Youtube ミステリーチャンネル【りさま屋】
国内小説

Nの逸脱|ネタバレ徹底解説・あらすじ・感想【夏木志朋】

この記事は約7分で読めます。
記事内に広告が表示されます

夏木志朋さんの『Nの逸脱』は、日常から少しずつ逸脱していく人々の姿を描いた3編の短編・中編小説集です。その独特な世界観と予測不能な展開の中で、一見「普通」に見える人々の内面に潜む「別の顔」や「反社会的感情」が巧みに描かれています。この記事では、あらすじと登場人物、ネタバレ、感想などをまとめています。

項目 評価
【読みやすさ】
スラスラ読める!?
【万人受け】
誰が読んでも面白い!?
【キャラの魅力】
登場人物にひかれる!?
【テーマ】
社会問題などのテーマは?
【飽きさせない工夫】
一気読みできる!?
【ミステリーの面白さ】
トリックとか意外性は!?
スポンサーリンク

あらすじ

  • 場違いな客
    爬虫類専門のペットショップで働く金本篤は、店で紫外線ライトを現金で購入したサラリーマン風の男を不審に思う。金に困っていた篤は、その男を大麻栽培者ではないかと疑い、強請ろうと尾行。男のマンションに侵入する
  • スタンドプレイ
    高校教師の西智子は、生徒からの陰湿な嫌がらせに苦しんでいた。ある日、満員電車で肘鉄を繰り返す若い女性に遭遇し、苛立ちが頂点に達した智子は、その女性を尾行し始める。そんな行動が、やがて町に奇妙な都市伝説を生み出すことになる
  • 占い師B
    霊能力はないものの、卓越した洞察力と知識で客を導く占い師・坂東イリスのもとに、本物の霊能力を持つと自称する秋津が弟子入りを志願する。秋津は霊感以外は何もできないポンコツで、イリスとは衝突ばかり。イリスは秋津を早く手放そうとするが、秋津の行動は予測不能な方向へと進んでいく

小説の特徴

  • 3編の独立した短編・中編からなる連作集
  • 各話は架空の街「常緑町」という共通の舞台設定を持ち、日常の中に潜む非日常や不穏な雰囲気が描かれる。登場人物や噂がゆるやかに繋がっているような世界観
  • 追う者と追われる者が入れ替わる、善と悪が反転するような主客逆転の構図が特徴
  • 不穏でヒタヒタと忍び寄るような怖さに加え、サイコサスペンス的な要素もあるがイヤミスとは異なる、不思議な読後感。クスッと笑えるユーモラスな表現も混在
  • 言葉選びが秀逸で、読みやすく、先が気になる展開

テーマ

  • 追い詰められた人間が、懸命に守ってきた現実を放棄し、見えない一線を踏み越える瞬間、「普通」からの逸脱を描く
  • 人の闇、弱さ、狂気:登場人物の内面に潜む反社会的感情や異常性がテーマ
  • 「N」の意味:Neighbor(隣人)、Normal(普通)、日常のNなど、読者に解釈を委ねる多義性を持つ

登場人物について

場違いな客

  • 金本 篤(かねもと あつし)
    爬虫類専門のペットショップでアルバイトをしている青年。お気に入りのフトアゴヒゲトカゲ「フトシ」の処分を巡って金に困り、店に紫外線ライトを現金で購入していく不審なサラリーマン風の男を強請ろうと企む。不運が重なりストレスを抱える中で、逸脱した行動に走る
  • サラリーマン風の男
    爬虫類には興味を示さず、紫外線ライトのみを現金で購入し、配送ではなく手持ちで持ち帰る奇妙な客。大麻栽培者ではないかと篤に疑われるが、その正体はさらに予測不能な秘密を抱えている
  • 店長(喜屋武)
    篤が働くペットショップのオーナー。フトアゴヒゲトカゲの処分を巡って篤と揉めるが、最終的には篤の人生に良い影響を与える、まともで粋な人物として描かれる

スタンドプレイ

  • 西 智子(にし ともこ)
    高校の数学教師。知的障害を持つ両親のことで一部の生徒から陰湿なハラスメントを受けており、精神的に追い詰められている。満員電車での出来事をきっかけに、衝動的に見知らぬ女性を尾行し、その行動が町に奇妙な都市伝説を生み出すことになる
  • 茶髪女子(安藤)
    満員電車で西智子に肘鉄を繰り返す迷惑な若い女性。智子のストーカー行為の被害者
  • 生徒たち
    西智子の両親の障害をからかい、彼女をいじめる高校生たち。智子のストレスの原因

占い師B

  • 坂東 イリス(ばんどう イリス)
    霊能力はないが、卓越した洞察力と知識、そしてコールドリーディングを駆使して客の悩みを解決に導く占い師。弟子入りを志願してきた秋津の破天荒な言動に振り回されながらも、彼女を導こうとする
  • 秋津(あきつ)
    本物の霊能力を持つと自称する、イリスの弟子志願の若い女性。しかし、霊感以外は何もできないほどの「ポンコツ」で、反抗的で扱いづらい。自分のことを天才だと思い込み、希死念慮をちらつかせるなど、予測不能な行動でイリスを困惑させる
スポンサーリンク

感想

独特な読後感があります。一般的なエンタメ小説とは一線を画す、どこか不穏で、それでいて目が離せない魅力に引き込まれました。3編の物語はそれぞれ独立しているようでいて、共通の舞台「常緑町」や、ある都市伝説がさりげなくリンクしており、嬉しい演出でした。

「場違いな客」と「スタンドプレイ」は、日常の些細なきっかけから、主人公がじわじわと「普通」の枠から逸脱していく過程がリアルで、読んでいてハラハラしました。特に「場違いな客」のラストは、まさかの展開でゾワッとさせられました。人間、追い詰められるとこんな行動に出るのか、と妙に納得させられる部分もあり、自分の中の「逸脱したい」という感情を刺激されるようでした。「占い師B」はイリスと秋津のキャラクターが個性的で、ユーモラスなやり取りを楽しめました。予測不能な展開こそが、この作品の真骨頂なのかもしれません。

タイトルの「Nの逸脱」の「N」がNeighbor(隣人)なのか、Normal(普通)なのか、あるいは日常の頭文字Nなのか、読み終えても明確な答えは出ませんが、その多義性もまた、この作品の奥深さを物語っているように感じます。サクッと読めるのに、読後には色々なことを考えさせられる、そんな一冊でした。

高評価なポイント

  • 3編すべてが面白い!「場違いな客」と「スタンドプレイ」の不穏な雰囲気が人気な様子
  • 先が気になる展開で、読むのを止められなくなる。予想外の結末やどんでん返しもあって楽しい
  • 日常に潜むホラー要素や、人間の狂気、弱さがリアルに描かれている
  • 毒とユーモアのバランスが絶妙
  • 他の作品との繋がり(口裂け女の噂など)が洒落ている

低評価なポイント

  • 登場人物の行動や感情に共感できない、理解しにくいと感じる。ヤンキーみたいで品がない
  • 読後感がすっきりしない、消化不良感が残る。特に「占い師B」の結末がよく分からなかったり、または合わなかったりするかもしれない
  • 「逸脱」の度合いが期待ほどではない、または既視感がある
スポンサーリンク

ネタバレ

  • 場違いな客
    主人公の金本篤が強請ろうとした男は、実は死体を隠蔽しようとしていた人物であり、篤は意図せずその秘密に深く関わることになる。篤は男に拘束されてしまうが、最終的には店長の助けもあり、新たな道に進むことを決意する
  • スタンドプレイ
    高校教師の西智子が尾行した女性は、智子の行動を「口裂け女」の仕業だと誤解し、その噂が町に広まる。智子自身は自首を考えるほど追い詰められるが、結果的にその噂が彼女のストレス解消の一助となる皮肉な結末を迎える
  • 占い師B
    霊能力者である秋津は、占い師・イリスの元で修行を積むが、その破天荒な行動はイリスの予想をはるかに超える。最終的に秋津はイリスの助言(あるいは誘導)によって逸脱した行動を取り、それが彼女の人生を大きく変えることになる。結末は読者に解釈を委ねる部分が多く、明確なハッピーエンドやバッドエンドではない

次にオススメの推理小説

『Nの逸脱』の「日常からの逸脱」や「人間の内面に潜む狂気」、そして「予想外の展開」といった要素に魅力を感じた方には、以下のような推理小説がおすすめです。

  • 木内昇『占』
    占い師というテーマに興味を持った方には特におすすめです。人間の心理描写が深く、読み応えがあります
  • 黒川博行作品
    ハードボイルドや犯罪小説の要素に興味がある方にはおすすめです。リアルな犯罪描写と人間の欲望が絡み合う物語が特徴です
  • コーエン兄弟の映画『ファーゴ』
    「普通の人が、じつは変」という共通点から、映画ですが、日常の奇妙さや人間の滑稽さがリアルに描かれた作品としておすすめです

コメント

タイトルとURLをコピーしました