『どうせそろそろ死ぬんだし』は、その挑戦的なタイトルと、余命宣告を受けた人々が集まるという特異な設定で話題を集めた香坂鮪(こうさか・まぐろ)さんのミステリー小説です。本作は第23回このミステリーがすごい!大賞の文庫グランプリを受賞しています。
項目 | 評価 |
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【読みやすさ】 スラスラ読める!? |
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【万人受け】 誰が読んでも面白い!? |
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【キャラの魅力】 登場人物にひかれる!? |
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【テーマ】 社会問題などのテーマは? |
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【飽きさせない工夫】 一気読みできる!? |
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【ミステリーの面白さ】 トリックとか意外性は!? |
あらすじ
余命わずかな人々で構成された交流会〈かげろうの会〉。そのゲストとして招かれたのは、元刑事の探偵・七隈昴と、助手の元研修 医・薬院律のコンビだった。山奥の別荘『夜鳴荘』で〈かげろうの会〉の会合が始まるが、翌朝、参加者の一人が自室で死亡していた。持病による病死なのか、それとも殺人なのか…。なぜ余命いくばくもない人間が殺されなければならなかったのか。殺人かどうかも分からないまま、七隈と薬院による聞き込みが始まる。
小説の特徴
叙述トリックを巧みに用いた構成が特徴です。物語は探偵・七隈の一人称で語られますが、さらに別の人物の視点も加わります。
舞台設定
物語の主な舞台は、余命宣告を受けた人々が集まる〈かげろうの会〉の会合が開催される山奥の別荘・夜鳴荘です。閉鎖的な空間での人間関係と事件の発生は、クローズドサークルものの雰囲気を持ちつつも、参加者全員が「そろそろ死ぬ」という特殊な設定が、物語に独特の緊張感などを与えています。
テーマ
余命僅かな登場人物がほとんどですが、社会性のテーマはあまり感じません。ミステリー作品としては「なぜ余命わずかな人間が殺されなければならないのか」というホワイダニットなどが描かれています。
作風
全体的に軽妙でふわふわとした語り口が特徴です。シリアスになりがちな「死」というテーマを扱いながらも、どこか茶番めいた 雰囲気が漂っています。
主人公
主人公は探偵の七隈昴と助手の薬院律です。七隈は一見頼りない人物、もうひとりの薬院は元研修医で、真面目なツッコミ役として、物語を進行させる役割を担います。登場人物の名前が福岡市営地下鉄の駅名に由来しているらしいです。
感想・レビュー
「最初から最後までずっと罠ばかり。最大の罠は作風そのものかも」や「二度読み必至」という宣伝文句通りのミステリーでした!余命わずかな人々が登場するため重い話かと思いきや、軽妙な語り口とどこか茶番めいた雰囲気で、意外にもすらすら読めます。しかし、その裏には周到な仕掛けが隠されているわけです。
探偵である七隈の描写には序盤から違和感があり、かなり怪しいです。医学的な知識がトリックに関わる部分は正直難しく、煙に巻かれたように感じることもありましたが、それも含めてこの作品の「変さ」であり、魅力だと感じました。終盤のどんでん返しは圧巻で、見事に騙されました。
真相自体はやや陳腐に感じられたり、後味が悪いと感じる人もいるかもしれませんし、似たようなトリックの作品もあります。また、語り口の独特さから、誰が喋っているのか分かりにくい場面があったり、伏線の張り方にフェアさを感じないという意見もあるみたいです。ただ、全体的にアイデアだけでなく技巧と趣向を凝らした、非常に読み応えのあるミステリだと思います。
高評価のポイント
- 構成とトリックの巧妙さ
多重な叙述トリックや意外な構図が読者を驚かせ、見事に騙されたという体験を提供! - 設定の独創性
「余命宣告」という特殊な設定が、物語や謎に新鮮さをもたらしている!衝撃的なタイトルも良い! - サクサク読める
シュールな笑いや軽妙な語り口で読みやすい - 独特な読後感
シリアスなテーマと軽妙な作風の組み合わせが、ユニークな雰囲気と読後感を生み出している!最後の一文(ひとくだり)が特に印象的
低評価のポイント
- 文章表現への好みの分かれ目
文章のクセや会話の分かりにくさが読みにくさに繋がっている - トリックやプロットの整合性への疑問
叙述トリックの必然性や、一部の動機・展開に強引さや納得感の低さを感じる - キャラクター描写への不満
登場人物の魅力や心理描写が不足していると感じられる - 専門知識の描写に対する受け止め方の差
医学的知識の描写が、物語への没入を妨げたり、トリックの理解を難しくしたりしている
ネタバレ
探偵役は七隈から薬院、そして桜子に変わっていきますが、最終的に七隈に戻ります。死んだと思われていた七隈ですが、終盤に再登場し、事件の真相を語ります。
そして、七隈昴は、読者が想像しているであろう人物像(中年男性など)とは異なり、実は車椅子を使用した高齢の女性でした。七隈には認知能力に問題があることも示唆され、さらに薬院律の祖母であることも判明します。
事件そのものは、薬院の罪を暴くためのお芝居でした。物語冒頭から漂う茶番めいた雰囲気は、「お芝居」というトリックの伏線だったわけです。薬院は、過去に自身の婚約者を殺害しており、その罪を暴くために、七隈(薬院の祖母)を含む他の参加者たちが協力してこの舞台を作り上げていました。七隈は物語の最初から犯人が薬院であることを見抜き、彼を監視し、自白に追い込むための計画を実行していたのです。
そろそろ死ぬはずの人間が殺されたのは、今すぐ死んでくれないと困るからというものです。余命が短いことを利用して、病死にみせかけようとしたのです。
結末
最終的に薬院は追い詰められますが、逮捕されるという形で終わりません。最後の描写は、薬院が他の参加者(彼を追い詰めた人々)によって殺害されることを強く示唆して終わります。「どうせそろそろ死ぬんだし」というタイトルは、当初は余命宣告を受けた人々の言葉として読者に提示されますが、結末では真犯人である薬院、あるいは彼を殺害する側の人々の言葉として、全く異なる意味合いを持つことになります。
次にオススメの推理小説
- 『仮面山荘殺人事件』東野圭吾
真犯人を追い詰めるために………という、本作と共通する構図を持つ作品 - 『ロートレック荘事件』筒井康隆
語り手や登場人物に仕掛けられた叙述トリックが特徴的な作品 - 『クローズドサスペンスヘブン』五条紀夫
特殊な設定(死後の世界)での殺人事件を描いた作品 - 『向日葵の咲かない夏』道尾秀介
衝撃的な叙述トリックで知られる作品 - 『葉桜の季節に君を想うということ』歌野晶午
叙述トリックの傑作として名高い作品
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