『ボスコム渓谷の惨劇』は、父親殺害の容疑で捕まった息子について、無実を証明するため、幼馴染がホームズに調査を依頼するエピソードです。原作は1891年に発表されました。「ボスコム谷の惨劇」「ボスコム谷の謎」と訳される場合もあります。
項目 | 内容 |
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作者 | コナン・ドイル |
発表 | 1891年10月発表 (ストランド) |
発表順 | 6作品目 (60作中) |
発生時期 | 1889年6月8日~ 6月9日 |
発生順 | 22件目 (60作中) |
あらすじ
チャールズ・マッカーシーという男性の死体がボスコム沼のほとりで発見され、被害者の息子であるジェームズ・マッカーシーが逮捕される。死体発見前、ジェームズは現場付近で父親と口論になっていたのだが、その理由を裁判では一切証言しなかった。そのような状況でジェームズは、父親殺害を否定し、無実を訴えるのだが、証言を拒否したため、周囲の心証を悪くしてしまう。
死体発見前後の出来事をまとめると次のようになる。
- 出来事被害者のチャールズが「クーイー」という言葉を発する
ジェームズがチャールズのもとへ向かう
チャールズはジェームズが現れたことに驚く
ジェームズとチャールズが口論となる
ジェームズが立ち去る
チャールズの悲鳴が聞こえる
ジェームズが再びチャールズのもとへ向かう
倒れているチャールズがみつかる
チャールズが「ラット」という言葉を言い残す
警察はジェームズが犯人だと考えているようだが、ジェームズの幼馴染みであるアリス・ターナーは彼の無実を信じていた。そんなアリスがレストレード警部を介して、ホームズに調査を依頼する。
チャールズは死に際に謎めいた言葉を残していた。それは「ラット」という言葉だったのだが、その意味までは判然としない。独自に調査を進めるホームズは、現場を丹念に調べ上げ、いくつかの犯人像をつかむ。それは、背が高い、左きき、右脚を引きずっている、グレイの外套、狩猟用の靴を履いていた、靴は底が分厚い、葉巻の愛煙家、葉巻はインド産、シガーホルダーを使う、ペンナイフをポケットに忍ばせている、という特徴だった。
ネタバレ
その後、ホームズはオーストラリア植民地の地図を取り寄せ、チャールズが最期に言い残した「ラット」という言葉が、バララットという地名であることを突き止める。そして、「クーイー」はオーストラリアの未開の地で使われた言葉で、人に呼びかけるとき使われる単語だったことも明らかにする。
ホームズはアリスの父親であるジョン・ターナーという地主を呼び出し、問い詰めた。するとターナーは、ついに、チャールズ殺害を認め、真相を語り始めるのだった。
真相解説
病に侵され、寿命いくばくのジョン・ターナーは、チャールズの殺害を認め、真相を語ることになります。
その昔、ジョン・ターナーはオーストラリアのバララットで強盗を生業にしていました。そんなある日、ターナーは襲った金塊輸送の馬車の馭者を見逃しました。その馭者というのが、チャールズ・マッカーシーでした。強盗で儲けたジョン・ターナーは、その後、イギリスに帰国し、地主となります。そこに、同じく帰国していたチャールズ・マッカーシーが姿を現し、ジョンはチャールズに脅されることになります。
脅迫されたジョンは無償で土地や家をチャールズに与えることになります。さらに、チャールズが、息子のジェームズとアリスとの結婚を要求し、ジョンの全てを乗っ取ろうとしたため、ジョンはチャールズを殺害しました。
被害者のチャールズが「クーイー」と発したのは、息子を呼ぶためではなく、近くにいたジョン・ターナーに声を掛けるためでした。つまり、チャールズと息子のジェームズが口論になったとき、すぐそばにジョンが潜んでいました。親子が喧嘩していたのはジェームズとアリスの結婚のことで、口論を近くで聞いていたジョンは、このとき、一人娘のアリスがチャールズに奪われようとしていることに気付きます。
なお、無実の罪で捕まってしまったジェームズは、ジョン・ターナーの告白書によって疑いが晴れます。そして、ジョンは7カ月後に他界します。
ドラマ
グラナダ版ドラマは1991年3月14日に放送されました。シーズン5の第4話(48分)となります。
項目 | 内容 |
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シーズン | 5 |
話数 | 4 |
放送順 | 30 |
長さ | 52分 |
放送日(英) | 1991年3月14日(木) |
キャスト | キャスト一覧 |
原作とドラマの違い
原作とドラマのストーリーは概ね同じです。なお、原作にはワトスン博士の妻やレストレード警部が登場しますが、ドラマには一切登場しません。
ロケ地
ボスコムの屋敷はArley Hall & Gardens(アーリー・ホール&ガーデンズ)という場所が撮影に使われています。余談ですが、ボスコム渓谷というは架空の地名です。ライヘンバッハの滝は実在しますが、どうやら、実在の地名が必ずしも使われているわけではなさそうです。
感想
犯行時刻前後に被害者と会っていたり、裁判で証言を拒否したりと、怪しすぎるジェームズ・マッカーシーでした。幼馴染のアリスが無実を信じて探偵に調査を依頼するというのは愛を感じたりもします。恐喝していた親の息子と、強盗をしていた親の娘ということなので、血筋が危ういですが、どちらもまともに育っている感じはします。
考察
犯人のトリックによって、無実の人間が捕まったというわけではありません。この点がやや珍しいと思います。逮捕されることとなった人物には、後ろめたいことがあり、それを隠しているので、殺人で疑われることになります。さらに、被害者の死に際の言葉など、これぞミステリーという感じの仕掛けも登場していました。
まとめ
シャーロック・ホームズの「ボスコム渓谷の惨劇」について、原作とドラマのあらすじとネタバレ、感想などをご紹介しました。ホームズが依頼を受けるという王道のパターンですが、既に依頼を受けたホームズがワトスン博士を調査に誘うという発端になっていました。
- 発端ホームズがワトスンを調査に誘う
ボスコム渓谷で男性の死体がみつかり息子が捕まった - 展開ホームズが現場を捜査し犯人像を掴む
被害者が残したダイイング・メッセージの謎が解明される - 結末犯人をホームズが呼び出す
登場人物
登場人物をネタバレありで簡単にまとめます。シャーロック・ホームズとワトソン博士は除いています。
名前 | 説明 |
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チャールズ・マッカーシー Charles McCarthy |
被害者(ドラマではウィリアムという名前) ラットという言葉を残して死亡する |
ジェームズ・マッカーシー James McCarthy |
被害者の息子。酔った勢いでその辺の女と結婚してしまう 父親殺害の容疑で捕まってしまうが犯人ではない |
ジョン・ターナー John Turner |
犯人。その昔、オーストラリアで強盗をしていた 強盗をネタに被害者に強請られ、娘も奪われそうになったので犯行に及ぶ |
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