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D坂の殺人事件|あらすじ・ネタバレ解説・感想・面白さ

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 「D坂の殺人事件」は江戸川乱歩(えどがわ・らんぽ)氏の短編推理小説で、明智小五郎の初登場作品です。この記事では、あらすじと真相、感想などを紹介しています。

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あらすじ

 主人公の“私”は喫茶店から向かいの古本屋を眺めていた。古本屋には美人の奥さんがいるのだが、体には傷や痣があると知られていた。それはどうやら二つ隣の蕎麦屋の奥さんも同じらしいのだが、その理由までは、誰もわからなかった。

 しばらくすると、若き書生の明智小五郎が棒縞の着物姿で喫茶店にやって来た。私は彼と雑談をしながらも、ずっと古本屋を気にしていた。本泥棒をみかけたのはもう既に四人目だった。奥さんが店番をしていないのかどうかわからないが、盗み放題になっているらしい。気になった私は明智とともに古本屋へと足を運んだ。

 店内には誰もいないようだった。勝手ながら、奥の座敷を覗いてみると、暗くてよく見えなかったのだが、明智が照明のスイッチを入れたので、そこに女性の死体が横たわっていることに気付いた。古本屋の奥さんだった。私たちはすぐに警察を呼ぶことにした。

 奥さんは首を絞められて殺されており、抵抗した様子はなかった。古本屋は長屋の真ん中にあって、隣に時計屋と菓子屋、反対側には足袋屋と蕎麦屋が並んでいるのだが、不審な声や物音を聞いた住民はいなかった。なお、被害者の夫である古本屋の店主は夜市のために外出中だった。

 事件が発覚する前、古本屋に二人の学生が訪れており、この二人は座敷にいた不審人物を目撃していた。ただ、ちらりと見ただけなので、その人物が誰だったのかまでははっきりしなかった。さらに、二人の証言も食い違っていた。一人は黒い着物、もう一人は白い着物だったと話したのだった。

 怪しい人物がいたのは間違いないのだが、それが誰なのかはもちろん、動機はおろか、どうやって逃げたのかすらもわかっていなかった。というのも、古本屋の表は私がみていたし、裏口から逃げたとしても路上で商売していたアイスクリーム屋に目撃されてしまう。屋根を伝ってというのも不可能で、あの時は菓子屋の店主が二階からの経路を見張っているような状況だった。もちろん、私もアイスクリーム屋も菓子屋も不審な人物はみていない。それはまさに、衆人環視による密室といえるような状況に違いなかった。

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ネタバレ

事件が起きてから十日後。私は知り合いの記者から捜査状況を聞き、自分でも捜査を進めてある結論に達していた。それは、明智小五郎が犯人に違いないというものだった。

明智と古本屋の奥さんは実は幼馴染だった。二人の学生がみたのは、明智が着ていた棒縞の柄に違いない。照明のスイッチには明智の指紋しか残っていなかったということなので、それもまた怪しい。おそらく、犯行時に不意に触れてしまったにちがいない。だから犯人は指紋を隠すために、あえて第一発見者になった。

誰にも見られずに古本屋に出入りする方法もある。それは単に蕎麦屋の裏口から古本屋の裏口へ移動しただけのことで、明智は蕎麦屋の客として厠を借り、厠に入るふりをして裏口から出入りしたのである。蕎麦屋の店主は事件があった時、厠を借りた人物がいたと証言している。

真相

私の推理に耳を傾けていた明智はゲラゲラと笑い出した。そして、明智は別の推理を語り始める。

犯人は蕎麦屋の店主で、彼はサドだった。被害者の奥さんはマゾで、二人は性癖の相性が非常によかった。そして、行為の最中に蕎麦屋は奥さんを殺してしまった。どうやら奥さんは死を望んでいたらしい。そのため、争った様子はなかった。

学生の目撃証言は記憶違いであるし、照明は使われていなかったからスイッチに主人や奥さんの指紋が残っていなかったに過ぎない。使われていなかった理由は電球が切れていたからで、死体発見時は、たまたま点いただけである。蕎麦屋の店主は厠を借りた人物がいたと話しているが、これは嘘である。犯人の店主は罪から逃れるために嘘をついていた。

結末

明智小五郎と私は蕎麦屋の店主が自首したということを新聞で知る。犯人が蕎麦屋であることは間違いなさそうだった。

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感想(面白さについて)

犯人と被害者は殺したいほどのサド(ドS)と死にたいほどのマゾ(ドM)だったというのが面白いです。真面目に受け取るべきか、それとも笑うべきなのかわかりかねますが、私は笑ってしまいました。発表は今から100年ほど前の1925年で、当時ドMやドSというネタはなかったはずですから、違った受け止められ方をしたに違いないです。

推理小説の面白さとしては、まず、短編の中にフーダニット(犯人性)、ホワイダニット(動機)、ハウダニット(手口)が詰まっていることが挙げられます。特にハウダニットは密室というテーマで書かれているため、ひき付けられます。その他、多重解決と呼ばれる展開で探偵が犯人になったり、動機の意外性なども魅力の一つといえます。

トリック考察

犯人が仕掛けたトリックというのは、ほぼありません。犯人だと疑う主人公に対して嘘の証言をしているのでこれがトリックといえますが、主人公の推理に便乗した形なので、積極的に仕掛けたというわけでもありませんでした。

密室

古本屋の密室はトリックによって作られたわけではなく、作中で密室だと騒ぎ立てられていたから密室だと勘違いしているだけでした。長屋の間取り図や俯瞰図をみればわかる通り、衆人環視によって生じていたのは密室ではなく、単に容疑者が長屋の住人に絞り込まれているだけでした。

誰にも分り得ない秘密の通路があったかというとそういうわけでもありません。そもそも登場人物であれば裏口から裏口へ移動するというのは気付きそうな移動方法といえます。おそらく作者は、作中における犯罪者と探偵の対決ではなく、作者と読者の対決に主眼を置いたため、読者を騙すことに専念したのだと考えられます。

作中にはヒントとなる伏線が散りばめられていますので、唐突な結末にはなっていません。まず、小林刑事が“長屋の中に犯人がいる”というようなことを言っています。そして、密室に関するミスリードも、探偵小説好きの登場人物が密室だと早合点し心躍らせていたと解釈できます。

まとめ

3.5
 「D坂の殺人事件」について、あらすじ、真相、感想、考察などをご紹介しました。

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