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科捜研の砦|ネタバレ徹底解説・あらすじ・感想【岩井圭也】

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科捜研の砦』は、岩井圭也さんによる科学捜査ミステリーの連作短編集です。2022年に刊行された『最後の鑑定人(ネタバレ徹底解説・あらすじ・感想)』の主人公・土門誠が、まだ警視庁科捜研に勤務していた30代の頃の物語が描かれています。本作では、土門の過去や、後に彼の元妻となる尾藤宏香との出会い、そして〈最後の鑑定人〉となる決定的な出来事が綴られています。この記事では、あらすじと登場人物、ネタバレ、感想などをまとめています。

項目 評価
【読みやすさ】
スラスラ読める!?
【万人受け】
誰が読んでも面白い!?
【キャラの魅力】
登場人物にひかれる!?
【テーマ】
社会問題などのテーマは?
【飽きさせない工夫】
一気読みできる!?
【ミステリーの面白さ】
トリックとか意外性は!?
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あらすじ

警視庁科学捜査研究所(科捜研)の技官・土門誠は、「科学は嘘をつかない。嘘をつくのは、いつだって人間だ」という信念のもと、どんな些細な証拠も見逃さず、科学の力で事件の真相を追求する男である。その卓越した鑑定技術と幅広い知識、そして一切の愛想を排した言動から、彼は科捜研副所長・加賀正之と共に「科捜研の最後の砦」と呼ばれていた。そんな土門が関わった4つの事件。これらの事件を通して、土門の人間性が徐々に明らかになり、彼が〈最後の鑑定人〉へと至るまでの道のりが描かれる。

  • 罪の花
    山中にバラバラに埋められた白骨遺体の鑑定依頼が、科学警察研究所(科警研)の尾藤宏香のもとに持ち込まれる。現場検証で土門と出会った尾藤は、彼の導き出す衝撃的な仮説に驚愕する
  • 路側帯の亡霊
    深夜に発生した飲酒運転による死亡事故。加害者とされる大学生の遺体は、事故とは別の衝撃によって亡くなっていた。土門はガードレールの微細な痕跡や車両の破損から、事故の裏に隠された真実と、関係者たちの歪んだ関係性を暴き出す
  • 見えない毒
    死因不明の遺体の鑑定のため、土門は共同研究先の大学を訪れ、大学講師の菅野真衣に協力を依頼する。調査を進める中で、粉末に含まれる毒性成分と、菅野の論文捏造という科学への裏切りが明らかになる
  • 神は殺さない
    火災現場から発見された遺体の死因に疑問を抱いた土門は、尊敬する上司・加賀副所長が鑑定に難色を示すことに直面する。土門は、加賀が個人的な動機で真実を隠蔽しようとしていることを突き止め、科学者としての信念と、師への信頼の間で苦悩する

小説の特徴

4つの独立した事件を扱う連作短編集形式です。異なる人物(科警研の尾藤、交通捜査課の刑事、大学講師など)の視点で各物語は語られ、土門誠という人物像が多角的に描かれています。時系列は『最後の鑑定人』よりも過去に遡り、土門の若き日や人間関係の形成過程が描かれます。

  • 主に警視庁科学捜査研究所(科捜研)と科学警察研究所(科警研)が舞台
    (科捜研は都道府県警察本部に属し、現場の鑑定を担う。科警研は警察庁の付属機関で、より研究・開発に重きを置く。この組織間の違いや連携も物語に影響を与える)
  • 専門的な科学捜査の描写が緻密で、読者に知的な面白さを提供する
  • 淡々とした筆致ながらも、登場人物の心理描写が深く、人間ドラマとしての読み応えがある
  • ミステリーとしての謎解きだけでなく、事件の背景にある人間の業や悲しさが描かれ、読後に切ない余韻を残す
  • 科学の絶対性 vs. 人間の嘘と感情
    「科学は嘘をつかない。嘘をつくのは、いつだって人間だ 」という土門の信条が物語の根幹をなす
  • 真実の追求と代償
    科学が暴き出す真実が、時に残酷な現実や人間関係の破綻をもたらす
  • 信念と倫理
    科学者としての倫理観と、個人的な感情や組織の論理との葛藤
  • 人間性の探求
    一見冷徹な土門の内面に秘められた人間的な苦悩や情熱

登場人物

  • 土門誠(どもん まこと)
    警視庁科捜研の技官。本作の主人公。「科学は嘘をつかない。嘘をつくのは、いつだって人間だ」を信条とする。無愛想で感情を表に出さない人物だが、卓越した鑑定技術と知識を持つ「科捜研の最後の砦」と呼ばれる。父の死因不明の過去が、科学を信じる原点となっている。時には私情を挟んだり、人間の悩み事を解決したりと、人間臭い一面も持ち合わせる
  • 尾藤宏香(びとう ひろか)
    科学警察研究所(科警研)の研究者。土門の元妻(本作で出会いから結婚までが描かれる)。土門と同様に科学への深い探求心を持つが、彼とは異なるアプローチで科学と向き合う。土門の人間性を引き出す存在でもあり、最終話では彼と協力して重要な鑑定法を開発する
  • 加賀正之(かが まさゆき)
    警視庁科捜研副所長。土門の師であり、彼が最も尊敬する上司。 「鑑識の神様」と称され、土門と共に「科捜研の最後の砦」と呼ばれる
  • 三浦(みうら)
    交通捜査課の刑事。第2話「路側帯の亡霊」に登場。当初は土門の科学的アプローチに戸惑い反発するが、彼の真摯な姿勢と能力を目の当たりにし、次第に信頼を寄せるようになる。後の『最後の鑑定人』にも登場するキャラクター
  • 菅野真衣(すがの まい)
    東洋工業大学の大学講師。第3話「見えない毒」に登場。研究者としてのプレッシャーから論文捏造という過ちを犯してしまうが、土門との関わりを通して自身の科学者としての倫理観と向き合い、再生の道を歩む。後の『最後の鑑定人』にも登場するキャラクター
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感想

私は最初に『最後の鑑定人』を読みました。本作『科捜研の砦』では、土門誠というキャラクターの過去、特に元妻である宏香さんとの馴れ初めが描かれており、読み進めて「なるほど、こういうことだったのか」と納得させられました。

土門さんの冷徹な科学者としての姿は健在ですが、その裏に秘められた人間的な苦悩や、科学への揺るぎない信念が形成されていく過程が丁寧に描かれていて、彼の人物像に一層の深みを感じました。特に、宏香さんとの出会いから結婚に至るまでの描写は、恋愛というよりは「科学への真摯な思い」で結ばれた二人の同志としての絆が強く感じられ、非常に興味深かったです。

そして、物語のクライマックスである最終話「神は殺さない」は、本当に胸が締め付けられるような展開でした。土門さんが最も信頼し、師と仰いでいた加賀副所長に、まさかあのような形で裏切られるとは…。科学が暴き出す真実が、時にこれほどまでに残酷なものかと、読者である私自身も大きなダメージを受けました。そのダメージを宏香さんと共有し、共に乗り越えようとする二人の姿は、不器用ながらも強い絆を感じさせます。

この作品を読むことで、『最後の鑑定人』での土門さんの行動原理や、彼がなぜ民間の鑑定人となったのかが明確になり、シリーズ全体への理解が格段に深まりました。科学捜査の面白さだけでなく、人間の感情や倫理に深く切り込む岩井圭也さんの作風が存分に発揮された一冊だと思います。

  • 『最後の鑑定人』以前の土門の過去や、宏香との馴れ初めが描かれ、キャラクターに深みが増す
  • 科学捜査の描写が専門的かつ緻密で、非常に読み応えがある
  • 土門の人間的な側面や感情の機微が垣間見え、共感を呼ぶ
  • 各話の事件が独立しながらも、登場人物が繋がり、物語全体に統一感がある
  • 「科学は嘘をつかない」という信念が貫かれ、読者に強い印象を与える
  • 最終話の展開が衝撃的で、土門が「最後の鑑定人」となる経緯が納得できる
  • 読後感が深く、シリーズの続編や映像化への期待が高まる

低評価なポイント

  • 土門以外の警察関係者は、力量を下げて土門を有能に見せている感じがある
  • 特定の事件の捜査過程において、現場での確認不足や、犯人の行動に不自然さを感じる
  • 土門と宏香の恋愛描写が少なく、結婚に至るまでの経緯が唐突に感じられる
  • 最終話の結末を「切ない」「やりきれない」と感じてしまい後味は悪さが印象に残る場合もある
  • 科捜研、科警研、鑑識、解剖医などの組織や役割の区別がつきにくい
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ネタバレ

各話のネタバレを簡単にまとめます。

  • 第1話「罪の花」
    山中に複数の場所に分けて埋められた白骨遺体の鑑定依頼が、科警研の尾藤宏香のもとに持ち込まれる。現場検証で科捜研の土門誠と出会う
  • 【犯人】被害者の妻(娘の母親)
    • 【動機】夫(被害者)が娘に性的虐待をしていたため、娘を守るために殺害
    • 土門はバラバラの埋葬箇所や骨の状態から、母親が娘を守るために父親を殺害したという仮説を立てる。現場に残された希少な花弁から埋葬場所を特定し、ポリグラフ法を用いて犯人を追い詰める。母親が罪を認め、事件の真相が明らかになる。この事件が土門と尾藤の出会いのきっかけとなる
  • 第2話「路側帯の亡霊」
    深夜の飲酒運転による交通事故で、大学生が車外に投げ出され死亡した事件
    • 【犯人】事故を起こした大学生の友人(共犯者)
    • 【動機】泥酔した運転手が事故を起こし、その責任を逃れるため、共犯者が運転手を車外に投げ落 とし、事故死に見せかけようとした
    • 土門はガードレールの微細な痕跡や遺体の位置関係から、単なる事故ではなく「車外から投げ落とされた可能性」を導き出す。科学的証拠によって、友人たちの「沈黙によって守られた嘘」を暴く
  • 第3話「見えない毒」
    過労死を疑われる会社員の血液分析のため、土門が東洋工業大学の菅野真衣講師に協力を依頼する
    • 【犯人】大学講師・菅野真衣(論文捏造)。会社員の死因は過労死であり、殺人事件ではない
    • 【動機】研究成果を焦り、研究費獲得のためにデータを捏造した
    • 土門が粉末に含まれる毒性成分の解析を通じて、菅野の論文捏造の事実を明らかにする。菅野の不正が露見し、土門は科学者としての倫理を問い直す。このエピソードの間に土門と尾藤が結婚したことが示唆される
  • 第4話「神は殺さない」
    火災現場で発見された遺体の死因に土門が違和感を覚える。この事件には、土門が尊敬する加賀副所長が深く関わっていた
    • 【犯人】加賀正之副所長
    • 【動機】6年前に娘を過失運転致死で殺害した男への復讐
    • 土門は遺体に残された鮮紅色の死斑から、火災前に既に死亡していたことを突き止める。さらに、土門と尾藤が共同で新しい鑑定法を開発し、電流斑の痕跡から殺害方法(感電死)を立証する

結末

最終話「神は殺さない」で、土門が最も尊敬し、共に科捜研の砦と呼ばれた加賀副所長が、自身の娘をひき逃げで殺害した犯人への復讐のために、その犯人の死因を偽装しようとしていたことが明らかになります。
土門は、科学者としての信念と、師への深い信頼の間で激しく葛藤します。しかし、「科学は嘘をつかない」という自身の信条を貫き、加賀の不正を告発する道を選びます。この告発により、加賀は逮捕され、土門自身も刑事総務課への左遷という形で科捜研を去ることになります。

この事件は、土門が警察組織を離れ、民間の「最後の鑑定人」として活動するきっかけとなった決定的な出来事となります。また、この事件の鑑定法開発には、当時妻であった尾藤宏香も協力しており、二人の科学者としての絆の深さと、その後の関係性の変化(『最後の鑑定人』で元妻となっていること)を示唆する結末となっています。

次にオススメの推理小説

  • 『最後の鑑定人』(岩井圭也)
    本作の続編といえる作品(刊行順は『最後の鑑定人』の方が先です)であり、土門誠が民間の鑑定人として活躍する姿が描かれています
  • 『能面検事』(中山七里)
    感情を表に出さない主人公が科学的根拠に基づいて事件を解決していく点で、土門誠と共通する魅力があります。警察組織の闇に切り込む点も似ています
  • 『検屍官シリーズ』(パトリシア・コーンウェル)
    法医学をテーマにした海外ミステリーの古典。検屍官ケイ・スカーペッタが、遺体に残された科学的証拠から事件の真相に迫る過程が詳細に描かれています。

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