと小説の特徴、感想、高評価・低評価ポイント、ネタバレや結末などをまとめています。
項目 | 評価 |
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【読みやすさ】 スラスラ読める!? |
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【万人受け】 誰が読んでも面白い!? |
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【キャラの魅力】 登場人物にひかれる!? |
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【テーマ】 社会問題などのテーマは? |
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【飽きさせない工夫】 一気読みできる!? |
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【ミステリーの面白さ】 トリックとか意外性は!? |
あらすじ
昭和29年(1954年)の東京――名家・氷沼家で連続殺人事件が起こる。探偵小説に傾倒する奔放な女性・奈々村久生(ななむら・ひさお)は、ゲイバー「アラビク」で知り合った光田亜利夫(みつた・ありお)とともに、不可解な事件の真相を追うことになる。
氷沼家は、当主の氷沼蒼司(ひぬま・そうじ)とその弟・紅司(こうじ)、従弟の藍司(あいじ)らが暮らす名家だが、不幸な出来事が絶えず、一族には「呪い」の噂が囁かれていた。そんな中、紅司が密室状態の浴室で死亡するという事件が発生。さらに、叔父の橙二郎(とうじろう)もガス中毒で死亡する。久生と亜利夫は事故や病死ではなく、連続殺人であると考え、様々な手がかりを元に、独自の捜査を開始する。
小説の特徴
複数の視点から語られる群像劇の形式です。登場人物それぞれの視点から事件が描かれることで、真相が多角的に描き出され、読者は様々な解釈を楽しむことができます。また、作中作や引用が多用され、物語が入れ子構造になっているのも特徴といえます。特に、作中で語られる小説『凶鳥の黒影』は、事件の真相を暗示する重要な要素として機能しています。
主人公と呼べそうなのは、探偵作家志望の女性・奈々村久生です。好奇心旺盛で行動力があり、事件の真相を追究するために奔走します。しかし、その推理はしばしば的外れで、どこか滑稽な面も持ち合わせています。久生は、名探偵というよりも、欠点や弱さを持つ人間味あふれるキャラクターとして描かれています。
舞台設定
舞台は昭和29年の東京。戦後の混乱期から復興へと向かう時代の空気感が、作品全体に独特の陰影を与えています。浅草や上野と いった下町情緒あふれる場所から、氷沼家のような退廃的な洋館まで、様々な場所が物語の舞台となり、その時代ならではの雰囲気を醸し出しています。特に、ゲイバー「アラビク」は、当時のアンダーグラウンドな文化を象徴する場所として、物語に独特の彩りを添えています。
テーマ
虚無、そして人間の存在意義などがテーマです。事件の真相を追う中で、登場人物たちは生と死、善と悪、現実と虚構といった根源的な問いに直面します。また、大衆の好奇心や探偵小説というジャンルそのものに対する批判的な視点も、作品の重要なテーマとなっています。特に、物語の終盤で語られる「見物衆」という概念は、現代社会におけるSNSやマスメディアの問題を予見している かのような鋭さがあります
作風
作者である中井英夫さんは、耽美的な文体と豊富な知識を駆使し、独特の世界観を構築しています。作中には、薔薇、宝石、占星術、 精神医学など、様々なモチーフが散りばめられ、物語は幻想的な雰囲気を醸し出しています。
また、会話劇を多用することで、登場人物たちの個性や心理を鮮やかに描き出しています。特に、久生と牟礼田の会話は、ウィットに富んでおり、読者を飽きさせません。
感想
複雑な構成や哲学的なテーマに戸惑い、正直、読むのが大変で、一筋縄ではいかない難解な作品という印象ですが…、『ドグラ・マグラ』なんかと比べる断然読みやすいです!
読後には深い感動と衝撃がありましたし、ラストシーンで明かされる真相はなかなか面白かったです。。登場人物たちの個性的なキャラクターや、作者の独特な文体も魅力一つかなと思います。また、作中で語られる様々な知識や情報が物語に深み(厚み)を与えていますね。ミステリーというよりは、文学的な作品として高く評価されそうな作品だとも感じました。
高評価のポイント
- 独特の世界観と耽美的な文体:作者独自の美意識が反映された幻想的で退廃的な世界観が魅力的
- 複雑なプロットと多重構造:複数の事件が絡み合い、真相が二転三転する展開
- 個性的なキャラクター:久生や牟礼田など、魅力的なキャラクターたち!
- 批判的な視点:ミステリーというジャンルを通した人間の本質や社会の問題を深く考察
- 深く考えさせられるテーマ:虚無、存在、大衆心理など、様々なテーマを読み解けます
低評価のポイント
- 難解で理解しにくい部分が多い:複雑な構成や専門用語の多用により読解に苦労する…
- 推理合戦が冗長:登場人物たちの推理が的外れな方向に進むことが多く、物語のテンポを損ない間延びしていると感じるかも…
- 登場人物の言動が不謹慎に感じられる:事件を面白おかしく語る登場人物たちの態度に疑問を抱くかもしれません
- 結末が肩透かしに終わる:期待していたほどの衝撃や感動はないかもしれない
ネタバレ
氷沼家殺人事件(ザ・ヒヌマ・マーダー・ケース)は、氷沼蒼司がいわば犯人で、父の無意味な死に耐えられず、その死に意味を与えるために叔父の橙二郎を殺害しています。しかし、紅司の死は事故であり、玄次は自殺で蒼司の犯行とは無関係でした。つまり、連続殺人だという推理が勘違いだったわけです。また、物語の登場人物たちは、事件を面白おかしく消費する大衆の姿を象徴しており、読者自身もその一部であるというメッセージが込められています。
結末
事件後、蒼司は自首せず、牟礼田とともにパリへと旅立ちます。久生は、事件の真相を小説に書き、探偵小説家としての道を歩み 始めます。ラストシーンでは、読者に対して「この物語をどのように受け止めるか」という問いが投げかけられます。
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