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穢れた聖地巡礼について【ネタバレ徹底解説・考察】

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背筋さんのホラー小説『穢れた聖地巡礼について』は、一読ではその全貌を掴みきれないほど緻密に構成された作品であり、 多くの読者がその奥深さに魅了され、考察を深めています。この作品の魅力や山場、そして隠されたオチについて解説します。

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あらすじ

『穢れた聖地巡礼』では、心霊スポットに突撃するYouTuber・チャンイケ(池田)、フリー編集者の小林、そして霊感を持つ怪談ライターの宝条達が、自身のチャンネルのファンブックを制作する過程が描かれています。彼らは、再生数の多い動画に登場する「変態小屋」「天国病院」「輪廻ラブホ」といった心霊スポットを再調査し、読者が喜びそうな考察をでっち上げていきます。しかし、その過程で、彼ら自身が怪異に巻き込まれていくことになります。

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ネタバレ

主人公のチャンイケは、大学時代に好きだった鈴木優子にからっぽと言われたことを逆恨みし、「カナエさん(こっくりさんのような呪い)」で彼女を呪います。その後、鈴木優子がひき逃げで死亡したニュースを知り、自分が呪い殺したと思い込むことになります。実は、その恐怖から心霊YouTuberとなっていたわけですが、その鈴木優子が、実は生きていたことを知って安堵することになります。

しかし、物語の最後のシーンで、チャンイケにかかってきた電話の相手は、女性の声で「あなたの番」と告げます。この「あなたの番」という言葉は、敬一の元カノ(トラックに轢かれて死んだ同姓同名の鈴木優子)が風船男となり、チャンイケに「次はあなたが優子を呪い殺す番だ」と仕向けている可能性が高いです。敬一の元カノもまた、敬一に呪い殺された(愛に飢えた敬一が彼女の家族を奪おうとした)ため、六部殺しの輪廻に組み込まれています。つまり、池田は優子が生きていると知ったことで、彼女への憎しみを再燃させ、「あなたの番」という言葉によって、新たな呪いのサイクルに巻き込まれることが示唆され、物語は不穏な余韻を残して幕を閉じます。呪いの連鎖は終わらず、むしろ読者を含む新たな巡礼者へと広がっていく可能性を示唆して物語は幕を閉じるわけです。

考察

  • 二人の「鈴木優子」
    チャンイケが呪い殺したと思い込んでいた鈴木優子と、実際にひき逃げで亡くなった同姓同名の鈴木優子さんが存在します。そして、敬一の元カノ(トラックに轢かれて死んだ女性)が、この同姓同名の鈴木優子さんである可能性が高いです
  • 「泥団子」の伏線
    敬一の元カノがトラックに轢かれた際に泥団子をこねる描写があります。また、チャンイケの同級生である優子が美大の彫刻科で「粘土」をこねて人間を作る描写もあります。これは、敬一の元カノの魂が、チャンイケの同級生である優子に乗り移ったことを示唆する伏線だと解釈できます
  • 呪いの輪廻への巻き込み
    チャンイケは優子が生きていると知って安心しますが、その直後に「あんなやつ、死ねばいいのに」と優子への憎悪を露わにします。この憎悪こそが、風船男となった敬一の元カノ(=乗り移った優子)がチャンイケに「あなたの番」と告げるきっかけとなり、彼を新たな呪いの連鎖に引きずり込むことを暗示しています。つまり、チャンイケは呪いから解放されたのではなく、むしろ新たな呪いの担い手として、その輪廻に組み込まれてしまったのです

この作品の怖さは、幽霊が直接的に襲ってくるような分かりやすい恐怖だけでなく、じわじわと精神を蝕むような不穏さや、人間の内面に潜む業にあります。

  • 「六部殺し」の民話
    物語全体に通底するテーマとして、日本の古い民話「六部殺し」が挙げられます。これは、旅の僧侶(六部)を殺して財を奪った者が、その六部の生まれ変わりである自分の子に「こんな晩だったなあ、お前が俺を殺したのは」と告げられるという話です。作中の心霊スポットにまつわるエピソードの多くが、この「奪う→死ぬ→生まれ変わる(あるいは乗り移る)」というパターンに当てはまります
  • 輪廻転生と乗り移り
    各心霊スポットのエピソードでは、呪いによって死んだ者が、呪った者の子として生まれ変わったり、誰かに乗り移る現象が描かれます。特に「天国病院」のナースの話は、死んだ者が生まれ変わるのではなく、生きている者に乗り移るという点で、六部殺しのパターンに新たな解釈を加えています
  • 「風船男」の存在
    作中にたびたび登場する「頭の大きな人型をした怪異」は〈風船男〉と呼ばれます。、風船男は呪いによって殺された人間が生まれ変わるまでの間、さまよう姿だと示唆されます。彼らは、憎しみに囚われた人間を見つけ、呪いの方法を教えることで、輪廻の連鎖を続けさせようとします。本のカバー裏に描かれた風船男が読者を見ているように見える演出も、読者自身がこの呪いの輪に巻き込まれる可能性を示唆しており、読後にも不気味な余韻を残します
  • 人間の業と「ヒトコワ」
    チャンイケ、小林、宝条の主要人物3人それぞれが、過去に「人を死に追いやった」という「業」を抱えています。彼らの利己的な動機や、他者を陥れようとする思惑が描かれることで、「幽霊よりも人間が怖い」というヒトコワの要素が強く感じられます
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感想

『穢れた聖地巡礼』は、一読しただけでは全ての謎や伏線に気づきにくい構成になっていると思います。しかし、考察を深めることで、物語の奥深さや恐怖がじわじわと増していく点が大きな魅力です。前作『近畿地方のある場所について』がモキュメンタリー形式で直接的な不気味さを追求したのに対し、今作はより小説的な語り口で、人間の心理や業に深く切り込んでいます。

日本の民話「六部殺し」を現代に再構築し、人間の憎しみや業が引き起こす「呪いの輪廻」を描いた作品ということで、緻密な伏線と心理描写が織りなす物語が魅力的です。どんでん返しや直接的な恐怖を求めるだけでなく、物語の背景にあるテーマや人間の本質に迫るホラーを読みたい方には、オススメできそうな一冊です。

項目 評価
【読みやすさ】
スラスラ読める!?
【万人受け】
誰が読んでも面白い!?
【キャラの魅力】
登場人物にひかれる!?
【テーマ】
社会問題などのテーマは?
【飽きさせない工夫】
一気読みできる!?
【ミステリーの面白さ】
トリックとか意外性は!?

高評価のポイント

  • 読みやすさ
    会話文が多いため、スラスラとテンポ良く読める
  • 巧妙な構成
    複数のエピソードが最終的に一つの大きなテーマに収束していく構成。伏線回収の巧みさに驚きと満足感あり!
  • リアルな描写
    心霊スポットの描写が非常に現実的で、その場にいるかのような没入感を味わえる
  • 「ヒトコワ」要素
    幽霊の恐怖だけでなく、人間の欲、嫉妬、罪悪感といった負の感情が引き起こす心理的な怖さが深く描かれています
  • 考察の楽しさ
    物語の謎が完全に解き明かされないため、読者が自ら考察し、他の読者と意見を交わすことで、読書体験がより深まります
  • キャラクターの魅力
    主要な登場人物3人の個性が際立っており、彼らの複雑な関係性や内面の変化が物語を豊かにしています
  • 斬新な試み
    前作とは異なる小説形式や、YouTubeという現代的な題材の取り入れ方が良い!
  • 装丁の工夫
    巻頭の心霊スポットの写真や、カバーを外した時の仕掛けなど、本としての演出も凝っている

低評価のポイント

  • 理解の難しさ
    一度読んだだけでは物語の全体像や伏線の繋がりを把握しにくい…
  • 怖さの物足りなさ
    前作『近畿地方のある場所について』と比較して、直接的な恐怖や衝撃が薄いかもしれません。じわじわくる怖さが好みでない場合、物足りなさを感じるかも
  • 結末の曖昧さ
    物語が明確な解決を示さず、不穏な余韻を残して終わるため、スッキリしない、モヤモヤするかもしれません
  • 登場人物への共感の難しさ
    主要人物たちの利己的な側面や、共感しにくい言動に不快感を覚える場合もある
  • 描写の偏り
    会話文が多いため、情景描写が少なく、物語の世界観に入り込みにくい
  • 既視感
    一部の怪談や都市伝説の要素に既視感を覚えそう

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