誤認誘拐という衝撃的な事件から始まる本作は、複雑な人間関係と巧妙なトリックによって翻弄されまくる、まさに『悲劇』と呼ぶに相応しい作品です!どんでん返しの連続、最後まで目が離せない展開、ラストの衝撃、タイトルの意味が明らかになった時の余韻などなど、忘れがたい読書体験になるはずです――。
あらすじ
広告代理店勤務の山倉史朗の元に、息子・隆史が誘拐されたとの連絡が入る――が隆史は自宅で寝ていた。
誘拐されたのは近所の同級生・冨沢茂。身代金の受け渡しに失敗した山倉は茂の遺体を発見することになる。捜査線上に浮上したのは、茂の父親である冨沢耕一。だが、耕一には法月綸太郎という名探偵と共に行動していたという鉄壁のアリバイがあった!
事件は、誤認誘拐から始まり、次々と新たな事実が明らかになる。複雑な人間関係、そして隠された真実。山倉自身の過去も絡み合い、事件は泥沼へと突き進んでいく。果たして、誰が茂を誘拐し殺害したのか?法月綸太郎は、この難事件を解決できるのか?
感想
全体的におもしろく、特に複雑なプロット、緻密な心理描写、意外な展開、そして読みやすい文体が高評価ポイントです。しかし、主人公への共感のしにくさ、一部の無理のある設定、悲劇的な結末などが評価をわかれどころだと思います。
構成とプロットについて
高評価点
物語の構成とプロットの巧妙さが素晴らしいです!まさに「どんでん返し」「二転三転する展開」といった感じです。読者を飽きさせない工夫が凝らされていますね。
誤認誘拐という着想も新鮮ですし、身代金受け渡しの失敗から始まる構成や誘拐事件後の展開も予想外でスリリング(複雑な人間関係が緻密に絡み合い、謎が謎を呼ぶ展開)です。
低評価点
どんでん返しが多すぎです。お腹いっぱいになります。やりすぎて、こじつけに感じる危険性もはらんでます。結末が悲劇的な点や、ミステリーとしての爽快感に欠けるという印象もあります。タイトルの意味が分かりにくい、警察の捜査が杜撰なども感じられるかもしれません。
登場人物と心理描写
高評価点
登場人物の人間関係の複雑さが物語の深みを与えています。登場人物たちの心理描写が深くて、リアルです。
低評価点
主人公が自己中心的で共感できない、あるいは好感が持てないですね…。彼の言動に苛立ちを感じる人もいそうです。女性キャラクターの描写がステレオタイプで、理解不能な存在にも思えます。
推理と謎解き
高評価点
ミステリー要素には大満足です。予想外の犯人やトリック、論理的で納得感のある推理など、高評価ポイントだと思います。
低評価点
ミステリー要素に関しては批判的な感想もあると思います。推理のプロセスが分かりにくい、無理やりな部分がある、犯人当ては容易だった、犯人像が二転三転するのでスッキリしない、などなど、少数派だと思いますが、そういった感想もありそうです。
あとは「一の悲劇」の「一」の意味が、こじつけに感じられるというのもありそうですね…。
その他
- 昭和時代の雰囲気を色濃く残す描写がある。携帯電話やインターネットが登場しないので時代を感じさせる
- 作者が作品中に登場する点について肯定的な意見と否定的な意見にわかれそう
- 『頼子のために』とつながってる?
ネタバレ注意
誘拐事件の裏には、山倉と冨沢路子(茂の母親)の間に生まれた不倫の子という隠された事実があります。路子は、山倉の妻・和美の姉で和美は過去に流産していました。和美は路子への復讐と、自分の子を奪われた怒りから、茂を殺害します。
和美は身代金受け渡しを装い、茂を殺害、遺体を移動させる計画を立てていました。耕一が犯人と思われたのは、和美が事前に計画的に彼を犯人に仕立て上げたからです。
和美は事件の真相を記したダイイングメッセージを残して自殺します。「一の悲劇」の「一」とは、和美が殺害現場に残したダイイングメッセージ「閂」の「一」を指す。「閂(かんぬき)」は門に掛けられる鍵であり、和美は自分自身と、事件に関わった人々すべてを閉ざされた悲劇に閉じ込めたというようなことだと思います。
まとめ
巧みなプロットと心理描写で読者を惹きつける本格ミステリーという感じの作品ですが…、主人公への共感度や、一部の設定の無理くりさ、そして悲劇的な結末が評価を分ける要因になっていると思います。読者層としては、どんでん返しの連続や複雑な人間関係を楽しむミステリー上級者に向いているといえますね。
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