探偵学園Q『キンタ自身の事件』はキュウ以外のQクラスメンバーを主な登場人物としたエピソードで、タイトルの通りキンタが主役になっています。前後両編含め、Qクラスメンバーはキンタとカズマの2人しか登場しません。全2話で、単行本6巻に収録されており、テレビアニメでは第1話として、『目指せ!世界一の名探偵!!』のサブタイトルで2003年4月15日に放送されています(テレビアニメ版は原作第1話と混ざった内容となっており、キュウ、メグ、片桐が登場)。
あらすじ
勤労学生のキンタは日雇いで工事現場のアルバイトをして生活費を工面していた。
ある日の夜、バイト先の工事現場で、作業員の一人がどこかにいってしまった。探そうとしたキンタは、川を挟んだ先にある建設中のマンションに注目することになる。そのマンションの屋上にはクレーンが設置されており、クレーンの先にはサーチライトを手にした人影が手を振っていた。その直後、その人物は突然飛び降りてしまう。
現場へ急いだキンタ達が目にしたのは、姿がみえなかった作業員・中島芳男の遺体だった。
現場周辺の目撃情報から、警察を含めその場にいた人物たちは自殺と考えるが、キンタは現場や遺体、関係者に違和感を感じ、これは殺人事件だと踏んで一人で謎の解明に挑むことになる。
事件について
- 建設途中のマンション
中島が飛び降りたと思われるマンション。桑田をはじめとする周辺住民の反対で工事が滞っているとのこと。建設途中のため階段もエレベーターもなく、屋上への昇り降りは困難を極め、鳶職の木崎でも降りるには10分~15分はかかるとされる。しかし事件現場に集まった目撃者たちは全員飛び降りる瞬間を目撃してから4~5分で姿を見せており、アリバイがある - 腕時計
中島がつけていた高そうな腕時計。昼間はつけていたのに遺体からは発見されなかった - 切符
中島の作業着からキンタが見つけた、東京発網走行の夜行列車の切符。事件の翌日発となっている - セメント袋
工事で使用するセメントの袋。1袋30kg入っている。事件の直前に2袋なくなっていることに篠田が気づく
登場人物
- 中島芳男(なかじま よしお)
CV:中尾隆聖
工事現場の作業員の一人。62歳。面倒見のいいオッサンでキンタに牛丼を奢ったりしている。が、アルコール中毒(正確にはアルコール依存症)らしく、周囲からもそのせいであまり評判がよくない。キンタが探偵の見習いと知ると、身辺調査とかしたりするのかどうかを気にしていた。キンタ達がマンションから何者かが飛び降りるところを目撃した後、その落下地点と思われる場所で遺体となって発見される。作業着からは翌日発の北海道・網走行きの夜行列車の切符が見つかった。また、その日の昼には高級そうな腕時計をしていたが、遺体からはその腕時計が発見されなかった。
アニメ版では路上でキュウとぶつかった際にお札をばら撒いてしまい、その数が合わなかったことからキュウが盗んだと掴みかかるも、メグの瞬間記憶能力とキュウの推理で誤解が解け、お詫びに二人にファミレスでパフェをご馳走した - 篠田等(しのだ ひとし)
CV:古谷徹
工事現場の現場監督。56歳。厳格な性格だが、施主に対しては物凄く腰が低い。キンタと共にクレーンの上にいた人物がサーチライトを振った後飛び降りたところを目撃している。そのため、中島がアル中でヤケを起こして自殺したのだと決めつけていた - 栗原操(くりはら みさお)
設計士。28歳。ショートカットの美人の女性。施主の沢田の婚約者であり、設計士としてはまだ経験不足ながら沢田の父からマンションの設計を任された。また、中島が飛び降りたとされる建設中のマンションも栗原が手掛けたものらしい。飛び降りた人物がサーチライトを空に向けてぐるぐる回していたと証言している - 木崎正雄(きざき まさお)
CV:桐本琢也
元スタントマンの鳶職。28歳。アクション俳優としてデビューが決まった矢先、右足を負傷してしまい引きずるようになってしまった。どうやらそのケガには中島が関わっているらしく、工事現場でも中島によく突っかかる。他の作業員たちと同様、飛び降りた人物がサーチライトを振っていたところを目撃している - 桑田義彦(くわた よしひこ)
工事現場近くに住むフリーライター。28歳。目付きがかなり悪い。工事の騒音がうるさくて眠れないと言って、工事現場の仮囲い板にスプレー缶で落書きをする等の嫌がらせを行っており、事件の日の昼間にそのことで中島に殴られている。その時「親父にも殴られたことないのに・・」と激昂していた。そのせいかアニメ版のキャストにそのセリフの元ネタの中の人がいる。工事の作業員たちと同様、サーチライトを振っていた人物が飛び降りたところを目撃している - 沢田(さわだ)
工事現場の施主で栗原の婚約者。富豪の息子 - 警察官
CV:葛城政典
通報を受けてやってきた二人組の警察官。中島が所持していた翌日の日付の切符を見て一応は捜査一課に指示を仰ぐも、目撃証言や現場の状況から自殺と判断する。しかし、キンタがDDSノートを突きつけたことで殺人事件の可能性を視野に入れて捜査することを決める - 荒井(あらい)
CV:石井康嗣
警視庁捜査一課刑事。アニメ版に登場。事件の捜査を担当する - 遠山金太郎
事件前の中島の雰囲気や、現場や関係者から感じた違和感から、自殺ではなく殺人と考えるが、具体的な根拠を提示できない。このとき「親の顔が見てみたい」と言われたことにカッとなって、先走ってDDSノートを突きつけてしまう。
アニメ版では自転車を漕いでいたところを、飛び降りを目撃したキュウとメグが横切ったのを見てその後を追い、調査に加わるという流れに変更された - 鳴沢数馬
事件の捜査に行き詰まったキンタに電話で叩き起こされ相談を受ける。ろくに手かがりも得ずにDDSノートを持ち出したことに呆れ、「これで解決できなかったら団探偵社の名前に傷をつけてDDSを退学になるかも」と余計なプレッシャーをかける。その後、キンタが話した情報の中で一つだけ気づいたことを伝え、ヒントを与える - キュウ(アニメ版)
原作のキンタと同様に飛び降りを目撃し、中島の遺体を発見。ファミレスで中島が北海道に行くつもりだったことを聞いており、それを荒井刑事に伝えて自殺ではないことを気づかせる。その後は荒井に頼み込んで事件現場の調査を独自に行なった - 美南恵(アニメ版)
キュウが中島に掴みかかられていたところに現れ、瞬間記憶能力でキュウの無実を証明するサポートをする。その後、キュウと共に飛び降りを目撃し、中島の遺体を発見する。一度は警察により帰されるが、キュウは現場の調査をしたいと刑事に食い下がるのを見て後から手伝いをしに戻ってきた - 片桐紫乃(アニメ版)
ある人物の代役として登場 - 遠山金三郎(とおやま きんざぶろう)
キンタの父親で警視庁警視正。58歳。如何にも親子だと分かる顔立ちをしており、やっぱり糸目。『Q対A 延長戦』のエピローグから続く形での登場で、団先生から冥王星が動き出したことを伝えられ、団探偵社・DDSと警察との共闘体制を強めることを決意する。キンタのことを「私の子供たちの中で一番のろくでなしで運と体力だけで生きてきた男」と散々に評しており、団先生に迷惑をかけていないかと心配している
ネタバレ
犯人は栗原操です。栗原は被害者である中島芳男の実の娘でした。
その昔、中島は家族を捨てて蒸発しています。ふたりが一緒に暮らしていた時、父である中島は酒代で生活費を圧迫し、暴力もよく振るっていました。当時、操はまだ高校生だったにも関わらず水商売でバイトをしていましたが、その稼ぎすらもほとんど使い込まれていたようです。そのため、操は中島にひどい憎しみを抱いていました。
そして今回、栗原と中島は10年ぶりに再会していました。変な父がいるとわかれば、名門の息子である沢田との婚約も解消されるかもしれない―――そんな危機感を抱いた栗原は父の殺害を決意します。
キンタ達は、飛び降りを目撃した直後に中島の遺体を発見したため、中島が飛び降り自殺したと考えていました。しかし、実際には中島はそれよりも前に殺されています。キンタ達が目撃したのは操が飛び降りにみせかけて行ったバンジージャンプです。
犯人の操はバンジージャンプの準備を整えた後、中島を事件現場のビルの屋上に呼び出してそこから中島を突き落として殺害しています。その後、工事現場にいる作業員たちに飛び降りを目撃してもらうべくサーチライトで注目を集め、バンジーを実行。ゴムをほどいてそのまま地上に降りれば、現場に駆けつけることができます。
犯人が中島の腕時計を回収したのは、落下時に壊れてしまうと、ほんとうの死亡時刻が明らかになってしまうからです。なお、腕時計は元々は操が沢田から貰ったものなので、中島から返してもらったということになります。
工事現場からセメント袋が消えていたのは、操がバンジージャンプのリハーサルのために人間の重さを想定した重りとするために持ち出していたからでした。
キンタが操を犯人と推理した主な根拠は以下の2つです。
- 操の「サーチライトを空に向かってぐるぐる回していた」という証言。他の目撃者は「人影がサーチライトを横に降ってバイバイしているみたいだった」と証言している。暗闇で空に向けてライトを回していた場合、遠くからみた人には横に降っているようにしかみえないはずである。しかし「ぐるぐる回していた」といえるのは、実際にライトを回していたのが操自身だったからではないか
- 事件の後、操は遠くを見るときや警察の調書を書く際に片目を閉じて見辛そうにしていた。実はバンジージャンプの際に片側のコンタクトレンズをなくしてしまい、そのせいで両目でしっかりものを見ることができなくなっていた。これに気づいたキンタは夜の暗闇の中で必死に現場を調べ周り、操が落としたコンタクトレンズを回収している
結末
中島芳男は最低人間だったわけですが、酒断ちこそできてないものの、既に改心しており、操と親子であることも周囲には秘密にしていました。しかし、過去のあやまちを繰り返すと危惧され、操の手でマンションの屋上から突き落とされて死亡してしまいます。
キンタは中島が身辺調査のことを気にしていたことから、中島は沢田が操の身辺調査を依頼して自分と操の親子関係がバレるのを恐れていたのではないかと推測します。さらに網走行きの切符は操の幸せの妨げにならぬよう、再び姿を消すつもりで買っていたのではないかとも語っています。この話を聞いた操は父の気遣いに気づけなかったことを悔やみ涙を流します。
なお警察にDDSノートを突きつけたキンタは、事件を解決し、翌日、団先生からも賞賛の言葉を送られます。しかし、「結果に免じて先走った行動を取ったことは大目に見ておこう」と釘を刺されることになります。
アニメについて
アニメ版では犯人が変更され、「栗原操」は潜入捜査をしていた片桐紫乃が名乗っていた偽名という設定になっています。アニメ版の真犯人は篠田等です。篠田は現場監督の立場を利用して手抜き工事を行い、浮いた費用を着服していました。このことを中島がオーナーに密告したため、逆恨みで中島を殺害しています。キュウに謎を暴かれて逃亡しますが、片桐によって取り押さえられ、警察に引き渡されます。
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