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口に関するアンケート【ネタバレ徹底解説・考察】

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口に関するアンケート』は2024年9月4日にポプラ社から発売された背筋さんによる短編ホラー小説です。わずか60ペー ジというスマートフォンよりも小さいコンパクトなサイズが特徴です。気軽に楽しめるモキュメンタリー(疑似ドキュメンタリー)で、実録のようなリアリティと凝縮されたホラー要素が魅力です。この記事では、あらすじと登場人物、ネタバレ、考察と感想をまとめています。

項目 評価
【読みやすさ】
スラスラ読める!?
【万人受け】
誰が読んでも面白い!?
【キャラの魅力】
登場人物にひかれる!?
【テーマ】
社会問題など、テーマ性は?
【飽きさせない工夫】
一気読みできる!?
【ミステリーの面白さ】
トリックとか意外性は!?
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あらすじ

翔太、杏、竜也、美玲の4人組は「呪われた木」があると噂される霊園へ肝試しに向かった……。その後、彼らは奇妙な現象に遭遇し、杏は異常な行動の末に自殺してしまう。一方、別の大学生グループであるオカルト研究会の健と颯斗も同じ霊園を訪れ、首の長い女性の幽霊を目撃。その幽霊の正体は、杏の亡霊かもしれなかった。

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登場人物

  • 杏(An)
    物語の中心となる被害者。翔太の元カノで竜也の今カノ。翔太がかけた呪いの身代わりとなり、精神を蝕まれた末に自殺。その後、強力な怨霊と化し、他の5人への復讐を開始します
  • 村井 翔太(Murai Shota)
    悲劇の発端を作った人物。杏に未練があり、恋敵の竜也を呪うため 「次にここに来る奴をセミのように殺せ」という呪いをかけます。意図せず杏を死なせてしまい、最後の告白者として死亡します
  • 伊藤 竜也(Ito Tatsuya)
    杏の現在の恋人で、本来の呪いの標的。呪いを免れるものの、杏の変貌を目の当たりにします。最終的に杏の復讐の対象となり、犠牲者の一人となります
  • 原 美玲(Hara Mirei)
    杏の親友で、肝試しに同行した人物。杏の異変を目の当たりにし、その変化を生々しく伝えます。最終的に杏の復讐の犠牲者となります
  • 堀田 颯斗(Hotta Hayato)
    オカルト研究会に所属する大学生。健と共に霊園を訪れ、怨霊と化した杏に遭遇。彼女のグロテスクな変貌を客観的に証言しますが、その声を聞いたことで呪われます
  • 川瀬 健(Kawase Ken)
    堀田と同じくオカルト研究会に所属する大学生。颯斗と同様に杏の怨霊を目撃し、呪われます。彼の証言は、超常現象が紛れもない事実であることを読者に確信させます
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小説の特徴

「背筋さんといえば」なモキュメンタリースタイルの作品です。直接的なグロテスク描写は少ないものの、実録のようなリアルな筆致から、じわじわと心理的な恐怖を感じます。複数の登場人物の音声記録形式で物語は進み、異なる視点や時系列のズレがある構成です。物語の最後には読者に直接語りかけるアンケートがあり、これが作品の核心を解き明かすとともに、読者を巻き込む斬新な構造となっています。
主な舞台は、古くから存在する「呪いの木」があると噂される霊園で、SNSを通じて心霊スポットとして認知されています。

感想

60ページという短さで、評判の作品ですので、普段はホラー小説を読まない方や、そもそも小説を読まない方にも、オススメできそうな一冊です。
複数の視点で描かれ、各証言の矛盾や不自然さに気づくたびに、好奇心が募っていきます。ホラー小説ですが、事件のパズルのピースが繋がっていくような感覚はミステリー小説ともいえそうです。そして最後のアンケートは、読者である私自身が物語の一部になってしまったような感覚に陥る仕掛けでした。結末を明かすだけでなく、その恐怖の余韻を長く心に残す、実にユニークな仕掛けだったと思います。読み終えた後も、頭の中でセミの鳴き声が響いているような気がして……、しばらくは落ち着きませんでした。

テーマは「口は災いのもと」ですが、私は因果応報という言葉も思い浮かびました。呪いかかって、さらに怨念が広がっていく構造は、呪いをかける行為には必ず何らかの代償が伴うというホラーの古典的なテーマを描いているように思えます。しかし、その代償が必ずしも直接的な加害者のみに及ぶわけではなく、無関係な者まで巻き込む理不尽さが、さらなる恐怖を生み出しています。

高評価なポイント

  • 独自の形式と仕掛けの巧妙さ
    物語の終盤に登場するアンケートが、読書体験を超えた不気味な余韻を与えている。構成力の高さもすごい
  • 読後感の不気味さ
    物語の終わり方に独特の恐怖があり、後味が悪いながらも心に残る。読後にじわじわと怖さが増してくるという心理的な恐怖もある
  • コンパクトな形式が魅力
    手のひらサイズの装丁で60ページという短さ。まさに手軽に読める短編ホラー
  • 視覚・聴覚的演出
    文字色の変化や、オーディブル版での音声演出など、読者の五感を刺激する 工夫が恐怖感を増幅させている。裏表紙の仕掛けも話題
  • 考察の余地
    物語に明確な答えが示されず、読者が自ら考察し、語り合うことで恐怖が深まる点が、ミステリー要素好きの読者にはたまらない

低評価のポイント

  • ストーリーのわかりにくさ
    物語の内容が抽象的で、一度読んだだけでは理解しづらい。アンケートの意味がよくわからない、再読しなければ真相が理解できないという声もある
  • 短さゆえの物足りなさ
    60ページというボリュームは訴求点でもあるが、深いキャラクター描写やストーリーの掘り下げ不足はいなめない。物語があっさり終わりすぎる
  • 価格とのバランス
    ページ数やサイズからすると、価格は割高ではないかと感じる読者もいる。価格ほどの満足感が得られないという声もある
  • 恐怖の度合い
    一部のホラー慣れした読者からは、思ったほど怖くなかったという感想もある

ネタバレ

発端は、村井翔太が恋敵の伊藤竜也を呪うため、「次に木に近づく者をセミのように殺せ」と呪いの木に願ったことです。しかし、竜也は木に近づかず、代わりに杏が呪いの身代わりとなります。杏は奇行の末に自殺し、その後、オカルト研究会の堀田颯斗と川瀬健が霊園で怨霊と化した杏を目撃することになります。

最終的に、杏の怨念から生まれた新たな呪いによって、生き残った5人(翔太、竜也、美玲、健、颯斗)は呪いの木の下に集められ、スマートフォンに自らの体験を告白させられます。各登場人物のセリフが徐々に赤く変化していくのは、彼らが話し終え「許される」と同時に、一人ずつ台を蹴って首を吊っていく、その死の瞬間を暗示しています。また、録音された音声ファイルのタイムスタンプは、この一連の出来事が深夜の約1時間弱の間に進行したことを示唆しています。翔太が最後の告白を終え、「じゃあ、死にますね」という言葉を最後に、録音は途絶えます。つまり、杏を含め、登場人物全員が死亡するという無慈悲な結末を迎えることになります。

「口は災いのもと」というテーマは、人々の不用意な言葉が本来何の力も持たない木に呪いの力を与え、それが連鎖していくメカニズムを示しています。最後の「アンケート」は、読者自身がこの創作怪談に触れ、誰かに語り伝えることで、呪いの拡散に加担させるというメタ的な仕掛けであり、現実世界に恐怖が侵食してくるような感覚を呼び起こします。

考察

『口に関するアンケート』は考察する余地が多く残された作品といえます。ここでは、複数の視点からその謎と仕掛けについて考察していきます。“ネタバレ”の項目に書いた内容と重複するものもあります。

アンケートの真の目的

  • 物語の真相を暴く仕掛け
    最後の「口に関するアンケート」により、これまで読んできた文章が、生き残った5人が死の直前にスマートフォンに録音させられた「最後の言葉(遺書)」だったことがわかります
  • 読者を巻き込む装置
    アンケートの各質問項目は、読者に対して物語の真相を再解釈させ、読者自身を物語の一部として「呪いの拡散」に加担させることを意図した仕掛けです
  • 読者への問いかけ
    「この話を他人に伝えようと思いますか?」というアンケートの最後の問いは、物語の中で語られた呪いが、読者自身にその責任を負わせるような仕掛けです。この問いに「はい」と答えることで、読者は意図せず呪いの拡散に加担することになります。これは、虚構の物語が現実世界に侵食してくるような、メタ的な恐怖を演出しています

文字色の変化

  • 死の暗示
    物語中で文字が徐々に赤色に変わっていく演出は、そのセリフを話している人物の「死期の接近」を視覚的に暗示していると解釈されます。話し終え、許されると同時に自ら命を絶つ彼らの運命と連動しています

オカルト研究会の2人が死んだ理由

  • メッセンジャーとしての役割
    オカルト研究会の2人((堀田颯斗、川瀬健))は、単なる犠牲者ではなく、怨霊と化した杏の姿や状況を他の3人に伝える「メッセンジャー」としての役割を担いました。彼らが杏の「セミの鳴き声」を聞いたことで、呪いに「感染」し、その情報を拡散する役割を果たしたと考えられます
  • 木の呪いによる連鎖
    杏に対して直接的な贖罪の対象とはならなくとも、木の呪いの力によって、事件に関わった者が無差別に巻き込まれていく過程を示している可能性もあります

音声記録は誰のもの?

  • 杏による呪いの拡散
    音声記録は、怨霊と化した杏が、自らの体験を言葉にして残すことで、呪いをさらに広げようとした結果、スマートフォンに録音されたものと考えられます。これは、言葉の力が呪いを強化し、拡散するメカニズムと一致します

杏の行動

  • セミの模倣
    呪いにかかった杏の「上に、上に」と木に登ろうとしたり、穴を掘ったりする奇妙な行動は、翔太がかけた呪い「セミのように」という言葉に影響され、セミのライフサイクル(地中から這い上がり羽化しようとする)を模倣していると解釈できます。彼女の首吊り自殺は、羽化の最終的な失敗を示唆します

裏表紙の仕掛け

裏表紙は一見するとシンプルで、特に目立った絵柄はないように見えます。しかし、スマートフォンなどの強い光(特にフラッシュライト)を斜めから当てると、隠された絵柄が浮かび上がるようにデザインされています。光を当てることで姿を現すのは、びっしりと群がった大量の「セミ」です。

次にオススメの推理小説

『口に関するアンケート』の多視点による真相解明や、心理的な不気味さ、そして隠された真実が徐々に明らかになる構 成に魅力を感じた方には、以下の推理小説がおすすめです。

  • 宮部みゆき『R.P.G.』
    オンラインゲーム内で起きる連続殺人事件を巡り、複数の登場人物の視点から語られることで事件の全貌が徐々に明らかになる作品です。現代的な設定と心理描写が特徴です
  • 米澤穂信『ボトルネック』
    過去に囚われた主人公が、パラレルワールドのような世界で自分と異なる選択をした人々と出会う物語です。謎解き要素と並行して、人間の心の奥底に潜む感情や後悔が深く描かれており、心理的な余韻が残ります
  • 芥川龍之介『藪の中』
    複数の人物が同じ事件について食い違う証言をする「藪の中」形式の元祖です。客観的な真実が曖昧になる中で、人間の多面性や心理が浮き彫りになる点が共通しています
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