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BUTTER(バター)|ネタバレ徹底解説・あらすじ・感想【柚木麻子】

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柚木麻子さんの長編小説『BUTTER(バター)』は、2020年に新潮文庫から刊行された社会派フィクションです。実際に世間を騒がせた 「首都圏連続不審死事件(木嶋佳苗事件)」をモチーフに、週刊誌記者が容疑者と対峙する中で、現代社会に潜む女性たちの生きづらさや人間関係の複雑さを描いています。この記事ではあらすじや登場人物、ネタバレ、感想などをまとめています。

項目 評価
【読みやすさ】
スラスラ読める!?
【万人受け】
誰が読んでも面白い!?
【キャラの魅力】
登場人物にひかれる!?
【テーマ】
社会問題などのテーマは?
【飽きさせない工夫】
一気読みできる!?
【ミステリーの面白さ】
トリックとか意外性は!?
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あらすじ

大手出版社の週刊誌記者である町田里佳が、世間を騒がせた連続不審死事件の容疑者・梶井真奈子(通称カジマナ)に独占インタビューを試みる。若くも美しくもないとされるカジマナが、なぜ複数の裕福な男性を魅了し、多額の金銭を奪い、死に至らしめたのか。その謎を解き明かすため、里佳は親友の伶子のアドバイスを受け、カジマナが愛する食を切り口に面会を重ねていく。

カジマナは、マーガリンを嫌悪し、バターをこよなく愛する美食家。彼女の言葉に従い、里佳は高級バターを使った料理を次々と試食し、食に無頓着だった自身の内面や外見が大きく変化していく。この変化は、里佳だけでなく、彼女の恋人である誠や、親友の伶子にも波及し、それぞれの人生や人間関係に大きな影響を与える。カジマナの言動に翻弄されながらも、里佳は事件の真相だけでなく、女性としての生き方、友情、そして自己肯定感といった普遍的なテーマと向き合うことになる。

小説の特徴

  • 週刊誌記者の取材活動を主軸に、容疑者と主人公の心理戦が展開されます(「羊たちの沈黙」のレクター博士とクラリスの関係性を想起させるとの声も)
  • 事件の真相解明は物語の主要な目的ではありません。登場人物たちの内面的な変化や人間関係の機微に焦点が当てられています
  • 前半は食欲を刺激する緻密な料理描写が続き、中盤から登場人物たちの心理的な葛藤が深まり、後半は女性たちの再生と連帯の物語へと展開します
  • 舞台は現代の日本社会です。特に東京の拘置所や料理教室、日常の食卓などが詳細に描かれます。容疑者の故郷である新潟の描写も登場し、地方と都市の対比も感じとれます
  • 「バター」というタイトルが象徴するように、濃厚でこってりとした文章が特徴です。緻密で生々しい心理描写が続きます
  • 食べ物の描写は非常に秀逸で「飯テロ小説」としての側面もあります
  • 柚木麻子氏ならではの、女性の心の奥底に潜む感情や卑しい心情を鋭く抉り出す筆致が光ります。「ナイルパーチの女子会」など、柚木麻子氏の得意とする女性同士の複雑な友情や連帯のテーマも色濃く描かれています

テーマ

  • 女性の生きづらさ
    社会が女性に求める「痩身」「家庭的」「努力」といった理想像と、それによって生じるプレッシャーや葛藤
  • 自己肯定感
    梶井の強烈な自己肯定感と、里佳がそれを見つける過程が対照的に描かれ、自分を認め、愛することの重要性
  • 人間関係
    友情、愛情、執着、依存といった様々な形の人間関係が複雑に絡み合い、その脆さや強さが浮き彫りにされる
  • 食と欲望
    バターをはじめとする料理の描写を通じて、人間の根源的な欲望、そしてそれが人生や人間関係に与える影響が描かれます
  • 「適量」
    人生における様々な要素(食事、仕事、人間関係など)において、自分にとっての「適量」を見つけることの難しさと重要性
  • マスコミの倫理
    センセーショナルな事件を追いかける週刊誌記者の葛藤や、報道のあり方についても一石を投じている

主人公について

  • 町田里佳(まちだ りか)
    仕事一辺倒で、食や自身の体型に無頓着だった週刊誌記者。カジマナとの出会いをきっかけに、食への意識が変わり始める
  • 梶井真奈子(かじい まなこ)
    カジマナ。連続不審死事件の容疑者として拘留中。若くも美しくもない容姿ながら、男性を魅了する不思議なカリスマ性を持つ。人を操ることに長けており、里佳やその周囲の人間関係に大きな影響を与えていく
  • 伶子(れいこ)
    里佳の親友。当初は里佳を心配し、支える立場だったが、自身もカジマナの影響を受け始める。エキセントリックな行動に出ることもある
  • 誠(まこと)
    里佳の恋人。同じ出版社に勤める同期。里佳の変化に戸惑い、理解を示せない部分がある
  • 篠井さん(しのいさん)
    里佳の仕事のネタ元となるベテラン記者。里佳の良き理解者であり、精神的な支えとなる存在。料理にも造詣が深い
  • サロン・ド・ミユコの女性たち
    カジマナが通っていた料理教室の生徒やマダム。それぞれが異なる背景や悩みを抱え、カジマナや里佳の言動に影響を受ける
  • 被害者男性たち
    カジマナに金銭を奪われ、不審な死を遂げたとされる男性たち。物語では直接登場することは少ないが、カジマナの人物像を形成する上で重要な存在
  • 北村(きたむら)
    里佳の後輩記者。里佳の仕事ぶりや変化に影響を受ける
  • 里佳の両親
    里佳の過去や、彼女の生き方に影響を与えた存在として登場
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感想

まるで濃厚なバターをたっぷり使ったフルコースを味わった後のような、ずっしりとした満腹感と心地よい疲労感――おしゃれな感じで感想をまとめるとこんな感じでしょうか。ミステリーや犯罪小説という分類になると思いますが、人間の深層心理と社会の歪みを炙り出すテーマ性のある小説でした。

印象的だったのは、梶井真奈子というキャラクターの存在感です。美人ではない、にも関わらず、その言葉一つで人々を翻弄し、魅了する。その魔力はおそろしくもあります。
作中に登場するバター醤油ご飯や塩バターラーメンの描写は、飯テロそのもので、文章表現の巧みさを感じます。里佳がカジマナの言葉に導かれるように食生活を変えていく様が、自身の体験のようにリアルに感じられます。

カジマナの魔性はもちろん、里佳やその親友の伶子が、社会から押し付けられる女性らしさや完璧さという呪縛に、もがき苦しむ姿も特徴です。「こうあるべき」という理想像に縛られ、自分を粗末に扱っていたことに気づかされたりもします。読み終えた後も、登場人物たちの感情や、食と人生について、ぐるぐると考えさせられます、忘れられない一冊となりそうです。

高評価なポイント

  • 緻密で官能的な料理描写
    バターをはじめとする食べ物の描写が非常にリアル!多くの読者が作中の料理を実際に試しているみたいです
  • 現代女性の生きづらさへの共感
    社会が女性に求める容姿や役割、努力といったプレッシャーが克明に描かれており、女性読者の共感がすごい
  • 多様な描写
    登場人物たちの複雑な内面や感情の機微が丁寧に描かれている。そして、主人公と容疑者の奇妙な関係性だけでなく、女性同士の友情、恋愛関係、親子関係など、様々な人間関係が多角的に描かれ、その脆さや強さが際立っています
  • 実在事件とオリジナリティ
    有名な事件を題材にしつつも、ノンフィクションではなく、作者独自の視点とフィクションが融合した物語
  • 読み応えと読了感
    ページ数は多いものの、テンポの良い展開と引き込まれる内容で一気読みする読者も多い!
  • 示唆に富むテーマ
    自己肯定感、「適量」、そして人との「繋がり」といった普遍的なテーマが物語全体に散りばめられている

低評価なポイント

  • 内容の重さと疲労感
    濃厚な心理描写やテーマのため、読後に「疲れた」「胃もたれする」と感じる
  • 冗長な展開
    物語が長く、特に中盤で展開が停滞すると感じたり、料理描写が多すぎてくどいと感じたりする
  • 登場人物への共感の難しさ
    梶井真奈子の行動や、里佳や伶子の極端な言動・感情の揺れ動きに、共感しにくい。特に男性読者からは、女性視点に偏りすぎているという意見もある
  • 真相や結末への不満
    ミステリー要素を期待して読み始めると物足りなさを感じるかもしれない。また、物語がスッキリと解決しない終わり方や、一部のキャラクターの行動の結末に納得がいかない
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ネタバレ

首都圏連続不審死事件の容疑者である梶井真奈子(カジマナ)が、本当に男性たちを殺害したのかどうかは、裁判で裁かれるものとして、明確には描かれていません。

里佳はカジマナの指示に従って高級バターを使った料理を食し、食への意識が変わり、体型も変化していきます。この過程で、里佳は自身の仕事、恋愛、家族関係、そして女性としての生き方に対する漠然とした不安や違和感と向き合うことになります。カジマナは、里佳の心の隙間に入り込み、彼女を精神的に翻弄し、時には自己を失わせるほどの影響を与えます。里佳の恋人・誠は、里佳の変化に戸惑い、二人の関係は破綻します。親友の伶子もまた、里佳を救おうとする中でカジマナの魔力に触れ、自身の不妊治療の悩みや家庭の問題と向き合うことになり、一時的に精神的に不安定な状態に陥ります。

結末

物語のクライマックスでは、里佳はカジマナの裏切りによって大きな精神的ダメージを受け、仕事も人間関係もどん底に突き落とされます。しかし、この経験を通じて、里佳は自分自身の適量を知り、他者に頼ること、そして自分を慈しむことの重要性を学びます。彼女は、カジマナが逮捕直前に計画していたものの、実現できなかった七面鳥のパーティーを自ら主催します。このパーティーには、里佳の家族、同僚、そして伶子をはじめとする友人たちが集まります。里佳は、完璧でなくても、不格好でも、自分の手で料理を作り、大切な人々と分かち合うことで、真の繋がりと再生を見出します。

一方、カジマナは、最後まで自分の歪んだ自己肯定感を省みることなく、他者との真の繋がりを築くことができません。彼女は、里佳や伶子のような破滅すらできない女を嘲笑しますが、結局は孤独なままであり、その生き方は歪んだままです。カジマナの運命は明確には語られず、読者の想像に委ねられます。

次にオススメの推理小説

『BUTTER』の心理描写の深さや、事件を巡る人間ドラマに引き込まれた方には、以下のような作品がおすすめです。

  1. 『毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記』北原みのり
    『BUTTER』のモチーフとなった実際の事件の ノンフィクションです。事件の背景や木嶋佳苗の人となりについて、より深く知りたい方におすすめです
  2. 『ナイルパーチの女子会』柚木麻子
    柚木麻子氏の代表作の一つで、女性同士の友情や依存、嫉妬といった複雑な心理が描かれています。『BUTTER』の女性心理描写に魅力を感じた方には特におすすめです
  3. 『グロテスク』桐野夏生
    犯罪者の内面や、社会の闇を深く抉り出す桐野夏生氏の作品です。人間の醜さや欲望といったテーマに興味を持った方には読み応えがあるでしょう
  4. 『紙の月』角田光代
    女性の心理と犯罪、そして自己を見失っていく過程が描かれた作品です。本作のテーマに通じる部分があり、共感できる点も多いかもしれません
  5. 『どうしてあんな女に私が』花房観音
    『BUTTER』と同じく、木嶋佳苗事件を題材にした小説です。異なる作家が同じテーマをどう描いたか、比較して読むのも面白いでしょう

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