Youtube ミステリーチャンネル【りさま屋】
国内小説

ガラスの城|あらすじ・ネタバレ解説・感想【松本清張】

この記事は約5分で読めます。
記事内に広告が表示されます

松本清張の長編推理小説『ガラスの城』は、大手商社を舞台に繰り広げられる人間模様と殺人事件の謎を描いた作品です 。本作は、その独特な語り口と緻密な心理描写で多くの読者を魅了し映像化もされています。この記事では、あらすじ、登場人物、ネタバレ、感想などをまとめています。

スポンサーリンク

あらすじ

都心の高層ビルにオフィスを構える一流企業「東亜製鋼株式会社東京支社」。毎年恒例の慰安旅行で伊豆の修善寺を訪れた社員たちは、夜の宴会を終え、それぞれの部屋で就寝したはずだった――。

翌朝、営業部課長の杉岡久一郎が姿を消してしまう。連絡も取れず、自宅にも帰っていなかった。失踪から5日後に捜索願が出されるが、杉岡は修善寺近くの道路工事現場で無残な遺体となって発見されてしまう。
死因は絞殺だった。遺体の手と首が切り離されており、耳の下の頸部には割れた外灯グローブのガラスによる傷跡があった。

杉岡の失踪前夜、OLの三上田鶴子は宴会の後、暗がりで杉岡と女性社員が抱擁している姿を目撃。事件の真相を突き止めるべく独自に調査を開始し、その過程を手記にまとめる。
時を同じくして、同じ会社のタイピストである的場郁子もまた、独自の視点から事件を追っていた。

そんな中、杉岡の死後、販売部次長である富崎弥介の妻が山梨の実家で急死するという新たな悲劇が起きる。
そして、三上田鶴子もまた、ある人物を訪ねると手記に記したのを最後に忽然と姿を消してしまう。三上の手記を引き継いだ的場郁子は、残された情報と自身の推理を頼りに、事件の深層へと迫っていく。

登場人物

原作小説における主要な登場人物と、2024年版ドラマのキャストを併記します(ドラマ版では一部キャラクターの役職や設定、刑事の登場が原作と異なります)。

登場人物名
(原作)
説明 ドラマキャスト
(2024年版)
三上田鶴子 東亜製鋼のOL(販売部管理係)
入社6年目。第一部の語り手
木村佳乃
的場郁子 販売部のタイピスト
入社20年のお局的存在。第二部の語り手
波瑠
杉岡久一郎 販売部課長(ドラマでは部長)
T大卒のエリートで女性にモテる
丸山智己
富崎弥介 販売部次長
杉岡課長の側近
塚本高史
野村俊一 販売部次長
地味な存在
武田真治
鈴木信子 販売部管理係
T塾大卒の美人
蓮佛美沙子
橋本啓子 販売部計算係
派手な容姿
川島海荷
浅野由理子 販売部計算係
新人
仁村紗和
田口欣作 社員のひとり
庶務主任
内野謙太
和島好子 社員のひとり
庶務課
野呂佳代
林田徳右衛門 林田花壇を営む造園師
富崎玲子の叔父
遠山俊也
倉田文則 静岡県警の刑事 髙嶋政伸
佐原壮馬 静岡県警の刑事
(倉田の後輩)
満島真之介
スポンサーリンク

ネタバレ

杉岡課長を殺害した犯人は販売部次長の野村俊一でした。動機は、杉岡に対する積年の恨みです。

  • 過去の因縁
    高校時代、杉岡は野村の当時のガールフレンドを奪い、その女性は後に自ら命を絶っています…
  • 職場の確執
    会社に入ってからも、杉岡は野村を蹴落とし、自身の出世のために利用していました
  • 決定打
    杉岡が同僚である富崎の妻にまで手を出していたことを知り、野村は殺害を決意します

野村は三上田鶴子と恋仲にありましたが、彼女の愛情を負担に感じていました。三上を利用して富崎に疑念を抱かせるような虚偽の手記を書かせ、用済みとなった三上も殺害しました。これは、死者が書いた手記は真実であるという人々の先入観を巧みに利用した、野村の計算されたトリックでした。

トリック

野村の緻密な犯行計画は以下の通りです。

  1. 誘い出し
    慰安旅行中、野村は愛人関係にあった三上田鶴子に指示し、杉岡に「富崎次長が自分の妻と課長の関係に感づき、今夜乗り込むらしい」と伝えます。動転した杉岡は、富崎の妻との逢引き場所である湯河原ではなく、東京へ引き返すことを決意し、野村が手配したトラックに乗り込みます
  2. 殺害場所への移動
    トラックの運転手は、野村の弟(造園家)でした。彼は車中で杉岡にクロロホルムを嗅がせ、東京深大寺にある自身の養樹園へと運びます
  3. 殺害と遺体処理
    養樹園で野村兄弟は杉岡を殺害。遺体はバラバラにされ、巨木の根っこの土の中に隠されました。この際、養樹園の土(奥秩父の土)が遺体に付着しました
  4. 遺体遺棄
    杉岡の遺体は、再びトラックで修善寺と伊東間の道路工事現場に運ばれ、埋められました。これは、杉岡が修善寺で殺害されたと見せかけるため、そして富崎に疑いを向けるための偽装でした
  5. 偽装工作
    工事現場にあった割れた外灯グローブの破片は、偶然見つけたものですが、野村の弟が回収し、杉岡を傷つける際に使用しました。これにより、工事現場が殺害現場であるかのように偽装しました

なお、遺体に付着した奥秩父の土が、杉岡が東京で殺害された証拠となり、野村の弟が造園業を営んでいることと結びついています。

スポンサーリンク

2024年版ドラマについて

2024年にテレビ朝日開局65周年記念ドラマとして放送された『ガラスの城』は、原作の持つ社会派ミステリーとしての骨格は保ちつつ、キャラクターの設定変更や、現代的な要素の追加など、いくつか改変されています。

ドラマでは、原作の地味な設定とは異なり、木村佳乃さん演じる三上田鶴子がバリバリのキャリアウーマンとして描かれ、波瑠さん演じる的場郁子も休日は華やかに着飾るという人物に変わっています。これにより、二人の女性の対比がより鮮明になっています。また、ドラマオリジナルの刑事キャラクター(満島真之介、高嶋政伸)の登場も、物語に新たな視点と緊張感をもたらしています。

感想と考察

『ガラスの城』は、松本清張作品の中でも特にそのユニークな語り口が際立つミステリーです。そして第一部で三上田鶴子の手記によって読者をミスリードし、第二部で的場郁子の視点から真実が明らかになるという構成が面白いです。

原作では、女性の容姿や社会的な立場が細かく描写され、当時の男女差別や女性の悲哀が色濃く反映されています。また、男性社員たちの熾烈な出世争いや駆け引きも生々しく描かれ、企業という〈ガラスの城〉の中で渦巻く欲望がリアルに表現されています。的場郁子が、自身も容姿にコンプレックスを抱えながらも、三上の心情を理解し、事件の真相にたどり着く過程は、彼女の人間的な成長と洞察力の深さを示しています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました