『グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件』では、ポワロが療養のために滞在するホテルで演劇プロデューサーと出会い、そしてそのプロデューサーの妻が持つ貴重なネックレスが盗まれてしまうエピソードです。この記事ではあらすじと登場人物、ネタバレ、感想考察などをまとめています。
項目 | 内容 |
---|---|
シーズン | 5 |
エピソード | 8 |
長さ | 51分 |
放送日(英国) | 1993年3月7日(日) |
放送日(日本) | 1994年6月11日(土) |
出演者 | キャスト一覧 |
あらすじ
ポワロは療養のため、グランド・メトロポリタン・ホテルに滞在する。そのホテルで、マーガレット・オパルセンという女優が身につけていた真珠のネックレスが盗まれる事件が発生する。オパルセンのネックレスは鍵付きの宝石箱に入れられ客室の棚に仕舞われていた。
盗難に気付いたのはパーティーから戻ったオパルセン夫人だった。発覚前、棚付近には、ずっとオパルセンの付き人とホテルメイドがおり、この状況から、二人のうちのどちらかが犯人だと考えられた。二人が一緒だった時、付き人は席を外しており、この時、ホテルメイドはひとりになったが、時間が短く犯行は不可能と思われた。その後の捜査により、付き人・セレスティーヌの服から宝石箱の合鍵がみつかる。警察はセレスティーヌとその恋人を逮捕する。
事件概要
警察は宝石盗難の容疑でセレスティーヌと、恋人のアンドルー・ホールを逮捕します。劇作家のホールは金に困っているようでした。証拠となったのはセレスティーヌのペチコートの裾からみつかった宝石箱の鍵です。
もう一人の容疑者はホテルメイドのグレースです。グレースはセレスティーヌに食事を運び、その後、セレスティーヌと一緒に過ごしました。セレスティーヌは裁縫の道具を取りに行くため、二回ほど隣の部屋に移動しており、このときグレースは一人でした。しかし、グレースがひとりだった時間はほんのわずかのため、棚から宝石箱を取り出し、ネックレスも取り出すというのは難しいようです。
登場人物
登場人物名 | 説明 |
---|---|
エルキュール・ポワロ | 私立探偵 静養中に事件に巻き込まれる |
アーサー・ヘイスティングス | ポワロの友人 探偵事務所のパートナー |
エド・オパルセン | 原作では株の仲買人 ドラマでは演劇プロデューサー |
ミセス・オパルセン (マーガレット・オパルセン) |
エドの妻 盗まれた真珠のネックレスの持ち主 |
セレスティーヌ | メイド ミセス・オパルセンに仕える |
ジェームス・ジャップ主任警部 | スコットランド・ヤードの警部 (ドラマ版に登場) |
フェリシティ・レモン | ポワロの秘書 (ドラマ版に登場) |
アンドルー・ホール | 劇作家で、セレスティーヌの恋人 (ドラマ版に登場) |
ソーンダース | オパルセンの運転手 (ドラマ版に登場) |
グレース・ウィルスン | グランド・メトロポリタン・ホテルのメイド (ドラマ版に登場) |
ネタバレ
犯人はホテルメイドのグレースです。グレースには運転手のソーンダースという共犯者がいます。グレースとソンダースは夫婦で、動機は金でした。グレースはセレスティーヌが席を立ったほんのわずかな時間に、棚から宝石箱を取り出し、隣の部屋のワージングに渡しました。ワージングは運転手ソンダースが変装した姿で、二人は同一人物です。宝石箱を受け取ったワージングは合鍵を使って箱を開け、ネックレスを盗みました。二回目にセレスティーヌが席を立った時、グレースは再び隣の部屋と繋がる扉へ行きました。そして、ワージングから空の宝石箱を受け取り、それを棚に戻しました。
ポワロは運転手の上着に汚れが付いていることに気が付いていますが、これは、棚のすべりをよくするために使われたフレンチ・チョークでした。オスカー・ワイルドの「真面目が肝要(The Importance of Being Earnest)」にはワージングという人物が登場しますが、このことが隣に泊まっていたワージングの正体を見破るヒントになっています。
名前 | 説明 | 解説 |
---|---|---|
エド・オパルセン Ed Opalsen |
舞台プロデューサー | 盗まれた宝石の持ち主 |
マーガレット・オパルセン Margaret Opalsen |
舞台俳優 エドの妻 |
盗まれた宝石の持ち主 宝石を身につけて舞台に立つ |
セレスティーヌ Celestine |
オパルセンの秘書 | 盗難時客室にいた人物 犯人に罪をなすりつけられそうになる |
アンドルー・ホール Andrew Hall |
劇作家 | セレスティーヌの元恋人 恋人同様罪を着せられそうになる |
グレース Grace |
ホテルメイド 真犯人 |
ソーンダースは夫 宝石を盗み隣の部屋にいた夫に渡した |
ソーンダース Saunders |
運転手 共犯者 |
グレースの夫 隣人のアメリカ人に扮装していた |
トリック
隙をみて盗み出すという手口でした。共犯者を使うことで、犯行を手短に済ませています。犯人は合鍵を準備しており、その合鍵を容疑者の一人である付き人の衣服に隠し、罪をなすりつけようともしています。
原作小説とドラマの違い
原作はアガサ・クリスティの短編ミステリー『グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件』で、短編集『ポアロ登場』に収録されています。デヴィッド・スーシェさん主演のドラマでは、原作に多くの追加・変更が加えられています。
- オパルセン夫妻の職業
- 原作:株の仲買人
- ドラマ:演劇プロデューサー
- ポワロが静養に来た理由
- 原作:ヘイスティングスの気遣い(風邪ではない)
- ドラマ:過労で倒れたため医師に勧められた
- セレスティーヌの恋人
- 原作:なし
- ドラマ:アンドルー・ホールという劇作家の恋人がいる
- 真珠盗難発覚のタイミング
- 原作:部屋に戻った直後
- ドラマ:パーティーの後
- ポワロの依頼への対応
- 原作:依頼を受ける
- ドラマ:一旦依頼を断るが、結局捜査に乗り出す
- 隣の部屋の人物
- 原作:ボーイ(共犯者)
- ドラマ:ワージングという人物(実際は運転手のソーンダースが変装)
- セレスティーヌの部屋で見つかるもの
- 原作:ネックレスのイミテーション
- ドラマ:合鍵
- 捜査担当者
- 原作:不明(ポワロとヘイスティングスが主導)
- ドラマ:ジャップ警部が捜査にあたる
- 「ラッキー・レン」ゲーム
- 原作:なし
- ドラマ:新聞の懸賞ゲームとして登場し、ポワロが間違われる
- ミス・レモンの関与
- 原作:登場しない
- ドラマ:ポワロに頼まれて調査を行い、ヘイスティングスに不満を漏らす
- エド・オパルセンの逮捕
- 原作:なし
- ドラマ:保険金詐欺で逮捕される(ポワロの策略)
- 黒幕の一人とネックレスの隠し場所
- 原作:ホテルのボーイ、宝石箱に戻す
- ドラマ:運転手のソーンダース、舞台装置に隠す
感想と考察
今回は盗難事件です。盗難事件というと、不謹慎ですが、殺人事件よりも地味だと思ってしまいます。しかしながら、宗教の関係で、その昔、窃盗というのはあるまじき行為だったようです。現在も無論あるまじき行為なわけですが、そういった背景もあり、古典的なミステリーには盗難事件がそこそこの頻度で登場するようです[出典要;そういうことだと私は思っている、程度のお話です]。
犯人のグレースはホテルメイドとして働くことで、盗難の機会を伺っていたようです。グレースが働き始めたのは二カ月ほど前だったということなので、計画的な犯行といえます。
盗難は付き人が二回席を立ったたのでうまくいきましたが、犯人にとって、付き人が席を立つというのは予想できないことだったように思います。最初のチャンスで宝石箱を盗み出すのはいいとしても、その後、宝石箱を戻せるかどうかは、神に祈るしかなかった状況といえます。宝石箱を元に戻せるかわからないけれども取り合えず盗んでおくというのは計画的とはいえないので、おそらく、犯人には付き人を遠ざける手段があったのだと思います。
ラッキーレン
このエピソードにはラッキー・レンというのが登場します。新聞に載った人物を見つけたらお金がもらえるというゲームですが、これは架空の設定のようです。しかし、ラッキー・レンを掲載していたデイリー・エコーという地方新聞は実在するようです。
ポワロ「あなたはラッキー・レンですね?」
ラッキー・レン「その通り。でも申しわけない、今朝クビになりました」
ポワロ「クビ?なぜ?」
ラッキー・レン「気付く人が多くて…。新聞は私の顔に問題があると判断したようで、つまり、ありふれた顔ということです」
ポワロ「ありふれた?」
ラッキー・レン「みんなそう言いますよ」
ポワロ「彼らは間違っていますよ、mon ami。あなたは最も名高い顔をしています。新聞なんて無視してください。あなたは偉大な男の顔です」
ラッキー・レン「そう思います?」
ポワロ「ええもちろん。私はそれをよく知っています」
名探偵ポワロ グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件 ラストシーン